【完結】旦那様の愛人の子供は、私の愛し子です

なか

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35話

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「約二年分の売上にしては、破格だ。しかし、その顔を見るに足りないようだな」

 アウルムの言う通り、利益はかなりの額だ。
 しかし、やはり一億ギルに届かぬ自身の歯がゆさに唇を噛む。
 悔しい……と、無礼だが思ってしまう。

「そんな顔をするな。言っただろ、俺にも手助けぐらいさせろ」

 彼と交わしていた言葉を思い出す。
 毎日を必死で取り組む内、忘れていた。彼の言葉……
 しかし、何を。

「俺が、ローレシア家から譲渡された屋敷の権利を君に譲ろう」

「っ!!」

 かつてジェレドが採掘事業の予算を横領して建てた屋敷の権利書が、机の上に置かれる。
 そして、彼は笑みを浮かべた。
 
「受け取れ。邸は約五千万程の価値がある……足りるか?」

「よ……よいの、ですか?」

 本心は、今すぐにでも謝意を示し。飛びついてでも受け取りたい権利書だった。
 しかし尋ねずにはいられなかった。手助けというには、あまりに破格だから。

「今回の事業のおかげで、俺も多くの名家との繋がりを持てた。今後のあらゆる事業を有利に進められると思えば、安い対価だ」

「それで……も」

「……いいから」

 アウルムは権利書を掴み、それを私へと押し渡す。
 立ち上がった彼を見上げる私は、受け取ってしまう。

「遠慮するな。ロイの幸せを必ず掴んでみせろ」

 ポンと頭に手を置かれてしまえば、胸の鼓動は収まる事は無い。
 一気に顔が火照って俯いてしまう。

「……」

「ど……どうしました?」

 何故か、私の顔を見て同じように呆然としてしまった彼に声をかける。
 その金眼が私を見つめて、頬に手を当てて……

「おかあさん! あうるむきてるの!?」

 バンっと扉が開いて、勢い良く入って来たのはロイだった。頬に当てられた手が離れて、彼の意図は組み取れずに混乱してしまう。当の本人といえば、先の事がなかったように大きくなったロイを抱き上げていた。

「ロイ、元気にしていたか」

「うん! あえてうれしい」

 五歳となったロイは、元気にあふれた笑みを浮かべてアウルムに甘える。
 二人の親しい間柄に微笑ましい。

 私も今は先の行為に悶々と考える事は止めておこう。

「アウルム、お時間があれば……今日は夕食でも共にしますか?」

 ジェレドは今日、ドルトン様の執務を手伝うために不在。
 故に夕食へ彼を誘うと、彼は明るい声色で「お願いしたい」と答えてくれた。ロイも夕食まで一緒にいられる事が嬉しくて喜んでいる。

「あうるむ。ごはんできるまで、そといこ! さきいってる!」

「あ、おい! 外は寒いから着込んでいけ」

 今や、ロイの体調さえ気遣う彼に微笑みつつ。私は外に行こうとするロイへ上着とアウルムがくれたマフラーを手渡す。

「新しいのはいらないか? ロイ」

 アウルムの問いかけに、ロイはマフラーを抱きしめ笑って答えた。

「ロイね、このマフラーが一番すきなの。だから、他はいらない!」

「……そうか」

 ロイはマフラーを巻いて外へ行き、静かになった室内でアウルムが口火を切った。

「もう、あうるうと間違って呼ばれる事はないのだな」

 その呟かれた言葉に、共感にも似た笑みがこぼれてしまう。

「私も、おかあさんとロイに呼んでもらえるようになりましたが、寂しさもありますね」

「そうだな。成長は嬉しいが、恋しくもある」

「でも、嬉しさが勝るわ」

 外からは、ロイが笑ってアウルムを呼んでいる。それに応えて外に向かう彼を見送った。
 
 
 私は夕食の準備に向かいつつ、窓から見える二人が遊ぶ姿に覚悟を決める。
 五歳となり、誓約書の期限を迎えて。準備は整った。

 今日の夜には、伝えよう。
 離縁を申し出る、私の意志を。


  ◇◇◇


 その夜、寝付いたロイの髪をそっと撫でて。私はジェレドの一室へと向かう。
 いつもの廊下のはずなのに、心は緊張の音が鳴る。
 覚悟は決めた、選択に後悔はないはずなのに……未だに怯え、戸惑う自分がいるのだ。
 それでも、足は止めず。彼の寝室の前で一呼吸を置いて、扉を開いた。

「っ……エレツィア」

 ノックの後に入室した瞬間。寝台に腰掛けていたジェレドは笑みを浮かべて私へと歩み寄った。
 何も知らずに、歓迎するように私の手を引くのだ。

「来てくれて、嬉しいよ。最近は忙しくて話が出来なかったから……」

「ジェレド……話があります」

「そうだ、聞いてくれ。最近は父と共に事業を起こす計画もしていてね。君とロイが困らぬように立派になろうと」

「話を聞いて」

「エレツィア……その話は、聞きたくない」

 誓約書の期間が訪れ、普段は寄り付きもしない彼の寝室に私がやって来た事で、話の内容を察しているのだろう。
 作っていた明るい笑みは消えて、その瞳には悲しい影がよぎる。

「俺は……君を愛したいんだ。本気で、向き合いたい……」

 握られた手、囁く愛の言葉と共に絡められる指をほどいて。
 私は首を横に振り、凛と伸ばした姿勢のまま……後悔のない選択を彼へと。

「誓約書通り、貴方とは……離縁をさせてもらいます。ジェレド」
 
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