137 / 145
最終章 軌跡の終着点
第8話 役目を果たすための
しおりを挟む
8-8
言葉に合わせてヴェールをゆっくり捲った門番から放たれるのは、【調停者】のアルティカでさえ身が竦むような殺気。
その鍵は、アルジェが『理外のスキル』、〈無形の祖〉を用いて複製した物だった。
『理外のスキル』とは言え、その鍵を完全に再現する事は出来なかったらしい。しかし今の状況は作成者のアルジェ自身が懸念していた事であり、だからこそ、三人はすぐに意識を切り替えられた。
「んー、ダメだったかー」
スズネが〈勇者〉の[鼓舞]を使い、全員の気を奮い立たせながら言う。
「鍵として使えない可能性もあったんでしょ? だったら、最悪じゃないわよ」
竦む身体を[鼓舞]の力で動かせるようになったアルティカが言う。
「そーだね!」
各種強化をかけ終わった三人は、改めて武器を構え、門番を見据えた。
次の瞬間、大気を引き裂くような轟音が響く。門番の拳をブランの障壁が受け止めた音だ。
「ちょ、え、早くない!?」
困惑の声を上げるスズネ。初動と殴る動き以外、認識できなかったのだ。
「ノータイムの[転移]よ!」
今の隙にさらに距離を開けたアルティカが叫びながら矢を放った。莫大な魔力による空間固定効果を持たされた一矢が門番を襲う。
「つまり、初動と勘だけで対処しなきゃなんだね。余裕!」
アルティカの矢は門番の右膝を貫き、スズネの剣がその後を追った。
血は出ない。
それでもスズネは、確かに手応えを感じていた。
「切れるなら、倒せる!」
再びの[鼓舞]。
それは気配を消して斬り込んだ、ブランへの援護だ。
「っ!」
[精神攻撃]を発動した二太刀が空を断ち、門番の右膝を裏側から裂く。
傷は浅くない。
踏ん張りがきかない様子でフラつく門番。
スズネは更に追い討ちをかけ、脚を奪わんと連撃の構えをとる。
そして放った一撃目。
しかしこれは転移で躱された。
元の位置まで下がった門番の左手には、一本の矢が握られている。
「くっ、もう抜かれた……!」
アルティカが[転移]封じを目的として放った一矢目だ。
先程まで門番がいた場所へと次の矢を放った体制のまま、アルティカは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……傷、もう治ってる」
力そのものを見るブランの魔眼に見えたのは、切り裂かれ削れた門番のエネルギー体が修復される様子。総エネルギー量は、ほとんど変わっていない。
本当にこの門番を倒せるのか。そんな疑問が三人の頭によぎる。
「でもコイツ、技術はたいした事ないよ!」
スズネが叫んだ。
事実、動きは単調で読み易い。
ブランは次の転移攻撃に備え、障壁の用意をする。
そして吹き飛んだ。
「ブランちゃん!?」
門番は移動していない。
スズネの視線の先で、拳を振り抜いた姿勢をとっている。
「そんな事もできるのね……!!」
空間を超えた攻撃。
スズネの勘とアルティカの経験がその答えを教えてくれた。
勢いよく吹き飛んだブランは障壁で勢いを殺して着地する。ダメージはほとんど無い。
障壁でのガードが間に合ったらしいと確認したスズネは門番へと駆け出した。
そのスズネへ向けて、門番は四本の腕による距離を無視した連撃を繰り出す。
対してスズネは左右へ跳び、体を逸らし、時に回転して舞うように攻撃を躱す。
攻撃のタイミングは門番の動きに連動しているのだ。はかるのは難しく無い。来る場所は勘だ。
「スズネちゃんだから出来る事よね……」
半ば呆れながら、アルティカは魔法を放つ。
雷鳴が轟いた。
だが届かない。
雷光はその軌道を捻じ曲げ、あらぬ方向へと落ちた。
青白い閃光に隠れ、スズネは門番の足元へと滑り込む。
左右の手に持つのは、黄金の光を放つ剣。
【勇者】の奥義、[邪穿つ輝剣]。
超高密度のエネルギーを纏った女神の剣が、三日月を描く。
まず狙ったのは、またも右足。
右手が斜めに振り上げられ、それに引っ張られるようにスズネの体が縦に回転する。
回転の力は左の剣へと伝わり、そして[絶対切断]の斬撃が天へと昇っていく。
剣の光は失われたが、スズネはまだ手を休めない。
勢いを殺す事なく舞う。
縦が横になり、横が斜めになり、無数の斬撃が人々を魅了する舞と共に放たれる。
それに続くのは白狼の牙。精神を穿つ、狩人の牙だ。
それらは門番の体を幾度も穿つ。
「二人とも、とっておき行くわよ!!」
アルティカの声に反応した二人が最後の一撃とばかりに強く切りつけ、その勢いのままに離脱した。
直後走る、白い軌跡。
その線を描いた何かは、門番の眉間を貫いた。
そしてその何かが爆ぜ、門番が豪雷と暴風に包まれる。
門番の周囲の地面は風によって切り裂かれ、風化して砂になる。雷に打たれた場所は完全に消滅する。
【調停者】であるエルフの長が完璧に制御したその魔法は、範囲外には影響を与えない。
「うわぁ……えっぐ。やっぱお祖母ちゃんもめちゃくちゃだよね?」
「うん……」
となりで呟くスズネにブランが頷いた。
アルティカが放ったのは、魔法を矢の形に圧縮したもの。如何に転移能力をもつ門番相手といえど、矢の刺さった場所を起点にするこの魔法なら問題ないという判断だ。
降り注ぐ雷には〈神聖魔法〉の[破壊]が、切り刻む暴風には風化の力が〈付与〉されている。
風化の力はアルティカの持つ、風を司った『理外のスキル』を応用したものだ。
念のために空間固定の効果も持たせられていた。
これでも三人は緊張を緩めない。
魔法の効果が終わり、雷光と風が止む。
巻き上げられた砂塵も徐々に落ち着いていく。
門番の影が見え始めた。
相手が相手だ。原形を留めていることくらい、三人とも想定している。
砂煙がやっと門番の頭より低い位置に来た。
門番はボクサーのように腕を顔の前で掲げ、丸まって防御を固めている。
肩甲骨の辺りから生えていた腕は、二の腕から先を確認できない。
アルティカはノーダメージでは無かった事にこっそりと息を吐く。
三人の見つめる先、門番に動く様子は見られない。
三人の殆ど全力攻撃だったのだ。これでダメなら、理不尽も良いところだろう。
そう。
そのはずだった。
門番に覆いかぶさっていた土片の落ちる音が、荒野に響いた。
丸まっていた筈のそれが、徐に四肢を伸ばす。
スズネ達がつけた筈の傷はない。
全て、斬撃の通る位相をズラすことで無効化されていたのだ。
更に、ブランは見てしまった。
消滅した筈の腕の先へと門番を形作るエネルギーが流れ出し、再びその二本の腕が再生していく様を。
「嘘……、これ、まだ一個目、なんだよね……?」
スズネが地球にいた頃知った、異形の神々のお話。もしその通りなのだとしたら、もう一つ、門を越えなければならないのだ。
さすがのスズネでも迷い、挫けそうになる。
ブランも、そんなスズネを見ていることしかできない。同じ思いだからだ。
そうしている間にも門番は腕の再生を進める。
もし撤退するなら、その分の余力を残しておかなければならない。そう思ってアルティカも動かない。
その視線の先で、スズネは再び目に火を灯した。
「…………はぁ、わかってる。わかってるって。いくら迷ったって、私が選ぶ道は変わらない。絶対、お姉ちゃんのところへ行く!」
自らに言い聞かせるような、そんな声。
スズネは剣を握る手に力を込め、構え直した。
ブランも頷いて続く。
その様子を見て、アルティカは口角をあげた。
「……私も、覚悟を決めましょう。決めるだけ、だけど」
この呟きはアルティカのものだ。
「スズネちゃん! ブランちゃん! 合図したら門へ走りなさい!」
「「お祖母ちゃん(さま)?」」
思わずアルティカの方へ顔を向ける二人。
「そしてそのまま、先へ行きなさい!」
そこで二人は、アルティカが足止めに残るつもりだと察してハッとする。
「無茶だよ! お祖母ちゃん、死んじゃう!」
「ふふ。どうせ、私はその先へ行けないわ」
「え……?」
彼女がその門を目指すと知って、『世界の記憶』から情報を取得した時に気づいたことだ。
「【強き魂】を持たない私じゃ、その先へ行っても魂を砕かれるだけ。なら、あなた達を行かせるための足止め役くらいはしないとね!」
その顔に悲壮感はない。
あるのは、揺るぎない覚悟だけだ。
「で、でも……お祖母様……!」
「だーいじょうぶよ! 死にはしないわ。じゃないと、アルジェちゃんが戻ってきた時、怒られちゃう」
そう言ってアルティカが笑う。
そしてそのまま、再生を終えて構え直そうとしている門番へと矢を放った。
空間固定の効果が付与された矢だ。
「次の魔法が合図よ」
そして魔力を操作し、先程の半分に満たない程度の規模で破壊の雷を放つ。
轟音が響き、無数の雷が門番をその地に縫いとめる。
「行きなさい! 早く!」
「や、やだ……お祖母様を置いてくなーー」
パシンっ、という乾いた音が響いた。
「ごめん、ブランちゃん」
スズネがブランの頬をはたいた音だ。
今まででは考えられない姉の所業。ブランは信じられない思いでスズネの顔を見た。
「……行くよ」
スズネは、泣いていた。
溢れ、スズネの頬を伝う涙。しかしその眼差しは力強い。
「……うん」
二人は走り出した。後の事は考えていないというような勢いで魔力を込め、魔法を維持する祖母に背を向けて。
門番がその二人を妨害しようとどこかを動かせば、アルティカはその部位をピンポイントで狙う。
何度も、何度も。
そして、アルティカは視界の端に門が開くところを捉えた。
すぐに門が閉まる。
確かに二人は門を超えたらしいと知ったアルティカは、少し気を抜いた。
全身を一度に大量の魔力を消費した事による虚脱感が襲う。
その隙をついて、門番は魔法から逃れた。
「ふ、ふふふふ……。残念だったわね。あの子たちは、門を通ってしまったわよ」
弓を杖代わりにしながらアルティカが挑発した。
門番から感じるのは、明らかな怒気。
「さ、後は、私が生き延びるだけ、ね……!」
そう言ってアルティカは、次の矢を弓につがえた。
言葉に合わせてヴェールをゆっくり捲った門番から放たれるのは、【調停者】のアルティカでさえ身が竦むような殺気。
その鍵は、アルジェが『理外のスキル』、〈無形の祖〉を用いて複製した物だった。
『理外のスキル』とは言え、その鍵を完全に再現する事は出来なかったらしい。しかし今の状況は作成者のアルジェ自身が懸念していた事であり、だからこそ、三人はすぐに意識を切り替えられた。
「んー、ダメだったかー」
スズネが〈勇者〉の[鼓舞]を使い、全員の気を奮い立たせながら言う。
「鍵として使えない可能性もあったんでしょ? だったら、最悪じゃないわよ」
竦む身体を[鼓舞]の力で動かせるようになったアルティカが言う。
「そーだね!」
各種強化をかけ終わった三人は、改めて武器を構え、門番を見据えた。
次の瞬間、大気を引き裂くような轟音が響く。門番の拳をブランの障壁が受け止めた音だ。
「ちょ、え、早くない!?」
困惑の声を上げるスズネ。初動と殴る動き以外、認識できなかったのだ。
「ノータイムの[転移]よ!」
今の隙にさらに距離を開けたアルティカが叫びながら矢を放った。莫大な魔力による空間固定効果を持たされた一矢が門番を襲う。
「つまり、初動と勘だけで対処しなきゃなんだね。余裕!」
アルティカの矢は門番の右膝を貫き、スズネの剣がその後を追った。
血は出ない。
それでもスズネは、確かに手応えを感じていた。
「切れるなら、倒せる!」
再びの[鼓舞]。
それは気配を消して斬り込んだ、ブランへの援護だ。
「っ!」
[精神攻撃]を発動した二太刀が空を断ち、門番の右膝を裏側から裂く。
傷は浅くない。
踏ん張りがきかない様子でフラつく門番。
スズネは更に追い討ちをかけ、脚を奪わんと連撃の構えをとる。
そして放った一撃目。
しかしこれは転移で躱された。
元の位置まで下がった門番の左手には、一本の矢が握られている。
「くっ、もう抜かれた……!」
アルティカが[転移]封じを目的として放った一矢目だ。
先程まで門番がいた場所へと次の矢を放った体制のまま、アルティカは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……傷、もう治ってる」
力そのものを見るブランの魔眼に見えたのは、切り裂かれ削れた門番のエネルギー体が修復される様子。総エネルギー量は、ほとんど変わっていない。
本当にこの門番を倒せるのか。そんな疑問が三人の頭によぎる。
「でもコイツ、技術はたいした事ないよ!」
スズネが叫んだ。
事実、動きは単調で読み易い。
ブランは次の転移攻撃に備え、障壁の用意をする。
そして吹き飛んだ。
「ブランちゃん!?」
門番は移動していない。
スズネの視線の先で、拳を振り抜いた姿勢をとっている。
「そんな事もできるのね……!!」
空間を超えた攻撃。
スズネの勘とアルティカの経験がその答えを教えてくれた。
勢いよく吹き飛んだブランは障壁で勢いを殺して着地する。ダメージはほとんど無い。
障壁でのガードが間に合ったらしいと確認したスズネは門番へと駆け出した。
そのスズネへ向けて、門番は四本の腕による距離を無視した連撃を繰り出す。
対してスズネは左右へ跳び、体を逸らし、時に回転して舞うように攻撃を躱す。
攻撃のタイミングは門番の動きに連動しているのだ。はかるのは難しく無い。来る場所は勘だ。
「スズネちゃんだから出来る事よね……」
半ば呆れながら、アルティカは魔法を放つ。
雷鳴が轟いた。
だが届かない。
雷光はその軌道を捻じ曲げ、あらぬ方向へと落ちた。
青白い閃光に隠れ、スズネは門番の足元へと滑り込む。
左右の手に持つのは、黄金の光を放つ剣。
【勇者】の奥義、[邪穿つ輝剣]。
超高密度のエネルギーを纏った女神の剣が、三日月を描く。
まず狙ったのは、またも右足。
右手が斜めに振り上げられ、それに引っ張られるようにスズネの体が縦に回転する。
回転の力は左の剣へと伝わり、そして[絶対切断]の斬撃が天へと昇っていく。
剣の光は失われたが、スズネはまだ手を休めない。
勢いを殺す事なく舞う。
縦が横になり、横が斜めになり、無数の斬撃が人々を魅了する舞と共に放たれる。
それに続くのは白狼の牙。精神を穿つ、狩人の牙だ。
それらは門番の体を幾度も穿つ。
「二人とも、とっておき行くわよ!!」
アルティカの声に反応した二人が最後の一撃とばかりに強く切りつけ、その勢いのままに離脱した。
直後走る、白い軌跡。
その線を描いた何かは、門番の眉間を貫いた。
そしてその何かが爆ぜ、門番が豪雷と暴風に包まれる。
門番の周囲の地面は風によって切り裂かれ、風化して砂になる。雷に打たれた場所は完全に消滅する。
【調停者】であるエルフの長が完璧に制御したその魔法は、範囲外には影響を与えない。
「うわぁ……えっぐ。やっぱお祖母ちゃんもめちゃくちゃだよね?」
「うん……」
となりで呟くスズネにブランが頷いた。
アルティカが放ったのは、魔法を矢の形に圧縮したもの。如何に転移能力をもつ門番相手といえど、矢の刺さった場所を起点にするこの魔法なら問題ないという判断だ。
降り注ぐ雷には〈神聖魔法〉の[破壊]が、切り刻む暴風には風化の力が〈付与〉されている。
風化の力はアルティカの持つ、風を司った『理外のスキル』を応用したものだ。
念のために空間固定の効果も持たせられていた。
これでも三人は緊張を緩めない。
魔法の効果が終わり、雷光と風が止む。
巻き上げられた砂塵も徐々に落ち着いていく。
門番の影が見え始めた。
相手が相手だ。原形を留めていることくらい、三人とも想定している。
砂煙がやっと門番の頭より低い位置に来た。
門番はボクサーのように腕を顔の前で掲げ、丸まって防御を固めている。
肩甲骨の辺りから生えていた腕は、二の腕から先を確認できない。
アルティカはノーダメージでは無かった事にこっそりと息を吐く。
三人の見つめる先、門番に動く様子は見られない。
三人の殆ど全力攻撃だったのだ。これでダメなら、理不尽も良いところだろう。
そう。
そのはずだった。
門番に覆いかぶさっていた土片の落ちる音が、荒野に響いた。
丸まっていた筈のそれが、徐に四肢を伸ばす。
スズネ達がつけた筈の傷はない。
全て、斬撃の通る位相をズラすことで無効化されていたのだ。
更に、ブランは見てしまった。
消滅した筈の腕の先へと門番を形作るエネルギーが流れ出し、再びその二本の腕が再生していく様を。
「嘘……、これ、まだ一個目、なんだよね……?」
スズネが地球にいた頃知った、異形の神々のお話。もしその通りなのだとしたら、もう一つ、門を越えなければならないのだ。
さすがのスズネでも迷い、挫けそうになる。
ブランも、そんなスズネを見ていることしかできない。同じ思いだからだ。
そうしている間にも門番は腕の再生を進める。
もし撤退するなら、その分の余力を残しておかなければならない。そう思ってアルティカも動かない。
その視線の先で、スズネは再び目に火を灯した。
「…………はぁ、わかってる。わかってるって。いくら迷ったって、私が選ぶ道は変わらない。絶対、お姉ちゃんのところへ行く!」
自らに言い聞かせるような、そんな声。
スズネは剣を握る手に力を込め、構え直した。
ブランも頷いて続く。
その様子を見て、アルティカは口角をあげた。
「……私も、覚悟を決めましょう。決めるだけ、だけど」
この呟きはアルティカのものだ。
「スズネちゃん! ブランちゃん! 合図したら門へ走りなさい!」
「「お祖母ちゃん(さま)?」」
思わずアルティカの方へ顔を向ける二人。
「そしてそのまま、先へ行きなさい!」
そこで二人は、アルティカが足止めに残るつもりだと察してハッとする。
「無茶だよ! お祖母ちゃん、死んじゃう!」
「ふふ。どうせ、私はその先へ行けないわ」
「え……?」
彼女がその門を目指すと知って、『世界の記憶』から情報を取得した時に気づいたことだ。
「【強き魂】を持たない私じゃ、その先へ行っても魂を砕かれるだけ。なら、あなた達を行かせるための足止め役くらいはしないとね!」
その顔に悲壮感はない。
あるのは、揺るぎない覚悟だけだ。
「で、でも……お祖母様……!」
「だーいじょうぶよ! 死にはしないわ。じゃないと、アルジェちゃんが戻ってきた時、怒られちゃう」
そう言ってアルティカが笑う。
そしてそのまま、再生を終えて構え直そうとしている門番へと矢を放った。
空間固定の効果が付与された矢だ。
「次の魔法が合図よ」
そして魔力を操作し、先程の半分に満たない程度の規模で破壊の雷を放つ。
轟音が響き、無数の雷が門番をその地に縫いとめる。
「行きなさい! 早く!」
「や、やだ……お祖母様を置いてくなーー」
パシンっ、という乾いた音が響いた。
「ごめん、ブランちゃん」
スズネがブランの頬をはたいた音だ。
今まででは考えられない姉の所業。ブランは信じられない思いでスズネの顔を見た。
「……行くよ」
スズネは、泣いていた。
溢れ、スズネの頬を伝う涙。しかしその眼差しは力強い。
「……うん」
二人は走り出した。後の事は考えていないというような勢いで魔力を込め、魔法を維持する祖母に背を向けて。
門番がその二人を妨害しようとどこかを動かせば、アルティカはその部位をピンポイントで狙う。
何度も、何度も。
そして、アルティカは視界の端に門が開くところを捉えた。
すぐに門が閉まる。
確かに二人は門を超えたらしいと知ったアルティカは、少し気を抜いた。
全身を一度に大量の魔力を消費した事による虚脱感が襲う。
その隙をついて、門番は魔法から逃れた。
「ふ、ふふふふ……。残念だったわね。あの子たちは、門を通ってしまったわよ」
弓を杖代わりにしながらアルティカが挑発した。
門番から感じるのは、明らかな怒気。
「さ、後は、私が生き延びるだけ、ね……!」
そう言ってアルティカは、次の矢を弓につがえた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる