我らが愛しきTS駄エルフ(♂)の旅

嘉神かろ

文字の大きさ
23 / 31

第23話 真剣に歌うお姉様、いい……!


 はてさて、魅了されたシュアンと浮かれきった駄エルフがセイレーンの集落に降りて、暫くが経った。そろそろ二人は放り出された頃であろうか。
 彼らの気配があるのは、未だサツの住人たちが居を構える山岳地帯の中だな。
 ふむ、いきなり見せて、幼子には決して見せられぬような状況であってはいけない。物語を再会する前に、私が確認するとしよう。

 ここは……、セイレーンの集落だな。もう少し休憩時間が必要だったかもしれない。
 いや、待て、どうにも様子がおかしい。

 シュアンの様子は、先ほどのまま。魅了されて意識を半ば失ったまま、うっとりとした表情を浮かべて立っている。
 問題の駄エルフは、どういう事だろうか。膝を抱えて地面に座り、目をキラキラと輝かせているな。
 視線の先にいるのは、件のセイレーン二人。紫の長髪に猫のような目をした者と、金髪金眼で眦の下がった者だ。

 何かを話しているようだが、音は聞いていない故、会話の内容は分からない。
 肩で息をしているのは分かるが、はてさていったい……?
 
 ともかく、お茶の間に流して問題無さそうだ。物語を再開しよう。

「なんででしょー? お兄さん、ちゃんと耳聞こえてますよねー?」

 この間延びした声は、垂れ目の方のものだ。見た目の印象通り、おっとりした性格らしい。

「うん、聞こえてるよ! 二人とも凄く上手だね!」
「セイレーンなら当然よ。そんな事より、どうして平気なのよ!」
「え?」

 ああ、なるほど。状況が見えたな。

「もう一回歌ってみますー?」
「そ、そうね。次は『空の調べ』よ!」
「やった!」

 のんきに拍手をする駄エルフに、紫髪のセイレーンは小馬鹿にしたような笑みを向ける。さしずめ、余裕でいられるのも今のうちだ、だとか、そのような感じだろう。

 セイレーンたちは大きく息を吸い、その美しい声に魔力を乗せて響かせる。なるほど、彼女らはセイレーンの中でも歌の上手い方なのだろう。歌姫と呼ばれても差し支えない響きだ。

 ああ、魅了の魔法がこちらに届く事は無い。観客諸君は安心して欲しい。
 私の保護下にあるのだからな。

「わぁ、ホントに綺麗。さっきのより伸びやかっていうか、天高く! って感じ」

 歌い終わった直後のトキワの感想である。

「どうして正気のままなのよ!」

 うむ、怒鳴り声まで美しいとは。さすがはセイレーンか。

 はてさて、困ったのはセイレーン達二人だが、観客諸君には先に答えを開示しておこう。
 観客諸君が魅了にかからないのは私の保護による為だが、駄エルフの場合もこれが当てはまる。
 私自身すっかり忘れていたのだが、トキワの精神をこの世界、およびあの体に定着させた際に施した保護が、今もなお掛かったままになっているのだ。

 この私の精神保護だ。たかだか一生命体の魅了魔法ごときが貫けるものではない。

「ねえねえ、そういえば、お姉さん達ってなんて名前なの? 私はトキワだよ!」

 とはいえ、だ。
 シュアンの前で堂々とナンパまがいの事をする駄エルフを見ていると、ひんむかれて放り出された方が良かったのではないかと思わなくも無い。

「私はトパーですー」
「なんで普通に答えてるのよ! 教える必要なんてないわよ!」
「あー、アメスちゃんが答えないから、トキワくんしゅんってしちゃったじゃないですかー」
「え、わ、私が悪いの? あー、もう分かったって! アメステよ!」

 うん、駄エルフよ、ニコニコするんじゃない。もういいだろう。シュアンのためにも、そろそろ戻った方が良いぞ。

「くっ、こうなったら、『星の調べ』を歌いましょう!」
「えー、怒られませんー?」
「この際仕方ないわ! 意地よ意地! もし隣の集落の誰かを魅了しちゃったら、そのとき謝ったらいいわ」
「んー、仕方ないですねー」

 トパーとアメステは三度、大きく息を吸い、歌を奏でる。そこに込められている魔力量は、なるほど、さきほどの数倍だ。

 だが悲しいかな。私の保護の前には砂が小石になった程度の違いでしかない。
 現に駄エルフは、

(ふひひ、真剣に歌うお姉様、いい……!)

 と鼻の下を伸ばしている。
 ああ、ほら、シュアンがうっとりしながらジト目を向けるなんて、器用なことをしているぞ。

 どれ、セイレーン達の方の心も覗いてみるか。

(どう! これなら流石に……効いてる様子が無い!? く、なら魔力量を増やすまでよ!)
(ふえー、アメスちゃん、まだ頑張るんですかー? うー、頑張るとお腹すくんですよねー)

 トパーは不満を漏らしつつだが、なんだかんだでアメステにつきあっているようだな。
 結果は……

(……それにしても、あの羽、触ったら気持ちよさそうだなぁ。ジュルリ)

 じゅるりではない。せめてもう少し聞いてやれ。

(まだ足りないの!? これでどう!?)
(なんだか、変なところ見られてる気がしますねー? まあいいかー)

 セイレーン達も頑張ってはいるのだ。だが足りない。
 む、また魔力量を増やしたか。アメステなど鬼気迫るほどの雰囲気だな。

 なんてのんきに眺めている間にも、歌に乗せられる魔力量はどんどん増えていく。
 つられるように歌の質もどんどんと高まる。

 今の彼女らは、もしかすると、あらゆるセイレーン族の中で最も素晴らしい歌を披露しているかもしれない。

 それでも、足りない。
 私の施した保護を超えられない。

(くっ、どうして? あんなに特訓したのに、どうして上手くいかないの? いいえ、負けない!)
(お腹すきましたねー。でも、アメスちゃんが頑張ってるんですから、私も頑張らないとですよねー。友達ですから-)

 ふんわりとしていたトパーの目にも、火が付いた。
 人生をかけたコンサートに挑むような気迫。
 二人の友情が、歌の質をさらに高める。

 その歌を聴いて、トキワは、

(このまま二人と仲良くなれたらー、いっしょにご飯食べてー、羽ももふもふさせてもらってー……ぐふふ!)

 煩悩まみれの妄想を脳内に溢れさせていた。
 駄エルフである。

(腕組んでお空の散歩とかいいなぁ! あ、でもでもでも、そしたら私は百合の間に挟まる事になる!? ぐぬぬ、それは不本意……。いやしかし!)

 駄エルフである。

 この素晴らしい歌の中でこのような妄想をはかどらせるなど、耳が腐っているのだろうか?
 せめてウンウン唸るのはやめて貰いたい。

(まだだめなの!? もう、これ以上は……)
(アメスちゃん、まだですよー。ここからですー。私たちなら、やれますー!)
(トパー……。ええ、そうね!)
(一瞬くらいなら百合にはさまっても……。ちょっとお邪魔するだけ、いやだめやっぱだめ! ああでも惜しい……)
(まだ、まだぁ!)
(くぅ、そろそろ、きついですけどー、まだ、頑張れますー!)
(いやでもやっぱりせっかくのチャンスだよ!? こんな綺麗なお姉様がたとお近づきになるチャンス! これは逃せない!)

 ……我々は何を見せられているのだ?

(ラスサビ! これでダメなら、いえ、ダメなはずない! 私とトパーの全力、全身全霊の『星の調べ』だもの!)
(全部、出し切ります!)
(よし、決めた!)

 それぞれがそれぞれの思いを胸に瞳を輝かせる中、とうとう最後の歌詞が歌いきられた。
 トキワのウンウンと唸る声もやみ、静寂が辺りを包む。

 周囲に目を向ければ、他のセイレーン達も集まって、固唾をのんでいた。

 はぁはぁ、と息を荒くするアメスとトパー。その視線の先では、エルフの少年が瞼を閉じて、たたずんでいた。

「や、ったの?」
「やりまし、た?」

 無数の視線が、トキワに注がれる。
 それでも彼は微動だにしない。

「効いてる? 効いてる!」
「効いてますよー! やりましたねー、アメスちゃん!」
「ええ、やっ――「アメスさん、トパーさん!」てないんかい!」

 アメステの口調が関西弁じみたのも仕方の無い話では無かろうか。

「二人の羽で私を包んでください! あとモフらせて!」

 駄エルフの瞳の輝きは、夜空の星のようだ。
 駄エルフである。

 ぷるぷると震えるのは、当然アメステだ。

「ダメですか!?」
「好きにすればいいでしょ! ……はぁ」

 そのままセイレーン二人はへたり込み、ため息をつく。無邪気に喜ぶトキワは、そんな二人に首をかしげていた。まこと、駄エルフである。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。