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第二十七章
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声なき筆、政を動かす
都へ戻って三日後。
杜若の提出した「霜澄村徴税不正記録報告書」は、異例の早さで文政庁上席の手に渡った。
その内容は、村の徴税帳と杜若の筆録、そして――
少年・明の小さな記録帳だった。
「……子どもの手記か? これを証拠として提出したのか?」
評議会の議席に座る高官の一人が眉をひそめた。
「筆録官・杜若は、“公文以外の記録”を正式文書に混ぜることを正当化するつもりか?」
杜若は、正面からその問いを受けた。
だが彼女は、臆さなかった。
「記録に“書き手の位”は関係ありません。
この少年は、己の目と心で不正を見抜き、記したのです。
それは、記録の原点であり、我々が守るべき“筆の本質”ではないでしょうか」
沈黙が流れた。
やがて――
「……ふむ」
文政庁長官・江修伯(こう・しゅうはく)が、口を開いた。
「筆録官・杜若、その意見には一理ある。
本来、筆録は“民の暮らしの記録”であるはず。
ならば、民の声なき声が筆に乗ったのなら、それもまた筆録の一種であろう」
その言葉に、多くの者が驚いた。
彼は常に中立を保ち、制度を守る保守派の象徴とされてきたからだ。
「……少年の記録を含め、本件の徴税問題は正式に調査対象とする」
その決定が下された瞬間――
杜若は、静かに拳を握った。
(これが、“記す者”の第一歩)
*
その夜、景融が庁裏の渡り廊下で彼女を待っていた。
「……やったな」
「ええ。けれど、予想よりも上手く通りすぎて、逆に怖いくらいです」
「警戒は怠るな。あの江長官が“筆録側”の立場に立つとは、俺も予想外だ。
もしかすると、彼の周囲にも“動いている者”がいるのかもしれない」
「……外政府、ですね」
「そうだ。今、政庁の古い記録庫を洗っている。
外政府の残影、いずれ浮かび上がるだろう」
杜若は黙って頷いた。
(制度を守るために、制度の外を記さなければならない日が来るのかもしれない)
*
翌日――
明の手記は、一部抜粋のかたちで「庁報掲示板」に記された。
「おかしいと思ったから、書いた。
僕が書いたことが、だれかの役に立ったら、うれしいです」
その素朴な言葉に、都の民は立ち止まり、静かに読み入った。
「これが……筆録か」
「いや、子どもの言葉だそうだ」
「子どもの記録が、都を動かしたんだな」
杜若は、誰にも気づかれぬよう掲示の前でそっと微笑んだ。
(筆は、届いた)
(第二十七章 了)
都へ戻って三日後。
杜若の提出した「霜澄村徴税不正記録報告書」は、異例の早さで文政庁上席の手に渡った。
その内容は、村の徴税帳と杜若の筆録、そして――
少年・明の小さな記録帳だった。
「……子どもの手記か? これを証拠として提出したのか?」
評議会の議席に座る高官の一人が眉をひそめた。
「筆録官・杜若は、“公文以外の記録”を正式文書に混ぜることを正当化するつもりか?」
杜若は、正面からその問いを受けた。
だが彼女は、臆さなかった。
「記録に“書き手の位”は関係ありません。
この少年は、己の目と心で不正を見抜き、記したのです。
それは、記録の原点であり、我々が守るべき“筆の本質”ではないでしょうか」
沈黙が流れた。
やがて――
「……ふむ」
文政庁長官・江修伯(こう・しゅうはく)が、口を開いた。
「筆録官・杜若、その意見には一理ある。
本来、筆録は“民の暮らしの記録”であるはず。
ならば、民の声なき声が筆に乗ったのなら、それもまた筆録の一種であろう」
その言葉に、多くの者が驚いた。
彼は常に中立を保ち、制度を守る保守派の象徴とされてきたからだ。
「……少年の記録を含め、本件の徴税問題は正式に調査対象とする」
その決定が下された瞬間――
杜若は、静かに拳を握った。
(これが、“記す者”の第一歩)
*
その夜、景融が庁裏の渡り廊下で彼女を待っていた。
「……やったな」
「ええ。けれど、予想よりも上手く通りすぎて、逆に怖いくらいです」
「警戒は怠るな。あの江長官が“筆録側”の立場に立つとは、俺も予想外だ。
もしかすると、彼の周囲にも“動いている者”がいるのかもしれない」
「……外政府、ですね」
「そうだ。今、政庁の古い記録庫を洗っている。
外政府の残影、いずれ浮かび上がるだろう」
杜若は黙って頷いた。
(制度を守るために、制度の外を記さなければならない日が来るのかもしれない)
*
翌日――
明の手記は、一部抜粋のかたちで「庁報掲示板」に記された。
「おかしいと思ったから、書いた。
僕が書いたことが、だれかの役に立ったら、うれしいです」
その素朴な言葉に、都の民は立ち止まり、静かに読み入った。
「これが……筆録か」
「いや、子どもの言葉だそうだ」
「子どもの記録が、都を動かしたんだな」
杜若は、誰にも気づかれぬよう掲示の前でそっと微笑んだ。
(筆は、届いた)
(第二十七章 了)
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