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38話
魔物の襲撃騒動が沈静化して七日が経過した。
街はあらゆる箇所が倒壊しており、復興には多くの日数がかかるだろう。
しかしながら被害者の数は、襲撃規模に見合わぬ少なさであった。
「現在も瓦礫の撤去作業などを進めております。各地の復興支援も必要であり、避難させた村の家屋なども倒壊しております」
「あぁ、分かった」
フィリクス様にもたらされる報告は様々だったが、幸いな事に死傷者が増える報告はない。
しかし人は助かったが、作り上げてきたものが無事という訳にはいかない。
それでもまた作り直せるだけマシなのかもしれない。
「その瓦礫、私がどかしますね」
「あ……あ、あぁ。助かります」
私はといえば、倒壊した建物の瓦礫の撤去作業を手伝っている。
片方の腕は骨折しているが、多少の瓦礫なら片手でいける。
周囲の人々が唖然としている中で、大きな瓦礫を撤去させてもらった。
「セ、セシーリア様の協力もあって撤去作業は予定の日数の半分で終えられそうです」
「彼女には礼として片時も離れず飛竜の肉料理を提供できるようにしておけ」
さすがフィリクス様だ、分かってくれている。
お腹が減った時にすぐに美味しい肉を食べられるなんて最高な仕事だ。
おかげで太っちゃいそう。
「あ、あの……ありがとうございます」
「ちっ、あっち行ってくれ」
「感謝しています。セシーリアさん!」
街にいる人々の声は様々だ。
いまだに魔物憑きへの偏見が消えた訳ではなく、汚い言葉を投げかけてくる者もいる。
それでも数は明らかに感謝が多くて、瓦礫撤去もそう苦ではない。
加えて汚い言葉を投げる連中に、明らかに言い返してくれる人だって増えていた。
だから気にしない。
それに、今日はもう一つの大きな出来事があった。
「やめろ! 放せ! 私を誰だと思っている! 傷が痛む! や、やめてくれ!」
街中で連行されている人物、それはこの騒動を引き起こしたとも言える大臣であった。
今回の未曾有の災害は王家が起こした人災として、すでに多くの領民が知っている。
だからこそ民達の視線は冷ややかだ。
「王家主導で魔物被害を引き起こした事は重大な責任問題だ。その罪は然るべき裁きにて下す」
大臣の喚く声はフィリクス様に一蹴され、今は重罪人として連行されていく。
片腕を失った傷口に簡単な治療はされているが、痛みに配慮すらされずに連れて行かれるのは地獄だろう。
「や、やめて! くれ! いっ! き、傷がぁぁ!」
大臣に従っていた王家騎士団については、責任を感じているのか無抵抗の降伏を選んだ。
街を防衛していた功績もあって捕縛はされていないが、彼らも然るべき処罰を受けるしかないだろう。
「……セシーリア、王家はもはや瓦解していくだろう」
「っ! お父様」
私の隣に立つ父が、そう言って肩を叩いてきた。
「すでに貴族には今回の人災の経緯を説明する通達をしている。王家の権威は完全に崩壊するはずだ」
「ならもう王家に、自由な生活を邪魔される心配はありませんね」
「あぁ、それに皆も知っただろう。お前の生活を脅かせばどうなるかをな」
王家についての心配は必要ないのかもしれない。
だけどこの先もきっと魔物憑きへの不安はある。
「お父様……私は、別の場所に住むべきなのでしょうか。誰もいない場所の方が……危険も」
逡巡した言葉、しかしそれを否定したのは意外な人物だった。
「ひ、必要ない……」
躊躇うような声量で声をかけてきたのは、なんとアロルドであった。
彼は私と、そして父に一礼した後に口を開く。
「これから自領に帰る前に、君たちにレーヴ公爵からの報告を伝えにきた」
「報告? それは私が離れる必要はないという言葉に関係が?」
「あぁ」
頷いた彼だが、一体なにを伝えるというのか。
まさか俺の傍に居たら安全だ~なんて言い出したらまた気絶させて川に流して自領に戻してやる。
「レーヴ公爵が辺境伯領周辺の貴族にかけあって、今回の騒動を収めたのが魔物憑きの二人である事を周知している」
「……」
「救った人数も、その活躍も詳細にな。おかげで貴族の中でも魔物憑きへの偏見は薄れていくはずだ。現に三日後には多くの貴族から復興支援員が派遣されると聞いた」
レーヴ公爵を見かけないと思っていたら、もう各地を動き回ってくれていたのか。
魔物憑きへの偏見を変えると言っていた言葉、それを有言実行してくれていたのだ。
「ローザを救ってくれた事にも感謝をしていた。俺からも礼をしたい……そんな事を言う筋合いはないとは分かっているが」
まぁ、本当に言う筋合いはないかもしれない。
元はローザを大切にしない彼のせいで引き起こされたようなものだ。
そこは擁護はできない。
「ローザとは、離婚をするつもりだ。俺の無責任な考えのせいもあって彼女は暴走してしまった。彼女にも非はあるが全ての原因は俺にある。だから彼女の代わりに改めて君に謝罪したい」
アロルドは頭を下げ、さらに言葉を続けた。
「言っていたように俺は君の父や、辺境伯様に自領を譲渡する。改めて気付かされた、俺は伯爵家の器じゃない。残った領地も遠い血縁の者に任せるつもりだ」
「当主も譲って、どうするつもり?」
「屋敷は売り払い、ローザへの謝罪金にする。とはいえそれはレーヴ公爵の管轄で、彼は彼女には修道院に入って俗世と距離を置く方が幸せだと考えているらしい」
貴方はどうする気だという問いかけをしたけれど、ローザの事を話す彼。
もったいぶる態度だったが、その理由はすぐに分かった。
「俺のこれからは分からない。何をすべきか、どうしたいのかも分からない。ただ……もう君に迷惑をかける気は無い。すまなかった、セシーリア」
改めて謝罪の言葉を漏らしたアロルドは踵を返して去っていく。
その背にかけられる言葉は私には無かった。
これは彼が選んだ事であり、私と彼がもう関わる事は無い。
「余計な言葉は、かけるべきじゃないわね」
なにかいい事でも言えば良かっただろうか。
そう思ったけれど、私達はお互いのために、もう関係を築くべきではないと思った。
きっとそれが互いの幸せに繋がるはずだから。
「さよなら、アロルド」
白い結婚を終えて、ようやく私達は本当の意味で別れを告げる。
もう戻る事は無い関係に寂しさはない。
これで終わったという充実感だけが胸を満たす。
感傷に浸っていると父が肩を叩いた。
「セシーリア、実は私からも報告があるんだ」
今日は色々と報告が多いな。
そう思いながら父に視線を移すと、彼は懐から紙を取り出した。
「リエンネについてだが、彼女も大臣の連行と共に自ら出頭して……先程王都へ送られた」
「え? まだ怪我を負っていたはずです」
「あぁ、だがお前に合わせる顔が無かったから連行を早めてもらったのだろう。だが病室にコレが残してあった」
父が取り出していた紙を受け取る。
それは……
「魔物憑きに関する研究資料?」
「あぁ、王家が厳重に管理しているはずの資料だろう、王印まで押されているからな。それを彼女が持ち出していたんだ」
「魔物憑き……」
「これを残したのはきっと理由があるはずだ。リエンネのために、読んでくれるか?」
母が残した研究資料。
その中でなにを伝えようとしたのかを知るため、託された資料を開いた。
街はあらゆる箇所が倒壊しており、復興には多くの日数がかかるだろう。
しかしながら被害者の数は、襲撃規模に見合わぬ少なさであった。
「現在も瓦礫の撤去作業などを進めております。各地の復興支援も必要であり、避難させた村の家屋なども倒壊しております」
「あぁ、分かった」
フィリクス様にもたらされる報告は様々だったが、幸いな事に死傷者が増える報告はない。
しかし人は助かったが、作り上げてきたものが無事という訳にはいかない。
それでもまた作り直せるだけマシなのかもしれない。
「その瓦礫、私がどかしますね」
「あ……あ、あぁ。助かります」
私はといえば、倒壊した建物の瓦礫の撤去作業を手伝っている。
片方の腕は骨折しているが、多少の瓦礫なら片手でいける。
周囲の人々が唖然としている中で、大きな瓦礫を撤去させてもらった。
「セ、セシーリア様の協力もあって撤去作業は予定の日数の半分で終えられそうです」
「彼女には礼として片時も離れず飛竜の肉料理を提供できるようにしておけ」
さすがフィリクス様だ、分かってくれている。
お腹が減った時にすぐに美味しい肉を食べられるなんて最高な仕事だ。
おかげで太っちゃいそう。
「あ、あの……ありがとうございます」
「ちっ、あっち行ってくれ」
「感謝しています。セシーリアさん!」
街にいる人々の声は様々だ。
いまだに魔物憑きへの偏見が消えた訳ではなく、汚い言葉を投げかけてくる者もいる。
それでも数は明らかに感謝が多くて、瓦礫撤去もそう苦ではない。
加えて汚い言葉を投げる連中に、明らかに言い返してくれる人だって増えていた。
だから気にしない。
それに、今日はもう一つの大きな出来事があった。
「やめろ! 放せ! 私を誰だと思っている! 傷が痛む! や、やめてくれ!」
街中で連行されている人物、それはこの騒動を引き起こしたとも言える大臣であった。
今回の未曾有の災害は王家が起こした人災として、すでに多くの領民が知っている。
だからこそ民達の視線は冷ややかだ。
「王家主導で魔物被害を引き起こした事は重大な責任問題だ。その罪は然るべき裁きにて下す」
大臣の喚く声はフィリクス様に一蹴され、今は重罪人として連行されていく。
片腕を失った傷口に簡単な治療はされているが、痛みに配慮すらされずに連れて行かれるのは地獄だろう。
「や、やめて! くれ! いっ! き、傷がぁぁ!」
大臣に従っていた王家騎士団については、責任を感じているのか無抵抗の降伏を選んだ。
街を防衛していた功績もあって捕縛はされていないが、彼らも然るべき処罰を受けるしかないだろう。
「……セシーリア、王家はもはや瓦解していくだろう」
「っ! お父様」
私の隣に立つ父が、そう言って肩を叩いてきた。
「すでに貴族には今回の人災の経緯を説明する通達をしている。王家の権威は完全に崩壊するはずだ」
「ならもう王家に、自由な生活を邪魔される心配はありませんね」
「あぁ、それに皆も知っただろう。お前の生活を脅かせばどうなるかをな」
王家についての心配は必要ないのかもしれない。
だけどこの先もきっと魔物憑きへの不安はある。
「お父様……私は、別の場所に住むべきなのでしょうか。誰もいない場所の方が……危険も」
逡巡した言葉、しかしそれを否定したのは意外な人物だった。
「ひ、必要ない……」
躊躇うような声量で声をかけてきたのは、なんとアロルドであった。
彼は私と、そして父に一礼した後に口を開く。
「これから自領に帰る前に、君たちにレーヴ公爵からの報告を伝えにきた」
「報告? それは私が離れる必要はないという言葉に関係が?」
「あぁ」
頷いた彼だが、一体なにを伝えるというのか。
まさか俺の傍に居たら安全だ~なんて言い出したらまた気絶させて川に流して自領に戻してやる。
「レーヴ公爵が辺境伯領周辺の貴族にかけあって、今回の騒動を収めたのが魔物憑きの二人である事を周知している」
「……」
「救った人数も、その活躍も詳細にな。おかげで貴族の中でも魔物憑きへの偏見は薄れていくはずだ。現に三日後には多くの貴族から復興支援員が派遣されると聞いた」
レーヴ公爵を見かけないと思っていたら、もう各地を動き回ってくれていたのか。
魔物憑きへの偏見を変えると言っていた言葉、それを有言実行してくれていたのだ。
「ローザを救ってくれた事にも感謝をしていた。俺からも礼をしたい……そんな事を言う筋合いはないとは分かっているが」
まぁ、本当に言う筋合いはないかもしれない。
元はローザを大切にしない彼のせいで引き起こされたようなものだ。
そこは擁護はできない。
「ローザとは、離婚をするつもりだ。俺の無責任な考えのせいもあって彼女は暴走してしまった。彼女にも非はあるが全ての原因は俺にある。だから彼女の代わりに改めて君に謝罪したい」
アロルドは頭を下げ、さらに言葉を続けた。
「言っていたように俺は君の父や、辺境伯様に自領を譲渡する。改めて気付かされた、俺は伯爵家の器じゃない。残った領地も遠い血縁の者に任せるつもりだ」
「当主も譲って、どうするつもり?」
「屋敷は売り払い、ローザへの謝罪金にする。とはいえそれはレーヴ公爵の管轄で、彼は彼女には修道院に入って俗世と距離を置く方が幸せだと考えているらしい」
貴方はどうする気だという問いかけをしたけれど、ローザの事を話す彼。
もったいぶる態度だったが、その理由はすぐに分かった。
「俺のこれからは分からない。何をすべきか、どうしたいのかも分からない。ただ……もう君に迷惑をかける気は無い。すまなかった、セシーリア」
改めて謝罪の言葉を漏らしたアロルドは踵を返して去っていく。
その背にかけられる言葉は私には無かった。
これは彼が選んだ事であり、私と彼がもう関わる事は無い。
「余計な言葉は、かけるべきじゃないわね」
なにかいい事でも言えば良かっただろうか。
そう思ったけれど、私達はお互いのために、もう関係を築くべきではないと思った。
きっとそれが互いの幸せに繋がるはずだから。
「さよなら、アロルド」
白い結婚を終えて、ようやく私達は本当の意味で別れを告げる。
もう戻る事は無い関係に寂しさはない。
これで終わったという充実感だけが胸を満たす。
感傷に浸っていると父が肩を叩いた。
「セシーリア、実は私からも報告があるんだ」
今日は色々と報告が多いな。
そう思いながら父に視線を移すと、彼は懐から紙を取り出した。
「リエンネについてだが、彼女も大臣の連行と共に自ら出頭して……先程王都へ送られた」
「え? まだ怪我を負っていたはずです」
「あぁ、だがお前に合わせる顔が無かったから連行を早めてもらったのだろう。だが病室にコレが残してあった」
父が取り出していた紙を受け取る。
それは……
「魔物憑きに関する研究資料?」
「あぁ、王家が厳重に管理しているはずの資料だろう、王印まで押されているからな。それを彼女が持ち出していたんだ」
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