12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

文字の大きさ
9 / 145
第1章 大海の一滴

第9話 スタンピード

しおりを挟む
1-9
 
 昨夜はあの後、お風呂へ入ってすぐに寝ました。
 今は昨日できなかった魔力操作の訓練をしているところです。
 気になるのは、前回やっていた時より魔力量の伸びが良く感じることですが……。

(ゴォーン ゴォーン ゴォーン…)

 おや? 三の鐘です。もうそんな時間でしたか。
 循環していた魔力を鎮め、下へ降ります。

「あ、お姉ちゃん!」

 階段を降りるとすぐにメルちゃんが飛びついてきます。
 何故か気に入られたようなんです。
 まあ可愛いのでいいですが。

「おや? 今日は遅かったね?
 朝食は出来てるよ。今日はオークの残りをスープに入れたから、美味いよ!」

 そう言ってニカッと笑うレイラさん。
 なるほどたしかに、いつもよりさらに美味しそうな匂いが私の鋭い嗅覚を刺激します。

(ぐるるるる)

「はっはっは!
 正直なお腹だね? ほら座って待ってな、すぐ持ってくるから。」

 ……ものすごく恥ずかしいです。
 顔を真っ赤にしながら辛うじて返事を返します。
 他に人が居なくて良かったです……。

 なんとか平静を取り戻した頃にレイラさんがお盆に朝食を乗せて持ってきてくれました。

「ありがとうございます。あぁそうだ、追加でもう二泊お願いします。」
「あいよ。……はい、これお釣り。昨日までと同じで良かったんだよね?」
「はい、お願いします」
「お姉ちゃん、まだ泊まってくれるの? やったー! 夜遊びに行っていい?」

 嬉しそうなメルちゃんから視線をレイラさん
へ向けると、コクンと一つ頷いてくれました。

「ええ、いいわよ」
「ほん!? わーい!」

 すごい喜びようですね。なんでこんなに気に入られたんでしょう?

 ちなみにレイラさん夫婦には敬語のままです。
 今更変えづらいのと、冒険者関係ではない上に彼女相手なら問題ないと判断しました。

 あ、オークのスープ、美味しかったです。


◆◇◆
 朝食を終えたらすぐにギルドへ向かいます。昨日手に入れた剣の試し切りをするついでに何か受けようと思いまして。

 しかし、今日は何やらものすごく見られます。
 昨日もチラチラとした野郎どもからの視線は感じましたが、今日はガン見です。それも老若男女、エルフにドワーフ、果てはそこら辺の動物にまで。なぜでしょう?
 考えてもわからないのでほっときましょう。

 ギルドの依頼は四種類あります。
 一つは常設依頼。依頼を受注する必要はなく、需要の高い採取物や繁殖力が高く森から溢れやすい、つまりはスタンピートを起こしやすい魔物の討伐証明を持ってくれば、報酬が貰えます。

 昨日、一昨日と私が薬草と引き換えに受け取っていたのがこれの報酬ですね。
 ちなみにスタンピードを起こしやすい魔物とはおなじみゴブリンやオークなどです。

 また繁殖力が強いわけではありませんが、スライム種の討伐も常設依頼としてあります。成長すると厄介なことになるという理由だそうです。
 なんでも、街一つ飲み込む災害級の固体が過去に何度か確認されているとのこと。

 災害級とは魔物の強さを識別するもので、Aランクにあたります。

 他に、Sランク相当を厄災級、SSランク相当を天災級、SSSランク相当以上を神災級と言うそうです。
 Bランク以下は特に何か特別な呼称があるわけではなく、Gランクまであります。

 人間がFランクからなのに対して魔物にGランクがあるのは、人間のランクのパーティ(4~6人)=魔物のランクとなっているからだそうです。
一対一なら一つ下のランクまでの魔物が妥当とのこと。

 ぶっちゃけEランク以下はあまりあてにならないそうですが。Aランク以上も参考以上にはならないとか。うん、全然だめじゃないですか……。

 ちなみにゴブはG、オークはDになります。

 ん? ということはベアルさんは少なくともCランク以上の実力という事ですね。まあ、あの見た目なら不思議ではありませんが。これは偏見ですかね?

 話が逸れました。
 次は通常依頼です。

 これはランクごとに仕分けてあり、上下一つずつまでのランクの依頼を受けることができます。
 ただし、Dランクの場合、例えCランクのものでもまだ護衛依頼は受けられません。盗賊に襲われた時、護衛なのに殺すのが怖くて戦えないじゃあ困りますから。

 三つ目は指名依頼。
 依頼を受ける相手を依頼者側が指名します。
 これは断っても罰則などはありませんが、場合によっては依頼者との関係が悪化することになります。
 護衛依頼が多い関係で指名されるのは基本Cランク以上ですね。依頼者と個人的に関係があったり、何か特殊な技能がある場合はDランク以下でも指名される事はありますが。

 最後に緊急依頼。 
 これはギルドや国が、スタンピードが起きた時などに出す依頼です。
 指定されたランク以上は強制参加、正当な理由なく参加しなかった場合罰則があります。具体的には冒険者ランクの降格に罰金です。
 指定ランクはその時によって異なりますが、これも基本的にはCランク以上ですね。


 ということで、私はDランクとCランクの依頼を見ています。しかし目ぼしいものはありませんね。

 仕方がないので常設依頼だけ確認して適当に狩ることにしましょう。


◆◇◆

「スタンピードだ!」

 そんな声が聞こえたのは、依頼書の貼ってあるボード――クエストボードというらしいです。これ、言い始めたのは黒髪黒目の異邦人らしいんですよね……――から離れ、ギルドから出ようとした時でした。

 声の主は、今しがた入り口から駆け込んできたボロボロの男女。さすがに私への視線もなくなり、その場の全員が彼らに注目します。

 エルフの男性と、おそらく猫の獣人。どちらも森での行動やスピードに優れた種族です。
 装備も軽装で、音がなる金属装備は見当たりません。
 二人とも斥候職でしょう。

 となると、彼らを先に行かせ、魔物を食い止めているだろうパーティメンバーがいることが予想されます。

 声が聞こえてすぐに駆け寄ったギルド職員の方が依頼を見ていた私たちに向かって叫びます。

「鬼系種族のスタンピードが発生しました! これより緊急依頼を発令します! Dランク以上は強制です!」

 どうやら私も強制参加みたいですね。
 
「確認された最高ランクはオーガジェネラルのA! 冒険者の皆さんは直ちに北門へ向かってください!」
 
 しかし鬼系ですか。それならちょうどいいです。魔物との初戦闘がまさかスタンピートになるとは思っていませんでしたが。

「今仲間が時間を稼いでいるが、時間はさほどない! 表層の半ばで遭遇した。急いでくれ!」

 さきほどのエルフの男が叫びます。
 それを聞いて私たちは急いで北門へ向かいました。


◆◇◆
 門につくと、ボロボロになった鎧のドワーフらしき人物や魔法使いのような格好をした人族など、先ほどの彼らのパーティメンバーらしき人たちが門を通るところでした。
 検問待ちだったと思われる旅人達は予想通り外側の門をくぐったところにある広場に待機させられています。

「冒険者たちが到着した! 道を開けてくれ!」

 門兵の一人が叫び、人垣が左右に分かれます。そこを走り抜ける私たちが見たのは、森の奥から押し寄せる鬼たちでした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...