12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜(カクヨム版)

嘉神かろ

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第4章 輝きは交わり繋がる

第10話 聖国の最期

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4-10

 魔力の暴走が引き起こした嵐と白金色の光が収まり、儀式の終了を教えます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈ステータス〉
名前:スズネ・グラシア
種族:英雄種

                   〈UNKNOWN〉

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふぅ、どうやら上手くいったようです。

「姉様……?」

 今回はブランにも心配をかけてしまいましたね。

「大丈夫、上手くいったわ。あなたのおかげね。ありがとう、ブラン」

 あぁ、天使が再臨……でなくて、いや、顔を真っ赤にして尻尾を振るブランが天使なのは間違い無いのですが。

「まだ、やる事が残ってるわ」
「やる事?」
「ええ」

 管理者さんからの依頼です。きっちり遂行しなければ。

 問題は氷の檻で捉えた彼と、意識を失っているスズをどうするかですが……ああちょうど良いところに。

「屋台の彼、えっと、そう言えば呼び名を知らないわね」
「ローズ様がスプーファーって呼んでた」
「へぇ。そのスプーファーがこっちに向かって来てるみたいだから、スズと、そこの彼のことよろしく頼める?」

 態と気配を漏らしているようですから、私たちを目指しているのでしょう。

「うん、わかった……!  姉様は、どこへ行くの?」
「ちょっと、聖国にね」

 しかしspooferスプーファー、なりすます者ですか。
 詐欺師の意味もありますが、なかなか彼の特技にピッタリですね。

 それはともかく、聖国への近道、使わせてもらいましょうか。彼が持ってるはずですから。

 氷牢の中で、恐らく薬の副作用でしょう、意識を失っているらしい彼へ近づきます。
 完全に意識飛んでますね。これなら魔法は解いても問題なさそうです。

「檻、消しても大丈夫?」
「平気よ。意識無いから。それに、多分……ほら持ってた」

 彼の懐を漁り、鎖と拳大の水晶玉を取り出します。

「それは?」
「魔力を封じる鎖の魔道具と、転移の魔道具よ」
「へぇ……」

 ああそうだ。興味深そうに水晶玉を覗き込むブランに聞かなければならないことがありました。

「そういえば、彼が最初に私に向けてきた魔法があったじゃない?」
「うん」
「あれって、本当に私を狙ってたの?」

 この質問に対してブランは横に首をふりました。

「私が避けたら、その方向に姉様がいたの。……ごめんなさい」
「気にしなくていいわ」

 やはりそうですか。効果は大体絞れました。あの不自然な反応は[最適行動]でしょうね。少しでもどこかの感覚で認識できたら自動的に最も適した行動をとらせる付与です。
 ですから対処方法としては、私がやったように対処不可能な状態を作る事が基本ですね。

 それはそうと、シュンとする天使は頭を撫でて慰めますね。可愛いですけど、笑ってる顔の方が万倍可愛いですから!

 おっと、目覚める前に拘束し直さないと。この鎖で縛ればいいでしょう。

「ブラン、後は頼んだわ。これをローズに渡せば、彼も助けてくれると思うから」

 先程確信したことも含め、例の薬の効能予想をメモしてブランに渡しておきます。何の薬かまではわかりませんが、ブランは彼を助けたいみたいですしね。暇つぶしに鑑定結果を読み漁っていた甲斐がありました。

「うんっ!」

 うん、元気になったみたいです。
 それでは行きましょうか。




◆◇◆
 転移を終え、辺りを見渡せば、どうやらここは城内の一室のようですね。
 水晶玉は……割れてます。使い捨てですか。まあもう要りませんけど。

 さて、先程から煩いこの鐘の音は警報装置ですかね。ちゃんと対策はしてたみたいです。当たり前ですが。

 わらわら集まってくるのを感じますね。

 ……彼らが、スズをあんな風にしたんですよね。なんだかまた腹が立ってきました。

 元々、教皇やその上層部を許すつもりはありませんでしたが、彼らも同罪、でいいですよね?
 聖国自体、潰してしまいましょうか。そうですね、そうしましょう。

 とは言え、数が多いです。

「面倒ね」

 なんて呟きながら部屋を出ると、来ましたね。

「居たぞ!  侵入者だ!!」
「転移部屋から出てきた。油断するな。出撃した聖騎士の誰かが負けたということだ!」

 後に喋った方が指揮官……雑魚ですね。

「あなた達程度に時間をかけるつもりはないの」

 これだけで気配を乱すなんて……。

 詠唱は嫌ですが、どうせ全員死ぬなら関係ありませんか。久々にあれを使いましょう。

「『全ては私の子。私の愛を受けなさい』」

 刀形態の『ソード・オブ・ムーン=レンズ』が禍々しい魔力を纏います。

「な、なんだその剣は!」

 答えるわけないでしょうに。ここで問答せずに切り掛かってきてたなら、少しは見直したんですがね。

 それまで待つ必要もありません。手頃なのから撫で斬りにしていきます。
 それだけであら不思議。真っ白な異形の眷属が完成です。

 おや、肉塊の姿なのは変わりませんが、刀と同じようなオーラを纏っていますね?

「へぇ……、便利じゃない」

 そいつらが近くの元同僚を攻撃すると、その元同僚まで眷属になりました。これは武器の進化で能力も強化されていますね。

 手間が省けそうで何よりです。

「な、あ…………!?」

 驚きすぎて、声も出ませんか。いえ、これは恐怖ですか?

 まぁどうでもいいですね。残りもさっさと作り変えましょう。

 聖騎士(笑)の悲鳴のみが城内に響きます。
 結局、全滅までかかった時間は数分。話になりませんでしたね。さっさと法王を始末してしましょう。

 おっと、忘れないうちに命令を出しておかないと。

「仲間を増やしつつ、この国の町や村を滅ぼしなさい。ただし、人族至上主義でない人には手を出しちゃダメよ」

 これでいいでしょう。主義の判断は、まあ、判別できないならそれはそれでいいです。リベルティアが報復として逆侵攻するかもしれませんが、その頃には殆どの街が落ちているかもしれませんね。

 個体の強さには、斬る時に込めた魔力量と対象の武器や体術の技量を除いた実力が影響するようです。
 オーラを纏った子達が眷属化する場合は自身の魔力を使って一定量を流し込んでいます。
 その第二世代で平均Bランク。私が直接作った第一世代で、平均A-ランクですね。

 平均Bランク以上のスタンピード。魔境もない聖国の人間にどうこうできるとは思えませんね。
 アンデッドのような見た目ですが、〈神聖魔法〉は効きません。神に連なるスキルによるものですから。

 ふふふ、いい気味ですね。

 時々出会う聖騎士(笑)や兵士を異形に変えながら、法王の居場所を目指します。
 どうやら、近衛と共に引きこもっているようですね。この大きな扉の先です。

 扉を丁寧に開ける必要もありませんか。魔法で吹き飛ばすとうっかり殺してしまうかもしれませんので、斬りましょう。直接殺さないと気が済みませんから。

 扉を斬り飛ばすと、予想外だったのか一瞬呆気にとられる敵方。しかし流石近衛か。すぐに気を取り直して魔法を放ってきました。

 怨敵を目前にして、時間をかけるつもりはありません。[短距離転移]で近づいて、サクッと眷属に変えていきます。

 そして、残ったのは法王とその両脇に構える二人。豪華な防具を見るに、一人は騎士団長にあたる人物。ならもう一人は魔法使いの長ですかね。

 ……どうやら、この国にアリエルクラスはいないようですね。安心したような、ガッカリしたような……。

 まぁいいです。今は残る三人です。
 彼らは眷属にすらしたくありません。確実に殺します。スズのこと、知っていたはずの連中ですから。

 新たな眷属たちにも他の眷属と同じ命令を出し、解き放ちます。
 その間、法王と騎士に動きはありません。

「貴様は、【魔王】か?」

 話しかけてきたのは、法王。

「そうよ」
「……私に、復讐しに来たのか?」
「ええ」

 時間稼ぎ、ですかね。

「……忌々しい」

 それは、私のセリフです。

「時間稼ぎがしたいならいくらでも待ってあげるわ。さっさと魔力を練ってしまいなさい」

 先程から隠蔽しながら魔力を練っていた魔法使いの長に向かっていいます。

「っ!  ……後悔するんだな」

 その自信を完膚なきまでに叩き潰したくて、待っているんですよ。

 待つこと暫し、やっと完成したようです。

「消し飛べ!  [神のファリアス怒りオブ ゴツド]!!」

 furious……、激しい怒りを表す英語ですか。込められた魔力はかなり高位のものですが、古代ギリシア語でないということは〈神聖魔法〉ではありませんね。彼のオリジナルでしょうか。

 まあ、問題ありません。
 魔法に自信があるようですから、魔法で迎撃……いえ、斬ってみせた方がいい顔をしてくれそうですね。

 そうと決まれば、刀に魔力を纏い、魔法の核を見極めます。

 そして、無造作に一閃。

 迫り来る真っ白な光は砕け散り、得意顔の老人の顔がよく見えるようになりました。

 老人はその表情を、驚愕へ変え、そして恐怖に染めます。

 法王と騎士が唖然としているうちに、〈縮地〉で距離を詰め、まず一人。

 我に返って切り掛かって来た騎士は、合気の要領で体制を崩し、頭を貫いておきました。

「何か言い残すことはある?」

 刀を突きつけ、法王に問います。

「……予言を覆せなくて残念だ」
「……そう」

 
 
 ――――噴水のように噴き上がる血を浴びながら、思います。

 人はやはり、一度の生を精一杯生きるべきなのだと。

 ……転生した私が言うことではありませんね。

 その後私は、〈魔力察知〉を頼りに件の装置を見つけ、教わった魔法で破壊しました。






◆◇◆
 首を断ち切られ、その場に残された自らの死体を眺めながら法王カリオストルだった魂は思考する。

(ああ、やはり『人族』は弱い……)

 そこに見えるのは、諦観だ。

(わかっていたはずなのだがな…………)

 それは苦悩へと変わリ……。

(いつからか。『ディアス教』の発展ばかり考えるようになったのは。初めは、弱い『人族』全体が生き残れるよう願っていたはずだ。その為に罪なき他種族を貶めることも仕方ないと思い、しかし心苦しく思っていたはずだ。儀式を行ったのも、『人族』に生きる道を与える為で、『人族』を至上とする為ではなかったはずだ……。

いつからだろうか。私の中の『人族』が、信者のみになったのは。
いつから、私は他種族を下等と教え、信者以外の『人族』すら見下すようになったのか……)

 そして、悲しみになった。

(初代陛下の理念を、私はいつのまにか、汚してしまっていた……。その結果が、これか。……私は、何をしていたのだろうな)

 彼の魂は答えを見つける暇もなく、この世から永久に姿を消した。

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