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第3章 二つの輝き
第18話 そこにあるけど、そこにない
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3-18
「姉様、終わった」
「お疲れ様。それ、守護者の討伐報酬?」
「うん。鑑定、して?」
「ええ。ほら、あなたも座って。紅茶もいいくらいに冷めてるわ」
「ありがと」
さて、ブランが頑張って倒した報酬は何でしょう?
見た所は、黒い布ですが……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈冥闇の布〉伝説(良)
冥府に漂う闇で染められた、漆黒の布。
生者の気配を殺し、闇に紛れる。
魔力への親和性が非常に高く、物理的な耐久性も申し分ない。
しかし、心に道を映す強き光の無き者が身に纏えば、闇はその者を覆い、惑わすだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コレは、なるほど。
ブランに鑑定の内容を教えてあげます。
「? どうゆうこと?」
「目標とか、希望をくれる何かとか、あとはしっかりとした信念がなかったらダメってことよ。きっと、剣に飲まれた時の私みたくなるんだと思うわ」
正直言って、かなり危険な代物です。
「じゃあ、私は大丈夫だね。姉様がいるから」
「……ブランっ! あぁ、ほんと、あなたは可愛いわね……!!」
なんでもない風に言うブラン。もう、可愛すぎます!
愛しすぎますよ、あなたは、本当に……。
「うぅ、姉様。苦しい」
「あら、ごめんなさい」
感極まって思わず抱きしめてしまいました。
「そう、ね。これで、ブランの新しい装備を作りましょう」
「……いいの?」
「えぇ!」
今の装備でも十分通用しますが、せっかくちょうど良い素材があるんですから。
「最後はいいものが出てよかったわ」
「うん。魔石も良さそう」
これまでの階層の守護者の討伐報酬は、ポーションばかりだったので。ハズレではないんですけど、私達はあまりポーションを使わないですから。
道中の魔物の素材について話していなかったのは、アンデッドから取れるのが基本魔石のみだからです。他はすぐ風化しちゃうんですよ。
この迷宮で唯一アンデッドではない喰屍鬼は、そもそも使える部分が魔石しかないと言う……。
まあ、それでも実入りとしては良いんですよ。
上層はともかく、ある程度潜った所で取れる魔石の単価は安くはなく、それほど大きくないので数が取れますから。多くの冒険者の持つ、容量の小さい〈収納魔法〉でも稼げます。
魔石の需要がなくなることはありませんしね。
「それじゃあ、地上に戻りましょうか」
「うん」
えっと、帰還用の転移陣は、と。おや?
「ブラン、ちょっと待って。そこ、何かあるわ」
「え?」
転移陣から数メートルほど離れた位置。
一見、ただの魔力溜まりにも見えます。
迷宮の最下層なので、おかしな話では無いのですが……。
真っ黒な魔力の塊。そう、古本屋のお婆さんが掛けていた〈隠蔽〉の魔力に似ているんです。
「確認させて」
「うん」
魔力塊に近づいてみます。
「……やっぱり」
「何があるの?」
「ここに下層への階段があるの」
「? ここ、最下層じゃない?」
そう言う事になりますね。
「ええ。階段を隠してる〈隠蔽〉の魔力がかなり濃いわ。下手したらレベルMaxよりも強力な〈隠蔽〉が掛けられてるかもしれないわね」
こんなん、普通見つけられませんよ。
〈魔力視〉がなければ、私も気づかなかったと思います。
「………行ってみましょう」
「うん。わかった」
〈魔力視〉を頼りに、薄っすらと見える階段を降りていきます。
魔力塊を抜ければ、これまでと同様に見える下層への階段の通路です。
一応、ブランにも何か変わった事がないか聞いてみましょう。
「ブラン、何か変わった所はない? …………ブラン? ……ブラン!?」
返事が無いので振り返れば、誰の姿もありません! どう言う事です!?
ブランはいったいどこに!?
…………いえ、階段のすぐ横に気配は感じます。
落ち着いて、ここは一度階段を上がりましょう。
「あ、姉様」
「あぁ、ブラン。良かった……。いったいどうしたの? なんでついてこなかったの?」
「ついて行こうとしたけど、通れなかった」
それは、どういうことでしょう?
「声は聞こえた?」
「聞こえなかった」
ムムム…………。
ちょっと実験です。
「ブラン、手を引くから、そのままついてきてちょうだい」
「わかった」
再び〈魔力視〉で階段を確認しながら、今度はブランと手を繋いだまま下へと降りていきます。
どうでしょう?
「あ、通れた」
「じゃあ、一回戻って、今度はブランだけで降りてみてくれる?」
「うん」
これはどうでしょう?
ブランが階段を戻って行くのをみながら、〈並列思考〉で考察を続けます。
今、立てられる仮説は最低でも二つありますが……。
ん、上手く行ったみたいです、
「ただいま。通れたよ」
「ありがとう。そこにあると、能動的に認識してさえいれば通れるようね。それまでは、存在している状態と存在しない状態で重なり合っていて、確認することで事象を確定する……。シュレディンガーの猫の反証みたい」
厳密にいえば色々違ってくるかもしれませんが。
「シュレディンガー?」
「ああ、気にしないで」
人から聞かされただけの受動的な認識ではダメなようですが、事象を直接確認するという因子によって、事象は初めて現実として存在する状態に確定されるという訳ですね。今回の場合は下層への階段が事象にあたります。
まあ、難しい話はいいです。
これ、〈魔力視〉が無いと来れないんじゃ無いですか?
『ユニーク』レベルの〈魔力察知〉や〈看破〉系統のスキルでもいけるかもしれませんが……。
「下、降りてみましょうか」
「うん」
他の人のことを考えても仕方ないですね。
一先ず進んでみましょう。
………
……
…
これまでの階層間の移動時間は大体五分前後でした。しかし、既に降り始めてから五分以上は確実に過ぎてますが、まだ終わりが見えません。
「長いわね」
「うん。でも、もうすぐだと思う。足音の響き方が変わったから」
さすが獣人ですね。
……
…
おや、階段は終わりのようです。
小部屋にでました。見た目は各ボス部屋の後にある転移陣がある部屋に似ています。
実際、部屋の中央には転移魔法陣があります。
そして、その先には結界で封じられた通路がありました。
ここで魔法陣にのれば、いつでもここに転移できるようになるわけですが……。
「あの結界の先、気になるわね」
「うん。いってみよ?」
「ええ」
というわけで、一旦転移魔法陣は無視して先の通路の方へ移動します。
これは……。
「すごく強い。けど、条件を満たせば通れる」
「ブラン、わかるの?」
「うん。結界は得意だから」
ちょっとドヤっとしてるブラン。
何もない胸をそらして、僅かに頬に朱が差しています。
珍しい姿ですが、いえ、これは反則です……!
可愛すぎでしょう!?
「姉様?」
「……ナンデモナイワ」
胸を押さえて体をくの字に悶えていたらブランに訝しげな目で見られてしまいました。
いえ、これはこれで……。
「姉様、私、通れないみたい……」
ゴフッ!
ここに来て、そのションボリスタイルですか!?
ブランは私を可愛死にさせる気なんですか!?
……私も試すべきですよね。はい。
ちょっと落ち着きます。
……落ち着きました。
では、改めて。
「!! 流石姉様!」
「通れちゃったわね」
ちょっと、先を見てきましょうか。
ここなら安全ですし。
「先、みてくるわ。少し待ってて」
「……うん」
残念そうなブランを抱きしめたい衝動に駆られつつ、通路の先へ進みます。
「……っ!?」
なるほど。ここからが本番、ということですね。
結界をすり抜けた瞬間、凄まじく濃密な、“死の気配”を感じました。
殺気、と言ってもいいかもしれません。
この先にいるアンデッドは、ここまでとは一線を画する強さなようです……。
これは、ブランは結界を通れなくて正解だったかもしれません。
直ぐに踵を返し、ブランの所に戻ります。
「? 姉様、どうしたの?」
「ブラン、今日のところは帰りましょう。明日、この先へ行ってくるわ」
「……大丈夫?」
その質問には、正直に答えるわけにはいきませんね。
「大丈夫よ。ほら、そんな不安そうな顔をしないで、あなたの姉様を信じなさい!」
「……うん」
そうして、私たちは転移魔法陣で地上へと帰りました。
踏破を報告した際、二人での踏破最短記録を大幅に塗り替えたらしくて一騒ぎありましたが、今はそんな事、どうでもいいように思えます。
ブランを伴い、宿に帰った後も、ずっと考えていたことがあるんです。
でも、その前にブランに聞いておかねばですね。
「ブラン、流石に時間がかかりそうなんだけど、どうする? リベリアの屋敷に戻ってる?」
「……ここで待ってる」
「そ、わかったわ」
しばらく考え込んで、そう口にするブランですが……。これは、気づいてますね。私の嘘に。
でも、ごめんなさい。
私はあの先へ行かなきゃならない。今すぐに。
どうしても、そんな予感がするんです。
死ぬつもりはありません。
何が何でも、この子の、私のただ一人の家族の下に戻ってくるつもりです。
そう、何が何でも、です。
「姉様、終わった」
「お疲れ様。それ、守護者の討伐報酬?」
「うん。鑑定、して?」
「ええ。ほら、あなたも座って。紅茶もいいくらいに冷めてるわ」
「ありがと」
さて、ブランが頑張って倒した報酬は何でしょう?
見た所は、黒い布ですが……。
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〈冥闇の布〉伝説(良)
冥府に漂う闇で染められた、漆黒の布。
生者の気配を殺し、闇に紛れる。
魔力への親和性が非常に高く、物理的な耐久性も申し分ない。
しかし、心に道を映す強き光の無き者が身に纏えば、闇はその者を覆い、惑わすだろう。
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コレは、なるほど。
ブランに鑑定の内容を教えてあげます。
「? どうゆうこと?」
「目標とか、希望をくれる何かとか、あとはしっかりとした信念がなかったらダメってことよ。きっと、剣に飲まれた時の私みたくなるんだと思うわ」
正直言って、かなり危険な代物です。
「じゃあ、私は大丈夫だね。姉様がいるから」
「……ブランっ! あぁ、ほんと、あなたは可愛いわね……!!」
なんでもない風に言うブラン。もう、可愛すぎます!
愛しすぎますよ、あなたは、本当に……。
「うぅ、姉様。苦しい」
「あら、ごめんなさい」
感極まって思わず抱きしめてしまいました。
「そう、ね。これで、ブランの新しい装備を作りましょう」
「……いいの?」
「えぇ!」
今の装備でも十分通用しますが、せっかくちょうど良い素材があるんですから。
「最後はいいものが出てよかったわ」
「うん。魔石も良さそう」
これまでの階層の守護者の討伐報酬は、ポーションばかりだったので。ハズレではないんですけど、私達はあまりポーションを使わないですから。
道中の魔物の素材について話していなかったのは、アンデッドから取れるのが基本魔石のみだからです。他はすぐ風化しちゃうんですよ。
この迷宮で唯一アンデッドではない喰屍鬼は、そもそも使える部分が魔石しかないと言う……。
まあ、それでも実入りとしては良いんですよ。
上層はともかく、ある程度潜った所で取れる魔石の単価は安くはなく、それほど大きくないので数が取れますから。多くの冒険者の持つ、容量の小さい〈収納魔法〉でも稼げます。
魔石の需要がなくなることはありませんしね。
「それじゃあ、地上に戻りましょうか」
「うん」
えっと、帰還用の転移陣は、と。おや?
「ブラン、ちょっと待って。そこ、何かあるわ」
「え?」
転移陣から数メートルほど離れた位置。
一見、ただの魔力溜まりにも見えます。
迷宮の最下層なので、おかしな話では無いのですが……。
真っ黒な魔力の塊。そう、古本屋のお婆さんが掛けていた〈隠蔽〉の魔力に似ているんです。
「確認させて」
「うん」
魔力塊に近づいてみます。
「……やっぱり」
「何があるの?」
「ここに下層への階段があるの」
「? ここ、最下層じゃない?」
そう言う事になりますね。
「ええ。階段を隠してる〈隠蔽〉の魔力がかなり濃いわ。下手したらレベルMaxよりも強力な〈隠蔽〉が掛けられてるかもしれないわね」
こんなん、普通見つけられませんよ。
〈魔力視〉がなければ、私も気づかなかったと思います。
「………行ってみましょう」
「うん。わかった」
〈魔力視〉を頼りに、薄っすらと見える階段を降りていきます。
魔力塊を抜ければ、これまでと同様に見える下層への階段の通路です。
一応、ブランにも何か変わった事がないか聞いてみましょう。
「ブラン、何か変わった所はない? …………ブラン? ……ブラン!?」
返事が無いので振り返れば、誰の姿もありません! どう言う事です!?
ブランはいったいどこに!?
…………いえ、階段のすぐ横に気配は感じます。
落ち着いて、ここは一度階段を上がりましょう。
「あ、姉様」
「あぁ、ブラン。良かった……。いったいどうしたの? なんでついてこなかったの?」
「ついて行こうとしたけど、通れなかった」
それは、どういうことでしょう?
「声は聞こえた?」
「聞こえなかった」
ムムム…………。
ちょっと実験です。
「ブラン、手を引くから、そのままついてきてちょうだい」
「わかった」
再び〈魔力視〉で階段を確認しながら、今度はブランと手を繋いだまま下へと降りていきます。
どうでしょう?
「あ、通れた」
「じゃあ、一回戻って、今度はブランだけで降りてみてくれる?」
「うん」
これはどうでしょう?
ブランが階段を戻って行くのをみながら、〈並列思考〉で考察を続けます。
今、立てられる仮説は最低でも二つありますが……。
ん、上手く行ったみたいです、
「ただいま。通れたよ」
「ありがとう。そこにあると、能動的に認識してさえいれば通れるようね。それまでは、存在している状態と存在しない状態で重なり合っていて、確認することで事象を確定する……。シュレディンガーの猫の反証みたい」
厳密にいえば色々違ってくるかもしれませんが。
「シュレディンガー?」
「ああ、気にしないで」
人から聞かされただけの受動的な認識ではダメなようですが、事象を直接確認するという因子によって、事象は初めて現実として存在する状態に確定されるという訳ですね。今回の場合は下層への階段が事象にあたります。
まあ、難しい話はいいです。
これ、〈魔力視〉が無いと来れないんじゃ無いですか?
『ユニーク』レベルの〈魔力察知〉や〈看破〉系統のスキルでもいけるかもしれませんが……。
「下、降りてみましょうか」
「うん」
他の人のことを考えても仕方ないですね。
一先ず進んでみましょう。
………
……
…
これまでの階層間の移動時間は大体五分前後でした。しかし、既に降り始めてから五分以上は確実に過ぎてますが、まだ終わりが見えません。
「長いわね」
「うん。でも、もうすぐだと思う。足音の響き方が変わったから」
さすが獣人ですね。
……
…
おや、階段は終わりのようです。
小部屋にでました。見た目は各ボス部屋の後にある転移陣がある部屋に似ています。
実際、部屋の中央には転移魔法陣があります。
そして、その先には結界で封じられた通路がありました。
ここで魔法陣にのれば、いつでもここに転移できるようになるわけですが……。
「あの結界の先、気になるわね」
「うん。いってみよ?」
「ええ」
というわけで、一旦転移魔法陣は無視して先の通路の方へ移動します。
これは……。
「すごく強い。けど、条件を満たせば通れる」
「ブラン、わかるの?」
「うん。結界は得意だから」
ちょっとドヤっとしてるブラン。
何もない胸をそらして、僅かに頬に朱が差しています。
珍しい姿ですが、いえ、これは反則です……!
可愛すぎでしょう!?
「姉様?」
「……ナンデモナイワ」
胸を押さえて体をくの字に悶えていたらブランに訝しげな目で見られてしまいました。
いえ、これはこれで……。
「姉様、私、通れないみたい……」
ゴフッ!
ここに来て、そのションボリスタイルですか!?
ブランは私を可愛死にさせる気なんですか!?
……私も試すべきですよね。はい。
ちょっと落ち着きます。
……落ち着きました。
では、改めて。
「!! 流石姉様!」
「通れちゃったわね」
ちょっと、先を見てきましょうか。
ここなら安全ですし。
「先、みてくるわ。少し待ってて」
「……うん」
残念そうなブランを抱きしめたい衝動に駆られつつ、通路の先へ進みます。
「……っ!?」
なるほど。ここからが本番、ということですね。
結界をすり抜けた瞬間、凄まじく濃密な、“死の気配”を感じました。
殺気、と言ってもいいかもしれません。
この先にいるアンデッドは、ここまでとは一線を画する強さなようです……。
これは、ブランは結界を通れなくて正解だったかもしれません。
直ぐに踵を返し、ブランの所に戻ります。
「? 姉様、どうしたの?」
「ブラン、今日のところは帰りましょう。明日、この先へ行ってくるわ」
「……大丈夫?」
その質問には、正直に答えるわけにはいきませんね。
「大丈夫よ。ほら、そんな不安そうな顔をしないで、あなたの姉様を信じなさい!」
「……うん」
そうして、私たちは転移魔法陣で地上へと帰りました。
踏破を報告した際、二人での踏破最短記録を大幅に塗り替えたらしくて一騒ぎありましたが、今はそんな事、どうでもいいように思えます。
ブランを伴い、宿に帰った後も、ずっと考えていたことがあるんです。
でも、その前にブランに聞いておかねばですね。
「ブラン、流石に時間がかかりそうなんだけど、どうする? リベリアの屋敷に戻ってる?」
「……ここで待ってる」
「そ、わかったわ」
しばらく考え込んで、そう口にするブランですが……。これは、気づいてますね。私の嘘に。
でも、ごめんなさい。
私はあの先へ行かなきゃならない。今すぐに。
どうしても、そんな予感がするんです。
死ぬつもりはありません。
何が何でも、この子の、私のただ一人の家族の下に戻ってくるつもりです。
そう、何が何でも、です。
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