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第23話 真剣に歌うお姉様、いい……!
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㉓
はてさて、魅了されたシュアンと浮かれきった駄エルフがセイレーンの集落に降りて、暫くが経った。そろそろ二人は放り出された頃であろうか。
彼らの気配があるのは、未だサツの住人たちが居を構える山岳地帯の中だな。
ふむ、いきなり見せて、幼子には決して見せられぬような状況であってはいけない。物語を再会する前に、私が確認するとしよう。
ここは……、セイレーンの集落だな。もう少し休憩時間が必要だったかもしれない。
いや、待て、どうにも様子がおかしい。
シュアンの様子は、先ほどのまま。魅了されて意識を半ば失ったまま、うっとりとした表情を浮かべて立っている。
問題の駄エルフは、どういう事だろうか。膝を抱えて地面に座り、目をキラキラと輝かせているな。
視線の先にいるのは、件のセイレーン二人。紫の長髪に猫のような目をした者と、金髪金眼で眦の下がった者だ。
何かを話しているようだが、音は聞いていない故、会話の内容は分からない。
肩で息をしているのは分かるが、はてさていったい……?
ともかく、お茶の間に流して問題無さそうだ。物語を再開しよう。
「なんででしょー? お兄さん、ちゃんと耳聞こえてますよねー?」
この間延びした声は、垂れ目の方のものだ。見た目の印象通り、おっとりした性格らしい。
「うん、聞こえてるよ! 二人とも凄く上手だね!」
「セイレーンなら当然よ。そんな事より、どうして平気なのよ!」
「え?」
ああ、なるほど。状況が見えたな。
「もう一回歌ってみますー?」
「そ、そうね。次は『空の調べ』よ!」
「やった!」
のんきに拍手をする駄エルフに、紫髪のセイレーンは小馬鹿にしたような笑みを向ける。さしずめ、余裕でいられるのも今のうちだ、だとか、そのような感じだろう。
セイレーンたちは大きく息を吸い、その美しい声に魔力を乗せて響かせる。なるほど、彼女らはセイレーンの中でも歌の上手い方なのだろう。歌姫と呼ばれても差し支えない響きだ。
ああ、魅了の魔法がこちらに届く事は無い。観客諸君は安心して欲しい。
私の保護下にあるのだからな。
「わぁ、ホントに綺麗。さっきのより伸びやかっていうか、天高く! って感じ」
歌い終わった直後のトキワの感想である。
「どうして正気のままなのよ!」
うむ、怒鳴り声まで美しいとは。さすがはセイレーンか。
はてさて、困ったのはセイレーン達二人だが、観客諸君には先に答えを開示しておこう。
観客諸君が魅了にかからないのは私の保護による為だが、駄エルフの場合もこれが当てはまる。
私自身すっかり忘れていたのだが、トキワの精神をこの世界、およびあの体に定着させた際に施した保護が、今もなお掛かったままになっているのだ。
この私の精神保護だ。たかだか一生命体の魅了魔法ごときが貫けるものではない。
「ねえねえ、そういえば、お姉さん達ってなんて名前なの? 私はトキワだよ!」
とはいえ、だ。
シュアンの前で堂々とナンパまがいの事をする駄エルフを見ていると、ひんむかれて放り出された方が良かったのではないかと思わなくも無い。
「私はトパーですー」
「なんで普通に答えてるのよ! 教える必要なんてないわよ!」
「あー、アメスちゃんが答えないから、トキワくんしゅんってしちゃったじゃないですかー」
「え、わ、私が悪いの? あー、もう分かったって! アメステよ!」
うん、駄エルフよ、ニコニコするんじゃない。もういいだろう。シュアンのためにも、そろそろ戻った方が良いぞ。
「くっ、こうなったら、『星の調べ』を歌いましょう!」
「えー、怒られませんー?」
「この際仕方ないわ! 意地よ意地! もし隣の集落の誰かを魅了しちゃったら、そのとき謝ったらいいわ」
「んー、仕方ないですねー」
トパーとアメステは三度、大きく息を吸い、歌を奏でる。そこに込められている魔力量は、なるほど、さきほどの数倍だ。
だが悲しいかな。私の保護の前には砂が小石になった程度の違いでしかない。
現に駄エルフは、
(ふひひ、真剣に歌うお姉様、いい……!)
と鼻の下を伸ばしている。
ああ、ほら、シュアンがうっとりしながらジト目を向けるなんて、器用なことをしているぞ。
どれ、セイレーン達の方の心も覗いてみるか。
(どう! これなら流石に……効いてる様子が無い!? く、なら魔力量を増やすまでよ!)
(ふえー、アメスちゃん、まだ頑張るんですかー? うー、頑張るとお腹すくんですよねー)
トパーは不満を漏らしつつだが、なんだかんだでアメステにつきあっているようだな。
結果は……
(……それにしても、あの羽、触ったら気持ちよさそうだなぁ。ジュルリ)
じゅるりではない。せめてもう少し聞いてやれ。
(まだ足りないの!? これでどう!?)
(なんだか、変なところ見られてる気がしますねー? まあいいかー)
セイレーン達も頑張ってはいるのだ。だが足りない。
む、また魔力量を増やしたか。アメステなど鬼気迫るほどの雰囲気だな。
なんてのんきに眺めている間にも、歌に乗せられる魔力量はどんどん増えていく。
つられるように歌の質もどんどんと高まる。
今の彼女らは、もしかすると、あらゆるセイレーン族の中で最も素晴らしい歌を披露しているかもしれない。
それでも、足りない。
私の施した保護を超えられない。
(くっ、どうして? あんなに特訓したのに、どうして上手くいかないの? いいえ、負けない!)
(お腹すきましたねー。でも、アメスちゃんが頑張ってるんですから、私も頑張らないとですよねー。友達ですから-)
ふんわりとしていたトパーの目にも、火が付いた。
人生をかけたコンサートに挑むような気迫。
二人の友情が、歌の質をさらに高める。
その歌を聴いて、トキワは、
(このまま二人と仲良くなれたらー、いっしょにご飯食べてー、羽ももふもふさせてもらってー……ぐふふ!)
煩悩まみれの妄想を脳内に溢れさせていた。
駄エルフである。
(腕組んでお空の散歩とかいいなぁ! あ、でもでもでも、そしたら私は百合の間に挟まる事になる!? ぐぬぬ、それは不本意……。いやしかし!)
駄エルフである。
この素晴らしい歌の中でこのような妄想をはかどらせるなど、耳が腐っているのだろうか?
せめてウンウン唸るのはやめて貰いたい。
(まだだめなの!? もう、これ以上は……)
(アメスちゃん、まだですよー。ここからですー。私たちなら、やれますー!)
(トパー……。ええ、そうね!)
(一瞬くらいなら百合にはさまっても……。ちょっとお邪魔するだけ、いやだめやっぱだめ! ああでも惜しい……)
(まだ、まだぁ!)
(くぅ、そろそろ、きついですけどー、まだ、頑張れますー!)
(いやでもやっぱりせっかくのチャンスだよ!? こんな綺麗なお姉様がたとお近づきになるチャンス! これは逃せない!)
……我々は何を見せられているのだ?
(ラスサビ! これでダメなら、いえ、ダメなはずない! 私とトパーの全力、全身全霊の『星の調べ』だもの!)
(全部、出し切ります!)
(よし、決めた!)
それぞれがそれぞれの思いを胸に瞳を輝かせる中、とうとう最後の歌詞が歌いきられた。
トキワのウンウンと唸る声もやみ、静寂が辺りを包む。
周囲に目を向ければ、他のセイレーン達も集まって、固唾をのんでいた。
はぁはぁ、と息を荒くするアメスとトパー。その視線の先では、エルフの少年が瞼を閉じて、たたずんでいた。
「や、ったの?」
「やりまし、た?」
無数の視線が、トキワに注がれる。
それでも彼は微動だにしない。
「効いてる? 効いてる!」
「効いてますよー! やりましたねー、アメスちゃん!」
「ええ、やっ――「アメスさん、トパーさん!」てないんかい!」
アメステの口調が関西弁じみたのも仕方の無い話では無かろうか。
「二人の羽で私を包んでください! あとモフらせて!」
駄エルフの瞳の輝きは、夜空の星のようだ。
駄エルフである。
ぷるぷると震えるのは、当然アメステだ。
「ダメですか!?」
「好きにすればいいでしょ! ……はぁ」
そのままセイレーン二人はへたり込み、ため息をつく。無邪気に喜ぶトキワは、そんな二人に首をかしげていた。まこと、駄エルフである。
はてさて、魅了されたシュアンと浮かれきった駄エルフがセイレーンの集落に降りて、暫くが経った。そろそろ二人は放り出された頃であろうか。
彼らの気配があるのは、未だサツの住人たちが居を構える山岳地帯の中だな。
ふむ、いきなり見せて、幼子には決して見せられぬような状況であってはいけない。物語を再会する前に、私が確認するとしよう。
ここは……、セイレーンの集落だな。もう少し休憩時間が必要だったかもしれない。
いや、待て、どうにも様子がおかしい。
シュアンの様子は、先ほどのまま。魅了されて意識を半ば失ったまま、うっとりとした表情を浮かべて立っている。
問題の駄エルフは、どういう事だろうか。膝を抱えて地面に座り、目をキラキラと輝かせているな。
視線の先にいるのは、件のセイレーン二人。紫の長髪に猫のような目をした者と、金髪金眼で眦の下がった者だ。
何かを話しているようだが、音は聞いていない故、会話の内容は分からない。
肩で息をしているのは分かるが、はてさていったい……?
ともかく、お茶の間に流して問題無さそうだ。物語を再開しよう。
「なんででしょー? お兄さん、ちゃんと耳聞こえてますよねー?」
この間延びした声は、垂れ目の方のものだ。見た目の印象通り、おっとりした性格らしい。
「うん、聞こえてるよ! 二人とも凄く上手だね!」
「セイレーンなら当然よ。そんな事より、どうして平気なのよ!」
「え?」
ああ、なるほど。状況が見えたな。
「もう一回歌ってみますー?」
「そ、そうね。次は『空の調べ』よ!」
「やった!」
のんきに拍手をする駄エルフに、紫髪のセイレーンは小馬鹿にしたような笑みを向ける。さしずめ、余裕でいられるのも今のうちだ、だとか、そのような感じだろう。
セイレーンたちは大きく息を吸い、その美しい声に魔力を乗せて響かせる。なるほど、彼女らはセイレーンの中でも歌の上手い方なのだろう。歌姫と呼ばれても差し支えない響きだ。
ああ、魅了の魔法がこちらに届く事は無い。観客諸君は安心して欲しい。
私の保護下にあるのだからな。
「わぁ、ホントに綺麗。さっきのより伸びやかっていうか、天高く! って感じ」
歌い終わった直後のトキワの感想である。
「どうして正気のままなのよ!」
うむ、怒鳴り声まで美しいとは。さすがはセイレーンか。
はてさて、困ったのはセイレーン達二人だが、観客諸君には先に答えを開示しておこう。
観客諸君が魅了にかからないのは私の保護による為だが、駄エルフの場合もこれが当てはまる。
私自身すっかり忘れていたのだが、トキワの精神をこの世界、およびあの体に定着させた際に施した保護が、今もなお掛かったままになっているのだ。
この私の精神保護だ。たかだか一生命体の魅了魔法ごときが貫けるものではない。
「ねえねえ、そういえば、お姉さん達ってなんて名前なの? 私はトキワだよ!」
とはいえ、だ。
シュアンの前で堂々とナンパまがいの事をする駄エルフを見ていると、ひんむかれて放り出された方が良かったのではないかと思わなくも無い。
「私はトパーですー」
「なんで普通に答えてるのよ! 教える必要なんてないわよ!」
「あー、アメスちゃんが答えないから、トキワくんしゅんってしちゃったじゃないですかー」
「え、わ、私が悪いの? あー、もう分かったって! アメステよ!」
うん、駄エルフよ、ニコニコするんじゃない。もういいだろう。シュアンのためにも、そろそろ戻った方が良いぞ。
「くっ、こうなったら、『星の調べ』を歌いましょう!」
「えー、怒られませんー?」
「この際仕方ないわ! 意地よ意地! もし隣の集落の誰かを魅了しちゃったら、そのとき謝ったらいいわ」
「んー、仕方ないですねー」
トパーとアメステは三度、大きく息を吸い、歌を奏でる。そこに込められている魔力量は、なるほど、さきほどの数倍だ。
だが悲しいかな。私の保護の前には砂が小石になった程度の違いでしかない。
現に駄エルフは、
(ふひひ、真剣に歌うお姉様、いい……!)
と鼻の下を伸ばしている。
ああ、ほら、シュアンがうっとりしながらジト目を向けるなんて、器用なことをしているぞ。
どれ、セイレーン達の方の心も覗いてみるか。
(どう! これなら流石に……効いてる様子が無い!? く、なら魔力量を増やすまでよ!)
(ふえー、アメスちゃん、まだ頑張るんですかー? うー、頑張るとお腹すくんですよねー)
トパーは不満を漏らしつつだが、なんだかんだでアメステにつきあっているようだな。
結果は……
(……それにしても、あの羽、触ったら気持ちよさそうだなぁ。ジュルリ)
じゅるりではない。せめてもう少し聞いてやれ。
(まだ足りないの!? これでどう!?)
(なんだか、変なところ見られてる気がしますねー? まあいいかー)
セイレーン達も頑張ってはいるのだ。だが足りない。
む、また魔力量を増やしたか。アメステなど鬼気迫るほどの雰囲気だな。
なんてのんきに眺めている間にも、歌に乗せられる魔力量はどんどん増えていく。
つられるように歌の質もどんどんと高まる。
今の彼女らは、もしかすると、あらゆるセイレーン族の中で最も素晴らしい歌を披露しているかもしれない。
それでも、足りない。
私の施した保護を超えられない。
(くっ、どうして? あんなに特訓したのに、どうして上手くいかないの? いいえ、負けない!)
(お腹すきましたねー。でも、アメスちゃんが頑張ってるんですから、私も頑張らないとですよねー。友達ですから-)
ふんわりとしていたトパーの目にも、火が付いた。
人生をかけたコンサートに挑むような気迫。
二人の友情が、歌の質をさらに高める。
その歌を聴いて、トキワは、
(このまま二人と仲良くなれたらー、いっしょにご飯食べてー、羽ももふもふさせてもらってー……ぐふふ!)
煩悩まみれの妄想を脳内に溢れさせていた。
駄エルフである。
(腕組んでお空の散歩とかいいなぁ! あ、でもでもでも、そしたら私は百合の間に挟まる事になる!? ぐぬぬ、それは不本意……。いやしかし!)
駄エルフである。
この素晴らしい歌の中でこのような妄想をはかどらせるなど、耳が腐っているのだろうか?
せめてウンウン唸るのはやめて貰いたい。
(まだだめなの!? もう、これ以上は……)
(アメスちゃん、まだですよー。ここからですー。私たちなら、やれますー!)
(トパー……。ええ、そうね!)
(一瞬くらいなら百合にはさまっても……。ちょっとお邪魔するだけ、いやだめやっぱだめ! ああでも惜しい……)
(まだ、まだぁ!)
(くぅ、そろそろ、きついですけどー、まだ、頑張れますー!)
(いやでもやっぱりせっかくのチャンスだよ!? こんな綺麗なお姉様がたとお近づきになるチャンス! これは逃せない!)
……我々は何を見せられているのだ?
(ラスサビ! これでダメなら、いえ、ダメなはずない! 私とトパーの全力、全身全霊の『星の調べ』だもの!)
(全部、出し切ります!)
(よし、決めた!)
それぞれがそれぞれの思いを胸に瞳を輝かせる中、とうとう最後の歌詞が歌いきられた。
トキワのウンウンと唸る声もやみ、静寂が辺りを包む。
周囲に目を向ければ、他のセイレーン達も集まって、固唾をのんでいた。
はぁはぁ、と息を荒くするアメスとトパー。その視線の先では、エルフの少年が瞼を閉じて、たたずんでいた。
「や、ったの?」
「やりまし、た?」
無数の視線が、トキワに注がれる。
それでも彼は微動だにしない。
「効いてる? 効いてる!」
「効いてますよー! やりましたねー、アメスちゃん!」
「ええ、やっ――「アメスさん、トパーさん!」てないんかい!」
アメステの口調が関西弁じみたのも仕方の無い話では無かろうか。
「二人の羽で私を包んでください! あとモフらせて!」
駄エルフの瞳の輝きは、夜空の星のようだ。
駄エルフである。
ぷるぷると震えるのは、当然アメステだ。
「ダメですか!?」
「好きにすればいいでしょ! ……はぁ」
そのままセイレーン二人はへたり込み、ため息をつく。無邪気に喜ぶトキワは、そんな二人に首をかしげていた。まこと、駄エルフである。
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