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最終章 軌跡の終着点
第12話 畏れ多きもの
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8-12
「後ろっ!」
警告虚しく、破壊という事象をそのまま具象化させたかのような槍の一撃が王様へと振り下ろされていきます。
世界そのものさえも容易に砕くであろう輝き。あれを食らっては、いくら王様と言えど無事では済まないでしょう。
しかし私に防ぐ手立てはなく、あったとしても間に合いません。ただその凶刃が王様に突き刺さる瞬間を見ている事しかできませんでした。
その破壊の意思が込められた光は、一気に膨張し、タイトゥース様の領域であるこの空間で初めて影を生み出します。
私の視界が真っ白に染まりました。
莫大なエネルギーに全身が揺さぶられ、感知スキルもまともに働きません。
「くっ……!」
ただ立っているだけで、何もできない。この身の内から湧き上がってくる感情は、そう、悔しさです。
自身を生贄にして復活した相手が、復活直後に奇襲を受けて消滅する。悔しくないわけがありません。その為に何度スズとブランを危険に晒されたと思っているのですか……!
いったいどこのどいつがこんな真似を……。
やがて光が収まったのち、その悔しさと怒りに身を任せ、仇敵へと向けて踏み出そうとして、止めます。
正直、私は目の前の光景が信じられません。
金髪の美しい女性が振り下ろし、そして王様を貫く筈だった槍が、王様の顔の前に伸ばされた王様自身の一本の指によって阻まれているのです。結界の類を張った様子はありません。つまり王様は、その身一つでタイトゥース様たちを上回る破壊のエネルギーを受け切ってしまったのです。
王様は微動だにしていません。
変化があるとすれば、少し髪の毛の先が目と同じ宇宙色に変色していることくらいですか。
「……化け物めが!」
女性が憎々しげに言います。
敵ではありますが、その点は同感ですね。
王様がどのような表情をしているのかは、ここからでは見えません。驚愕した様子もなく、ただ自然体でそこにあります。
「愚かな……」
王様は受け止めていた指を使ってそのまま槍の先を摘み、逆の手をその女性へと向けました。
その手に、先程の一撃が児戯に思えるような、とてつもなく強大な魔力が収束していくのを感じます。それにつれて髪の変色も進んでいきます。
そして青みがかった銀色が元の半分程になった頃、その暴威は解き放たれました。
女性の放った全てを塗り潰すような白金色の光に対し、王様のそれは全てを飲み込むような漆黒の闇。
闇は女性を飲み込み、そしてその先の空間ごと消しとばしてしまいました。
本当に、凄まじいですね……。
アレが二人に向けられることがないようにしなければなりません。
「ディアスですか……みすみすこの場への進入を許して、彼女は何をやっているのでしょう」
「……どうやら、以前ヤツらが王を襲った時の道を使ったようですね」
宰相様とタイトゥース様の話す声が聞こえます。
「なるほど。ならば仕方ないでしょう。……それで、ここは、時空間を司る貴女の領域でしたね?」
「……」
あぁ、この嫌味ったらしい感じ。宰相様もやっと本調子に戻ったようですね。なんだか安心してしまいました。
件の女性、ディアスを消し飛ばした張本人がこちらへ歩いてきていることに関しては、安心していいのかわかりませんが……。
「そう身構えなくとも良い」
王様に言われ、自分で意識している以上に身を固くしてしまっていることに気づきました。恐怖、ですね。これは。いくらバトルジャンキーなんて揶揄される私でも、王様と戦ってみたいとは思いません。そもそも戦いになりませんから。
王様は私の数歩先で立ち止まって続けます。
「我が子らは、主らアーカウラの住人に直接的な危害を加えない事を、自らの存在に誓っているという」
ふむ、例の絵本に書かれていた失敗を繰り返さない為でしょうか? そうなると、世界最古の迷宮『荒ぶる祖霊の社』で宰相様がした事って、かなり危ない事だったのでは? 存在に誓った事を破れば、その存在そのものが無くなってしまいますから。
「私も、我が子らに倣う事にした。私が主らに手を出す事はできない」
どこか機械的で、スズとブラン曰く私の声をもう少し落ち着けたような声からは、その言葉の真偽を判断することができません。しかし……――。
「お姉ちゃん、信じていいと思う?」
スズが聞いてきました。ブランも不安そうにこちらを見てきます。
スズは、たぶん私と同じ考えでしょうが、ブランの様子を見て態と聞いてきたのでしょう。私でもあまり余裕が無いのに、スキル的にも、経験的にも、そして年齢的にも私より未熟なブランには、相当辛い状況だと思います。正直私でさえ、恐怖で発狂して王様に斬りかかっていない自分自身を褒めたいくらいの状況なんですから。
横目でチラリと確認するだけだった視線を一度、王様へ戻し、意識して顔を背けて二人へと向けます。
「たぶん、大丈夫よ」
スズは険しい顔をしながら軽く頷き、ブランは明らかに安心して表情を緩めました。
「そんな小細工をしなくても、私たちなんて一息で消し飛ばせるもの。さっきのやつみたいにね」
それを聞いてブランがビクッとなり、唾を飲み込みました。
そんな可愛らしい姿を見せられては、そこに現実逃避したくなってしまいますね。
それ程に、この目の前の王様、魔王の存在感は凄まじいのです。
「そか、なら、大丈夫だね。良かった」
スズも表情を緩めて言います。
やはり私と同じ考えだったのでしょう。
視線を王様へ戻して続きを促す事にします。一応一歩前へ出て二人を庇う位置取りをしましょう。
少々待たせてしまいましたが、王様に――。
「……本当に、良かった」
「――えっ……?」
背中と胸部に感じた、冷たい感覚。
そしてそこから出て行く、熱い何か。
視線をゆっくりと視線を下ろすと、見覚えのある、白い刃が私の鳩尾の辺りから生えています。
だんだんと抜けて行く体の力を振り絞り、首を動かして、顔を後ろへと向けると、そこにあったのは、一切の表情を浮かべない、まるで能面のような、スズの顔でした。
「後ろっ!」
警告虚しく、破壊という事象をそのまま具象化させたかのような槍の一撃が王様へと振り下ろされていきます。
世界そのものさえも容易に砕くであろう輝き。あれを食らっては、いくら王様と言えど無事では済まないでしょう。
しかし私に防ぐ手立てはなく、あったとしても間に合いません。ただその凶刃が王様に突き刺さる瞬間を見ている事しかできませんでした。
その破壊の意思が込められた光は、一気に膨張し、タイトゥース様の領域であるこの空間で初めて影を生み出します。
私の視界が真っ白に染まりました。
莫大なエネルギーに全身が揺さぶられ、感知スキルもまともに働きません。
「くっ……!」
ただ立っているだけで、何もできない。この身の内から湧き上がってくる感情は、そう、悔しさです。
自身を生贄にして復活した相手が、復活直後に奇襲を受けて消滅する。悔しくないわけがありません。その為に何度スズとブランを危険に晒されたと思っているのですか……!
いったいどこのどいつがこんな真似を……。
やがて光が収まったのち、その悔しさと怒りに身を任せ、仇敵へと向けて踏み出そうとして、止めます。
正直、私は目の前の光景が信じられません。
金髪の美しい女性が振り下ろし、そして王様を貫く筈だった槍が、王様の顔の前に伸ばされた王様自身の一本の指によって阻まれているのです。結界の類を張った様子はありません。つまり王様は、その身一つでタイトゥース様たちを上回る破壊のエネルギーを受け切ってしまったのです。
王様は微動だにしていません。
変化があるとすれば、少し髪の毛の先が目と同じ宇宙色に変色していることくらいですか。
「……化け物めが!」
女性が憎々しげに言います。
敵ではありますが、その点は同感ですね。
王様がどのような表情をしているのかは、ここからでは見えません。驚愕した様子もなく、ただ自然体でそこにあります。
「愚かな……」
王様は受け止めていた指を使ってそのまま槍の先を摘み、逆の手をその女性へと向けました。
その手に、先程の一撃が児戯に思えるような、とてつもなく強大な魔力が収束していくのを感じます。それにつれて髪の変色も進んでいきます。
そして青みがかった銀色が元の半分程になった頃、その暴威は解き放たれました。
女性の放った全てを塗り潰すような白金色の光に対し、王様のそれは全てを飲み込むような漆黒の闇。
闇は女性を飲み込み、そしてその先の空間ごと消しとばしてしまいました。
本当に、凄まじいですね……。
アレが二人に向けられることがないようにしなければなりません。
「ディアスですか……みすみすこの場への進入を許して、彼女は何をやっているのでしょう」
「……どうやら、以前ヤツらが王を襲った時の道を使ったようですね」
宰相様とタイトゥース様の話す声が聞こえます。
「なるほど。ならば仕方ないでしょう。……それで、ここは、時空間を司る貴女の領域でしたね?」
「……」
あぁ、この嫌味ったらしい感じ。宰相様もやっと本調子に戻ったようですね。なんだか安心してしまいました。
件の女性、ディアスを消し飛ばした張本人がこちらへ歩いてきていることに関しては、安心していいのかわかりませんが……。
「そう身構えなくとも良い」
王様に言われ、自分で意識している以上に身を固くしてしまっていることに気づきました。恐怖、ですね。これは。いくらバトルジャンキーなんて揶揄される私でも、王様と戦ってみたいとは思いません。そもそも戦いになりませんから。
王様は私の数歩先で立ち止まって続けます。
「我が子らは、主らアーカウラの住人に直接的な危害を加えない事を、自らの存在に誓っているという」
ふむ、例の絵本に書かれていた失敗を繰り返さない為でしょうか? そうなると、世界最古の迷宮『荒ぶる祖霊の社』で宰相様がした事って、かなり危ない事だったのでは? 存在に誓った事を破れば、その存在そのものが無くなってしまいますから。
「私も、我が子らに倣う事にした。私が主らに手を出す事はできない」
どこか機械的で、スズとブラン曰く私の声をもう少し落ち着けたような声からは、その言葉の真偽を判断することができません。しかし……――。
「お姉ちゃん、信じていいと思う?」
スズが聞いてきました。ブランも不安そうにこちらを見てきます。
スズは、たぶん私と同じ考えでしょうが、ブランの様子を見て態と聞いてきたのでしょう。私でもあまり余裕が無いのに、スキル的にも、経験的にも、そして年齢的にも私より未熟なブランには、相当辛い状況だと思います。正直私でさえ、恐怖で発狂して王様に斬りかかっていない自分自身を褒めたいくらいの状況なんですから。
横目でチラリと確認するだけだった視線を一度、王様へ戻し、意識して顔を背けて二人へと向けます。
「たぶん、大丈夫よ」
スズは険しい顔をしながら軽く頷き、ブランは明らかに安心して表情を緩めました。
「そんな小細工をしなくても、私たちなんて一息で消し飛ばせるもの。さっきのやつみたいにね」
それを聞いてブランがビクッとなり、唾を飲み込みました。
そんな可愛らしい姿を見せられては、そこに現実逃避したくなってしまいますね。
それ程に、この目の前の王様、魔王の存在感は凄まじいのです。
「そか、なら、大丈夫だね。良かった」
スズも表情を緩めて言います。
やはり私と同じ考えだったのでしょう。
視線を王様へ戻して続きを促す事にします。一応一歩前へ出て二人を庇う位置取りをしましょう。
少々待たせてしまいましたが、王様に――。
「……本当に、良かった」
「――えっ……?」
背中と胸部に感じた、冷たい感覚。
そしてそこから出て行く、熱い何か。
視線をゆっくりと視線を下ろすと、見覚えのある、白い刃が私の鳩尾の辺りから生えています。
だんだんと抜けて行く体の力を振り絞り、首を動かして、顔を後ろへと向けると、そこにあったのは、一切の表情を浮かべない、まるで能面のような、スズの顔でした。
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