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34話
「実は君が魔物憑きと聞いた時、私は浅はかにも様々な利用方法を考えていた。人間ではないと思っていたからだ。しかしローザへ君がした事を聞いて考えを改めた」
「私がした事? 牢に入れたぐらいですよ?」
「君は娘を殺さないでいてくれた。あんな子だが、それでも血を分けた子だ。期待など捨てた娘だが、死を望んでいるわけじゃない」
「殺すはずがない。私がそんな暴力行為で解決すると思いますか?」
「あぁ、だからこそ今までの君を思い出したんだ…………魔物憑きであっても危険ではなく、理性的に考えて行動していた。そう、私達と同じ人間だと考えを改めさせてもらえた」
レーヴ公爵は静かに、真っ直ぐ私達を見つめる。
その言葉には嘘や偽りが含まれているとは思えなかった。
「考えを改めたからこそ、魔物憑きへの現王家の体制の驕りや考え方は変えるべきだと思えた。これらは私が責任をもって対応を進める」
「……それで、私達にどうしろと?」
「王家が君たちを脅威と思っている事にもどうか理解をもってほしい。王国としては一個人が王家に並ぶ武力を持つ事を危惧するのは当然のことなんだ」
「……」
「だからこそ、君たちには対立をしてほしくはない。王家が意地になった時……勝てぬ戦さえ権威のためと言って、関係のない下々を構わず君たちにけしかける。その中にはきっと……私の領民も含まれるだろう」
「止めるために王家に下れと?」
「違う、下る必要はない。ただ君たちも王家に協力的な姿勢をとってほしい。フィリクス辺境伯のように、希望に沿った魔物を狩る協力をするだけでもいい」
「レーヴ公爵の言いたい事は分かります。でも私達は最初から主張は変わりません。私達の権利、自由を阻害されたくないだけです」
「それは私が責任をもって王家と話をする。一個人の権利を奪うこと、王家がそれを行った時に国家は崩壊するのだから」
レーヴ公爵の発言には確かな覚悟があった。
たとえ後方で睨んでいる大臣たちと対立関係になったとしても、有言実行してみせる自信があるのだろう。
自らの領民のため、最高爵位の貴族としての責任感のある言葉だ。
でも……後方にいる人は違うようだ。
「レーヴ公爵、残念ながらその提案は受け入れられませんな」
「大臣、私は貴方にも話したはずだ。魔物憑きを対等に接し、敬意を持つべきと」
「人間ではない存在に敬意を示してどうなる。そんな事をすれば多くの民が王家への信頼を喪失するだろう。魔物憑きに屈したとな。それだけはあってはならん、起きてはならんのだ」
大臣は熱弁して、王家の意見をぶつけてきた。
「現国王陛下も言っておられた。脅威に屈するならば王家の権威も尊厳も失う。代々続いて民から信頼を受けた王家の誇りに懸けて屈する事はできないと!」
「傲慢で、余計なプライドだ」
「レーヴ公爵、それこそが王家が上に立てる秘訣だ。傲慢でなくては人は統治などできん、人より尊大だからこそ考え方が一個人の幸せよりも国家のためであるべきと帰結する」
大臣は胸に下げたペンダントを開く。
それは時計であったようで、針を見て「そろそろか」と呟いた。
「その自信満々な様子は、なにか策を講じたからですか」
「ご明察だセシーリア殿。以前、アロルド殿の領土に飛竜の死骸があったが……あれを利用させてもらった」
「利用?」
「各地の竜種の巣にあの骨を置いてきた、以前に君の屋敷に来た際に隠れて押収していた私物も共にな」
「っ! まさか……」
「竜種は非常に同族想いであり、また脅威の共有をした際には結託して狩りへ向かう習性がある」
大臣たちがなにをしたいのか、なにをしようとしたのかを察してしまう。
なんて、愚かな行為をしてしまったの。
「これから君の元には各地の竜種が飛来するだろう! 人間でもなく王家に対立する君など用はない。ならば同じ脅威である竜種と共に潰し合ってもらうのが王家の望みだ!」
本当に……本当に馬鹿な事をしてくれた。
怒りで拳を握り、その力で手が震えた。
「恐怖を感じるか? それが魔物憑きと対峙した人間の気持ちだ。よく理解したまえ」
「違うわ、貴方達が馬鹿な事をしたと怒りを感じているのよ」
「なにを言っている。我らは王家として脅威を潰すため最善の行動をしただけだ」
「貴方達は竜種を含めて、魔物というのをまるで理解していない」
「なに?」
「魔物は種族の垣根なく結託するし、人の多い場所には群れとなって襲う時もある。かなり高い知性があるの」
なにを言っているか、大臣は理解していない様子だ。
だからハッキリと言ってあげた。
「その中でも竜種の知性は抜きん出ているわ。どうして私が各地の竜種を全滅もさせずにいたか分かりますか?」
「その力がなかっただけだろう?」
「答えは竜種を含めて、魔物は非常に合理的であり、敵わない相手との戦い方を貴方達よりも理解しているからよ」
「なに?」
「彼らは理解しているの、人間という種を……だから私個人という脅威を狙って損害を被るよりも、その他の容易く殺せる者達を襲うのよ」
「……な、なにを言って」
私の言っていた事への答え合わせはすぐに分かった。
大臣の後方から馬に乗った者が駆けてきて、慌てた様子で叫んだ。
「ほ、報告があります! 各地の竜種が……辺境伯領の、人口の多い村や町を襲い始めているとのことです!」
「な、なに!?」
竜種は狡猾で賢く、さらに合理的な生態を持っている。
だからこそ竜は自らの巣に置かれた骨を挑戦と受け取り、脅威の排除のために「合理的」に動きだした。
人間が生きていくには、他の人間との共存あってこそと竜は知っている。
私が幾ら強くとも、周りの人々が死ぬ方がダメージは大きい。
それを竜種は理解しているからこそ、私を殺すリスクを冒さず、周りを殺す攻撃をしてきた。
「な……な……」
「これは王家が招いた事態ですね」
「ち、違う! 私はこんなつもりは……」
「こちらにも竜が迫っております! 大臣様! すぐに退避の準備を!」
大臣たちや騎士が慌てふためく中。
困惑している様子のアロルドは私を見つめながら、周囲を見渡して呟く。
「な、なぁ。なにが起きて……」
「アロルド、貴方と話をしている暇はないわ。今は別の面倒が起きたの」
「待ってくれ、そ、空を見てくれ……なにかが近づいてきて……」
アロルドが空を見上げて、私も同じく視線を上げる。
太陽の光を隠すような影がいくつも羽ばたき、その一つが急激に高度を下げる。
空から勢いよく風を切った何かが地面に激突するようにして、私の父へと飛来していくのが見えた。
「っ!」
それがなにかはすぐに分かった。
飛竜が大きな顎を開いて、この中でもっとも私と同じ匂いがする存在を殺そうとしていたのだ。
合理的に私へダメージを与えるため、肉親を狙って……
「お父様!」
私が駆け出そうとしていた時だった。
それよりも早くに、近くに立っていたアロルドがお父様を突き飛ばしていた。
「え……」
「伝えたかったんだ、セシーリア。俺が君の父に選ばれた意味を……でも、これで果たせる」
なにを言って……
答えを聞く事はできず、飛来した竜は止まる事なく、アロルドへと衝突した。
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