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15話
ロドニーの拘束を終えた頃に、彼は目を開いた。
意識が戻るのが早いのは、流石は正騎士といったところだ。
「は、離せ! こんな事をしてどうなると思って……」
「さて、お嬢様……どうなされますか」
「ラツィア様、俺は王命により来たのです! こんな横暴が許されるはずがない!」
「その王命権限が効果を発揮するのは、王印の押された書状を提示した時のみよ。いまだそれを提示していない貴方を信用するはずがないわ」
王命には王の印が押された書状を最初に提示する必要がある。
今回、私が護衛兵に拘束を命じたのは……その規律をロドニーが忘れていたからだ。
書状が提示されていないのなら、王命は権限を持たないという隙を突かせてもらった。
まぁ、もうその書状も提示できないように拘束したから……ひとまずはこれで時間稼ぎを。
「書状? そんなの、イェシカからは渡してもらっていない」
「……え?」
書状を渡されていないって、そんな事はあり得ない。
「クドスとて国王として王命の重さを知っているわ。王印のない書状がないなどあり得ない」
「だが……イェシカは確かに、俺に陛下が命じたと」
まて、さっきから話を聞いていれば。
ロドニーに話をしていたのは、イェシカのみではないか?
妙な怪しさ、きな臭さを感じた私は護衛兵に目配せする。
「父の元へ連れていってください。ロドニー……及びその妹であるイェシカは、王命を偽った疑いがあります」
「っ! 分かりました」
私の考えが正しければ、イェシカは王命と偽ってロドニーをけしかけた。
権限なき王命を騙る事は重罪。
イェシカは法学にだって長けていたし、それを知らぬはずがない。
だとすれば、ここまで浅はかな手を講じた理由はなに?
「待ってください、ラツィア様! 俺とイェシカが王命を偽ったなど、そんなはずがない。話を聞いてください」
ロドニーが叫ぶが、私の意志決定に変わりはない。
婚約を申し込まれても受け入れる気は無いし、王命もないなら相手する理由もない。
真相も父が調べてくれるはずだ。
「連れていきなさい」
護衛兵達に連れて行かれそうになったロドニーは、抵抗しながら私に叫んだ。
「俺は本気で貴方を心配していたんです。廃妃された貴方の精神は辛く、俺の元で療養するのが最善のはずで
……」
「お言葉だけど、心配など必要ないし。婚約なんて無理無理!」
「なぜですか、俺は見目は決して悪くない。家格だってイェシカが王妃となって貴方に相応しくなる。なのに……」
「いや臭いから」
「な……」
驚いているけれど、当然ながら臭いがキツイ人は応対するのも難しい。
これは仕方ないことだ。
「俺は、俺は本気で貴方のためを想って」
「私の心配などする前に、自分の身体でも洗っておきなさい」
今や私と同様に、レルクや護衛兵達も湯浴みを行っている。
ゆえに私の「臭い」という発言に皆が同意の頷きをしながら、ロドニーは身体を引かれていく。
「ふ……ふざけないでください! 穢れた領主業をして……あまつさえ身を洗うなどという健康を害する異端を犯しながら健康だなんて! 貴方は乱心している!」
「いつか貴方も、その考えが間違いだと気付くわ」
「俺は、俺は陛下のご命令で来ている! このような邪魔立てをした事は反逆罪に問われ……」
ここにきてロドニーは、再び王命だという事を盾にして抵抗しようと喚く……
取り押さえられながら必死にもがいており、連行もままならない。
仕方なく、また気絶させてと護衛兵に指示をしようとした時だった、
「ラツィア様……俺は貴方をこんなにも想っているのに、どうして答えてくれな………………え?」
ふと、喚いていたロドニーの言葉が止まる。
目線を送れば、連れて行かれるロドニーの背後に男性が立っていた。
豪奢な身なりに加えて、銀色の髪が風になびく。
紅の瞳が真っ直ぐに私を見つめ、ロドニーは振り返って啞然としていた。
「どうして、貴方が……」
「どけ」
その人物が話せば、緊張が走る。
護衛兵達、レルクも身を正す威圧感。
喚いていたロドニーですら、無言になってしまう始末だ。
それも当然。
彼は……隣国、ルーテン大国の王太子であるジーニアス様だからだ。
何度か友好のために会った事はあるが、どうしてここに?
「ジーニアス……殿下?」
「邪魔だ」
困惑するロドニーに対して、ジーニアス様は目線すら向けずに呟く。
「ジ、ジーニアス殿下ですよね? どうしてここに? い、今はラツィア様と俺が話して––」
質問を投げかけようとしたロドニー。
瞬間、ジーニアス様の傍に控えていた黒い鎧の騎士が裏拳にて、ロドニーの顎を打ち砕いた。
「あぐっ!?」
豪快な音が鳴り、漆黒の騎士が甲冑の隙間から見える鋭い瞳で睨みつけ。
小さく呟く。
「殿下の御前だ。どけ」
漆黒の騎士が短く告げ、ロドニーの髪を掴む。
ロドニーはもはや気絶しており、私の護衛達が慌てて連行していく。
残る私の護衛達が、警戒しながら周囲を囲む中……ジーニアス様が私の前に立った。
「お、お久しぶりですジーニアス殿下。しかし何用でこんな場所まで」
「会いにきた」
「え……?」
「君が廃妃されたと聞いた。真実か?」
どうしてそんな事を尋ねに来たのか。
だが、そんな疑問を返せぬ程の鋭い眼光に、有無を言わずに答えなくてはならぬと思ってしまう。
事実として彼は……私が不敬をすれば処罰を与えられる絶対的な力を持つ。
なので大人しく、「おっしゃる通りに、廃妃されました」と答える。
「そうか」
間違いがあってはならない、ここから先の対応を間違えれば途端に全てが崩れる。
クドスよりも絶対的な権力を有すジーニアス殿下に警戒をする。
「ずっと待っていた、ラツィア嬢。俺は君を……」
なにかを呟きながら、ジーニアス殿下が近づいてきた時。
あと数歩の所で、彼の動きがピタリと止まる。
「……」
「え? ど、どうなさいました」
「……」
「ジ、ジーニアス様?」
無言で立ち止まった彼は、なぜか踵を返してその場を去っていく。
「ジ、ジーニアス殿下!? どちらへ!」
なにがあったの!? なぜどこかへいくの!?
ジーニアス様の護衛騎士ですら戸惑っている様子に、想定していた事ではなさそうだ。
私自身も戸惑っていた時、弟のレルクが袖を引いた。
「僕、なんであの人が姉さんから離れたか分かるよ」
「え? どうして?」
「たぶん、僕と同じだから。たしかめにいこ」
そう言って、レルクが私の手を引いて歩き出す。
去っていったジーニアス様を追いかけたのだ。
道の脇に歩いて行った彼を追っていけば、護衛騎士となにやら話している。
レルクが「隠れて聞こう」というので、盗み聞きは良くないと言おうとした時。
「どうしたんですか、せっかくの機会。絶対に手離せぬと言っていたではありませんか」
ジーニアス様と話す護衛騎士の声。
そして……続くジーニアス様の声も聞こえてしまった。
「言える訳がない……」
「どうなさったのですか。ラツィア様がおられたというのに」
「あ……」
「あ?」
「あんなに良い匂いがしているなんて想定外だ! 途端に自分自身の臭いが恥に感じて、みっともなくて言えなかった」
「匂いって、殿下。せっかくの機会だったのに」
「お前……あの可憐な姿に、あんなとんでもない良い芳香がするのだぞ!? そんな女性に言えるものか、俺の要求など……恥ずかしくて!」
なにやら話すジーニアス殿下の言葉は、先程の怖さはなくなっており。
どうやら、私を褒めてくれている?
「ほら、ぼくとおなじだ」
傍でレルクが、ボツリと呟いて同意するように頷いていた。
意識が戻るのが早いのは、流石は正騎士といったところだ。
「は、離せ! こんな事をしてどうなると思って……」
「さて、お嬢様……どうなされますか」
「ラツィア様、俺は王命により来たのです! こんな横暴が許されるはずがない!」
「その王命権限が効果を発揮するのは、王印の押された書状を提示した時のみよ。いまだそれを提示していない貴方を信用するはずがないわ」
王命には王の印が押された書状を最初に提示する必要がある。
今回、私が護衛兵に拘束を命じたのは……その規律をロドニーが忘れていたからだ。
書状が提示されていないのなら、王命は権限を持たないという隙を突かせてもらった。
まぁ、もうその書状も提示できないように拘束したから……ひとまずはこれで時間稼ぎを。
「書状? そんなの、イェシカからは渡してもらっていない」
「……え?」
書状を渡されていないって、そんな事はあり得ない。
「クドスとて国王として王命の重さを知っているわ。王印のない書状がないなどあり得ない」
「だが……イェシカは確かに、俺に陛下が命じたと」
まて、さっきから話を聞いていれば。
ロドニーに話をしていたのは、イェシカのみではないか?
妙な怪しさ、きな臭さを感じた私は護衛兵に目配せする。
「父の元へ連れていってください。ロドニー……及びその妹であるイェシカは、王命を偽った疑いがあります」
「っ! 分かりました」
私の考えが正しければ、イェシカは王命と偽ってロドニーをけしかけた。
権限なき王命を騙る事は重罪。
イェシカは法学にだって長けていたし、それを知らぬはずがない。
だとすれば、ここまで浅はかな手を講じた理由はなに?
「待ってください、ラツィア様! 俺とイェシカが王命を偽ったなど、そんなはずがない。話を聞いてください」
ロドニーが叫ぶが、私の意志決定に変わりはない。
婚約を申し込まれても受け入れる気は無いし、王命もないなら相手する理由もない。
真相も父が調べてくれるはずだ。
「連れていきなさい」
護衛兵達に連れて行かれそうになったロドニーは、抵抗しながら私に叫んだ。
「俺は本気で貴方を心配していたんです。廃妃された貴方の精神は辛く、俺の元で療養するのが最善のはずで
……」
「お言葉だけど、心配など必要ないし。婚約なんて無理無理!」
「なぜですか、俺は見目は決して悪くない。家格だってイェシカが王妃となって貴方に相応しくなる。なのに……」
「いや臭いから」
「な……」
驚いているけれど、当然ながら臭いがキツイ人は応対するのも難しい。
これは仕方ないことだ。
「俺は、俺は本気で貴方のためを想って」
「私の心配などする前に、自分の身体でも洗っておきなさい」
今や私と同様に、レルクや護衛兵達も湯浴みを行っている。
ゆえに私の「臭い」という発言に皆が同意の頷きをしながら、ロドニーは身体を引かれていく。
「ふ……ふざけないでください! 穢れた領主業をして……あまつさえ身を洗うなどという健康を害する異端を犯しながら健康だなんて! 貴方は乱心している!」
「いつか貴方も、その考えが間違いだと気付くわ」
「俺は、俺は陛下のご命令で来ている! このような邪魔立てをした事は反逆罪に問われ……」
ここにきてロドニーは、再び王命だという事を盾にして抵抗しようと喚く……
取り押さえられながら必死にもがいており、連行もままならない。
仕方なく、また気絶させてと護衛兵に指示をしようとした時だった、
「ラツィア様……俺は貴方をこんなにも想っているのに、どうして答えてくれな………………え?」
ふと、喚いていたロドニーの言葉が止まる。
目線を送れば、連れて行かれるロドニーの背後に男性が立っていた。
豪奢な身なりに加えて、銀色の髪が風になびく。
紅の瞳が真っ直ぐに私を見つめ、ロドニーは振り返って啞然としていた。
「どうして、貴方が……」
「どけ」
その人物が話せば、緊張が走る。
護衛兵達、レルクも身を正す威圧感。
喚いていたロドニーですら、無言になってしまう始末だ。
それも当然。
彼は……隣国、ルーテン大国の王太子であるジーニアス様だからだ。
何度か友好のために会った事はあるが、どうしてここに?
「ジーニアス……殿下?」
「邪魔だ」
困惑するロドニーに対して、ジーニアス様は目線すら向けずに呟く。
「ジ、ジーニアス殿下ですよね? どうしてここに? い、今はラツィア様と俺が話して––」
質問を投げかけようとしたロドニー。
瞬間、ジーニアス様の傍に控えていた黒い鎧の騎士が裏拳にて、ロドニーの顎を打ち砕いた。
「あぐっ!?」
豪快な音が鳴り、漆黒の騎士が甲冑の隙間から見える鋭い瞳で睨みつけ。
小さく呟く。
「殿下の御前だ。どけ」
漆黒の騎士が短く告げ、ロドニーの髪を掴む。
ロドニーはもはや気絶しており、私の護衛達が慌てて連行していく。
残る私の護衛達が、警戒しながら周囲を囲む中……ジーニアス様が私の前に立った。
「お、お久しぶりですジーニアス殿下。しかし何用でこんな場所まで」
「会いにきた」
「え……?」
「君が廃妃されたと聞いた。真実か?」
どうしてそんな事を尋ねに来たのか。
だが、そんな疑問を返せぬ程の鋭い眼光に、有無を言わずに答えなくてはならぬと思ってしまう。
事実として彼は……私が不敬をすれば処罰を与えられる絶対的な力を持つ。
なので大人しく、「おっしゃる通りに、廃妃されました」と答える。
「そうか」
間違いがあってはならない、ここから先の対応を間違えれば途端に全てが崩れる。
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「ずっと待っていた、ラツィア嬢。俺は君を……」
なにかを呟きながら、ジーニアス殿下が近づいてきた時。
あと数歩の所で、彼の動きがピタリと止まる。
「……」
「え? ど、どうなさいました」
「……」
「ジ、ジーニアス様?」
無言で立ち止まった彼は、なぜか踵を返してその場を去っていく。
「ジ、ジーニアス殿下!? どちらへ!」
なにがあったの!? なぜどこかへいくの!?
ジーニアス様の護衛騎士ですら戸惑っている様子に、想定していた事ではなさそうだ。
私自身も戸惑っていた時、弟のレルクが袖を引いた。
「僕、なんであの人が姉さんから離れたか分かるよ」
「え? どうして?」
「たぶん、僕と同じだから。たしかめにいこ」
そう言って、レルクが私の手を引いて歩き出す。
去っていったジーニアス様を追いかけたのだ。
道の脇に歩いて行った彼を追っていけば、護衛騎士となにやら話している。
レルクが「隠れて聞こう」というので、盗み聞きは良くないと言おうとした時。
「どうしたんですか、せっかくの機会。絶対に手離せぬと言っていたではありませんか」
ジーニアス様と話す護衛騎士の声。
そして……続くジーニアス様の声も聞こえてしまった。
「言える訳がない……」
「どうなさったのですか。ラツィア様がおられたというのに」
「あ……」
「あ?」
「あんなに良い匂いがしているなんて想定外だ! 途端に自分自身の臭いが恥に感じて、みっともなくて言えなかった」
「匂いって、殿下。せっかくの機会だったのに」
「お前……あの可憐な姿に、あんなとんでもない良い芳香がするのだぞ!? そんな女性に言えるものか、俺の要求など……恥ずかしくて!」
なにやら話すジーニアス殿下の言葉は、先程の怖さはなくなっており。
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傍でレルクが、ボツリと呟いて同意するように頷いていた。
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