12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第2章 千の時を共に

第17話 “気”

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2-17
「凄いです、アルジュエロ様!お父様は冒険者で言うAランクの実力があるんですよ!」

 興奮冷めやらぬといった感じでリリが私の手を取って言います。?を赤らめながら言う姿は非常に可愛らしいのですが……。

「わかったから、ちょっと離れてちょうだい。近すぎるわ」
「あ、ごめんなさい。私ったら…」

 自分が接吻でもするのかといったほどに顔を近づけていたことに気づき、慌てて離れ、さらに赤くなった顔をうつむかせます。恥ずかしがっているからでしょう。

「ありがと。それと、アルジェでいいわ」
「え?」
「対等、なんでしょう?」
「はい! アルジェお姉様!」

 一転、輝かんばかりの笑顔。表情の変化が少しわかりづらい(らしい)ブランとは対照的にコロコロとそれを変えるリリです。この子、可愛いですね。……アルジェの後には何も付いていません。気のせいです。例え百合リリィという名前だとしても。だからそろそろ手を離してくれませんかね?
いや、ブランもむぅ、なんて唸っていないで。そしてローズとレオン様はそのニヤニヤ笑いを辞めなさい!


◆◇◆
 一夜が明けました。昨日はあのあと宿を引き払ってしまいました。もう必要ありませんからね。メルちゃんには泣きつかれましたが、同じ街に住むわけですし、またご飯を食べに来るといったら渋々離してくれましたよ。

 そうそう、お知らせもあるんですよ。それが嬉しいかどうかという意味だと、微妙? なんですが。
 昨日買った魔導書、あったじゃないですか。
 ーーえ?忘れた? ……それらを夜読んでたら、なんと! ……スルーしたのは謝りますから続けさせてください。
 なんと! 〈死霊魔導〉を覚えました!
 正直、使いません。吸血鬼っぽいと言えばそうですが、一応禁術ですからね? それも世界的に禁じられている。外聞悪すぎです。
 まあ、屋敷の使用人としては使えるかもしれないですが……。

 報告はそのくらいですね。
 家具なんかは揃えてくれていたので今日は依頼を受けに行く予定ですが、その前に“気”を習得したいと思いまして。
 〈鑑定眼〉を駆使して情報を集め、屋敷の敷地内にある修練場に来たのが一の鐘がなる直前です。まだそれほど時間は経っていません。

 調べた内容によると、どうも前世で知られていたものと大差ないようです。私の使う刀術でも意識することのあるものなので、それほど習得に時間はかからないと思います。というか、今思えばジジイの謎体術は気によるものだったのでしょう。でないと人間が水の上に立って静止出来るはずがありませんし、滝を剣圧で割るなんて出来ません! ……何故当時の私はアッサリ受け入れたんでしょう?

 ともかく、下地はあるはずです。
 
 さて、話している間に準備は整いました。今回は精神統一、所謂瞑想による“気”の循環操作を試してみることにしました。
 いくつかある方法の中からコレを選んだ理由は、まず安全だから。いきなり強力な気力を得、操る方法もあるのですが、協力者が必要なことに加えて下手したら死にます。
 そして、……癪ではありますが、ジジイがよくやっていたからです。あれは軽く人外してましたが、今は私も人外ですので先人に習うことにしたのです。

 では、始めましょう。
 地面から生やした棘の先端に丈夫な板を乗せ、その上に乗ります。ただ乗るだけなら慣れたもの。ぐらつくことなどありません。

 その上でバランスを取りつつ胡座をかきます。背筋は伸ばしたまま呼吸を意識し、力をぬき、自身の内側に意識を向けます。
 坐禅を組むとき、よく無心になれと言いますが、まぁ、無理ですよね。それって要は脳が働いてない、死んでるような状態じゃないですか。
 ですから私はあらゆる事に集中します。空気の流れ、人の息づく音、とにかく全てを感じ取り、それらの一部となります。外と内、その境が無くなるほどに。
 私の流派ではこれを『溶我』と呼んでいました。才能がありすぎると逆によくないのですが。なんでも“戻ってこれなくなる”とか。

 そうして自他の区別が曖昧になってきた頃、

チリン
【熟練度が一定に達しました。
〈気力操作lv1〉を習得しました】

 うん、覚えました。
 しかし、ブランにはないスキルです。ブランの場合獣人としての本能で無意識に〈身体強化“気”〉を習得していたからでしょうか?
 そう言えばブランは私が魔力でやるように足だけとか局所的な強化は出来ません。
このスキルの有無が関係していそうですね。また覚えさせましょう。

 その後サクッと〈身体強化“気”lv1〉を習得して部屋に戻りました。


◆◇◆
 さすが、本職といったところでした。料理専門のメイドさんたちによる朝食は絶品でしたね。今度地球の料理を教えて作ってもらうのもいいですね。

 で、現在、私たちはギルドにいます。宣言通り依頼をこなす為ですね。
 常設依頼を一応確認し、適当な討伐依頼をとってリオラさんの所にならんでいます。

「おはよう、リオラさん。コレお願い」
「あ、アルジェさんにブランさん。おはようございます。よかった、今日来ていただけて」
「うん? なにかあるの?」
「はい、ブランさんの昇格試験の日取りが決まりました」
「あら、案外早かったわね」
「そうですよね。私も驚きました」

 辺境であるリムリア周辺は、森以外の魔物も強く、さらに冒険者や衛兵も精鋭揃いである為に盗賊の類は滅多に出ないはずなんです。それが、前回から一、二週間でもう現れた……。リリの件と言い、私の勘が何かを告げています。

「それで、いつなの?」
「明日です」
「また急ね。私の時もだったけど」
「どうします? 次回にしておきますか?」

 教えることは教えてあるので問題ないとは思いますが……。そう思ってブランを見ると、

「姉様。大丈夫。明日行ってくる」
「そう、わかったわ。ということでお願いね」
「はい。ーー受付しておきました。それでは明日の一の鐘がなる頃にギルドへお越しください」
「うん、わかった」

 一の鐘ですか。私の時より早いということは盗賊たちの拠点が遠いのでしょうね。

「ブラン、予定変更よ。今日は午前中の訓練だけして体を休めなさい」
「うん」
「リオラさん、ごめんなさい。さっきの依頼無しでいいですか?」
「ええ、そう思ってまだ手続きしていませんから」

 さすがリオラさん。
 それでは今日ブランに〈気力操作〉を覚えてもらいましょう。なーに、すぐ出来ますよ! ずっと使ってきたスキルを少し応用するだけですから。


◆◇◆
 よかったです。ギルドを出る時の思考はフラグにはならなかったようです。帰ってからやってしまったかと焦ってたんですけど。
 はい、問題なくブランは〈気力操作〉を習得しました。流石私の天使ブランです!

 それにしても、心配です。
 明日はブランの試験。私は同行できません。ブランがその辺の盗賊に負けるとは思ってませんが、もしパーティメンバーが下衆だったらどうしましょう? もし他のメンバーがいない隙に手を出そうとしてきたら? いやいや、メンバー全員野獣の可能性も捨てきれません……。ああ心配です。どうしましょう? なんでパーティメンバーである私が同行できないんですかね? 誰がそんな決まりを作ったのでしょう? ヤりますか? 殺りましょうか?

「姉様、私大丈夫だから」
「!? 突然どうしました?」
「姉様、変なオーラ出してた」
「な、何のことでしょう?」

 ブランに気取られるとは……。落ち着けましょう! ビークール! 冷静に! うっかりブランに心の声と同じ口調で話しかけている場合ではありません!
 ……ふう。落ち着きました。そうですね。同行しなければいいんですね。
 私は明日ソロで狩りに行きましょう。もしかしたら! たまたま! 現地でブランとバッタリ会うこともあるかもしれませんね。

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