【完結】王妃はもうここにいられません

なか

文字の大きさ
19 / 44

15話

 ロドニーの拘束を終えた頃に、彼は目を開いた。
 意識が戻るのが早いのは、流石は正騎士といったところだ。

「は、離せ! こんな事をしてどうなると思って……」

「さて、お嬢様……どうなされますか」

「ラツィア様、俺は王命により来たのです! こんな横暴が許されるはずがない!」

「その王命権限が効果を発揮するのは、王印の押された書状を提示した時のみよ。いまだそれを提示していない貴方を信用するはずがないわ」

 王命には王の印が押された書状を最初に提示する必要がある。
 今回、私が護衛兵に拘束を命じたのは……その規律をロドニーが忘れていたからだ。
 書状が提示されていないのなら、王命は権限を持たないという隙を突かせてもらった。
 まぁ、もうその書状も提示できないように拘束したから……ひとまずはこれで時間稼ぎを。

「書状? そんなの、イェシカからは渡してもらっていない」

「……え?」

 書状を渡されていないって、そんな事はあり得ない。
 
「クドスとて国王として王命の重さを知っているわ。王印のない書状がないなどあり得ない」

「だが……イェシカは確かに、俺に陛下が命じたと」
 
 まて、さっきから話を聞いていれば。
 ロドニーに話をしていたのは、イェシカのみではないか?
 妙な怪しさ、きな臭さを感じた私は護衛兵に目配せする。

「父の元へ連れていってください。ロドニー……及びその妹であるイェシカは、王命を偽った疑いがあります」

「っ! 分かりました」

 私の考えが正しければ、イェシカは王命と偽ってロドニーをけしかけた。
 権限なき王命を騙る事は重罪。
 イェシカは法学にだって長けていたし、それを知らぬはずがない。
 だとすれば、ここまで浅はかな手を講じた理由はなに?

「待ってください、ラツィア様! 俺とイェシカが王命を偽ったなど、そんなはずがない。話を聞いてください」

 ロドニーが叫ぶが、私の意志決定に変わりはない。
 婚約を申し込まれても受け入れる気は無いし、王命もないなら相手する理由もない。
 真相も父が調べてくれるはずだ。

「連れていきなさい」

 護衛兵達に連れて行かれそうになったロドニーは、抵抗しながら私に叫んだ。

「俺は本気で貴方を心配していたんです。廃妃された貴方の精神は辛く、俺の元で療養するのが最善のはずで
……」

「お言葉だけど、心配など必要ないし。婚約なんて無理無理!」

「なぜですか、俺は見目は決して悪くない。家格だってイェシカが王妃となって貴方に相応しくなる。なのに……」

「いや臭いから」

「な……」

 驚いているけれど、当然ながら臭いがキツイ人は応対するのも難しい。
 これは仕方ないことだ。

「俺は、俺は本気で貴方のためを想って」

「私の心配などする前に、自分の身体でも洗っておきなさい」

 今や私と同様に、レルクや護衛兵達も湯浴みを行っている。
 ゆえに私の「臭い」という発言に皆が同意の頷きをしながら、ロドニーは身体を引かれていく。

「ふ……ふざけないでください! 穢れた領主業をして……あまつさえ身を洗うなどという健康を害する異端を犯しながら健康だなんて! 貴方は乱心している!」

「いつか貴方も、その考えが間違いだと気付くわ」

「俺は、俺は陛下のご命令で来ている! このような邪魔立てをした事は反逆罪に問われ……」

 ここにきてロドニーは、再び王命だという事を盾にして抵抗しようと喚く……
 取り押さえられながら必死にもがいており、連行もままならない。
 仕方なく、また気絶させてと護衛兵に指示をしようとした時だった、 

「ラツィア様……俺は貴方をこんなにも想っているのに、どうして答えてくれな………………え?」

 ふと、喚いていたロドニーの言葉が止まる。
 目線を送れば、連れて行かれるロドニーの背後に男性が立っていた。

 豪奢な身なりに加えて、銀色の髪が風になびく。
 紅の瞳が真っ直ぐに私を見つめ、ロドニーは振り返って啞然としていた。

「どうして、貴方が……」

「どけ」

 その人物が話せば、緊張が走る。
 護衛兵達、レルクも身を正す威圧感。
 喚いていたロドニーですら、無言になってしまう始末だ。

 それも当然。
 彼は……隣国、ルーテン大国の王太子であるジーニアス様だからだ。
 何度か友好のために会った事はあるが、どうしてここに?

「ジーニアス……殿下?」

「邪魔だ」

 困惑するロドニーに対して、ジーニアス様は目線すら向けずに呟く。

「ジ、ジーニアス殿下ですよね? どうしてここに? い、今はラツィア様と俺が話して––」

 質問を投げかけようとしたロドニー。
 瞬間、ジーニアス様の傍に控えていた黒い鎧の騎士が裏拳にて、ロドニーの顎を打ち砕いた。

「あぐっ!?」

 豪快な音が鳴り、漆黒の騎士が甲冑の隙間から見える鋭い瞳で睨みつけ。
 小さく呟く。

「殿下の御前だ。どけ」

 漆黒の騎士が短く告げ、ロドニーの髪を掴む。
 ロドニーはもはや気絶しており、私の護衛達が慌てて連行していく。
 残る私の護衛達が、警戒しながら周囲を囲む中……ジーニアス様が私の前に立った。

「お、お久しぶりですジーニアス殿下。しかし何用でこんな場所まで」

「会いにきた」

「え……?」

「君が廃妃されたと聞いた。真実か?」

 どうしてそんな事を尋ねに来たのか。
 だが、そんな疑問を返せぬ程の鋭い眼光に、有無を言わずに答えなくてはならぬと思ってしまう。

 事実として彼は……私が不敬をすれば処罰を与えられる絶対的な力を持つ。
 なので大人しく、「おっしゃる通りに、廃妃されました」と答える。

「そうか」

 間違いがあってはならない、ここから先の対応を間違えれば途端に全てが崩れる。
 クドスよりも絶対的な権力を有すジーニアス殿下に警戒をする。

「ずっと待っていた、ラツィア嬢。俺は君を……」

 なにかを呟きながら、ジーニアス殿下が近づいてきた時。
 あと数歩の所で、彼の動きがピタリと止まる。

「……」

「え? ど、どうなさいました」

「……」

「ジ、ジーニアス様?」

 無言で立ち止まった彼は、なぜか踵を返してその場を去っていく。

「ジ、ジーニアス殿下!? どちらへ!」

 なにがあったの!? なぜどこかへいくの!?
 ジーニアス様の護衛騎士ですら戸惑っている様子に、想定していた事ではなさそうだ。
 私自身も戸惑っていた時、弟のレルクが袖を引いた。

「僕、なんであの人が姉さんから離れたか分かるよ」

「え? どうして?」

「たぶん、僕と同じだから。たしかめにいこ」

 そう言って、レルクが私の手を引いて歩き出す。
 去っていったジーニアス様を追いかけたのだ。

 道の脇に歩いて行った彼を追っていけば、護衛騎士となにやら話している。
 レルクが「隠れて聞こう」というので、盗み聞きは良くないと言おうとした時。

「どうしたんですか、せっかくの機会。絶対に手離せぬと言っていたではありませんか」

 ジーニアス様と話す護衛騎士の声。
 そして……続くジーニアス様の声も聞こえてしまった。

「言える訳がない……」

「どうなさったのですか。ラツィア様がおられたというのに」

「あ……」

「あ?」

「あんなに良い匂いがしているなんて想定外だ! 途端に自分自身の臭いが恥に感じて、みっともなくて言えなかった」

「匂いって、殿下。せっかくの機会だったのに」

「お前……あの可憐な姿に、あんなとんでもない良い芳香がするのだぞ!? そんな女性に言えるものか、俺の要求など……恥ずかしくて!」

 なにやら話すジーニアス殿下の言葉は、先程の怖さはなくなっており。
 どうやら、私を褒めてくれている?

「ほら、ぼくとおなじだ」

 傍でレルクが、ボツリと呟いて同意するように頷いていた。
感想 204

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します