【完結】旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です

なか

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第12話

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「譲歩は……できないでしょうか?」

 絞り出した声、苦し紛れに吐いた言葉でさえ、アウルム様は一蹴した。

「出来ない、最初の契約でさえ不達成な相手とは大きな商売をしないと決めている。契約は絶対だ」

 一瞬で突き放された言葉に、ギュッと拳を握る。言い返す言葉もなく、此度の失敗は信頼の喪失に違いない。

「では、契約通りに違約金の五十万ギルを頂く。しかし、君の提示していた五万ギルで用意してくれた衣服を買い取ってもいい」

 十九着を五万ギルで、違約金を差し引けば四十五万ギル程。その数字に気付いた瞬間に目の前にいる彼の恐ろしさに気づいてしまう。
 契約が果たしても益、不履行となっても彼は当初に提示していた額以下で望む以上の成果物を手に入れる事が出来るのだ。全て、計算だとしたら恐ろしく。初めから私は対等な商談に立てる器量はなかったのだと思い知る。

 今のままでは。

「さて、如何だろうか?」

「その前に、ジェレド様。契約は絶対だという先程のお言葉に二言はないですか?」

「? 当たり前だ」

「そうですか、良かった」

 本当に良かった。アウルム様。
 貴方が生粋の契約遵守の方で。

「カレン、用意していた物を持ってきて」

「はい、承知いたしました」

 待っていましたとばかりに、カレンは別室に用意していた物を机に置いた。
 それは、二着の洋服。

「これは?」

「私の使用人達に給金を払い、作ってもらった衣服です。品質は私の作った物とそれ程の相違はありません」

 私は、型紙の裁断のみを頼んではいなかった。
 カレン達、手先の器用な者達を給金で雇い。私が教えた技術により作ってくれた衣服だ。作る速度はまだ遅く、十日間で出来たのは二着のみ。
 しかし……これで出来上がった品数は契約に足りる。

 最初にこれを見せなかったのは。失礼は承知で、彼が契約を反故にする方ではないか見定めるため。

「契約では、私だけが作るとは記されておりません。つまり、これらも今回の成果物と成り得る。これにより二十着という契約を達成した事実のみが残ります」

 契約を「遵守」すると言った彼なら、この事実のみを受け入れるしかない。
 これで、他者が作成した品は受け入れないという言い分で契約を破棄には出来ないはずだ。

「ほぉ……」

「認めていただけますね?」

 問いかけた言葉、アウルム様は追加で見せた二着を吟味した後。
 大きな息を吐いて、その頬に愉悦を浮かべた。

「良い答えを見つけたな、作業を独りで抱えずに富を分配して分担する。その判断が出来るのなら、商売相手として申し分ない」

 立ち上がり、爽やかな笑みを携えてアウルム様は握手を求めて手を伸ばす。その仕草には敬意が払われているように感じ、私を認めてくれている事が伝わる。

「直感に頼って良かった。やはり君とは面白い商いが出来そうだ。よろしく頼む」

「はい、ぜひ……お願いします。アウルム様」

「アウルムでいい、これからは対等な商売相手だ。早速だが、商いの話をしようか」

 アウルムの査定に見合った後の商談は早かった。
 彼が追加で望んだのは、半年後までに洋服を百着用意する事。

「これは、商売敵が模造品を作り出す前に影響力のある貴族家へ一気に売り出すためだ。有力家が購入すれば他の貴族夫人もこぞって君の品を望み、模造品を忌避するからな」

 模造品が出回る事を想定までしているなんて、思いつかなかった。
 百着が完成するまでの間、アウルム様は信用を置く高位貴族の方にのみ、先着で作成した二十着を見せて購買欲を搔き立ててくれるようだ。

「それと、エレツィア。君の作る服には全てをいれておけ」

「ロゴ……ですか?」

「そうだ、とも言うな。君が作った品だと区別するためのもの。更にそのブランドはいずれ君の商いを大きく飛躍するものへ変える」

 アウルム様の言葉の意図が掴めず、困惑していると彼は丁寧に説明をしてくれた。
 
「ブランドとは、信用だ。君が顧客の望む品質を供給し続ければ、顧客は同じデザインで価値に差があっても、品質を信じて君の品を選ぶ。今回の商品は高価だからこそ、信用はなによりも大事だ」

 感嘆の声が漏れ出たと同時に、アウルム様の商才を思い知る。彼が商売における協力者で本当に良かった。
 話は素早く進み、百着を用意する契約を再度結ぶ。今回の二十一着の購入費と契約の前金を含めて三百万ギルがアウルム様より渡された。

「では、俺は次の商談がある。何か用があれば遣いを出してくれ。エレツィア」

「はい、よろしくお願いします。アウルム」

 微笑みで交わした別れ。最早、敵ではなく協力者となった彼のおかげで、ロイの親権を得るための一歩は大きく進んだ。


「やったっッツーーー!! 流石よ、エレツィア!」

 アウルムが去ってから、部屋に飛び込んで来たのはルリアンお姉様だった。ロイの世話をお願いするために来て頂いたのだけど、聞き耳を立てていたのだろうか。
 次にロイを抱いたカレン、そして姉の義弟であるマルクも微笑みを携えて来てくれた。

「流石です、エレツィア様」
「まさか、アウルム様と協力を結ぶなんて……凄いですよ、エレツィアさん」

 カレンとマルクの賛辞を受けつつ、私は飛びついて来たロイを抱き上げる。

「おかしゃん、どーたの?」

「ふふ、ロイと皆のおかげよ……ありがとう」

「? ロイもあーとーするー」

 ロイを抱きしめていると、その小さな手が褒めてくれるように私の頭をかき回す。その行為がなによりも嬉しくて、私の胸を歓喜で満たした。


   ◇◇◇


 時刻はまだ昼間、姉とマルクも時間があったのでカルヴァート邸から、屋敷まで付いてきてくれた。
 遊び相手がいっぱいいる事が嬉しいのか、帰りの馬車でご満悦のロイは飛び跳ねて、喜んでくれる。
 
 そんな調子で屋敷に着いて早々、ロイは走り出した。

「おもた。持ってくる!」

「あ、ロイ。待って!」

 おもちゃを持ってきて遊びたいのだろう。屋敷に颯爽と入っていくロイを追いかけようとした時だった。

「や! いや! おかしゃん!」

「っ!? ロイ!?」

 屋敷から聞こえた声、同時に聞こえた乾いた音。
 私が走り出した時には、声が大きな泣き声に変わっていた。
 はやる気持ちで、ロイの元へと走る。

「ロイ! ッ!!」

 そこにいたのは、赤くなった頬をおさえて大粒の涙を流して泣き叫ぶロイと。
 平手を上げて、呆然と立ち尽くす。

 ジェレドの姿があった。

 何があったのか、どうしてこうなったのか……今の私には掴み取れない。
 しかし、どのような理由があろうと彼がロイに手を出した事実を、私は許せるはずがなかった。
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