12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第6章 アーカウラの深き場所

第9話 終焉告げる輝き

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6-9

 スズが切り落とした三つ目の首を鈍色にびいろの容れ物に封じ、圧縮する。

 其処彼処そこかしこに転がる容れ物は、これで五つ。しかしまだまだ粘体スライム・竜王ドラゴロードを屠れる大技を繰り出せる程の余裕は無い。

「くっ……」

 幾度目かの、魔力の大量消費による倦怠感で翼の制御が甘くなった。

 耐性を崩し、高度も下がる。
 視線は尾の付け根よりも下だ。

 その一瞬をつき、やつの腹部から伸びた尾が私を襲った。

 咄嗟に大剣を盾にしたが、勢いは殺せない。
 世界が線になる。

「かはっ!」

 粘体竜王の前方の壁まで吹き飛ばされた。

「っ……ふふ、ふふふふっ! 良いわね!」

 あぁ、口内に広がる、鉄の味。
 全身を襲う、この痛み。

 これ程に生きている事を実感する事があるだろうか?

「――ちょ、お姉ちゃん大丈夫!?」

 遠くでスズの叫ぶ声が聞こえた。

「全く問題ないわ!」

 だからそう返事をする。
 実際に問題は無い。

 〈ストレージ〉から二本目のマナポーションを取り出して呷り、空き瓶を投げ捨てる。

 そうしている間に私の目の前まで迫っていたのは、全てを無にす白い激流。
 粘体竜王のブレスだ。

 少々余分に魔力を使うが、仕方ない。

 私は[短距離転移]を発動し、一つの竜頭の真上に出た。

「――お返しよっ!」

 放つのは、自由落下に翼での推進力を加えた『建御雷たけみかづち』。

 〈制魂解放〉による魂のエネルギーと、気によって強化された剣の神の名を冠する一撃。

 その一撃は、同じく武の神として知られる素戔嗚すさのおの為した如く八つ首の竜の頭を根本から切り離した。

 すぐさま離脱して、切り落とした首を封じようとする。

 しかし叶わない。
 切り落とした断面から、新たな首が生えてきて私を喰らおうとしたからだ。

(どういう事!?)

 困惑しながらも慌てて高度を上げ、回避する。

 その先で再び私を襲うのは、白い光線。

 バレルロールによってコレを回避する。

 その際に視線を向ければ、なるほど。切り落とした覚えのない首が姿を消している。
 どうやら先程私を吹き飛ばした尾と同様、引っ込めて別の場所から生やすことが可能らしい。

「今の、見てたわね!?」
「うん、見てた……!」
「気をつけるよ!」

 触手が伸び、切り落とした首を回収しようとしている。

 これは一番近くにいたブランが妨害。
 この隙に距離を取り、〈物質錬成〉を発動する。

 しかし粘体竜王も必死だ。
 残った四本の頭からブレスを放とうとしている。

「お姉ちゃんそのまま続けて! ブランちゃん!」
「うん!」

 四つの口が、四本の破壊の奔流を放つ。

 だが私は動かない。
 妹たちを、信じているから。

 まず粘体竜王のブレスを妨げたのは、ブランの障壁。その数は六枚。今のブランが最大硬度で維持できる限界の数だ。

 白の奔流は一枚につき数秒ほどの時間をかけて障壁をり進む。

「ブランちゃんナイス時間稼ぎ! いくよ、[女神のΘεά 守護φύλακας]!」

 今まさに破られようとしている五枚目の障壁。その内に形作られたのは、神聖魔法[女神の守護セア・フィーカス]による障壁。

 女神の奇跡は一切の揺らぎなく、私を護り切り、そしてこの場に鈍色の箱体を増やした。

「さぁ、次でラストよ! それで倒しきれそうにないなら一旦退散、良いわね!?」
「大丈夫、問題ないよ!」
「わかった……!」

 さて、出来るなら頭を落として置きたい。

 魔力の消費を抑える為、一度地に足をつけ、竜王の周囲を回るように走る。
 見た目通りの長さなら決して届かない位置だが、奴はスライム。自在に体を伸ばす。油断はできない。

 山をいくつも飲み込める程の巨体でありながら、動きが早いのは厄介だ。

 一気に踏み込んで斬りかかろうとすると、すぐに狙った首以外の首や尾で牽制される。
 スズに対しても同様……。

 『鎌鼬』を時折放ってみるが、遠距離からでは威力が足りない。
 傷はつくが、やつの体に対して見ればほんの小さなもの。一瞬で塞がれる。

 スズなら魔力にも余裕はあるのだが、攻撃すらさせて貰えていない。
 残った六本の尾と四つの頭部の内、尾二本と頭部三つがスズに対応している。

 私には、尾が二本と頭部一つ。
 そして、ブランには尾が二本のみ……。

 なるほど。
 百十階層の守護者ガーディアンだけあって優秀なプログラムなようだ。何も切り落とされていない場合の優先順位をよく分かっている。危険度と言い換えても良いだろう。

 私は切り落とした部分を封じる必要があるのであまり魔力を使えないし、ブランではまだ首や尾を完全に切り落とせない。

 思考をしている間にも、戦闘は続く。

 案の定伸びて私を叩き潰しに来た尾を避け、斬りつけるが、断ち切る前に引っ込められてしまった。つけられたのはすぐに塞がる擦り傷のみ。
 これが魔力による再生なら魔力を消費させたという意味があったのだが、残念ながら粘体としての身体特性でしかない。

 さて、どうしたものか……。

(……ん?)

 ブランが二本の尾を避けながら、首の付け根を目指している? 何のために?

 まさか、捨て身で隙を作る?

 ブランにそんな事はさせない!

 私は慌ててフォローに入ろうとしたが、止めた。

 ブランを、認識出来なくなったから。
 それはつまり、[冥府の闇ダークネス]を発動したという事。

 あの子が意味もなくそれを使ったとは思えない。
 きっと、何か考えがある。

 目標を忘れ去った二本の尾が襲いかかって来る中、私は『理外のアウタースキル』の力を使ってその姿を視る。

 ブランは私とスズを襲う尾や頭を避けながら、先程同様一番手近な首を目指している。

 そして、構え。

 あれは『迅雷』か。しかしそれでは……あぁ、なるほど。

「ふふ、考えたじゃない」

 思わず声と、笑みが漏れる。

 あの子は、私達が知らない間に牙を研いでいたらしい。

 冥界の闇に潜んだ白狼はその牙を今、強大な竜の王の首へと突き立てる。

 心の無い迷宮の人形でも混乱はするのか。言葉では表現できない不思議な音で咆哮を上げながら、突如落ちた自身の首へと三対の視線を向ける。

「ブラン、ナイスよ!」

 ブランがやろうとしている事が分かった時点で、準備は始めていた。

 今更やつが何をしようと、もう、間に合わない。

 この広大な洞穴の内に、八つ目の鈍色が生まれる。


チリンっ……
【〈土魔導〉を進化します。
 成功しました。
 〈怠惰なる地底の王ツァトゥグァ〉を取得しました】


「仕上げといきましょう!」

 そのまま一気に高度を上げ、天井スレスレに構える。

 これまでは出来なかったが、今なら可能だ。

 [恒星のルミナス・裁きジヤツジメント]をも超えるエネルギー量の、極大魔法の行使が。

 格段に上がった物質支配力と、理を外れて維持できるようになった原子一つあたりのエネルギー。

 これらが生み出すのは、超新星の輝き。

 等価交換を無視した理外の技は実際以上の質量を持ったコアを作り出し、重力崩壊を引き起こす。

 そのコアの中央に出来た超高密度の物体と、それにぶつかって跳ね返る元はコアだったモノの粒子、そして生まれる熱波、その全てを操作しなければならない。

「ぐぅっ……」

 頭が軋む。

 スーパーコンピュータを遥かに上回る〈高速演算〉だが、現象が複雑過ぎるのだ。

 だがあの化け物を消し飛ばすにはこれくらいやらねばならない。

 今こうしている間にも、ブランとスズが私を守ってくれている。

 今にも膨れ上がり、解き放たれんとしているその怒りを、操作し、一方へ向ける。

 ――準備は整った。

 後は放つだけ。

 どうせスズがゴネるのだ。ならば今付けてしまおう。

 この、超新星爆発スーパーノヴァを模した魔法の名を。

「さぁ、くらいなさい。超新星の怒りを!」

 私の声に反応して、二人が避け、スズは[光輝く剣クラウ・ソラス]を準備する。

「[新星の怒号ノヴァティツク・ロア]!!」

 宇宙全体よりも明るいと言われるその光は、あの粘体竜王がノータイムで放つ破壊の光すらも飲み込み、焼き尽くしていく。

 しかしその周囲が燃える事はない。

 やつの半液体の体のみを蒸発させ、焼滅させていく。

 竜王とて無抵抗ではない。

 後方に移動させた三つの頭部でブレスを吐き、指向性を持たされたその怒りを相殺していく。

 だが足りない。

 抵抗虚しく大山の如き巨体をドンドン削り取られ、再び薄暗い洞窟に戻る頃にはやつの体は五分の一程までに縮まっていた。

 それでも尚巨大ではあるが、あとは、愛する私の妹たちに任せて良いだろう。

 魔力が殆ど空になり霞む視界の中で、巨大な光の剣が哀れな粘体の竜の王を引き裂くのが見える。

 翼の維持が困難になり、私は落下を開始する。

 スズのものであろう巨剣が振り切られたその直後、切り裂かれたその裂け目に白と黒の影が突入するのが見えた。

 ドンドンと落下速度を増していく中、とうとう粘体竜王の魔力反応が消えたのを感じとった。

 あぁ、これでもう大丈夫。

 しばらく、やす、も…………。

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