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二巡「変化」
23話
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スルード様は、レオンが議会で起こした事をありのままに伝えてくれた。
私が妃を降りた事は広まり、民からの非難が高まっている。
なのにレオンときたら、国を支えてくれる学者たちまで敵にしてしまった。
こんな失態を犯せば王家への反感は止まらぬと、スルード様は神妙な表情で口にした。
「どうか、王家存続のためにも王妃に戻ってくださいませんか? 貴方が居ない状況は、レオン陛下にはあまりに荷が重く……」
「出来ません」
きっぱりと断っておこう。
スルード様は渋い表情をしているが、考えは変わらない。
「そ、そう……ですよね」
「私は、アンネッテ殺害事件の真相を突き止めると決めたのです……危険な王宮に戻る気はありません」
「やはり、セレリナ様の気持ちはそう簡単に変わりませんね」
元から諦めていたのだろうか、スルード様はあっさりと説得の口を止める。
しかし、今度は別の要件をもちかけてきた。
「ですが……数日後に王宮で行われる社交界には、セレリナ様も出席を願いたいのです」
「社交界? 理由を聞いても?」
「珍しくレオン陛下とミランダ様が出席への意向を示されているのです。セレリナ様なら……この理由が分かるかと」
あぁ、なるほど。
彼らは貴族を味方につけるため、社交界に出る気なのだろう。
単純だが、ミランダにとってはそれ以外に打つ手はない。
それを止めるのは、確かに有効だ。
「なるほど……では、私も社交界には出席する意向で進めます」
「よ、よろしいのですか!?」
「もちろん」
なにせ、わざわざ貴族たちの前でレオンやミランダが失態を晒してくれるのだ。
その行為を利用し、結果を彼らの望みとは反対のものへと変えてみせよう。
「セレリナ様が出席なさるなら護衛も手配いたしますよ」
スルード様の提案に、ガデリスが嫌そうに眉根をひそめる。
彼が心配しなくても、王宮からの護衛なんて了承しない。
「いえ、スルード様。お気持ちは有難いのですが……私の傍を護るのはガデリスだけでいいわ」
「いいのですか! セレリナ様! 嬉しいです! 俺に任せてくださるなんて」
「ガデリス、今は少しだけ大人しくね」
「はい!」
喜びで暴走しかけたガデリスの手綱を引きつつ、話を戻す。
「スルード様、言い方は悪いのですが……下手に護衛を増やす方が危険なのです」
悪いが、王宮で確実に信頼できる者はいない。
ゆえに今は、見知らぬ者が傍に居る事だけは避けたい。
「わ、分かりました。護衛は必要ないのですね」
社交界に向かうのは決まったが、気掛かりは一つある。
ミランダ達と会えば、私の罪を非難してくるのは必然。
だからこちらも責め手を一つでもいいから持っておきたいのだ。
でも、思い当たるものはなに……
「そういえば最近、ゴルド様も容態が急変してしまい。王家は不安定なのです。やはりセレリナ様には王妃に戻って……」
「スルード様……いま、ゴルド様の容態が急変したと言いました?」
「え? は、はい」
おかしい。
レオンの前回の記憶では、この頃のゴルド様はそこまで身体を悪くしていた訳ではない。
今回で容態が急変したという変化に、すごく引っかかる。
思えば、前回ゴルド様は明らかに病死以外で亡くなっていた。
あの時ミランダは不自然な行動をしていなかっただろうか?
思い出せ……何かあるはずだ。
前回の今回の違いに、絶対になにか……
『それにしても、銀のカテラリーなんて高かったでしょう?』
「っ!!」
以前にガデリスとの食事て自分で言った言葉を思い出し、描き出した答えに思わず身が震える。
銀は、毒––ヒ素に反応する、なので王家は特に銀食器を重宝していたはず。
だが、前回の記憶。
死の間際にゴルド様の傍にあったコップは陶器であった。あれなら毒を入れられる。
そしてそのコップを粉々にして、中身を血にぶちまけたのは……
「スルード様、最近……ゴルド様の飲み物などは誰が給仕してますか?」
「え? ゴルド様のために……奥様であるミランダ様が……」
やっぱり……ゴルド様の容態の急変は、ミランダが飲み物に毒を仕込んでいる可能性が高い。
前回同様、銀製ではなく陶器で飲み物を与えているのだ。
妻である彼女なら、器に異を唱える者などいない。
推理は憶測の域を出ないが、これが事実だと証明できればミランダは確実に終わる。
「スルード様、ありがとうございます。ますます社交界に行く理由が出来ました」
思わず頬を緩めて呟けば、スルード様は若干戸惑いつつも頷く。
「い、いえ……お礼など……むしろ私はセレリナ様に謝罪せねばなりません」
「なにを?」
「私もレオン陛下には憤りを感じておりました。しかし、あの方を止められずに、セレリナ様のお辛い状況を改善できなかったのは、私の失態でもあります」
「……」
「お詫びにもなりませんが。私に協力できる事があれば……なんでもおっしゃってください」
罪悪感を感じてくれているのか、スルード様は協力を申し出てくれる。
その提案を拒絶する理由はない。
「それでは、スルード様には一つだけお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「私の罪を証言したという侍女と、そしてアンネッテの両親の居場所を見つけ出してくれますか?」
いまだ表舞台に出てこないアンネッテの両親と、証言をもたらした侍女。
彼らの所在を掴めずにいたが、王宮にいるスルード様なら資料から見つけられるはずだ。
「承知いたしました! 社交界に来られる日。それをお伝えできるように捜索いたしますね」
「ありがとうございます。スルード様」
社交界、いよいよ行かぬ理由は無くなった。
レオンやミランダが貴族たちを説得しようと画策しているらしいが……
私が推理したミランダの疑惑が真実であったなら、そんなたわごとは彼女の首と共に容易く吹き飛ぶ。
そして貴族たちの信頼を勝ち取れば、王家の崩壊はもはや止められぬだろう。
私が妃を降りた事は広まり、民からの非難が高まっている。
なのにレオンときたら、国を支えてくれる学者たちまで敵にしてしまった。
こんな失態を犯せば王家への反感は止まらぬと、スルード様は神妙な表情で口にした。
「どうか、王家存続のためにも王妃に戻ってくださいませんか? 貴方が居ない状況は、レオン陛下にはあまりに荷が重く……」
「出来ません」
きっぱりと断っておこう。
スルード様は渋い表情をしているが、考えは変わらない。
「そ、そう……ですよね」
「私は、アンネッテ殺害事件の真相を突き止めると決めたのです……危険な王宮に戻る気はありません」
「やはり、セレリナ様の気持ちはそう簡単に変わりませんね」
元から諦めていたのだろうか、スルード様はあっさりと説得の口を止める。
しかし、今度は別の要件をもちかけてきた。
「ですが……数日後に王宮で行われる社交界には、セレリナ様も出席を願いたいのです」
「社交界? 理由を聞いても?」
「珍しくレオン陛下とミランダ様が出席への意向を示されているのです。セレリナ様なら……この理由が分かるかと」
あぁ、なるほど。
彼らは貴族を味方につけるため、社交界に出る気なのだろう。
単純だが、ミランダにとってはそれ以外に打つ手はない。
それを止めるのは、確かに有効だ。
「なるほど……では、私も社交界には出席する意向で進めます」
「よ、よろしいのですか!?」
「もちろん」
なにせ、わざわざ貴族たちの前でレオンやミランダが失態を晒してくれるのだ。
その行為を利用し、結果を彼らの望みとは反対のものへと変えてみせよう。
「セレリナ様が出席なさるなら護衛も手配いたしますよ」
スルード様の提案に、ガデリスが嫌そうに眉根をひそめる。
彼が心配しなくても、王宮からの護衛なんて了承しない。
「いえ、スルード様。お気持ちは有難いのですが……私の傍を護るのはガデリスだけでいいわ」
「いいのですか! セレリナ様! 嬉しいです! 俺に任せてくださるなんて」
「ガデリス、今は少しだけ大人しくね」
「はい!」
喜びで暴走しかけたガデリスの手綱を引きつつ、話を戻す。
「スルード様、言い方は悪いのですが……下手に護衛を増やす方が危険なのです」
悪いが、王宮で確実に信頼できる者はいない。
ゆえに今は、見知らぬ者が傍に居る事だけは避けたい。
「わ、分かりました。護衛は必要ないのですね」
社交界に向かうのは決まったが、気掛かりは一つある。
ミランダ達と会えば、私の罪を非難してくるのは必然。
だからこちらも責め手を一つでもいいから持っておきたいのだ。
でも、思い当たるものはなに……
「そういえば最近、ゴルド様も容態が急変してしまい。王家は不安定なのです。やはりセレリナ様には王妃に戻って……」
「スルード様……いま、ゴルド様の容態が急変したと言いました?」
「え? は、はい」
おかしい。
レオンの前回の記憶では、この頃のゴルド様はそこまで身体を悪くしていた訳ではない。
今回で容態が急変したという変化に、すごく引っかかる。
思えば、前回ゴルド様は明らかに病死以外で亡くなっていた。
あの時ミランダは不自然な行動をしていなかっただろうか?
思い出せ……何かあるはずだ。
前回の今回の違いに、絶対になにか……
『それにしても、銀のカテラリーなんて高かったでしょう?』
「っ!!」
以前にガデリスとの食事て自分で言った言葉を思い出し、描き出した答えに思わず身が震える。
銀は、毒––ヒ素に反応する、なので王家は特に銀食器を重宝していたはず。
だが、前回の記憶。
死の間際にゴルド様の傍にあったコップは陶器であった。あれなら毒を入れられる。
そしてそのコップを粉々にして、中身を血にぶちまけたのは……
「スルード様、最近……ゴルド様の飲み物などは誰が給仕してますか?」
「え? ゴルド様のために……奥様であるミランダ様が……」
やっぱり……ゴルド様の容態の急変は、ミランダが飲み物に毒を仕込んでいる可能性が高い。
前回同様、銀製ではなく陶器で飲み物を与えているのだ。
妻である彼女なら、器に異を唱える者などいない。
推理は憶測の域を出ないが、これが事実だと証明できればミランダは確実に終わる。
「スルード様、ありがとうございます。ますます社交界に行く理由が出来ました」
思わず頬を緩めて呟けば、スルード様は若干戸惑いつつも頷く。
「い、いえ……お礼など……むしろ私はセレリナ様に謝罪せねばなりません」
「なにを?」
「私もレオン陛下には憤りを感じておりました。しかし、あの方を止められずに、セレリナ様のお辛い状況を改善できなかったのは、私の失態でもあります」
「……」
「お詫びにもなりませんが。私に協力できる事があれば……なんでもおっしゃってください」
罪悪感を感じてくれているのか、スルード様は協力を申し出てくれる。
その提案を拒絶する理由はない。
「それでは、スルード様には一つだけお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「私の罪を証言したという侍女と、そしてアンネッテの両親の居場所を見つけ出してくれますか?」
いまだ表舞台に出てこないアンネッテの両親と、証言をもたらした侍女。
彼らの所在を掴めずにいたが、王宮にいるスルード様なら資料から見つけられるはずだ。
「承知いたしました! 社交界に来られる日。それをお伝えできるように捜索いたしますね」
「ありがとうございます。スルード様」
社交界、いよいよ行かぬ理由は無くなった。
レオンやミランダが貴族たちを説得しようと画策しているらしいが……
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