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第三話 次代の英雄
しおりを挟む「おや? スコルじゃないか。奇遇だね」
声をかけてきた次期英雄に、疑問を返す。
「ジークさん……。奇遇も何も冒険者の俺が酒場にいることはおかしくないでしょう。それより、未来の英雄様がこんなところで何してるんですか?」
「冒険者の俺が酒場に居たっておかしくないだろう?」
ふむ、これは一本取られたな。
「ちょっと時間ができたからね。調整もかねて、久しぶりに依頼でも受けてきたんだ」
となると、出立は近いわけか。
魔王討伐パーティは、政治的な思惑によって魔王による被害の比較的大きい各国を回る必要がある。
表向きの理由は魔王による被害を減らし、魔王の勢力を削るためだが、本当の目的は各国への顔つなぎと恩を売ることと、自国から生まれた英雄は自国に帰属するものであるという主張をすることだ。
「調整は……ばっちりなようですね」
「まあね。Sランク依頼なんてそうそうないから、Aランクのものになったけど、調整にはちょうど良かったかな。君はどうだった……て、聞くまでもなかったね。君の実力なら、Cランクはまだ楽勝だろう」
しかし、相変わらず気品のある所作《しょさ》をするな。優秀な騎士を輩出し続けていることで有名な子爵家の四男だったか。
これで魔王を討てば、実家は最低でも伯爵、当人は子爵に陞爵ってところだろう。俺のようにすぐ殺されるかもしれないが。
「まあ、楽勝は言い過ぎですけど、苦労はしませんね」
「ソロで苦労しないなら、それは楽勝さ」
肩をすくめる俺を見て、ジークが苦笑いする。
「さて、俺も他の皆を待たせている身だからね。そろそろ行くよ」
「そうですか。お疲れさまでした」
離れていくジークの背中から早々に目を離し、周囲の女性冒険者たちのすさまじい視線をやり過ごしながら宿へ向かう。
そろそろ、ここを出なければならないようだな。
何故俺が、これから邪魔していくやつと仲良くおしゃべりしているのか。
何も殺すわけじゃないんだ。これくらいは別にいいだろうというのもある。しかしきっかけは、偶々目をつけられたというだけ。
どうも、サテラ関係で色々返り討ちにしていたところを見られたようなのだ。もちろん技術は隠していたが、何か感じるものがあったらしく絡んでくるようになった。
斥候の能力があるとばれてからはさらに頻度が増した。
そして、積み上げる屍に女が加わった。
……殺気マシマシで女に向かってこられるというのは、恐ろしいものだった。本当に。
(ゾクッ)……寒気がした。さっさと移動しよう。
そんなわけで、あいつらに絡まれるようになったのだが、これから先少々動きにくくなる。先の町であまり顔を合わせるわけにはいくまい。
◆◇◆
それから数日の間に町を出る準備をして、俺は王都ウルクを出た。
サテラは寂しそうにはしていたが、存外にあっさり送り出してくれた。職業柄別れには慣れているのだろう。
今いるのはウルクの東、森を超えた先にあるアルメリア侯爵領の領都、ティグリアだ。最初のジークたちの目的地である。
ティグリアはこのシュメル国において二番目に大きな商業都市であるため、重要度は高い。
魔王の領域である大陸北東部は、シュメルから見ても東方。魔王領に近いほど魔物も強く、多くなるためそちらを優先するのは当然だろう。
これは、俺がそろそろ旅に戻るという話をした時にジークが教えてくれた情報だ。
その後のある程度のルートも教えてくれた。何かあればぜひ頼ってほしいらしい。
まあ本音は、斥候として俺をパーティに入れたいのだろう。彼らのパーティには斥候専門のメンバーがいないのだ。たしか、アタッカーの一人である軽戦士が斥候役を兼任していたはずだ。
彼のパーティ構成は、専門の斥候がいないことを除けばバランスが良い。
まず、リーダーであるジークことジークフリートは、騎士らしく盾と剣を使うタンク兼アタッカーだ。
彼はかなり攻撃的な壁役で、【虹色の剣】という、様々な属性を付与する魔法剣を得意とすることに由来した異名を持っている。
かつての俺の仲間、デミカスとは真逆だな。あいつは完全に防御特価。攻撃力もないではないが、その堅牢な砦を思わせる防御力の前にはかすんで見えるものだった。
次に、アタッカー兼斥候役の女軽戦士。
短剣より少し長い二本の剣で、素早さを活かした戦い方をする。アルザスのように毒を使ったからめ手もできるらしい。
三人目は、魔法アタッカー。
ラピスも通っていた魔導学院出身の彼は、炎、雷、氷の魔法を得意とする。
他もそれなり以上に使える優秀な男で、ラピスの大ファンらしい。どうりでよく使う属性が全く同じなわけだ。
彼のように、とある理由から俺たちが処刑されたことに関して懐疑的な人間も多い。
……だからこそ、市井に対する復讐心が湧かなかったのだろう。あの王都の人間に対してはわからんが。
……んんっ。四人目はメインアタッカーの両手剣使い。
彼はかつての俺と似たような戦い方をする。魔法はあまり得意でないのも同じだ。
五人目、最後の一人はヒーラー兼バッファー。
味方に対する能力上昇の付与魔法を扱うバッファーとしても、ヒーラーとしても非常に優秀であり、レティを思わせる。
四人目の男と彼女は双子だ。
普通は六人パーティが多いのだが、ここは五人だ。まあ、俺たちも五人だったし、珍しいという程ではない。
ちなみに、パーティ名は『流星の残光』だ。
……ラピスだっただろうか。事実は物語よりも奇なりと言っていたのは。いや、これは必然だったのかもしれない。
……さて、そろそろいい感じに日が暮れた。
日中は町をぶらぶらして道を覚えてきた。例の場所も前世で入ったことがあるからだいたい構造もわかる。
ここからは、影の時間だ。
宿の窓から屋根に上がり、そこを目指す。
今日までに集めた情報によると、魔王の部下である魔族が近場にあるダンジョンに細工をしたらしく、そのダンジョンはスタンピード寸前の状態にある。
スタンピードというのは、魔物がダンジョンから溢れ出してくる現象だ。止めるには、魔物を倒しまくるか、ダンジョンを破壊すればいい。
だが、王都とは深い森を挟んだ位置にあるティグリアが商業都市として発展できたのは、そのダンジョンがあったからと言っても過言ではない。ダンジョンを破壊するという選択肢はアルメリア侯爵に無いのだ。
ジークたちに期待されているのは、この街の冒険者たちを率いてダンジョンに入り、スタンピードを鎮めること。
現在は結界でダンジョンの入口を封鎖しているらしいので、まだ余裕はあるらしい。酒場では、有名な『流星の残光』と共闘できるって興奮した酔っ払い冒険者たちが騒ぎまくっていた。
この街の冒険者たちの実力を見た感じ、なかなか厳しい戦いになりそうだった。
きっと、ジークたちを一回りは成長させるだろう。
それはよろしくない。
というわけで、お先に失礼して特に強力な個体をいくらか間引いておくのが今回の俺の目的、仕事だ。
今向かっているのは領主館。結界の通行証を盗みに行く。
数はあるはずだから、一つくらいなくても気づかないだろう。
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