12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第5章 時は隔てる

第25話 決着

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5-25

 試合開始から既に三十分は経っているが、決着はまだつかない。互いに与えた傷はかすり傷が数個のみ。しかもスキルで再生してしまっている。


 スズの振り下ろしを右に避け、逆の手の剣による追撃を防ぐ。
 刀は今振り下ろされた左腕を警戒しておき、一歩を詰めてヒザ蹴り。

 しかし軸をズラされミートしない。

 蹴りの勢いを使って距離をとったスズの反撃は、魔法の矢……違う!

 慌てて眼を瞑ると、目蓋の向こうから凄まじい光量の光が透けてきた。

 目蓋を閉じていたにも関わらず、視界がチカチカする。

 左から風切音!

 バックステップで躱したつもりが、右脇腹に鋭い痛みを感じる。

 まだ視界は戻らないが、傷は直ぐに治せる。これは相手も変わらないので一撃必殺に持っていく必要があるが。

 察知を『理外のアウタースキル』に切り替え、スズの位置を探る。

「ちっ!」

 感じたのは、私を囲む無数の魔力。

 障壁も迎撃用の魔法も展開が間に合うかはギリギリだ。ならば全て斬り落とした方が良い。

 ――川上流 『爆雷』

 地に落ちはじけるいかづちが如き全方位への連閃。

 刀に魔力を纏い、全ての魔法の核を斬る。

 そして気付く。

 一際大きな魔力の高まりに。

 視界が戻り、その正体も知る。

 急ぎ魔力と気を高め、混ぜ合わせ、〈制魂解放〉と共に鞘に収めた刀に纏う。

「お姉ちゃん、いくよ!」
「来なさい!」
「〈光り輝く剣クラウ・ソラス〉!!」
「ハァァァアアアア!!」

 ――川上流 『迅雷』『迦具津血』 合技 『龍神天翔りゆうじんてんしよう

 巨大な白く輝く剣と、不気味な銀光を纏う刀がぶつかり、大気が揺れる。

「ぐっ……」
「くっ……」

 互いの力は拮抗し、徐々に相殺、いや、周囲に拡散して行っている。

 闘技場と客席の境に貼られている結界が何枚か割れた。

 私は更に〈制魂解放〉の出力上げる。スズも同様だ。

 しかしスズのこの技はまだ殆ど使った事がないモノ。練度が足りない。

 私の刀が徐々に押し始めたのを見て、スズはその魔力を解き放った。

 本来なら観客に被害が出かねないが、どうせアルティカが守ってくれる。

 魔力の奔流が収まり、再び互いに距離をとる。

「あはははっ! お姉ちゃん、さすがだね!」
「フフフ、スズこそ!」

 あぁ、楽しい。楽しくて仕方がない。

 私と全力でやれる、数少ない相手。

 楽しくないわけがない。

 あの子にとってもそれは同じ。だからこそ、姉として、負けるわけにはいかない!

 この結界ならどうせ。だったら、一線を越えるのも悪くない。

「スズ、驚かないでね?」

 〈制魂解放〉を、常時発動状態する。

 更に、私の持てるあらゆる魔導で〈制魂解放〉の出力を限界以上に引き出す。

「……うわぁ、何それスゴ…………」

チリンッ
【〈制魂解放〉がLv5になりました】

 好都合だ。

「うへ、まだ上がるんだね。なら、私も頑張っちゃおうかな!」

 来た。謎の身体強化。

 スズも限界を超えてくる。

 そろそろ終わりにしよう。

 ――川上流 『雷光の型』

 スズも『乱れ竜巻の型』をとった。

「……いくわよ?」
「ばっちこーい!」

 ここからは全ての一撃が『迅雷』。スズを自由に舞わせない。

 初手、斬り上げ。

 左の剣で受け、回転力に変えられた。

 だがこれで良い。一撃が重く速い分、スズの限界速度に達するまでも早くなるはずだ。

 カウンターで返ってきた左から右に抜ける薙ぎは体を軽く反らして躱し、追うニ太刀目は刀で弾き返す。

 そのまま追撃。

 首狙ったなぎ払いをスズは舞うように上体を反らして躱し、回転軸の変わった剣で袈裟の方向に切りつけてきた。

「ちっ」

 斜め方向に踏み出すが、躱しきれず左肩を浅く切り裂かれる。

 避けながら剣の背を狙った『迅雷』が不完全になる。

 常の私なら、刀はそのまま空を斬っていた。

 しかし今は違う。

 私の体は限界を超え、届かなかった筈の一歩を埋める。

「嘘っ!?」

 キンッという音と共に、スズの想定を外した回転を生む。

 そしてしゃがんだ。スズなら、きっと対応してくるから。

 予想通りだ。スズの剣が、私の髪を少し切り飛ばしながら頭上を過ぎていく。

 しかしスズの体の軸はブレたまま。このまま決める!

 しゃがんだまま足元を払うように刀を薙げば、今のスズでも跳んで躱す他ない。

 そこから立ち上がる勢いで放つのは『龍神天翔』。

「くっ!」

 これを辛うじて剣で受けたスズが、宙へと舞う。

「[恒星ルミナス裁きジヤツジメント]ッ!」

 スズがゴネ、ようやく付けたこの名前は、指向性を持たせた核爆発の魔法のもの。

 星の怒りが、スズを穿たんと解き放たれる。

「[女神の守護セア・フィーアカス]っ!」

 ――[女神Θεά の守護φύλακας

 ギリシャ語で発せられた通り、〈神聖魔法〉の最上位障壁魔法。

 女神の祝福を受けた光の盾が、巨大な星の力全てを防ぎ切ってしまう。

 だが、これでいい。

 自然に口角が上がる。

「フフっ、やっぱり私たちは、これで決めないとね!」

 足元に作った障壁を蹴り、重力を味方に突進してくるスズ。

 それを迎え撃つため、私がとったのは、突きの構え。

 魔力と気による強化を要所に集中し、〈制魂解放〉した魂のエネルギー全てをきつさきに集中する。

 そうしなければ、収束されたスズの〈光り輝く剣クラウ・ソラス〉を打ち破れないから。

 これから放つは、川上流の奥伝の中でも、究極に位置する絶技。

 演算系のスキルも総動員し、集中する。

 狙うのは、スズが落下しながら放つ『迅雷』、『建御雷たけみかづち』の刃。

 世界が、遅くなる。

「はぁぁぁぁああああ!」
「ハァァァァァアアアア!」

 構図自体は、今日二度目。しかしその衝突で発せられた衝撃は、まるで星同士がぶつかったかのよう。

 武舞台が大きく凹む。

 しかし二振りの刀剣は、微動だにしない。

 いや、できない。

 私が刀をズラそうとすれば、スズが同じように剣を動かして防ぐ。

 スズが剣をズラそうとすれば、私が刀を同じように動かして防ぐ。

 時間にすれば、刹那に満たない攻防。

 スズの直勘と、私の計算。その戦い。

 私とスズにとっては長い、長いその攻防は突如終わりを告げる。

 ズラされ、逸れる白刃。

 そして、一人の少女がエネルギーの奔流に呑みこまれた。



♰♰♰

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