3 / 25
第ニ話 止まれない
しおりを挟む「あ、スコル君」
今俺がいるのは、シュメル国の王都ウルクにある冒険者の酒場。正式名称は、冒険者扶助管理組合依頼仲介局支部……だったか?
まあそんな面倒な名前誰も呼ばない。多くの場合酒場が併設されているという理由で、冒険者の酒場とか、単に酒場とかって呼ばれている。
めんどうな正式名称にもあるように、冒険者の管理やサポートをする組織の、依頼を仲介してくれる場所だ。
俺に声をかけてきたのは受付嬢のサテラ。一月前にここを拠点にしてからの顔なじみだ。
スコルというのは俺の今生の名前になる。
「今日は…バーサクベアの討伐ね。スコル君なら平気だろうけど、気を付けてね」
「ああ、わかってるよ」
彼女はまだ十七で、結構美人だ。
その彼女は俺のことを弟の様に思っているらしく、何かと気にかけてくれるのだが、初めの頃はそれで絡まれたものだった。
とはいえ、当時すでにCランクだったし、身体能力はともかく技術面ではSランク。当然返討ちにした。
その中にはそこそこ名のあるやつもいたから、今じゃ絡まれることもない。
閑話休題。さっさと依頼を片付けよう。
◆◇◆
街を出て、向かったのは東の方、目視できる距離にある森だ。
浅い所は強い魔物は少なく、常設されている依頼の収集物である薬草の類なんかは多い。 所謂≪いわゆる≫「初心者の森」というやつになる。
発展している街の近くにはある事が多い……というか、街はそういった利益を得やすい森なんかがある場所に栄えやすいのだ。
今回の標的、バーサクベアがいるのは本来それなりに深く入った所。
だが今回は見習いどもの行動範囲近くまで出てきてるそうで、依頼になっていた。
さて、いつも通り訓練しながら向かうとしよう。
森歩きの訓練、と言っても間違いではないが、少し違う。
俺の目的は、英雄を生まない事だ。ならば、隠密行動がとれないと話にならない。その訓練だ。
パーティとして、最低限は出来るようにしていた。 幸い、アルザスにその辺の事を習ってた事もある。
当時は俺の気質には合わなかったから、対して続かなかったが、今は必要だからな。
…………アルザス、お前の技、頼らせてもらうぞ。
気配を消し、闇に紛れて標的を探す。
森に入ってから、かれこれ二時間。
そろそろ奴の縄張りの筈なんだが……。
いた。
情報通り、番≪つがい≫らしき二体……。時期的に子供がいてもおかしくない。 ……先に探すか。
バーサクベアの子供はなぜか、親が死んだことを離れていても認識できる。先にあの二頭を殺してしまうと、巣穴から動き回られて見逃す恐れがあるのだ。
二体の気配を常に意識しながら、奴らが歩いてきた方へ急ぐ。 見習いどもは森への立ち入りを禁じられている筈だが、強制はできない。 万が一を考えよう。
そして見つけた。
バーサクベアの好きそうな、緩い上り坂が奥へと続く洞穴だ。
子供の気配は三。
来てよかった。
むっ、親のバーサクベアが此方へ走ってきている。 野生の勘か? 時間はなさそうだ。
匂い消しの粉を撒き、洞穴の奥へと走る。
それほど深くはない。 すぐに最奥へたどり着いた。
「kuuun. kum?」
こちらへ円らな瞳を向ける、無警戒の三匹の子熊。
「お前らに恨みはないが、ここに居られたら困るんだ。 ………だが、まあ恨む分には好きにするがいい。 冥界で、な」
流石にこの子熊達を斬るのには抵抗があったのか、らしくもなく語りかけてしまった。
一息に三つの首を切り飛ばしながら思う。
――――すまんな、人間の身勝手に巻き込んで。
と。
それはきっと、元英雄らしからぬ思考だったのだろう。
彼らは、マモノだったのだから。
だが、今も昔も、俺の理念はかわらない。
「俺が守りたいのは、人間の平和だ」
そう、人間だけの平和なんだ。
……まだ臭い消しの効果は切れていない。
もう間もなく、親熊がこの惨状をみて、怒り狂うだろう。
そして俺にその激情の牙を向けるはずだ。
だから、そうなる前に気配を消し、天井付近の死角に潜む。
―――来た。足音だ。
その音は落ち着いている。
血の匂いも消えているはずだから。
そして。
「Gou?……Guaaa…」
一瞬できた、茫然とした母熊の隙をつき、落下してその太い首をはねた。
―――Guooooo!!!
そして洞穴の外、いくらか離れた辺りで家族の血の匂いと死に気づいた父熊の怒号が聞こえた。
守るべきものを守れなかったものの叫びだ。
……あいつは正面からやろう。
洞穴から急いで出る。
そして、正面から飛び掛かってきている父熊の爪を剣ではじき、鼻面に足裏を叩き込む。
いくらCランク相当の強靭な魔物であろうと、冒険者のBランク並みの身体能力で弱点を蹴られては悶絶するより他にない。ましてや、自ら勢いをつけて蹴りに飛び込んだ形だ。
必死に距離をとって体制を立て直そうとしている父熊に肉薄し、やたらめったらと振られる右腕を切り飛ばす。
怒りと困惑で平静を失った守護者は、それだけでバランスを崩し、断頭台へと自らの首を晒した。
その燃え上がる目に映るのは、引き裂かれ、ただの肉塊になった俺だろうか。
「そんな目で見るな。俺はただ、理不尽にお前の家族を殺し、お前を殺す。
それだけだ。……それだけなんだ」
俺の言葉が、父熊に届いたかはわからない。
ただ、巨大な肉塊が増えたことは紛れもない事実だ。
そうして、バーサクベアの討伐が終わった。
◆◇◆
街の東門を、馴染みの門番と声を交わしながら抜ける。
酒場までの道を歩いているわけだが、どうも家族連れが目に入る。
俺がこれから守っていくもの。守ってきたもの。
そして……壊していくもの。
相手が生きている以上、当然の話だ。
英雄はただ光の中を歩めばいい。
その後ろにできる影には気づかない。気づいてはならない。
だが、俺はもう英雄ではない。
影を歩み、常にその影を見つめ、背負っていく。
英雄の光があるところに影はできる。
なら俺は、影を生み、光を作ろう。
どちらも強すぎてはいけない。
暗すぎる影は人の平和を壊し、より強い光を生む。
強すぎる光は、やがて眩しすぎて消される。
そして強すぎる残光が、真っ暗な影を生み出す。
バランスだ。
「あ、スコル君!」
突然かけられた声に、一瞬驚きで固まってしまった。
「無事みたいね。よかった…」
「まあ、難しい依頼ではなかったからな」
「もう、Aランクとかならともかく、ソロで同ランク帯の魔物相手にそんなこと言えるの、スコル君くらいだからね?」
それもそうか、と頬をかきながらバーサクベアの討伐証明部位である右手を二つ、提出する。
素材の買い取りなら別カウンターになるのだが、依頼の目標の証明部位だけはここで出すことになる。
他の三つは出さない。出せない。
魔物はマモノであるほうが、都合がいい。少なくとも、多くの人間にとっては。ここでこんなことしても意味はないかもしれないが。
子熊はあの洞穴に埋めてきた。親熊も一緒に。
肉だけは命を奪った責任としてもらったが、他は全部、土の下だ。
………俺はいったい、何をしてるんだろうな。
再び思考の海に沈んでいると、周囲が騒がしいのに気が付いた。
「おや? スコルじゃないか。奇遇だね」
そして声をかけてきたのは、金髪でさわやかな笑顔をふりまくイケメン。
対魔王パーティリーダー、【虹色の剣《アルコ・エスパーダ》】ジークフリートだった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる