『春よ、君を守りたし ―中華恋絵巻―』前日譚

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第六十二章

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声を継ぐ者たちへ

都に戻った杜若と来靖は、皇宮へと召されていた。

華やかな金の柱が立ち並ぶ広間。
玉座の上には、若き皇帝・仁皇が静かに座していた。

杜若は、緊張を隠しきれないままに拝礼し、風連との戦いや封音の記録を、淡々と報告した。

だがその語り口には、ただの記録官にはない、**“生きた声”**があった。

「――黙徒の彼らも、また“声を失った者たち”でした。
それでも声を持とうとし、怒り、嘆き、訴えたのです」

仁皇はしばし沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。

「……杜若よ。そなたの記録は、もはやただの報告ではない。
人の心をつなぐ、道そのものとなった。
この国の記録を預かる者として、正式に任命する。
――“御前記官”の位を与える」

御前記官。
それは、皇帝直属の記録官であり、最も信頼される書記を意味していた。

杜若は深く頭を下げた。

だがその心の中では、何かがそっと終わり、また新たに始まる気配がしていた。



夜、宮中の庭。

満月が静かに庭石を照らし、風がそよぐ中、来靖が杜若を待っていた。

「決まったな、官位」

「はい。でも……驚いてます。まさか、こんな大役を任されるなんて」

「お前ならできる。俺が保証する」

杜若は来靖の言葉に、ふっと笑みをこぼした。

「でも、都に留まることになっても……
わたしは、あなたといたい。どこにいても、そう願っています」

その言葉に、来靖は静かに手を伸ばした。

「なら……ここから始めよう。都にいても、外地にいても、
俺はお前と、同じ“記録”を生きていたい」

ふたりの手が、再び重なる。

それは春に芽吹いた想いが、確かな形を持ち始めた瞬間。

「約束ですよ」

「……ああ」

そして杜若は懐から、あるものを取り出した。

それは一冊の書簡。

表紙には、こう記されていた。

『春よ、君を守りたし ―記録と恋の章―』



やがて時が流れ、杜若の記す記録は、都でも地方でも語り継がれるようになる。

「記録官・杜若」として、そして何より、「声を聴く者」として。

彼女の記した“声”は、風に乗って、遠い未来の誰かへ届くのだった。

(第六十二章 了)
――完
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