2 / 25
第一話 元英雄は影を歩む
しおりを挟む視界に光をとらえた。
……ここは、どこだ?
よく見えない。
俺は、どうして生きているんだ?
あの状況で生きられるなんて、あるわけがない。
だが、体はうまく動かない。
やはり、どうにかして生き残ったのだろうか。これがダメージによるものなら、当然な気がするが。
赤子の鳴き声が聞こえる。
本当に、ここはどこだ?
「はいはい、ちょっと待ってね」
女性の声?
不意に感じたのは、抱き上げられた時のような浮遊感。
体が勝手に動き、何か、柔らかいものを口にくわえる。
そして口内に広がるのは、独特の甘み。
……ちょっと待て。
これは、夢か?
走馬灯というやつなのか?
死ぬ間際に、赤ん坊の頃のことを夢見てるという事か?
いや、それにしては意識がはっきりしすぎている。こんな生々しい感触の走馬灯なんて、聞いたことがない。
……この状況、心当たりがないわけでもない。
しかしあれは物語の中の話だ。
俺たちだって、ずっと戦いばかりではさすがに色々持たない。魔王を倒すための旅の途中、富裕層向けの本を買うこともあった。
その中に前世の記憶を持ったまま生まれた主人公の話があったのだが、たしか“転生”だったか? 今のところ、それ以外に思い当たる状況がない。ないのだが。
くそ、腹いっぱいになったら眠くなってきたぞ。
ダメだ、今は寝てしまうしかない、か……。
◆◇◆
あれから十二年経った。
もう俺も冒険者になれる年齢だ。
物心ついた、というのは間違っているかもしれないが、一般的にそういう年齢のころから鍛錬を始めた。
身体能力や魔力量はともかく、技術に関しては前世のそれをそのまま継承している。そこらの大人よりはよっぽど強い。
あれから、というか転生したのだという現実を受け入れてから色々考えた。
すなわち、復讐をしたいのか、ということだ。
まあ、こうして村で――俺が生まれたのは、俺を処刑したのとは別の国にある小さな村だ――平和に暮らしていることからもわかるように、そんな気はさらさらないという結論になったのだが。
そもそも、俺は魔王を殺せば本気で平和になると思って旅に出たんだ。復讐に走って守りたかった平和を、人々を殺すなんておかしな話だろう。
中にはそんな話もあるとラピスの奴が言っていたが、俺は見たことないな。あいつは時々よくわからんことを言っていた。
話がそれたが、復讐をするという選択はそもそも俺にはなかったのだ。
新しい両親や、前世では持たなかった兄弟、それに村の連中への恩を無下≪むげ≫にすることになるという理由もある。
俺が早くから鍛錬を始めたのは、その恩返しをしたかったからだったが、三年ほど前か、事情が変わった。
新たな魔王が生まれたのだ。
魔王には二種類ある。
魔族という種族の最も強い者が魔王に至るパターンと、魔物が進化を繰り返し、魔王に至るパターンだ。
前回は後者だったが、今回は前者らしい。
そこで俺は再び考えなければならなかった。
もう一度、英雄になることは可能だと思った。
だが、英雄は本当に必要なのだろうか?
先代の魔王を倒し、俺たちが処刑されてすぐ、世界は戦争を始めたのだそうだ。
それで死んだ人間は、魔王が生きていた頃とどれだけ違ったのか。
魔王が生きている間は、魔王が抑止力となって戦争は起きなかった。いや、起こせなかった。聞いた限りではあるが、戦争で死んだ人間のほうがはるかに多いようなのだ。この村にも、戦争で難民となって流れ着いた人間が何人かいる。
俺は思ったのだ。魔王が生きたままのほうが、世界は――少なくとも死者の数と困窮する人々の数において――平和なのではないかと。
そして決意した。
十二になったら、冒険者となって世界を見て回る。そして、その結果いかんでは、魔王を生かして抑止力になってもらおうと。
◆◇◆
とか思って旅立ったのが、二年前だ。
結論から言おう。
魔王は必要だ。
そして英雄は要らない。
冒険者登録をして。各地を回ったがひどいものだった。
かつて魔王討伐パーティとして訪れた、豊かな自然美しかったはずの国は戦火に焼かれて荒廃し、荒れ地が目立つようになっていた。
スラムですら他国の村人より良い暮らしをしていることで有名だった国の都市の外壁の周りは戦争難民であふれ、疫病の蔓延する巨大なスラムが出来上がっていた。
民衆に愛された賢王の治めた小国は、大国の圧倒的な武力の前に敗れ、奴隷の産出地と化していた。
もし、前世の、英雄としての俺ならば表立ってどうにかできたかもしれない。
しかし今の俺にそんな名声はない。
ただのCランク冒険者に過ぎない今の俺では、いくら実力があろうとその声を広げることはできないのだ。
だから俺は、影に生きることにした。
もちろん、表向きは冒険者を続ける。その方が都合のいいこともあるからだ。
やることは言うだけなら単純だ。
新たに選ばれたという英雄候補の邪魔をしつつ、魔王の勢力を削る。
簡単にいくはずがない。
だが、これでも元英雄。最高ランクのSランク冒険者だったのだ。どうにかしてみせる。
……もう日が昇るな。
今日の飯の種を探しに行くとしよう。あの英雄候補の若造どもが動き出すまでにはまだ時間がある。その前に餓死したってんじゃあ笑えない話だ。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる