【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか

文字の大きさ
44 / 48

36話

 避難は順調なのだろう、街には続々と人が集まってきている。
 同時に空を飛び交う飛竜は増えていき、加えて厄介な事に別の魔物まで集まりだしている。

「そっちに逃げて!」

 私は魔物を駆除して避難する人々を守っていた。
 念のために白面を付けているのは、今はまだ民に素性を知られたくはないためだ。
 
「おかあさん! あれ……しろいお面のひと!」

 子供の声が聞こえて視線を向ければ、辺境伯領に来たばかりの事に襲われていた親子だった。
 騎士達に誘導されながら、子供が手を振っている。

「あと少しで避難は完了ね」

 すでに一日中、魔物を駆除して夜を明かした。
 身体は疲労しているが、民の避難はあと少しで完了する。 
 ここで止まれないと走り出し、魔物を殴り、牙を折って地面に叩きつける。
 飛来した飛竜の尻尾を掴んで背負い投げをして、小型の魔物を一掃していく。

「王家騎士団もいい働きね」

 王家騎士団も大臣に従っていたゆえに悪印象はあるが、彼らも王家を代表する騎士としての力を見せていた。
 街の周囲に防衛線を張り、こちらが見逃した小さな魔物を的確に駆除している。
 辺境伯領の兵士も流石に魔物相手に手慣れており、空を飛ぶ飛竜を近づけさせないように投石器で応戦する。

「順調ね、これならいける」

 南東は私が、北西はフィリクス様が対応している。
 彼は辺境伯領の兵士とも連携が取れるからこそ、守りは固いだろう。

 だけど油断はできない、危惧すべきは飛竜たちだ。
 知性が高く、狡猾なあの魔物はこの状況に必ず何かをしてくるはずだ。
 空への注意だけは常に––––

「ッ!!」

 油断した、疲れのせいで避けられなかった。
 空に意識を向けていたせいで背後から大きな衝撃を受けて吹き飛ばされたのだ。
 まずい、受け身を……いや、間に合わない。
 何度も地面に叩きつけられて、口の中で血の味がにじむ。

「はぁ、はぁ」

 視線を向ければ、かつて相対したあのタコ型の魔物が操る岩の巨人。
 ゴーレムたちが何体もこちらに歩み寄る。
 さらには吹き飛ばされた先、亜人のゴブリン、熊の魔物までもが周囲を取り囲んだ。

 すぐに立ち上がって魔物を倒していくが、外した空への注意を飛竜は逃さなかった。
 突然、飛竜は十体ほどが街へと飛来していく、投石器を壊し始めた。
 まずい、いよいよ……街に竜が侵入を始めた。

 このまま他の魔物を相手していられない、地面の魔物は王家騎士団に任せよう。
 私は街へと走る、身体が疲労し、節々が痛い。
 だけど止まっていられない、なぜなら竜は必ず……私の大切な人、匂いが似ている者を襲うはずだから。

「っ! やっぱり……」

 街へと入って高台に登れば、エミネが竜から走って逃げているのが見えた。

「エミネっ!」

 慌ててそちらへ向かうが、間に合わない。
 竜がその顎を彼女へ振り下ろそうとする時、一人の騎士が前に出て剣で受け止める。

「エミネさん! 逃げてください。ここは俺が!」

「レックス……」

 フィリクス様に仕えていた騎士がエミネを救ったのだ。
 竜の牙を受け止めているが、その剣にはヒビが入っており、じりじりと呑み込まれそうになっている。

「逃げて!」

「レ、レックスさんを置いていけません。わ、私……」

「早く!」

「好きな人を置いていけない! だから一緒に––––」

 エミネがそんな事を言っていた刹那、レックスに襲い掛かる竜を膝蹴りで片付ける。
 竜が家に激突して上がった土煙が収まった後、レックスは驚いたようにエミネを見つめていた。

「い、いま……なんと」

「あ……え」

 なんだか、奇妙なタイミングで助けてしまったようね。
 気まずい雰囲気だが、見守ってもいられない。

「レックスさん、エミネを頼みます!」

「え、は……はい!」

「お嬢様……あ、ありがとうございます!」

 二人を置いて再び街に侵入した竜を倒していく。
 かなり数を減らしてきた竜はもはや見境なく、周囲の人々を襲い始めていた。
 少しでも人間側に被害をもたらす動きであり、あちらも余裕はなくなっているのだろう。

「たすけ––––」

 襲われかけていた人を救うように、竜の頭を掴んで地面に叩きつける。
 動かなくなった巨大な体躯の竜、その上に鎮座する私に助けられた人々は無言だった。
 でも、なにを考えているのか分かった。

「近づいちゃだめよ、あぶないわ」
「見ては駄目だ。刺激すると俺達もああなるぞ」

 ここまで大暴れしたのだから、当然ながら魔物憑きだと民にも知られたのだろう。
 怯えた視線、恐怖と忌避の混じった表情が向けられる。
 これでいいと思っていたのに、その視線が集中した時には、何故か身体に圧がかかるようだった。

「フィリクス様は毎日、こんな視線を受けていたのね」

 そしてそんな圧が、私にとって最悪な隙となった。
 疲労と傷による判断能力の低下も重なり、空から近づいた影に気付けなかった。

「あぐっ!!」

 空から飛来した竜が、その脚で私を地面に叩きつけた。
 仲間の竜の頭すら踏みつけて、私を殺すための絶好の機会を逃すまいと全力で攻撃をしかける。

 持ち上げられ、地面に叩きつけられ……立ち上がる間もなく別の竜が衝突してくる。
 白面は割れて顔が現になる。
 動けない、痛い、息が……苦しい。

「セシーリアァァ!」

 掠れる意識で見えたのは、駆け寄ってくる父の姿だった。
 騎士達の制止を振り切って私の方へ……
 駄目だ、お父様。
 ここに来たら貴方が死んでしまう。

「っ! 駄目!」

 力を振り絞り、踏みつけてくる竜の足を握ってぐるりと回す。
 ゴキッと骨が砕けた音、竜の断末魔が響く。
 踏みつけてきた竜を叩きつけ、別の竜の首にしがみついて力を込めて窒息させる。
 再度別の竜を、さらに、さらに、さらに––––

「はぁ……はぁ……」

 何体の竜を相手したかも分からない。
 もう力が入らず、意識だって朦朧とする。
 弱々しく呼吸を繰り返して、なんとか生命を維持しようと試みるが、戦いの果てに私の身体は瓦礫に埋もれてしまっていた。
 普段ならなんともない、しかし今の疲れた身体ではこの瓦礫が動かせない。

「っ」

 最悪だ、沈む瓦礫が胸を圧迫して呼吸が苦しい。
 周囲を見るが、遠巻きに見守る民から助けてくれるような人はいなかった。
 
「……」

 これで終わりかもしれない。
 ここまでしても、魔物憑きの恐怖は消えない、フィリクス様が戦い続けてきた偏見は簡単には崩れない。
 どうする事もできないのか、魔物憑きには希望はなく、どれだけ救っても嫌われて生きていくしかないの?

「……っ……くっ」

 呼吸はもう出来ない。
 胸を圧迫する瓦礫は完全に私の生命維持を奪い、意識が薄れていく。
 魔物憑きであるから、私は死ぬのだろうか。
 
 悔しくて、惨めにすら思えた。
 父やエミネのような理解者は……もう、望めない……………



 

  







  








「おきて! おねえさん!」

 聞こえた声に、辛うじて残った意識を繋ぎ止める。
 薄く目を開けば、かつて救った子供が私に積み上がった瓦礫に手を当てて必死に押していた。
 
「おねえさん、しなないで!」

 聞こえた声は確かに、私に向けられていた。
感想 167

あなたにおすすめの小説

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

「侯爵夫人を5年演じた私が離縁を決めたら、今さら愛していると言わないでください」

まさき
恋愛
「サインはもういただきました。あとは私が王都を出るだけです」 伯爵令嬢として申し分ない家柄で嫁いだはずだった。なのに侯爵夫人としての五年間は、夫の隣ではなく、夫の後ろで微笑み続ける日々だった。 隣国の公爵令嬢・レイナが社交界に現れてから、夫・セイルの目はソフィアを映さなくなった。 嫉妬も、訴えも、すべて飲み込んだ。完璧な侯爵夫人を演じ続けた。でも、もう十分だった。 離縁状に署名した翌朝、セイルは初めてソフィアの名を叫んだ。 ——五年間、一度も呼ばれなかったその名前を。 すべてを手放した女が、初めて自分のために歩き出す。 泣き終わった侯爵夫人の、静かで鮮やかな再生の物語。