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最終章 軌跡の終着点
第7話 4つ手の門番
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8-7
土と岩ばかりの荒野の真ん中、星々の見守る中、アルティカとスズネ、ブランの三人は焚き火を囲んでいた。
三人は既に、目的の門から半日のところまで来ている。
「……やっぱり、あそこから動く気は無いみたいだね」
「うん……」
スズネとブランが、今日までの進行方向に顔を向けながら言う。二人にしては珍しい、鋭い視線だ。
「アレは門番だから。それより、早く食べて休みましょう」
そう言って一人澄ました顔で手を動かしているアルティカ。三人の手には、焚き火で温め直した野菜ベースのスープが入ったカップや、鳥型魔物の串焼きが握られている。
「そうだね。……うん、上出来!」
スズネはカップに口をつけ、自作のスープの出来に満足の声を漏らした。
「ほんと。うちのシェフといい勝負なんじゃないかしら?」
「本当? えへへへ!」
祖母に褒められ、スズネは照れた。ブランも尻尾を揺らす。
そうして、その夜は和やかに更けていった。
◆◇◆
二つ目の太陽が天頂を超えた頃、三人は荒野の先に二つの影を見つけた。
一つは、白く四角い建造物。
そしてもう一つは、二対の腕を持った人型の何かだ。
歩みは止めない。
三十分近く歩き続け、ようやく白い建造物の目の前まで来た。
不気味な白色をした建造物には、文字のような模様が刻まれており、その中央、スズネの目の高さ辺りに一つの鍵穴がある。
見上げなければならない程に巨大なそれの前で仁王立ちしているのは、ヴェールを纏う四つ手の巨人を模した石像だ。
「ブランちゃん、間違いない?」
アルティカが一応というように確認した。
「……うん。あの時見たのと、同じ」
ブランがその建造物、門を見上げながら、確かな確信を持って答える。
「……そっくり、だね。あの鍵に」
そう言ったスズネの脳裏に浮かんでいたのは、長姉の持っていた鍵の模様。他の二人も頷いて同意を示す。
そうやって三人が門を見つめていると、石像が振動を始めた。それに合わせて大地が揺れる。
石像がヒビ割れ、砕けていく。いや、その存在を覆っていた石が剥がれていっているのだ。
しかしその存在を知覚していた三人は慌てない。
まずスズネとブランが視線を石像に移し、やや遅れて、何か考え込んでいる様子だったアルティカが二人に倣う。
石の下から現れたソレの身体は、スズネたちの目にハッキリと映らない。空間が捻れたような、人型の歪みがそこにあるだけだ。
ハッキリと認識できるのは、門と同じような白のヴェール。そしてその身体を構成する、計り知れないエネルギー。
「窮極を超え、副王への謁見を望む者よ」
門番の声が大気を震わせる。
「我は第一の門を守る者。鍵を示せよ。さすれば、誘わん」
その巨大な門番は、三人を見下ろしながら告げた。
その声に従い、スズネは〈ストレージ〉から一本の鍵を取り出して掲げる。アルジェのと共に転移してしまった筈の、その鍵を。
スズネの顳顬を汗が伝う。
「…………確かに、それは門の鍵」
三人の顔が綻んだ。
「だが、」
門番が自身の顔を隠すヴェールに手をかけた。
それを見た三人は苦い顔をし、すぐに距離をとる。
「鍵の機能しかない紛い物。汝らを通す事は、許されぬ!」
土と岩ばかりの荒野の真ん中、星々の見守る中、アルティカとスズネ、ブランの三人は焚き火を囲んでいた。
三人は既に、目的の門から半日のところまで来ている。
「……やっぱり、あそこから動く気は無いみたいだね」
「うん……」
スズネとブランが、今日までの進行方向に顔を向けながら言う。二人にしては珍しい、鋭い視線だ。
「アレは門番だから。それより、早く食べて休みましょう」
そう言って一人澄ました顔で手を動かしているアルティカ。三人の手には、焚き火で温め直した野菜ベースのスープが入ったカップや、鳥型魔物の串焼きが握られている。
「そうだね。……うん、上出来!」
スズネはカップに口をつけ、自作のスープの出来に満足の声を漏らした。
「ほんと。うちのシェフといい勝負なんじゃないかしら?」
「本当? えへへへ!」
祖母に褒められ、スズネは照れた。ブランも尻尾を揺らす。
そうして、その夜は和やかに更けていった。
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二つ目の太陽が天頂を超えた頃、三人は荒野の先に二つの影を見つけた。
一つは、白く四角い建造物。
そしてもう一つは、二対の腕を持った人型の何かだ。
歩みは止めない。
三十分近く歩き続け、ようやく白い建造物の目の前まで来た。
不気味な白色をした建造物には、文字のような模様が刻まれており、その中央、スズネの目の高さ辺りに一つの鍵穴がある。
見上げなければならない程に巨大なそれの前で仁王立ちしているのは、ヴェールを纏う四つ手の巨人を模した石像だ。
「ブランちゃん、間違いない?」
アルティカが一応というように確認した。
「……うん。あの時見たのと、同じ」
ブランがその建造物、門を見上げながら、確かな確信を持って答える。
「……そっくり、だね。あの鍵に」
そう言ったスズネの脳裏に浮かんでいたのは、長姉の持っていた鍵の模様。他の二人も頷いて同意を示す。
そうやって三人が門を見つめていると、石像が振動を始めた。それに合わせて大地が揺れる。
石像がヒビ割れ、砕けていく。いや、その存在を覆っていた石が剥がれていっているのだ。
しかしその存在を知覚していた三人は慌てない。
まずスズネとブランが視線を石像に移し、やや遅れて、何か考え込んでいる様子だったアルティカが二人に倣う。
石の下から現れたソレの身体は、スズネたちの目にハッキリと映らない。空間が捻れたような、人型の歪みがそこにあるだけだ。
ハッキリと認識できるのは、門と同じような白のヴェール。そしてその身体を構成する、計り知れないエネルギー。
「窮極を超え、副王への謁見を望む者よ」
門番の声が大気を震わせる。
「我は第一の門を守る者。鍵を示せよ。さすれば、誘わん」
その巨大な門番は、三人を見下ろしながら告げた。
その声に従い、スズネは〈ストレージ〉から一本の鍵を取り出して掲げる。アルジェのと共に転移してしまった筈の、その鍵を。
スズネの顳顬を汗が伝う。
「…………確かに、それは門の鍵」
三人の顔が綻んだ。
「だが、」
門番が自身の顔を隠すヴェールに手をかけた。
それを見た三人は苦い顔をし、すぐに距離をとる。
「鍵の機能しかない紛い物。汝らを通す事は、許されぬ!」
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