【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか

文字の大きさ
29 / 38
二巡「変化」

27話

 レオンから教えられた場所はコリウス王国の辺境地だった。
 近隣の街から離れて、人目を避けるような場所にアンネッテの両親と侍女が移り住んでいるようだ。

 どうしてそんなところに? という疑問を残るが、手がかりはこれだけなので向かうしかない。

「着きましたよ、セレリナ様」

「ありがとう、ガデリス」

「お手に触れても?」

「ええ、お願い」

 辺境ゆえに道が整備されておらず、高い車高の馬車で来たので私が下りるのは難しい。
 手助けを申し出てくれたあガデリスの手を握れば、ふわりと身体が持ち上げれられる。

「え……」

「セレリナ様、最近は忙しくてお忘れでしょうけど。俺は全て終われば、貴方に想いを伝えるために容赦しないつもりですからね」

 そんなことを言って私を横抱きする彼は、真っ直ぐに見つめてくる。
 以前の言葉を忘れぬように告げてきたのだろう。
 改めて言われてしまえば、少し気恥ずかしい。

「分かっていますよ、全て終われば……私に遠慮はしなくていいわ」

「っ!! 嬉しいです……セレリナ様」

 これは、もう想いを伝えているのと同じでは?
 思いつつも今は蓋をし、たどり着いた屋敷へと視線を移す。


 アンネッテの父親は、マクシミア公爵家の現当主で地位ある方だ。
 なのに、彼らが住んでいるはずの屋敷は酷く寂れており、庭も荒れている。
 まるで住んでいる事を知らせなくないような佇まいだ。

 マクシミア公爵は当主としての仕事を数年も代理に任せているらしく、近況を知る者はいない。
 どうして……人目を避けるような暮らし方をしているのか、聞いてみないと分からないだろう。

「不気味ね……」

「大丈夫です、おれがいますから」

「頼もしいわ、ありがとう……ガデリス」

 屋敷の呼び鈴を鳴らすが、返事はない。
 しつこく鳴らし続ければ、ようやく扉が開いた。

「誰ですか? いきなりの来訪なんて迷惑で––」

 扉を開いたのは、私も知る人物だ。
 アンネッテの侍女だったマリという女性……ようやく会えた。
 彼女は私の姿を確認した途端、驚きの声を漏らして扉を閉めようとした……が。

「貴様が……セレリナ様を貶めた侍女か……?」

「ひっ!!」

 ガデリスが木製の扉を突き破り、侍女の腕を握って止める。
 ……なんて怪力だ。
 でも、有難い。これで逃げられる事は無い。

「話をしたいの? いいかしら?」

「あ……あの……」

 侍女のマリは言い淀むが、ガデリスの眼光に逃げられぬと判断したのだろう。
 コクリと頷き、中へと案内してくれた。

「マリ、誰が来た……っ」

 マクシミア公爵アンネッテの父が、物音に気付いて顔を見せる。 
 彼らも私の姿を見て酷く驚いていた。
 久々に会っただけにしては、明らかに異様な反応だ。

「急な来訪で申し訳ありません、話をさせてもらえますか?」

「わ、分かった……君の要件は承知している。私は直ぐに向かうから、マリと客室で待っていてくれ」

 思ったよりもすんなり受け入れた彼に謝意を示しつつ、怯えたマリに客室へと案内される。
 
「そ、それでは私は……これで」

「待ちなさい、私はむしろ貴方に一番用があるのよ」

「っ!!」

 ガデリスが扉を塞ぐように立ち、怯えた表情のマリが視線を泳がせる。
 私達がなぜ来ているのか、当然分かっているはずだ。
 なにせ、私がアンネッテを殺したなんてありもしない虚言を吐いたのは彼女なのだから。

「聞かせなさい、どのような理由で……私がアンネッテを殺したなんて虚偽を吐いたの」

「……」

「答えろ。貴様らの沈黙に付き合う気はない」

「ひっ!!」

 苛立ったように言葉を強めたガデリスが、マリの首を掴んで持ち上げる。
 さらに鞘を払った剣先を、脅すように頬へ突きつけた。

「言え」

「い、嫌よ! 私は……死罪になんてなりたくな––」

 もう、それが証言しているようなものだけどね……
 当然ながらガデリスも疑いを確信とし、ためらいなくマリの頬を薄く裂いた。

「あぁぁぁぁ!!!!!! 痛い!」

「言え、誰に命じられ……なぜ従ったのかを」

「いたい、いたいぃ……」
 
「言え」

「ひっ……!! わ、分かりました。話すから、剣を向けないで……」

 ガデリスには感謝したい。
 私では、こういった脅しは出来ずに時間をかけてしまっていただろう。
 首を離され、暫く咳き込んだマリは恐る恐ると真相を告げた。

「ミ、ミランダ様に、噓の証言をすれば……多額の謝礼を支払うと言われたのです」

「それで、噓の証言をしたというの?」

「はい。セ、セレリナ様が処刑されれば……証言を取り消して欲しいとも言われました。そうすればさらに数倍払うと……」

 前回の記憶通り、レオンに責任を被せるための計画だ。
 ミランダの思惑は想定通りだ。
 だが、私には彼女が他に理由を隠しているように思えた。

「貴方、お金目的と言ったけれど……腐っても公爵家の使用人、死罪になるようなウソをつくほどお金には困っていないでしょう?」

「っ!?」

「言いなさい。なにか隠しているのでしょう?」

「旦那様に……ミランダ様の話を引き受けるように言われたのです」

 マクシミア公爵アンネッテの父が関わっていたという事実に、彼は金銭以上の秘密を抱えているのだと分かる。

「そんな事を受け入れたのは、マクシミア公爵がこんな寂れた地に移り住んだ理由と関係しているのかしら?」

「そ、それは……」

「来る前に調べたわ。公爵家はアンネッテが亡くなってすぐにこの地に移住しているようね。それには何か秘密を抱えているのではなくて?」

「……」

「アンネッテの死に、何か隠し事があるの?」

「っ!! わ、私からは言えません! 旦那様に、お聞きください……!」

 驚く反応を見るに、恐らく当たりだ。
 彼らはアンネッテの死について、何かを隠しているような予感がする。

「すぐにマクシミア公爵を呼びましょ……」

 言いかけた瞬間、客室の上階からゴトリと音が聞こえた。
 同時に「うっ……あっ……」と、もがき苦しむ声が響く。

「っ……ガデリス、見に行きましょう」

「はい!」

 違和感を確かめるため、上階へ向かう。
 声が漏れ聞こえる部屋の扉を、警戒しながら開くと、そこには……

「なにをしているの!!」

 部屋には吊り揺れる影が一つ。
 首を吊って苦しみもがく……マクシミア公爵の姿があった。
 
 

 やはり彼は、死を覚悟するような秘密を隠している。
 目の前で自殺を図ったマクシミア公爵の姿に、私の考えは確信に変わった。
感想 231

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完結】あなたの隣に私は必要ですか?

らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。 しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。 そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。 月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。 そんな状況で、アリーシアは思う。 私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。 * 短編です。 ご感想欄は都合により、閉じさせて頂きます。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。