22 / 145
第2章 千の時を共に
第10話 お買い物
しおりを挟む
2-10
昨日はブランに魔法について教えました。あの広場のあたりなら魔物はほぼ出ませんし、武器を選ぶのと適正をみる前に色々知っておいて欲しかったので。
適正、つまりはどの属性の性質を扱かうのが得意か調べるのにはいくつか方法があります。
一般的なのは得意な魔法系統を調べるのに使う魔道具で確かめる方法と、〈生活魔法〉という特殊魔法の[水生成]と〈魔力察知〉を使って確かめる方法ですね。
前者は、そもそも使い方を間違っている物を正しく使うというだけです。その魔道具は大体色を使って判断するのですが、その色は魔法系統の適正ではなくその属性への適正です。これに〈鑑定〉を使う方法が一般には一番確実です。
後者は、水を生成するときの方法を〈魔力察知〉で分析する力技です。どの属性でも結局魔力を使用するからできる方法ですね。
魔力から直接変換されているなら風属性、周囲から熱を奪って、作用している部分と違う部分を凝縮させているなら火属性。作用している部分を凝縮させているなら水属性。
空気中の細かな水滴を集めているなら土属性といった感じです。
光と火、闇と水を見分けるのは簡単です。後者が連続的に増減するのに対して、前者はコマ送りのように変化しますから。
これらの行われる割合を感覚で調べますので、相手が無知の方が良いです。
ちなみに、このやり方から分かるように火属性は効率が悪いです。逆に一番いいのは風属性だったり。
……そういえば上位の冒険者は基本魔力がわかるって世紀末銀行マンがいってましたね。まあ流石に低レベルではできませんが。知識と経験も必要です。
とまあ色々説明しましたが、私は〈魔力視〉と〈鑑定眼〉を使って調べます。
直接本人の魔力を見てできるので、どうしてもロスのできる魔道具を通すより正確にわかります。
で、肝心の結果ですが、ブランは火属性は苦手なようです。得意なのは光属性と水属性。闇と風はそこそこ。土は平均的、といった所ですね。
獣人は一部を除いて魔力が少なく魔力の放出が苦手な種族です。
ブランが〈結界魔法〉を扱えるのはおそらく称号のおかげでしょう。この魔法で火属性を用いるのは[攻勢結界]と呼ばれる類のもののみ。
これなら火属性が苦手なのは何の問題もありません。
私のようにいきなり魔導に辿り着かなければある程度魔法スキルのレベルを上げる必要があります。出来れば〈結界魔導〉まで進化させてほしいので、早いうちから本質を理解して魔法を使用してもらうことが大事なんです。本質を理解しなければ魔導スキルはレベル5より上にはあがらないらしいですし。
昨日の報告はこんなものでしょう。
今朝は武具屋へ向かってます。
私の〈物質錬成〉ではまだまだ腕の良い職人の物には及びません。
これから行くところはリオラさんに聞きました。私はいい所なんて知らないので。間違いないはずです。
◆◇◆
「そのドレスよりいいもんなんてウチにはないぞ」
店に入ってすぐ聞こえた言葉です。やはり間違いはありませんでしたね。
「流石ね。リオラさんが紹介するだけのことはあるわ」
最高レベルの隠蔽です。鑑定ではなく職人としての“眼”でしょう。
「大丈夫よ。今日欲しいのはこの子のだから。種類は問わないから、合いそうなの見繕ってくれる?」
「よろしく、お願い、します……」
「ふんっ、リオラの紹介か」
それだけ言って目の前の髭もじゃで背の低い男はブランをジロジロ眺めます。
「っ!」
ブランはビクッとしますが、何をされているかはわかっているようです。緊張しながらも私の後ろへ逃げるのを我慢しています。
「……待ってろ」
物語で見るように如何にもな頑固オヤジは店の奥へといってしまいました。
暇なのでその辺の武器を鑑定でもしてましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈鋼の長剣〉 高級 (良)
リムリアの鍛治師ダンの作。
数打ちだが、その辺の鋼製長剣では比較にならない性能をもつ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、たしかにいい腕をしているようです。
しかしリオラさんが紹介する程とは思えません。
そう思って辺りを見渡すと、いかにも数打ちですって感じで樽に無造作に入れれている武器に目が止まりました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ミスリルソード〉 希少(最良)
リムリアの鍛治師ダンの作。
高純度のミスリルから鍛えられた一品。
その剣身は実体のないものすら両断し、魔力との高い親和性をもつ。
[切れ味増(中)][魔撃]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
他の樽には魔鉄製(魔力を多く含んで変質した鉄)で特殊級の武器もありました。
普通自身作を並べるような所に数打ちを置いて安物に高質な物を仕込んでるんですよ。ご丁寧に軽い隠蔽までかけて。
職人として自分の子を売る相手を試してるんですかね。
「やはり気づいたか」
なんて考え事しながら妖精銀の長剣を眺めていたら、いつのまにかダンが戻ってきていたようです。
「ええ。リオラさんが勧める筈だわ。魔鉄とか妖精銀って扱いが難しいんでしょう?それを一つ上のランクに仕上げるなんて」
「ワシら一人前のドワーフなら当然だ」
「わざわざ隠蔽までかけてこんな所に置いてるのは、客を試してるのかしら?」
「ヒトには身の丈にあった武器というものがある。そういうことだ」
まあ武器に頼っているようでは成長しませんね。……私はちゃんと技術もありますからね?
「動きや筋肉のつきかたからスピードと手数で戦うタイプと判断した」
そういってそのドワーフが並べたのはやや短めの長剣が二本に細剣、手甲、短剣、そして、小太刀。全て妖精銀です。
「こっちの長剣は双剣として調整してあるが、その嬢ちゃんの体格なら一本でちょうどいいくらいだろう。細剣は[吸血]が付与してある。失血させて体力を奪うための武器だ。手甲は魔力も通るが気をよりよく通す。自身への衝撃は反射する付与をして相手への衝撃も逃がさない構造だ。短剣は任意の魔法毒を生成できる。あと投擲にも対応できるようにしてある。まあ暗器だな。メインにするものではない。この刀は、小太刀という種類のものだが……わかるか? ……そうか。コイツは芯を魔鉄との合金にした。よくしなるぞ。刀は斬れ味はいいが、そのままじゃあ魔物相手の連戦持久戦には向いていない。脂でせっかくの斬れ味がすぐ鈍っちまう。基本は対人間、戦争に使うもんだ。魔物相手に使うときは[洗浄]をかけながら使うのが普通で冒険者向きとは言えん。普通に付与して許容量も圧迫する。コイツは素材段階で[洗浄]を付与したから許容量はまるまる空いている。その分値段ははるが、冒険者として使うに足るはずだ。こんなところだな。ああ、他のどれもまだ付与する余地はあるぞ」
「付与はとりあえずいいわ。ブラン、あなたが一番惹かれる武器を選びなさい」
「うん」
ブランは迷わず小太刀を手に取りました。この子なら、ちゃんと聞いていた上での判断だと思います。〈結界魔法〉もありますし、狼人族の高い俊敏性を活かすなら刀の引いて斬る構造はベターでしょう。
魔法アタッカーでもある私は盾にもなる大剣持ちで近接ができるのでタンクになる必要もありませんし。
ふむ、良いのではないでしょうか。何より刀なら私が教えられます。他は、暗器はともかく、齧った程度なので。向こうの妹なら双剣がいけるのですが……。
「それにするのね。[洗浄]があるみたいだけど、手入れは怠ってはだめよ? 扱い方も含めて教えてあげるから」
「うんっ!」
「お前さんは刀も使えるのか。確か大剣を使うってきいたが?」
「元はそっちよ。あれも一応刀のように使えるし。ああそうだ。この刀と打ち合えるような剣も貰えない? この子の訓練に使いたいのだけれど」
「そうだな、指導で使うなら刃を潰した長剣がいいか?」
「そうね、どちらかと言えばだけどれど、刀は受け止めるのには向かないしね。あと、この子の練習用に数打ちの刀が欲しいわ。小太刀と打刀で。打刀は1本でいいから。ミスリルならそう簡単には折れないでしょうけど、変な癖がついたら困るし」
「わかった。そうだな、その壁にかかってる長剣と……そこの樽に入ってる打刀、そう、それだ。それとそっちの小太刀をとってくれるか」
言われた通りの物を渡すと、ダンは調整するといって持ってきた武器と今渡した剣を持って奥へいきました。
ブランに重心とか確認させなくていいのかっていう話なら問題ありません。
彼の眼は確かなようですし、そもそもブランにはまだわからないでしょう。
ブランに手入れの仕方を教えながら待つこと10分ほど、ダンがもどってきました。
「待たせたな。 まず、嬢ちゃんの刀。銘は『白梅』他練習用鉄製の数打ちの小太刀三本と打刀一本。それから刃を潰した長剣、鋼製。締めて、1070万Lだ」
「はい、確認してちょうだい」
「せ、1070万L……!」
ブランが目を剥いていますね。
この刀はミスリル製で希少級。追加の付与によっては秘宝級にも迫るであろう一振りです。そのくらいして当然です。
「付与するなら来な。やってやる」
「そのときはね」
まあ自分でしますが。
◆◇◆
続いて向かったのは防具屋。ダムの店でも金属鎧は扱ってますが、ブランには向きません。
インナーくらいなら〈物質錬成〉で十分ですから、その上に着る物を探します。十分というか、残りのお金で買える範囲だと〈物質錬成〉で作った方がマシなんですよね。
そして着いたのは先ほどと同じくリオラさん紹介のお店。皮などの軽装専門店らしいです。
「あ~ら、いらっしゃ~い。可愛いお客さんが来てくれたね」
「間違えましたっ!」
速攻Uターンです。
あれ? ここの職人さんってアンジェリカって名前のエルフって聞いてたんですが?
(ちらっ…バッ!)
彼女(?)の容姿について語りましょう。
そのエルフ特有の美しい金髪は後ろで結ばれており、切れ長の目、高い鼻で西洋風の化粧ばっちりの美形です。
品のいいデザインのワンピースを押し上げるのは大きく発達した胸筋。
腕はたくましく、『鬼人族』であるギンにもひけをとりません。
ワンピースの下に覗くのは固く引き締まりボコッと膨らむ腓腹筋。すね毛付き。
アレはなんでしょう?
首から上は確かに中性的なエルフです。
首から下は……『鬼神の系譜』と言われても納得しますよ? エルフと言えばもやしですよ? というかそもそも男ですよね? 足と足の付け根あたりに膨らみがありましたよ?
あれですか? アレは漢女ですか? 美形のゴリゴリ漢女?
……これはブランの教育に良くないのでは? 偏見?
いや、しかし、リオラさんの紹介ですし……。冒涜的でないだけマシ?
いえね? 私自身漢女に忌避感はそこまで無いんですよ。ただトラウマが、あると言う、だけでして……。
「? 姉様どうしたの? やめるの?」
「い、いえ。行くわ。大丈夫。……やっぱりちょっとだけ心の準備をさせて。(さっきのはアレじゃないさっきのはアレじゃないさっきのはアレじゃない…………)」
「まだ?」
「も、もういいわ。いい? いくわよ!」
「あ~ら。もどって来てくれたのねぇ。今日はどんなご用かしら~? あなた、は違うようね。そっちの子ね?」
「うん。あの、軽くて丈夫な防具がほしい、です」
……あれ?ブランが気を許してる?
「お予算はどれくらいかしら?」
「え、ええ予算ね、予算。とりあえず白金貨一枚でお願い。多少足が出るのは構わないわ」
「了~解。そうねぇ。これなんてど~お? なんでも昔召喚された勇者っていうのが伝えたものらしいんだけどぉ?」
そう言って見せられたのは、どう見ても忍び装束。所々アレンジは加わっていますが。その“召喚された勇者”とやらは、日本人かはわかりませんが地球出身でしょう。もしかしたら別に似たような世界はあるかもですけど。 しかし、白髪のブランに似合いますかね? 『白梅』にはピッタリなんですけど。(艶消しはしてあります。白いけど)
「『大樹海』中層でも奥の方にいる〈アサシンスパイダー〉の糸に[耐毒]を付与して編んだ生地で作ったの。[認識阻害]がついてるわぁ。あとは妖精銀を裏地に縫いこんであるの。魔法陣をかたどってみたら[最適化]を付与せずつけられたわん。妖精銀だから魔法防御までバッチリよ!」
やはりこの人がアンジェリカさんで間違いないんですね。はぁ……。
しかし、やはり腕は本物です。
〈アサシンスパイダー〉はAランクの魔物で、素材として見れば同じAランクの〈オーガジェネラル〉より遥かに上質です。その分扱いは難しいのですが、毒関係の付与と相性がよく、上手く生地に出来れば単独で[認識阻害]が付きます。
また、ミスリルを魔法陣として縫い込んだということは魔導工学の知識もあるということです。まあそちらは(一応)エルフですから然もありなん。付与の内容はメチャクチャ高度なものですけどね。
その高度な付与である[最適化]は色々まとめたものです。[環境適応]と[サイズ自動調整]、[健康維持]、[適応進化]ですね。要はどんな環境でも快適で、サイズが勝手にあわさって、状態異常もなんのその、問題があれば防具がある程度は進化して対応しちゃいますよっていうチート並みのものなんです。……なんでこの人裁縫師してるんでしょうね? 魔道具技師の方が儲かるのに。
「買ってくれるならこっちの鎖帷子もつけちゃうわ! そっちのは物理防御が少し心許ないから、妖精銀にいくつか触媒を加えて衝撃を吸収しやすくしたの」
「その忍び装束だけでも予算を軽く超えるわよ……。いいの?」
説明を聞いてる途中からあまり彼女の諸々が気にならなくなって来ました。装備の方がやばかったので……。白金貨一枚じゃ足りません。少なくとも三倍はするはず。
ブランなんか目を回してアワアワしてますよ? 可愛い。
「いいのよ~! 貴方達すっごく可愛いから! その代わり、また来てちょうだいね?」
「ふふ、ならありがたくいただくわ。まあこんなの貰ったらしばらく来る必要はなさそうだけどね」
「貴方達ならすぐもっと上が必要になるわよ」
「もっと上って上位竜とでもやり合うっていうの?
まあいいわ。それじゃあまた宜しくね」
「ええ、またいらっしゃい」
私はともかく、ブランはまだまだ先でしょうけどね。
まあ満足です。忍び装束も案外似合って可愛かったですし!
それにしても、私の装備一式にはどんな効果がついてるんでしょうね? まだみれないんですよね。 秘宝級なら見れるようになったんですが……。
「強くならなきゃダメよ? 運命を変えるのはあなたたち。私にできるのはそれぐらいだからねん」
昨日はブランに魔法について教えました。あの広場のあたりなら魔物はほぼ出ませんし、武器を選ぶのと適正をみる前に色々知っておいて欲しかったので。
適正、つまりはどの属性の性質を扱かうのが得意か調べるのにはいくつか方法があります。
一般的なのは得意な魔法系統を調べるのに使う魔道具で確かめる方法と、〈生活魔法〉という特殊魔法の[水生成]と〈魔力察知〉を使って確かめる方法ですね。
前者は、そもそも使い方を間違っている物を正しく使うというだけです。その魔道具は大体色を使って判断するのですが、その色は魔法系統の適正ではなくその属性への適正です。これに〈鑑定〉を使う方法が一般には一番確実です。
後者は、水を生成するときの方法を〈魔力察知〉で分析する力技です。どの属性でも結局魔力を使用するからできる方法ですね。
魔力から直接変換されているなら風属性、周囲から熱を奪って、作用している部分と違う部分を凝縮させているなら火属性。作用している部分を凝縮させているなら水属性。
空気中の細かな水滴を集めているなら土属性といった感じです。
光と火、闇と水を見分けるのは簡単です。後者が連続的に増減するのに対して、前者はコマ送りのように変化しますから。
これらの行われる割合を感覚で調べますので、相手が無知の方が良いです。
ちなみに、このやり方から分かるように火属性は効率が悪いです。逆に一番いいのは風属性だったり。
……そういえば上位の冒険者は基本魔力がわかるって世紀末銀行マンがいってましたね。まあ流石に低レベルではできませんが。知識と経験も必要です。
とまあ色々説明しましたが、私は〈魔力視〉と〈鑑定眼〉を使って調べます。
直接本人の魔力を見てできるので、どうしてもロスのできる魔道具を通すより正確にわかります。
で、肝心の結果ですが、ブランは火属性は苦手なようです。得意なのは光属性と水属性。闇と風はそこそこ。土は平均的、といった所ですね。
獣人は一部を除いて魔力が少なく魔力の放出が苦手な種族です。
ブランが〈結界魔法〉を扱えるのはおそらく称号のおかげでしょう。この魔法で火属性を用いるのは[攻勢結界]と呼ばれる類のもののみ。
これなら火属性が苦手なのは何の問題もありません。
私のようにいきなり魔導に辿り着かなければある程度魔法スキルのレベルを上げる必要があります。出来れば〈結界魔導〉まで進化させてほしいので、早いうちから本質を理解して魔法を使用してもらうことが大事なんです。本質を理解しなければ魔導スキルはレベル5より上にはあがらないらしいですし。
昨日の報告はこんなものでしょう。
今朝は武具屋へ向かってます。
私の〈物質錬成〉ではまだまだ腕の良い職人の物には及びません。
これから行くところはリオラさんに聞きました。私はいい所なんて知らないので。間違いないはずです。
◆◇◆
「そのドレスよりいいもんなんてウチにはないぞ」
店に入ってすぐ聞こえた言葉です。やはり間違いはありませんでしたね。
「流石ね。リオラさんが紹介するだけのことはあるわ」
最高レベルの隠蔽です。鑑定ではなく職人としての“眼”でしょう。
「大丈夫よ。今日欲しいのはこの子のだから。種類は問わないから、合いそうなの見繕ってくれる?」
「よろしく、お願い、します……」
「ふんっ、リオラの紹介か」
それだけ言って目の前の髭もじゃで背の低い男はブランをジロジロ眺めます。
「っ!」
ブランはビクッとしますが、何をされているかはわかっているようです。緊張しながらも私の後ろへ逃げるのを我慢しています。
「……待ってろ」
物語で見るように如何にもな頑固オヤジは店の奥へといってしまいました。
暇なのでその辺の武器を鑑定でもしてましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈鋼の長剣〉 高級 (良)
リムリアの鍛治師ダンの作。
数打ちだが、その辺の鋼製長剣では比較にならない性能をもつ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、たしかにいい腕をしているようです。
しかしリオラさんが紹介する程とは思えません。
そう思って辺りを見渡すと、いかにも数打ちですって感じで樽に無造作に入れれている武器に目が止まりました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ミスリルソード〉 希少(最良)
リムリアの鍛治師ダンの作。
高純度のミスリルから鍛えられた一品。
その剣身は実体のないものすら両断し、魔力との高い親和性をもつ。
[切れ味増(中)][魔撃]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
他の樽には魔鉄製(魔力を多く含んで変質した鉄)で特殊級の武器もありました。
普通自身作を並べるような所に数打ちを置いて安物に高質な物を仕込んでるんですよ。ご丁寧に軽い隠蔽までかけて。
職人として自分の子を売る相手を試してるんですかね。
「やはり気づいたか」
なんて考え事しながら妖精銀の長剣を眺めていたら、いつのまにかダンが戻ってきていたようです。
「ええ。リオラさんが勧める筈だわ。魔鉄とか妖精銀って扱いが難しいんでしょう?それを一つ上のランクに仕上げるなんて」
「ワシら一人前のドワーフなら当然だ」
「わざわざ隠蔽までかけてこんな所に置いてるのは、客を試してるのかしら?」
「ヒトには身の丈にあった武器というものがある。そういうことだ」
まあ武器に頼っているようでは成長しませんね。……私はちゃんと技術もありますからね?
「動きや筋肉のつきかたからスピードと手数で戦うタイプと判断した」
そういってそのドワーフが並べたのはやや短めの長剣が二本に細剣、手甲、短剣、そして、小太刀。全て妖精銀です。
「こっちの長剣は双剣として調整してあるが、その嬢ちゃんの体格なら一本でちょうどいいくらいだろう。細剣は[吸血]が付与してある。失血させて体力を奪うための武器だ。手甲は魔力も通るが気をよりよく通す。自身への衝撃は反射する付与をして相手への衝撃も逃がさない構造だ。短剣は任意の魔法毒を生成できる。あと投擲にも対応できるようにしてある。まあ暗器だな。メインにするものではない。この刀は、小太刀という種類のものだが……わかるか? ……そうか。コイツは芯を魔鉄との合金にした。よくしなるぞ。刀は斬れ味はいいが、そのままじゃあ魔物相手の連戦持久戦には向いていない。脂でせっかくの斬れ味がすぐ鈍っちまう。基本は対人間、戦争に使うもんだ。魔物相手に使うときは[洗浄]をかけながら使うのが普通で冒険者向きとは言えん。普通に付与して許容量も圧迫する。コイツは素材段階で[洗浄]を付与したから許容量はまるまる空いている。その分値段ははるが、冒険者として使うに足るはずだ。こんなところだな。ああ、他のどれもまだ付与する余地はあるぞ」
「付与はとりあえずいいわ。ブラン、あなたが一番惹かれる武器を選びなさい」
「うん」
ブランは迷わず小太刀を手に取りました。この子なら、ちゃんと聞いていた上での判断だと思います。〈結界魔法〉もありますし、狼人族の高い俊敏性を活かすなら刀の引いて斬る構造はベターでしょう。
魔法アタッカーでもある私は盾にもなる大剣持ちで近接ができるのでタンクになる必要もありませんし。
ふむ、良いのではないでしょうか。何より刀なら私が教えられます。他は、暗器はともかく、齧った程度なので。向こうの妹なら双剣がいけるのですが……。
「それにするのね。[洗浄]があるみたいだけど、手入れは怠ってはだめよ? 扱い方も含めて教えてあげるから」
「うんっ!」
「お前さんは刀も使えるのか。確か大剣を使うってきいたが?」
「元はそっちよ。あれも一応刀のように使えるし。ああそうだ。この刀と打ち合えるような剣も貰えない? この子の訓練に使いたいのだけれど」
「そうだな、指導で使うなら刃を潰した長剣がいいか?」
「そうね、どちらかと言えばだけどれど、刀は受け止めるのには向かないしね。あと、この子の練習用に数打ちの刀が欲しいわ。小太刀と打刀で。打刀は1本でいいから。ミスリルならそう簡単には折れないでしょうけど、変な癖がついたら困るし」
「わかった。そうだな、その壁にかかってる長剣と……そこの樽に入ってる打刀、そう、それだ。それとそっちの小太刀をとってくれるか」
言われた通りの物を渡すと、ダンは調整するといって持ってきた武器と今渡した剣を持って奥へいきました。
ブランに重心とか確認させなくていいのかっていう話なら問題ありません。
彼の眼は確かなようですし、そもそもブランにはまだわからないでしょう。
ブランに手入れの仕方を教えながら待つこと10分ほど、ダンがもどってきました。
「待たせたな。 まず、嬢ちゃんの刀。銘は『白梅』他練習用鉄製の数打ちの小太刀三本と打刀一本。それから刃を潰した長剣、鋼製。締めて、1070万Lだ」
「はい、確認してちょうだい」
「せ、1070万L……!」
ブランが目を剥いていますね。
この刀はミスリル製で希少級。追加の付与によっては秘宝級にも迫るであろう一振りです。そのくらいして当然です。
「付与するなら来な。やってやる」
「そのときはね」
まあ自分でしますが。
◆◇◆
続いて向かったのは防具屋。ダムの店でも金属鎧は扱ってますが、ブランには向きません。
インナーくらいなら〈物質錬成〉で十分ですから、その上に着る物を探します。十分というか、残りのお金で買える範囲だと〈物質錬成〉で作った方がマシなんですよね。
そして着いたのは先ほどと同じくリオラさん紹介のお店。皮などの軽装専門店らしいです。
「あ~ら、いらっしゃ~い。可愛いお客さんが来てくれたね」
「間違えましたっ!」
速攻Uターンです。
あれ? ここの職人さんってアンジェリカって名前のエルフって聞いてたんですが?
(ちらっ…バッ!)
彼女(?)の容姿について語りましょう。
そのエルフ特有の美しい金髪は後ろで結ばれており、切れ長の目、高い鼻で西洋風の化粧ばっちりの美形です。
品のいいデザインのワンピースを押し上げるのは大きく発達した胸筋。
腕はたくましく、『鬼人族』であるギンにもひけをとりません。
ワンピースの下に覗くのは固く引き締まりボコッと膨らむ腓腹筋。すね毛付き。
アレはなんでしょう?
首から上は確かに中性的なエルフです。
首から下は……『鬼神の系譜』と言われても納得しますよ? エルフと言えばもやしですよ? というかそもそも男ですよね? 足と足の付け根あたりに膨らみがありましたよ?
あれですか? アレは漢女ですか? 美形のゴリゴリ漢女?
……これはブランの教育に良くないのでは? 偏見?
いや、しかし、リオラさんの紹介ですし……。冒涜的でないだけマシ?
いえね? 私自身漢女に忌避感はそこまで無いんですよ。ただトラウマが、あると言う、だけでして……。
「? 姉様どうしたの? やめるの?」
「い、いえ。行くわ。大丈夫。……やっぱりちょっとだけ心の準備をさせて。(さっきのはアレじゃないさっきのはアレじゃないさっきのはアレじゃない…………)」
「まだ?」
「も、もういいわ。いい? いくわよ!」
「あ~ら。もどって来てくれたのねぇ。今日はどんなご用かしら~? あなた、は違うようね。そっちの子ね?」
「うん。あの、軽くて丈夫な防具がほしい、です」
……あれ?ブランが気を許してる?
「お予算はどれくらいかしら?」
「え、ええ予算ね、予算。とりあえず白金貨一枚でお願い。多少足が出るのは構わないわ」
「了~解。そうねぇ。これなんてど~お? なんでも昔召喚された勇者っていうのが伝えたものらしいんだけどぉ?」
そう言って見せられたのは、どう見ても忍び装束。所々アレンジは加わっていますが。その“召喚された勇者”とやらは、日本人かはわかりませんが地球出身でしょう。もしかしたら別に似たような世界はあるかもですけど。 しかし、白髪のブランに似合いますかね? 『白梅』にはピッタリなんですけど。(艶消しはしてあります。白いけど)
「『大樹海』中層でも奥の方にいる〈アサシンスパイダー〉の糸に[耐毒]を付与して編んだ生地で作ったの。[認識阻害]がついてるわぁ。あとは妖精銀を裏地に縫いこんであるの。魔法陣をかたどってみたら[最適化]を付与せずつけられたわん。妖精銀だから魔法防御までバッチリよ!」
やはりこの人がアンジェリカさんで間違いないんですね。はぁ……。
しかし、やはり腕は本物です。
〈アサシンスパイダー〉はAランクの魔物で、素材として見れば同じAランクの〈オーガジェネラル〉より遥かに上質です。その分扱いは難しいのですが、毒関係の付与と相性がよく、上手く生地に出来れば単独で[認識阻害]が付きます。
また、ミスリルを魔法陣として縫い込んだということは魔導工学の知識もあるということです。まあそちらは(一応)エルフですから然もありなん。付与の内容はメチャクチャ高度なものですけどね。
その高度な付与である[最適化]は色々まとめたものです。[環境適応]と[サイズ自動調整]、[健康維持]、[適応進化]ですね。要はどんな環境でも快適で、サイズが勝手にあわさって、状態異常もなんのその、問題があれば防具がある程度は進化して対応しちゃいますよっていうチート並みのものなんです。……なんでこの人裁縫師してるんでしょうね? 魔道具技師の方が儲かるのに。
「買ってくれるならこっちの鎖帷子もつけちゃうわ! そっちのは物理防御が少し心許ないから、妖精銀にいくつか触媒を加えて衝撃を吸収しやすくしたの」
「その忍び装束だけでも予算を軽く超えるわよ……。いいの?」
説明を聞いてる途中からあまり彼女の諸々が気にならなくなって来ました。装備の方がやばかったので……。白金貨一枚じゃ足りません。少なくとも三倍はするはず。
ブランなんか目を回してアワアワしてますよ? 可愛い。
「いいのよ~! 貴方達すっごく可愛いから! その代わり、また来てちょうだいね?」
「ふふ、ならありがたくいただくわ。まあこんなの貰ったらしばらく来る必要はなさそうだけどね」
「貴方達ならすぐもっと上が必要になるわよ」
「もっと上って上位竜とでもやり合うっていうの?
まあいいわ。それじゃあまた宜しくね」
「ええ、またいらっしゃい」
私はともかく、ブランはまだまだ先でしょうけどね。
まあ満足です。忍び装束も案外似合って可愛かったですし!
それにしても、私の装備一式にはどんな効果がついてるんでしょうね? まだみれないんですよね。 秘宝級なら見れるようになったんですが……。
「強くならなきゃダメよ? 運命を変えるのはあなたたち。私にできるのはそれぐらいだからねん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる