15 / 145
第2章 千の時を共に
第3話 隠された能力
しおりを挟む
2-3
さっそくベアルさんにハイオークで何か作ってもらえるようお願いしてみましょう! 今の時間ならまだ夕食の準備もしていないはずです。
「ベアルさん。ちょっといいですか?」
「……ああ」
「この間のスタンピートで手に入ったハイオークの肉で何か作って欲しいんです」
「……いいぞ」
「ありがとうございます! これでお願いします。あまったぶんは他の方に振舞ってあげてください」
「……いいのか?」
「ええ、かなり量がありますからね」
何しろ三メートルもの巨体です。数百キロ単位でありますよ。
「……わかった。明日の夜、作る。こだわる」
「わかりました。楽しみにしてますね」
ほんとうに楽しみですね!
え? 最後の会話?
『こだわりたいから明日の夕食まで待って。他のお客さんの分もまとめて作った方がいいし』って言ってたから『楽しみに待ってる』って答えただけですよ?
ついでにさっきのは機嫌が悪かったとかでは無くてベアルさんが無口なだけです。
◆◇◆
さあギルドへ行きましょう!
今夜はベアルさんこだわりのハイオーク料理ですからね! そりゃ張り切りますよ!
ギルドは多くの冒険者でごった返しています。まだ外は薄暗いというのに皆さん早いですね。
私はたまたま早く目が覚めただけです。ハイオークが楽しみだったからではありませんよ?
この時間ならギリギリいい依頼も残ってますね。
この『〈満月罌粟の種〉の納品』でも受けましょうか。比較的手に入りやすく、一ダースにつき銀貨三枚の報酬です。
〈フルムーンポピーの種〉は〈魔力の種〉とも呼ばれており、〈マナポーション〉の原料となります。
〈マナポーション〉はポーションの一種で、魔力の回復速度を早める効果があります。即効性のある〈ヒーリングポーション〉に比べると使いづらいように思われるかもしれません。しかし、休息状態でさえ魔力の回復は(個人差はありますが)非常に緩やかです。況や、戦闘時をや、です。
スキルで回復を早めるものもありますが、本来スキルはそう簡単にはとれるものではありません。私は例外です。
それに、もしスキルを持っていたとしても無用ではありません。〈マナポーション〉とスキルの効果は重複します。
ちなみにですがこの種をそのまま食べても魔力が一上昇なんてしません。
あとは、そうですね。実が薬として使えるそうなので、そちらも有れば採って帰るべきでしょう。何故か種とは別にあるようです。依頼は見当たりませんが、買い取ってくれるはずです。
あ、薬って麻薬とかのクスリではありませんよ?
確かに罌粟の実はアヘンの原材料になりますが、医薬品としても使われます。モルヒネという鎮痛剤を精製できるのです。
花は満月の夜にしか咲かないので今回は放置ですね。
依頼書を取ってリオラさんのいるカウンターに並びます。そこそこの人数がならんでますが、さすがはサブマス。列が進むのが周りよりも早いです。すぐに私の番がきます。
「おはよう。リオラさん」
「おはようございます。アルジェさん。お待たせしました。この間のスタンピードの貢献度報酬の見積もりが終わりました。アルジェさんへの報酬額は2000万Lですね。白金貨と金貨のどちらがよろしいですか?」
「思ったより多いわね。白金貨でお願い」
「わかりました。アルジェさんは元凶のオーガジェネラルを討伐されてますし、討伐数自体も多いですからね。それで、オーガジェネラルの素材ですが……」
「いらないわ。というか、もらえるの?」
「ですよね。はい、スタンピードでAランク以上が討伐された場合は、討伐者に権利が発生します。そのまま素材として受け取るか、売却額の八割を受け取るか、ですね。残りの二割は手数料やらなんやらです」
「へぇ。まあいいわ。しばらくお金には困らないでしょうし、Aランクの素材じゃあ今の装備は超えられないわ」
リオラさんは私の後ろにもう人がいない事を確認してからつづけます。
「そうですね、せいぜい希少級でしょうか? いえ、せいぜいというのもおかしな話ですね。十分強力ではありますが、比べるものが間違ってます」
そういって苦笑いされてしまいました。私も同感なんですけどね。
伝説になるほどの腕を持った職人に頼めば、秘宝級にはなるかもしれませんが、それでも今のドレスを超えることはありません。
「――はい。こちら貢献度報酬です。ご確認ください」
リオラさんが話しながら準備していた、白金貨二枚が入っているだろう袋を渡してきました。一応確認しましたが、問題ありませんね。
「たしかに受け取ったわ」
「ところで、昇格試験、受けませんか?」
「昇格試験?」
「はい、今回のスタンピートで貢献度が十分なものとなりました。実力のほども問題ありません。むしろランクと合っていない事が問題ですね」
「なるほど、だからさっさとランクを上げて欲しいわけね。いいわ、受けましょう。あ、でもこれどうしようかしら?」
手に持ったままだった依頼表を見せます。
「試験は準備もありますから明日以降になります。今日のところはそちらを受けても問題ありませんよ」
「わかったわ。それじゃあ手続きをお願い」
「はい。試験日程は決まり次第お伝えしますね」
「ええ。よろしくね」
それでは〈フルムーンポピー〉の採取に行きましょうか。
◆◇◆
先にステータスを確認しておきましょうか。あの戦いからまだ一度も見ていません。
魂の定着率が五十パーセントになったのは『世界の声』が聞こえたので知っていますが、ステータスはどうなったでしょうね。
「ステータス!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ステータス>
名前:アルジュエロ /F
種族:吸血族(人族)
年齢:18
スキル:
《身体スキル》
鑑定眼 言語適正 (魔力視) (神聖属性適性)→光属性適性 吸血lv5 高速再生lv6(1up) 大剣lv6(1up) 淫乱lv4 威圧lv3 魅了lv2 隠密lv1 解体lv2(new)
《魔法スキル》
ストレージ 創翼lv6 飛行lv4 魔力操作lv8(1up) 火魔導lv4 水魔導lv6 土魔導lv4 風魔導lv6 光魔導lv5 闇魔導lv5(1up) 隠蔽lv MAX 身体強化“魔”lv4(new)
称号:(転生者) 吸血族の真祖 (12/10^16の奇跡) 強き魂 (魔性の女) (副王の加護) 寂しい人 うっかり屋
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いくつかのスキルが上がってます。新しいスキルもありますね。
〈解体〉は先日とったものですね。これは既に紹介済みです。
〈身体強化“魔”〉はオーガジェネラル戦の時に使った全身に魔力を纏う奴のことでしょう。最後になかなか無茶をしたので既にlv4になっています。“魔”となっていますから、おそらく《身体スキル》ver.もあるのでしょう。
しかし、lv5を越えてからはさすがに上がりづらくなってきましたね。これはかなり早いペースになる筈なんですが、私みたいにズルせずにlv10まで上げる人ってどんなセンスしてるんでしょうね?
〈魔力操作〉だけは伸びが未だにいいので、そちらの才能はあったのかもしれません。……【寂しい人】だからではないはずです、ええ。
さて、そろそろいきましょう。ステータスを眺めてたら試したいこともできましたし。
◆◇◆
森にはまだスタンピードの爪痕はしっかり残っています。(大爆発の跡とか)しかし魔物の死骸は全て回収済みであり、逃げていただろう魔物の気配もちらほら感じられるようになってきました。とはいえまだまだ少ないので、普段浅い所での採取をメインにしている低ランク冒険者でも中層近くまで行くことができそうです。事実それらしき冒険者たちを見かけました。
今回の目的である〈フルムーンポピー〉は中層の入り口あたりにあるらしいです。
未開地である魔境、『竜魔大樹海』ですが、表層でいきなり災害級のAランクが出てくるわけではありません。稀にBランクが出る程度ですからフルパーティのCランクであればそれほど危険はありません。
これから行く中層でもAランクが出てくるのは稀です。いることはいますが大半はCランクからBランク。スタンピードの頃から比べて魔力はかなり伸びた今なら、例えBランクでも近づけることなく倒せるでしょう。近づかれたら少し苦しいですが、最悪でも死ぬ可能性は少ないと世紀末銀行マンも言っていました。
Aランクは、オーガジェネラルのような人型を除いてまだ無理ですが、逃げるだけなら可能です。私の〈飛行〉より早く飛べる魔物はまだ出ないはずなので、飛んで逃げれば余裕です。
しかし、油断は禁物です。実験を表層でやってから行きましょう。
〈フルムーンポピー〉は『大樹海』では比較的見つけやすい上に期限はまだ先ですから、生き残るための手札を増やすことを優先したいので。
匂いと音に注意しながら森を歩いていると、森の植物や土とは異なる匂いを感じました。
私は慎重に匂いの元へ近づきます。〈隠密〉を発動することも忘れません。
そこにいたのは一頭の大きな熊。体毛は黒く、頭には角が生えています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ホーンベア〉C (健康)
黒い体毛と一本の角をもつ中級下位の熊の魔物。
その豪腕は岩をくだき、その爪は鉄をも引き裂く。その硬く、生半可な剣で傷つけることは難しい。中堅に上がってすぐの冒険者が好んでレザーアーマーの素材にする。
ハチミツが大好物。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホーンベアですか。なにやら辺りを見回していますが、まだ気づかれてはいません。
〈隠密lv1〉でもギリギリ通じたようです。Cランクのようですし、実験には好都合ですね。
隠密状態のまま解体用のナイフを取り出し、左手首の動脈を傷つけます。 流れ出た血は、しかし重力に逆らって宙に浮いています。
そして、その血は私の意思に従って龍を型どり、一角熊《ホーンベア》へと襲い掛かりました。
哀れな熊が自分めがけて飛来する物に気づいた次の瞬間には、真紅の龍はその喉を食い破り絶命させていました。
傷は〈高速再生〉ですぐに塞いでいます。痛みはありましたが、失血死の心配はありません。
私が使ったのは、〈吸血〉。一般的には他の生物の血を吸い、自らの力とする為のスキルです。
スキルの使い方というのは本来本能的に理解するものです。『種族固有スキル』ならなおさらのこと。
そうは言っても限界があります。その深奥は能動的にしか知り得るものではなく、気の遠くなるほどの試行錯誤を繰り返す必要があります。
しかし〈鑑定眼〉によって私はその能力を直接知る、いえ、視ることが出来るようになりました。魔力が上がった為でしょう。つい先ほど気づいた話になります。
そしてその能力とは、[血液操作]。
操れる量や速度、距離は〈吸血〉のレベルに依存します。今のレベルなら一リットルの血液を半径二十メートルの範囲内で操れます。速度は正確にはわかりませんが、そこそこの速さでした。
威力は十分にありますが、わざわざ痛い思いをしてまで使うものではありません。魔法の方が高威力ですし。まあ戦いの中で傷はできるでしょうから、その血を使って不意打ちするという使い方をするくらいでしょうかね。
……いえ、口などから侵入させて内側から攻撃という使い方もありますね。
意外と使えそうですね。練習しておきましょう。
さて、実験はこれくらいにして〈フルムーンポピー〉を取りに行きましょうかね。
ホーンベアの解体はまたにしましょう。この間買った図鑑をまだしっかり読めていないので。
その後私は中層入り口までいき、〈フルムーンポピーの種〉を十ダースと実を適当に採取した後は〈飛行〉を使って返りました。売却高は種が三万L、実が五千Lとなりました。依頼であったことを差し引いても単価は種の方が高いのは需要の差ですかね。
明日は昇格試験ですし、今日は早めに休みましょうか。
……やはりアレはしてから寝ましょう。
さっそくベアルさんにハイオークで何か作ってもらえるようお願いしてみましょう! 今の時間ならまだ夕食の準備もしていないはずです。
「ベアルさん。ちょっといいですか?」
「……ああ」
「この間のスタンピートで手に入ったハイオークの肉で何か作って欲しいんです」
「……いいぞ」
「ありがとうございます! これでお願いします。あまったぶんは他の方に振舞ってあげてください」
「……いいのか?」
「ええ、かなり量がありますからね」
何しろ三メートルもの巨体です。数百キロ単位でありますよ。
「……わかった。明日の夜、作る。こだわる」
「わかりました。楽しみにしてますね」
ほんとうに楽しみですね!
え? 最後の会話?
『こだわりたいから明日の夕食まで待って。他のお客さんの分もまとめて作った方がいいし』って言ってたから『楽しみに待ってる』って答えただけですよ?
ついでにさっきのは機嫌が悪かったとかでは無くてベアルさんが無口なだけです。
◆◇◆
さあギルドへ行きましょう!
今夜はベアルさんこだわりのハイオーク料理ですからね! そりゃ張り切りますよ!
ギルドは多くの冒険者でごった返しています。まだ外は薄暗いというのに皆さん早いですね。
私はたまたま早く目が覚めただけです。ハイオークが楽しみだったからではありませんよ?
この時間ならギリギリいい依頼も残ってますね。
この『〈満月罌粟の種〉の納品』でも受けましょうか。比較的手に入りやすく、一ダースにつき銀貨三枚の報酬です。
〈フルムーンポピーの種〉は〈魔力の種〉とも呼ばれており、〈マナポーション〉の原料となります。
〈マナポーション〉はポーションの一種で、魔力の回復速度を早める効果があります。即効性のある〈ヒーリングポーション〉に比べると使いづらいように思われるかもしれません。しかし、休息状態でさえ魔力の回復は(個人差はありますが)非常に緩やかです。況や、戦闘時をや、です。
スキルで回復を早めるものもありますが、本来スキルはそう簡単にはとれるものではありません。私は例外です。
それに、もしスキルを持っていたとしても無用ではありません。〈マナポーション〉とスキルの効果は重複します。
ちなみにですがこの種をそのまま食べても魔力が一上昇なんてしません。
あとは、そうですね。実が薬として使えるそうなので、そちらも有れば採って帰るべきでしょう。何故か種とは別にあるようです。依頼は見当たりませんが、買い取ってくれるはずです。
あ、薬って麻薬とかのクスリではありませんよ?
確かに罌粟の実はアヘンの原材料になりますが、医薬品としても使われます。モルヒネという鎮痛剤を精製できるのです。
花は満月の夜にしか咲かないので今回は放置ですね。
依頼書を取ってリオラさんのいるカウンターに並びます。そこそこの人数がならんでますが、さすがはサブマス。列が進むのが周りよりも早いです。すぐに私の番がきます。
「おはよう。リオラさん」
「おはようございます。アルジェさん。お待たせしました。この間のスタンピードの貢献度報酬の見積もりが終わりました。アルジェさんへの報酬額は2000万Lですね。白金貨と金貨のどちらがよろしいですか?」
「思ったより多いわね。白金貨でお願い」
「わかりました。アルジェさんは元凶のオーガジェネラルを討伐されてますし、討伐数自体も多いですからね。それで、オーガジェネラルの素材ですが……」
「いらないわ。というか、もらえるの?」
「ですよね。はい、スタンピードでAランク以上が討伐された場合は、討伐者に権利が発生します。そのまま素材として受け取るか、売却額の八割を受け取るか、ですね。残りの二割は手数料やらなんやらです」
「へぇ。まあいいわ。しばらくお金には困らないでしょうし、Aランクの素材じゃあ今の装備は超えられないわ」
リオラさんは私の後ろにもう人がいない事を確認してからつづけます。
「そうですね、せいぜい希少級でしょうか? いえ、せいぜいというのもおかしな話ですね。十分強力ではありますが、比べるものが間違ってます」
そういって苦笑いされてしまいました。私も同感なんですけどね。
伝説になるほどの腕を持った職人に頼めば、秘宝級にはなるかもしれませんが、それでも今のドレスを超えることはありません。
「――はい。こちら貢献度報酬です。ご確認ください」
リオラさんが話しながら準備していた、白金貨二枚が入っているだろう袋を渡してきました。一応確認しましたが、問題ありませんね。
「たしかに受け取ったわ」
「ところで、昇格試験、受けませんか?」
「昇格試験?」
「はい、今回のスタンピートで貢献度が十分なものとなりました。実力のほども問題ありません。むしろランクと合っていない事が問題ですね」
「なるほど、だからさっさとランクを上げて欲しいわけね。いいわ、受けましょう。あ、でもこれどうしようかしら?」
手に持ったままだった依頼表を見せます。
「試験は準備もありますから明日以降になります。今日のところはそちらを受けても問題ありませんよ」
「わかったわ。それじゃあ手続きをお願い」
「はい。試験日程は決まり次第お伝えしますね」
「ええ。よろしくね」
それでは〈フルムーンポピー〉の採取に行きましょうか。
◆◇◆
先にステータスを確認しておきましょうか。あの戦いからまだ一度も見ていません。
魂の定着率が五十パーセントになったのは『世界の声』が聞こえたので知っていますが、ステータスはどうなったでしょうね。
「ステータス!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ステータス>
名前:アルジュエロ /F
種族:吸血族(人族)
年齢:18
スキル:
《身体スキル》
鑑定眼 言語適正 (魔力視) (神聖属性適性)→光属性適性 吸血lv5 高速再生lv6(1up) 大剣lv6(1up) 淫乱lv4 威圧lv3 魅了lv2 隠密lv1 解体lv2(new)
《魔法スキル》
ストレージ 創翼lv6 飛行lv4 魔力操作lv8(1up) 火魔導lv4 水魔導lv6 土魔導lv4 風魔導lv6 光魔導lv5 闇魔導lv5(1up) 隠蔽lv MAX 身体強化“魔”lv4(new)
称号:(転生者) 吸血族の真祖 (12/10^16の奇跡) 強き魂 (魔性の女) (副王の加護) 寂しい人 うっかり屋
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いくつかのスキルが上がってます。新しいスキルもありますね。
〈解体〉は先日とったものですね。これは既に紹介済みです。
〈身体強化“魔”〉はオーガジェネラル戦の時に使った全身に魔力を纏う奴のことでしょう。最後になかなか無茶をしたので既にlv4になっています。“魔”となっていますから、おそらく《身体スキル》ver.もあるのでしょう。
しかし、lv5を越えてからはさすがに上がりづらくなってきましたね。これはかなり早いペースになる筈なんですが、私みたいにズルせずにlv10まで上げる人ってどんなセンスしてるんでしょうね?
〈魔力操作〉だけは伸びが未だにいいので、そちらの才能はあったのかもしれません。……【寂しい人】だからではないはずです、ええ。
さて、そろそろいきましょう。ステータスを眺めてたら試したいこともできましたし。
◆◇◆
森にはまだスタンピードの爪痕はしっかり残っています。(大爆発の跡とか)しかし魔物の死骸は全て回収済みであり、逃げていただろう魔物の気配もちらほら感じられるようになってきました。とはいえまだまだ少ないので、普段浅い所での採取をメインにしている低ランク冒険者でも中層近くまで行くことができそうです。事実それらしき冒険者たちを見かけました。
今回の目的である〈フルムーンポピー〉は中層の入り口あたりにあるらしいです。
未開地である魔境、『竜魔大樹海』ですが、表層でいきなり災害級のAランクが出てくるわけではありません。稀にBランクが出る程度ですからフルパーティのCランクであればそれほど危険はありません。
これから行く中層でもAランクが出てくるのは稀です。いることはいますが大半はCランクからBランク。スタンピードの頃から比べて魔力はかなり伸びた今なら、例えBランクでも近づけることなく倒せるでしょう。近づかれたら少し苦しいですが、最悪でも死ぬ可能性は少ないと世紀末銀行マンも言っていました。
Aランクは、オーガジェネラルのような人型を除いてまだ無理ですが、逃げるだけなら可能です。私の〈飛行〉より早く飛べる魔物はまだ出ないはずなので、飛んで逃げれば余裕です。
しかし、油断は禁物です。実験を表層でやってから行きましょう。
〈フルムーンポピー〉は『大樹海』では比較的見つけやすい上に期限はまだ先ですから、生き残るための手札を増やすことを優先したいので。
匂いと音に注意しながら森を歩いていると、森の植物や土とは異なる匂いを感じました。
私は慎重に匂いの元へ近づきます。〈隠密〉を発動することも忘れません。
そこにいたのは一頭の大きな熊。体毛は黒く、頭には角が生えています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ホーンベア〉C (健康)
黒い体毛と一本の角をもつ中級下位の熊の魔物。
その豪腕は岩をくだき、その爪は鉄をも引き裂く。その硬く、生半可な剣で傷つけることは難しい。中堅に上がってすぐの冒険者が好んでレザーアーマーの素材にする。
ハチミツが大好物。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホーンベアですか。なにやら辺りを見回していますが、まだ気づかれてはいません。
〈隠密lv1〉でもギリギリ通じたようです。Cランクのようですし、実験には好都合ですね。
隠密状態のまま解体用のナイフを取り出し、左手首の動脈を傷つけます。 流れ出た血は、しかし重力に逆らって宙に浮いています。
そして、その血は私の意思に従って龍を型どり、一角熊《ホーンベア》へと襲い掛かりました。
哀れな熊が自分めがけて飛来する物に気づいた次の瞬間には、真紅の龍はその喉を食い破り絶命させていました。
傷は〈高速再生〉ですぐに塞いでいます。痛みはありましたが、失血死の心配はありません。
私が使ったのは、〈吸血〉。一般的には他の生物の血を吸い、自らの力とする為のスキルです。
スキルの使い方というのは本来本能的に理解するものです。『種族固有スキル』ならなおさらのこと。
そうは言っても限界があります。その深奥は能動的にしか知り得るものではなく、気の遠くなるほどの試行錯誤を繰り返す必要があります。
しかし〈鑑定眼〉によって私はその能力を直接知る、いえ、視ることが出来るようになりました。魔力が上がった為でしょう。つい先ほど気づいた話になります。
そしてその能力とは、[血液操作]。
操れる量や速度、距離は〈吸血〉のレベルに依存します。今のレベルなら一リットルの血液を半径二十メートルの範囲内で操れます。速度は正確にはわかりませんが、そこそこの速さでした。
威力は十分にありますが、わざわざ痛い思いをしてまで使うものではありません。魔法の方が高威力ですし。まあ戦いの中で傷はできるでしょうから、その血を使って不意打ちするという使い方をするくらいでしょうかね。
……いえ、口などから侵入させて内側から攻撃という使い方もありますね。
意外と使えそうですね。練習しておきましょう。
さて、実験はこれくらいにして〈フルムーンポピー〉を取りに行きましょうかね。
ホーンベアの解体はまたにしましょう。この間買った図鑑をまだしっかり読めていないので。
その後私は中層入り口までいき、〈フルムーンポピーの種〉を十ダースと実を適当に採取した後は〈飛行〉を使って返りました。売却高は種が三万L、実が五千Lとなりました。依頼であったことを差し引いても単価は種の方が高いのは需要の差ですかね。
明日は昇格試験ですし、今日は早めに休みましょうか。
……やはりアレはしてから寝ましょう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる