54 / 145
第3章 二つの輝き
第17話 天使vs死体
しおりを挟む
3-17
こちらに向き直ったエルダーリッチの武器は杖。リッチの武装としてはよくあるものです。
魔力が高まっていくのを感じます。リッチが詠唱しているのでしょう。
まずは様子見ですね。
〈付与〉でブランの魔法、物理防御をあげます。一応、こういうのも出来るんです。
同時にあちらの魔法も完成したようです。
「FIRE BALLS」
「ブラン、こちらは気にしなくていいわ」
「うんっ」
飛んで来たのは三つの火球。
着弾後爆発するタイプの魔法ですね。
ブランは速度を緩めることなくリッチへと近づいていきます。
ブランの腕であの速度の[火球]を斬るのは難しいですね。
どうするつもりでしょうか。
ブランに向かっている火球は二つ。
一つ目は左前方に加速して避け、二つ目はダックインで避けました。
うん。いいんじゃないですかね。
え? 私の方に来たやつ?
もう斬りましたが?
魔法の斬り方は霊体を斬るのと同じです。
接敵したブランの一閃は、リッチの被るフードを斬り裂くに止まります。
死ななかった勢いそのままに回し蹴りを繰り出しますが、杖で受けられてしまいました。
ブランは距離を取るつもりはないようですね。今の杖さばきを見る限り、魔法の方が厄介ですから当然の選択でしょう。
間髪入れない連撃です。
相手も頑張ってますが、徐々に当たるようになってますから。この調子なら勝てそうですね。
この調子なら、ですけど。
ブランは気づいてますかね?
あのリッチの杖さばきの違和感に。
おや、なかなか上手いリッチですね。流石エルダー、といったとこでしょうか。
「ICE NEEDLS」
「えっ!?」
刀を空ぶったブランの足元から、突然先の尖った氷柱が飛び出します。
「危なかった……」
辛うじてかわせましたね。
「今のは詠唱じゃないわよ」
魔法陣を使った魔法の発動。高等技能の1つです。
あのリッチ、ブランの攻撃を避けながら地面に魔法陣を描いてたんですよ。
「気をつけなさい」
「うん」
ブランにも伝え、ついでに神聖属性の簡易付与を施します。
速度や力については、慣れてないと感覚とズレるのでおこないません。
ブランが体勢を立て直す間に、リッチのやつが彼女に近づいていました。
接近戦を好むリッチというのは、迷宮内外で珍しいケースですね。
リッチの杖を、ブランは忍び装束ついてる籠手を使ってうまく流します。
しかし、リッチもなかなか崩れませんね。
相変わらず、ブランは攻め手を緩めません。
……仕掛ける気ですね。
ブランがやや大振りに小太刀を振ります。
リッチはコレを躱そうと一歩下がり……バランスを崩しました。
足元には小さな結界。浮いていても、何かに引っかかればバランスは崩します。ブランくらい結界の展開が早ければ、近接時にあんなこともできるんです。私では出来ない方法ですね。
その隙を逃さず、より多くの気を込めて一刀両断にしようとしたブランですが――。
「……!?」
飛んで来た棒に体勢を崩され、狙いがずれてしまいました。奪えたのは、片手だけです。
更に、いつのまにかリッチが手にしていた剣で左肩を切り裂かれてしまいました。
相手のように切り飛ばされたわけではありませんが、あれではもう上手く攻撃を捌けないでしょうね。
相打ちですか。コレはブランの落ち度ですね。片手だけでも奪えただけマシです。
……え? 騒がないのかって?
それは騒ぎたい、どころか今すぐあのフード野郎をバラバラにしてあげたいのですが……。
これはブランの修行です。私だって自重はしますよ。
さて、互いに片腕となったブランとリッチは一度距離を取ったようです。
リッチの手にある細身の剣は、剣杖。ソードスティックやソードケインと呼ばれる暗器の一種です。日本では仕込み刀と言った方が通りが良いでしょう。
つい先ほどまでリッチが手にしていた杖の正体です。
リッチは既に詠唱を始めています。
ブランも既に息を整えていますね。しかしまだ動きません。
リッチが詠唱を完成させました。
「FLAME LANCES FIRE BALLS」
並列詠唱という技術ですね。
2種類同時に魔法が展開されました。
速度は速いが点でしかないランス系と、それにはやや速度で劣りますが、爆発して面をカバーするボール系の組み合わせです。
面倒な組み合わせではありますね。
……ええ、飛ばしてますがジャベリンではありません。ランスです。気にしたら負けです。
瞬間、ブランが一気に走り出しました。
黄炎を放つ[炎槍]を避け、今度は結界で[火球]の爆風をやり過ごします。
そして接近戦。
先ほどと似たような展開です。
違うのは、互いに片腕が使えないこと。リッチの武器が剣である事。
そして、近接戦闘を行いながらもリッチが魔法を行使している事でしょうか。
〈無詠唱〉をもっているようですが、出が早い分威力では詠唱時に劣ります。
ブランも最低限の結界で上手く防いでいますね。
かといって、再び均衡状態になっているかと言われればそうではありません。
確かに、先ほどよりリッチの動きは鋭いです。
刃物になった分、目に見える傷も増えてきました。
でも、考えてみてください。普段ブランの相手をしているのは誰ですか?
そして、私がエルダーリッチごときに剣の腕で負けると思いますか?
ブランにとっては慣れた、いえ、それ未満の動きです。むしろやりやすいくらいでしょう。
勝負は見えました。
エルダーリッチの魔力は、まだまだ残ってますが、私が手を出すことはもう無いでしょう。
そもそも〈付与〉しかしてませんけどね。
今回はアタリでしたね。魔法が怖いリッチ系統で、近接を好む個体。
かつ、迷宮産で知性は低い。
何やら色々やってきましたが、あれは、謂わばプログラムです。
その辺もしっかり言い含めておかなければなりませんね。
さて、紅茶の用意でもしましょうかね。
ここは匂いが酷くなくていいです。
こちらに向き直ったエルダーリッチの武器は杖。リッチの武装としてはよくあるものです。
魔力が高まっていくのを感じます。リッチが詠唱しているのでしょう。
まずは様子見ですね。
〈付与〉でブランの魔法、物理防御をあげます。一応、こういうのも出来るんです。
同時にあちらの魔法も完成したようです。
「FIRE BALLS」
「ブラン、こちらは気にしなくていいわ」
「うんっ」
飛んで来たのは三つの火球。
着弾後爆発するタイプの魔法ですね。
ブランは速度を緩めることなくリッチへと近づいていきます。
ブランの腕であの速度の[火球]を斬るのは難しいですね。
どうするつもりでしょうか。
ブランに向かっている火球は二つ。
一つ目は左前方に加速して避け、二つ目はダックインで避けました。
うん。いいんじゃないですかね。
え? 私の方に来たやつ?
もう斬りましたが?
魔法の斬り方は霊体を斬るのと同じです。
接敵したブランの一閃は、リッチの被るフードを斬り裂くに止まります。
死ななかった勢いそのままに回し蹴りを繰り出しますが、杖で受けられてしまいました。
ブランは距離を取るつもりはないようですね。今の杖さばきを見る限り、魔法の方が厄介ですから当然の選択でしょう。
間髪入れない連撃です。
相手も頑張ってますが、徐々に当たるようになってますから。この調子なら勝てそうですね。
この調子なら、ですけど。
ブランは気づいてますかね?
あのリッチの杖さばきの違和感に。
おや、なかなか上手いリッチですね。流石エルダー、といったとこでしょうか。
「ICE NEEDLS」
「えっ!?」
刀を空ぶったブランの足元から、突然先の尖った氷柱が飛び出します。
「危なかった……」
辛うじてかわせましたね。
「今のは詠唱じゃないわよ」
魔法陣を使った魔法の発動。高等技能の1つです。
あのリッチ、ブランの攻撃を避けながら地面に魔法陣を描いてたんですよ。
「気をつけなさい」
「うん」
ブランにも伝え、ついでに神聖属性の簡易付与を施します。
速度や力については、慣れてないと感覚とズレるのでおこないません。
ブランが体勢を立て直す間に、リッチのやつが彼女に近づいていました。
接近戦を好むリッチというのは、迷宮内外で珍しいケースですね。
リッチの杖を、ブランは忍び装束ついてる籠手を使ってうまく流します。
しかし、リッチもなかなか崩れませんね。
相変わらず、ブランは攻め手を緩めません。
……仕掛ける気ですね。
ブランがやや大振りに小太刀を振ります。
リッチはコレを躱そうと一歩下がり……バランスを崩しました。
足元には小さな結界。浮いていても、何かに引っかかればバランスは崩します。ブランくらい結界の展開が早ければ、近接時にあんなこともできるんです。私では出来ない方法ですね。
その隙を逃さず、より多くの気を込めて一刀両断にしようとしたブランですが――。
「……!?」
飛んで来た棒に体勢を崩され、狙いがずれてしまいました。奪えたのは、片手だけです。
更に、いつのまにかリッチが手にしていた剣で左肩を切り裂かれてしまいました。
相手のように切り飛ばされたわけではありませんが、あれではもう上手く攻撃を捌けないでしょうね。
相打ちですか。コレはブランの落ち度ですね。片手だけでも奪えただけマシです。
……え? 騒がないのかって?
それは騒ぎたい、どころか今すぐあのフード野郎をバラバラにしてあげたいのですが……。
これはブランの修行です。私だって自重はしますよ。
さて、互いに片腕となったブランとリッチは一度距離を取ったようです。
リッチの手にある細身の剣は、剣杖。ソードスティックやソードケインと呼ばれる暗器の一種です。日本では仕込み刀と言った方が通りが良いでしょう。
つい先ほどまでリッチが手にしていた杖の正体です。
リッチは既に詠唱を始めています。
ブランも既に息を整えていますね。しかしまだ動きません。
リッチが詠唱を完成させました。
「FLAME LANCES FIRE BALLS」
並列詠唱という技術ですね。
2種類同時に魔法が展開されました。
速度は速いが点でしかないランス系と、それにはやや速度で劣りますが、爆発して面をカバーするボール系の組み合わせです。
面倒な組み合わせではありますね。
……ええ、飛ばしてますがジャベリンではありません。ランスです。気にしたら負けです。
瞬間、ブランが一気に走り出しました。
黄炎を放つ[炎槍]を避け、今度は結界で[火球]の爆風をやり過ごします。
そして接近戦。
先ほどと似たような展開です。
違うのは、互いに片腕が使えないこと。リッチの武器が剣である事。
そして、近接戦闘を行いながらもリッチが魔法を行使している事でしょうか。
〈無詠唱〉をもっているようですが、出が早い分威力では詠唱時に劣ります。
ブランも最低限の結界で上手く防いでいますね。
かといって、再び均衡状態になっているかと言われればそうではありません。
確かに、先ほどよりリッチの動きは鋭いです。
刃物になった分、目に見える傷も増えてきました。
でも、考えてみてください。普段ブランの相手をしているのは誰ですか?
そして、私がエルダーリッチごときに剣の腕で負けると思いますか?
ブランにとっては慣れた、いえ、それ未満の動きです。むしろやりやすいくらいでしょう。
勝負は見えました。
エルダーリッチの魔力は、まだまだ残ってますが、私が手を出すことはもう無いでしょう。
そもそも〈付与〉しかしてませんけどね。
今回はアタリでしたね。魔法が怖いリッチ系統で、近接を好む個体。
かつ、迷宮産で知性は低い。
何やら色々やってきましたが、あれは、謂わばプログラムです。
その辺もしっかり言い含めておかなければなりませんね。
さて、紅茶の用意でもしましょうかね。
ここは匂いが酷くなくていいです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる