62 / 62
第六十二章
しおりを挟む
声を継ぐ者たちへ
都に戻った杜若と来靖は、皇宮へと召されていた。
華やかな金の柱が立ち並ぶ広間。
玉座の上には、若き皇帝・仁皇が静かに座していた。
杜若は、緊張を隠しきれないままに拝礼し、風連との戦いや封音の記録を、淡々と報告した。
だがその語り口には、ただの記録官にはない、**“生きた声”**があった。
「――黙徒の彼らも、また“声を失った者たち”でした。
それでも声を持とうとし、怒り、嘆き、訴えたのです」
仁皇はしばし沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。
「……杜若よ。そなたの記録は、もはやただの報告ではない。
人の心をつなぐ、道そのものとなった。
この国の記録を預かる者として、正式に任命する。
――“御前記官”の位を与える」
御前記官。
それは、皇帝直属の記録官であり、最も信頼される書記を意味していた。
杜若は深く頭を下げた。
だがその心の中では、何かがそっと終わり、また新たに始まる気配がしていた。
◆
夜、宮中の庭。
満月が静かに庭石を照らし、風がそよぐ中、来靖が杜若を待っていた。
「決まったな、官位」
「はい。でも……驚いてます。まさか、こんな大役を任されるなんて」
「お前ならできる。俺が保証する」
杜若は来靖の言葉に、ふっと笑みをこぼした。
「でも、都に留まることになっても……
わたしは、あなたといたい。どこにいても、そう願っています」
その言葉に、来靖は静かに手を伸ばした。
「なら……ここから始めよう。都にいても、外地にいても、
俺はお前と、同じ“記録”を生きていたい」
ふたりの手が、再び重なる。
それは春に芽吹いた想いが、確かな形を持ち始めた瞬間。
「約束ですよ」
「……ああ」
そして杜若は懐から、あるものを取り出した。
それは一冊の書簡。
表紙には、こう記されていた。
『春よ、君を守りたし ―記録と恋の章―』
◆
やがて時が流れ、杜若の記す記録は、都でも地方でも語り継がれるようになる。
「記録官・杜若」として、そして何より、「声を聴く者」として。
彼女の記した“声”は、風に乗って、遠い未来の誰かへ届くのだった。
(第六十二章 了)
――完
都に戻った杜若と来靖は、皇宮へと召されていた。
華やかな金の柱が立ち並ぶ広間。
玉座の上には、若き皇帝・仁皇が静かに座していた。
杜若は、緊張を隠しきれないままに拝礼し、風連との戦いや封音の記録を、淡々と報告した。
だがその語り口には、ただの記録官にはない、**“生きた声”**があった。
「――黙徒の彼らも、また“声を失った者たち”でした。
それでも声を持とうとし、怒り、嘆き、訴えたのです」
仁皇はしばし沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。
「……杜若よ。そなたの記録は、もはやただの報告ではない。
人の心をつなぐ、道そのものとなった。
この国の記録を預かる者として、正式に任命する。
――“御前記官”の位を与える」
御前記官。
それは、皇帝直属の記録官であり、最も信頼される書記を意味していた。
杜若は深く頭を下げた。
だがその心の中では、何かがそっと終わり、また新たに始まる気配がしていた。
◆
夜、宮中の庭。
満月が静かに庭石を照らし、風がそよぐ中、来靖が杜若を待っていた。
「決まったな、官位」
「はい。でも……驚いてます。まさか、こんな大役を任されるなんて」
「お前ならできる。俺が保証する」
杜若は来靖の言葉に、ふっと笑みをこぼした。
「でも、都に留まることになっても……
わたしは、あなたといたい。どこにいても、そう願っています」
その言葉に、来靖は静かに手を伸ばした。
「なら……ここから始めよう。都にいても、外地にいても、
俺はお前と、同じ“記録”を生きていたい」
ふたりの手が、再び重なる。
それは春に芽吹いた想いが、確かな形を持ち始めた瞬間。
「約束ですよ」
「……ああ」
そして杜若は懐から、あるものを取り出した。
それは一冊の書簡。
表紙には、こう記されていた。
『春よ、君を守りたし ―記録と恋の章―』
◆
やがて時が流れ、杜若の記す記録は、都でも地方でも語り継がれるようになる。
「記録官・杜若」として、そして何より、「声を聴く者」として。
彼女の記した“声”は、風に乗って、遠い未来の誰かへ届くのだった。
(第六十二章 了)
――完
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~
Kore
恋愛
「余計なこと考えさせないくらい愛せば、男として見てくれる?」そう囁く義弟の愛は重くて、危険で、究極に甘い。
———勉強が大の苦手であり、巷で有名なヤンキー高校しか入れなかった宇佐美莉子。そんな義理姉のボディーガードになるため、後追いで入学してきた偏差値70以上の義理弟、宇佐美櫂理。しかし、ボディーガードどころか、櫂理があまりにも最強過ぎて、誰も莉子に近寄ることが出来ず。まるで極妻的存在で扱われる中、今日も義理弟の重い愛が炸裂する。———
#秒恋9 初めてのキスは、甘い別れと、確かな希望
ReN
恋愛
春休みが明け、それぞれに、新しい生活に足を踏み入れた悠里と剛士。
学校に向かう悠里の目の前に、1つ年下の幼なじみ アキラが現れる。
小学校時代に引っ越した彼だったが、高校受験をし、近隣の北高校に入学したのだ。
戻ってきたアキラの目的はもちろん、悠里と再会することだった。
悠里とアキラが再会し、仲良く話している
とき、運悪く、剛士と拓真が鉢合わせ。
「俺には関係ない」
緊張感漂う空気の中、剛士の言い放った冷たい言葉。
絶望感に包まれる悠里に対し、拓真は剛士に激怒。
拗れていく友情をよそに、アキラは剛士をライバルと認識し、暴走していく――
悠里から離れていく、剛士の本心は?
アキラから猛烈なアピールを受ける悠里は、何を思う?
いまは、傍にいられない。
でも本当は、気持ちは、変わらない。
いつか――迎えに来てくれる?
約束は、お互いを縛りつけてしまうから、口にはできない。
それでも、好きでいたい。
いつか、を信じて。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
通りすがりのエルフに求婚された貧乏男爵令嬢です〜初対面なのに激重感情を向けられています〜
東雲暁
恋愛
時はヴィトリア朝時代後期のイングランド。幻想が消え、文明と科学が世界を塗り替えようとしていた時代。
エヴェリーナ・エイヴェリーはコッツウォルズ地方の小さな領地で慎ましく暮らす、17歳の貧乏男爵令嬢。ある日父親が嘘の投資話に騙されて、払えないほどの借金を背負うはめに。
借金返済と引き換えに舞い込んできたのは、実業家との婚約。彼はただ高貴な血筋が欲しいだけ。
「本当は、お父様とお母様みたいに愛し合って結婚したいのに……」
その婚約式に乱入してきたのはエルフを名乗る貴公子、アルサリオン。
「この婚約は無効です。なぜなら彼女は私のものですから。私……?通りすがりのエルフです」
......いや、ロンドンのど真ん中にエルフって通り過ぎるものですか!?っていうか貴方誰!?
エルフの常識はイングランドの非常識!私は普通に穏やかに領地で暮らしたいだけなのに。
貴方のことなんか、絶対に好きにならないわ!
ティーカップの底に沈む、愛と執着と少しの狂気。甘いお菓子と一緒に飲み干して。
これは、貧乏男爵令嬢と通りすがりのエルフの、互いの人生を掛けた365日の物語。
サリシャの光 〜憧れの先へ〜
ねるねわかば
恋愛
大商会の娘サーシャ。
子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。
華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし愛らしいメリンダと比べられ、時には心ないことを言う者もいた。
そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。
けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。
サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。
新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、サーシャが夢を諦めることはない。
一方、初恋を忘れられない少年は後悔と執着を募らせていき──
夢を諦めない少女が、もがきながら憧れへの道を選び取るまでのお話。
※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。更新の合間にでもよろしければそちらも是非。
※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー
田古みゆう
恋愛
推し活女子と爽やかすぎる隣人――秘密の逢瀬は、推し活か、それとも…?
引っ越し先のお隣さんは、ちょっと優しすぎる爽やか青年。
今どき、あんなに気さくで礼儀正しい人、実在するの!?
私がガチのアイドルオタクだと知っても、引かずに一緒に盛り上がってくれるなんて、もはや神では?
でもそんな彼には、ちょっと不思議なところもある。昼間にぶらぶらしてたり、深夜に帰宅したり、不在の日も多かったり……普通の会社員じゃないよね? 一体何者?
それに顔。出会ったばかりのはずなのに、なぜか既視感。彼を見るたび、私の脳が勝手にざわついている。
彼を見るたび、初めて推しを見つけた時みたいに、ソワソワが止まらない。隣人が神すぎて、オタク脳がバグったか?
これは、アイドルオタクの私が、謎すぎる隣人に“沼ってしまった”話。
清く正しく、でもちょっと切なくなる予感しかしない──。
「隣人を、推しにするのはアリですか?」
誰にも言えないけど、でも誰か教えて〜。
※「エブリスタ」ほか投稿サイトでも、同タイトルを公開中です。
※表紙画像及び挿絵は、フリー素材及びAI生成画像を加工使用しています。
※本作品は、プロットやアイディア出し等に、補助的にAIを使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる