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第29話 ちゃんとしないと失礼だよね!
㉙
「トキワ殿、シュアン殿って、案外強いっすね……」
「うん、そうなんだよ……」
「ふんふふーんっ」
げっそりする男性陣と、ホクホクのシュアン。
何が起こったかは、まあ、トキワの両手にある大量の買い物袋を見れば何となく予想できるのではなかろうか。
トキワが道ゆく女性に片っ端から声をかけた結果、シュアンがキレたのだ。
彼女から発せられる圧は、それはもう語る事すら憚られるものがあった……。
まこと、駄エルフである。
なお、キイチがげっそりしてるのは圧に巻き込まれ、当てられただけだ。
「……よくよく考えたら俺、気にする必要ないですね? というわけで、ちょっとクヌギル玩具店の売り子さんに声かけて来ます!」
おい駄エルフ二号、貴様護衛だろう。
「えっ、ずる……じゃなくて、置いてくの!?」
「ちょっとだけっす! そこの店見ててください!」
嘘だろう本当に走り出したぞ。
「えっ、ちょっと来い? い、いや、でも、ほら、護衛……」
む、声を飛ばす魔法だな。副隊長からか。
「部下がすまない。短時間だけだか、私が案内をしよう。キイチ、行ってこい」
「あ、はい」
いつの間にか横にいた隊長エルフと、目の前の状況に、トキワ達は呆気に取られるばかりだ。
とりあえず目で追っていたキイチは、そのまま近くの路地裏に入っていく。
「気にする必要はない。それよりも、そろそろ昼時だろう。この先に屋台の並ぶエリアがある」
それで良いのだろうか、と顔を見合わせる二人だったが、すぐに隊長エルフのあとを追う。
その理由が、何処からともなく響いた悲鳴なのは、一応伝えておこう。
チェリブロ商店街を楽しんだ後は、昨日ぶりの鎮めの森だ。ここはハヅキの都においても特別な場所で、一般の者たちが入れるのは表層までとなっている。
それは森の奥が精霊達の楽園になっているが故であり、例外は一部のエルフ達のみだった。
そんな場所に、足音が三人分。
トキワ、シュアンに加えて、全身からぷすぷすと煙を上げ、焦げ臭さを纏ったキイチである。
「いやぁ、ちょっと調子に乗りすぎましたね!」
「まあ、私は何も言えないけどさ……」
完全な自業自得故、擁護のしようがない。
しかし、駄エルフさえ呆れさせるとは……。
二号め、侮れぬな。
「それ、で、その、本当に入って、大丈夫、なんです?」
「ああ、はい、大丈夫っすよ。ちゃんと正式に許されてるので、堂々といきましょう!」
ニカっと笑うキイチだが、二人、特にシュアンは不安そうだ。
身構えつつ周囲を見渡して、少し待ち、それでも雷が飛んでこない事を確認してからようやく頷く。
「……お二方とも、もう少し俺のこと信用してくれても良いと思うんすよ」
「え、えっと……」
「うん、無理かな」
「そんなぁ……」
自業自得である。
「ま、まあまあ、それよりさ、早く行こ? 夜は寄りたい所があるんでしょ?」
「おっと、そうでした。じゃあ行きますか」
気を取り直して森の中を進むこと暫く、空が赤く色づいて来た頃、ようやく目的地に辿り着いた。
この頃になると、森の中は殆ど夜と変わらない。木々の香りばかりを感じる静寂の中で、不意に、エルフ二人が足を止めた。
「えと、どうした、の?」
「……何か、来る」
小精霊がどういった存在かすら知らぬトキワだが、腐ってもエルフか。その気配に気がついた。
「今回会いに来た方々です」
キイチの声には、多分の敬意と友愛、そして僅かばかりの緊張が含まれている。
シュアンもその気配を捉えようとジッと感覚を研ぎ澄ますが、何も捉えられない。
それも当然だろう。何せ、彼女らは精霊。獣人たるシュアンでは、彼女らの意思無しに、その存在を捉えることは出来ない。
「えっ……?」
逆に言えば、彼女らがその意思を持てば、全ての存在に己を示すことができる。
トキワ達の視線の先、シュアンからすれば何もない虚空が、突如輝いた。
直後現れたのは、三人の美しい男女。厳密には人と数えない者たちだ。
「お久しぶりです、アクアリエ様、ソロウ様、ウェステリエ様」
「久しいですね、キイチ。して、その子らが……」
「はい」
アクアリエと呼ばれたのは、中央に立つ長身の女性体。向こうの透ける水のような身体を持ち、長い髪を靡かせる彼女は、鎮めの森の奥深くに住む水の上位精霊だ。
その左右に控えるのが、土の中位精霊であるソロウと、風の中位精霊ウェステリエだ。
ソロウは陶器の肌を持つ癖っ毛の女性体、ウェステリエはアクアリエ以上に透けた身体の、涼やかな表情をした男性体だ。両者とも、アクアリエに比べて小柄で、幼い雰囲気があった。
「は、初めまして! トキワです!」
「シュ、シュアンです!」
まだ彼女らがどういった存在かは聞いていないトキワ達でも、感じる存在感ゆえに、つい畏まってしまったようだ。
当然だろう。精霊とは、創造の神に最も近しき者ゆえ。
その緊張は、キイチから紹介を受けたことで最大まで高まる。
シュアンの喉がゴクリと鳴り、トキワの瞳孔が開く。
珍しい姿だ。
今、彼はいったい、何を思っているのだろうか。
(どうしよう……)
ふむ。トキワが彼女らに対して悩むべき事など、あっただろうか?
(いやでも、うーん……)
これは、相当深刻な悩みか?
(よし!)
何かを決断したようだ。表層で言語化されぬ思考だが、かなり強い意思を感じる。
トキワの目にも強い熱が宿り、大量の空気が彼の内に吸い込まれた。
「あの!」
突然上げられた大きな声に、シュアンとキイチが跳ねたような挙動を見せる。精霊達の視線もまた、トキワへ集まった。
果たして、彼女が告げる言葉は……。
「お姉さん! 私と深い仲になりませんか!?」
……駄エルフである。
「トキワ殿、シュアン殿って、案外強いっすね……」
「うん、そうなんだよ……」
「ふんふふーんっ」
げっそりする男性陣と、ホクホクのシュアン。
何が起こったかは、まあ、トキワの両手にある大量の買い物袋を見れば何となく予想できるのではなかろうか。
トキワが道ゆく女性に片っ端から声をかけた結果、シュアンがキレたのだ。
彼女から発せられる圧は、それはもう語る事すら憚られるものがあった……。
まこと、駄エルフである。
なお、キイチがげっそりしてるのは圧に巻き込まれ、当てられただけだ。
「……よくよく考えたら俺、気にする必要ないですね? というわけで、ちょっとクヌギル玩具店の売り子さんに声かけて来ます!」
おい駄エルフ二号、貴様護衛だろう。
「えっ、ずる……じゃなくて、置いてくの!?」
「ちょっとだけっす! そこの店見ててください!」
嘘だろう本当に走り出したぞ。
「えっ、ちょっと来い? い、いや、でも、ほら、護衛……」
む、声を飛ばす魔法だな。副隊長からか。
「部下がすまない。短時間だけだか、私が案内をしよう。キイチ、行ってこい」
「あ、はい」
いつの間にか横にいた隊長エルフと、目の前の状況に、トキワ達は呆気に取られるばかりだ。
とりあえず目で追っていたキイチは、そのまま近くの路地裏に入っていく。
「気にする必要はない。それよりも、そろそろ昼時だろう。この先に屋台の並ぶエリアがある」
それで良いのだろうか、と顔を見合わせる二人だったが、すぐに隊長エルフのあとを追う。
その理由が、何処からともなく響いた悲鳴なのは、一応伝えておこう。
チェリブロ商店街を楽しんだ後は、昨日ぶりの鎮めの森だ。ここはハヅキの都においても特別な場所で、一般の者たちが入れるのは表層までとなっている。
それは森の奥が精霊達の楽園になっているが故であり、例外は一部のエルフ達のみだった。
そんな場所に、足音が三人分。
トキワ、シュアンに加えて、全身からぷすぷすと煙を上げ、焦げ臭さを纏ったキイチである。
「いやぁ、ちょっと調子に乗りすぎましたね!」
「まあ、私は何も言えないけどさ……」
完全な自業自得故、擁護のしようがない。
しかし、駄エルフさえ呆れさせるとは……。
二号め、侮れぬな。
「それ、で、その、本当に入って、大丈夫、なんです?」
「ああ、はい、大丈夫っすよ。ちゃんと正式に許されてるので、堂々といきましょう!」
ニカっと笑うキイチだが、二人、特にシュアンは不安そうだ。
身構えつつ周囲を見渡して、少し待ち、それでも雷が飛んでこない事を確認してからようやく頷く。
「……お二方とも、もう少し俺のこと信用してくれても良いと思うんすよ」
「え、えっと……」
「うん、無理かな」
「そんなぁ……」
自業自得である。
「ま、まあまあ、それよりさ、早く行こ? 夜は寄りたい所があるんでしょ?」
「おっと、そうでした。じゃあ行きますか」
気を取り直して森の中を進むこと暫く、空が赤く色づいて来た頃、ようやく目的地に辿り着いた。
この頃になると、森の中は殆ど夜と変わらない。木々の香りばかりを感じる静寂の中で、不意に、エルフ二人が足を止めた。
「えと、どうした、の?」
「……何か、来る」
小精霊がどういった存在かすら知らぬトキワだが、腐ってもエルフか。その気配に気がついた。
「今回会いに来た方々です」
キイチの声には、多分の敬意と友愛、そして僅かばかりの緊張が含まれている。
シュアンもその気配を捉えようとジッと感覚を研ぎ澄ますが、何も捉えられない。
それも当然だろう。何せ、彼女らは精霊。獣人たるシュアンでは、彼女らの意思無しに、その存在を捉えることは出来ない。
「えっ……?」
逆に言えば、彼女らがその意思を持てば、全ての存在に己を示すことができる。
トキワ達の視線の先、シュアンからすれば何もない虚空が、突如輝いた。
直後現れたのは、三人の美しい男女。厳密には人と数えない者たちだ。
「お久しぶりです、アクアリエ様、ソロウ様、ウェステリエ様」
「久しいですね、キイチ。して、その子らが……」
「はい」
アクアリエと呼ばれたのは、中央に立つ長身の女性体。向こうの透ける水のような身体を持ち、長い髪を靡かせる彼女は、鎮めの森の奥深くに住む水の上位精霊だ。
その左右に控えるのが、土の中位精霊であるソロウと、風の中位精霊ウェステリエだ。
ソロウは陶器の肌を持つ癖っ毛の女性体、ウェステリエはアクアリエ以上に透けた身体の、涼やかな表情をした男性体だ。両者とも、アクアリエに比べて小柄で、幼い雰囲気があった。
「は、初めまして! トキワです!」
「シュ、シュアンです!」
まだ彼女らがどういった存在かは聞いていないトキワ達でも、感じる存在感ゆえに、つい畏まってしまったようだ。
当然だろう。精霊とは、創造の神に最も近しき者ゆえ。
その緊張は、キイチから紹介を受けたことで最大まで高まる。
シュアンの喉がゴクリと鳴り、トキワの瞳孔が開く。
珍しい姿だ。
今、彼はいったい、何を思っているのだろうか。
(どうしよう……)
ふむ。トキワが彼女らに対して悩むべき事など、あっただろうか?
(いやでも、うーん……)
これは、相当深刻な悩みか?
(よし!)
何かを決断したようだ。表層で言語化されぬ思考だが、かなり強い意思を感じる。
トキワの目にも強い熱が宿り、大量の空気が彼の内に吸い込まれた。
「あの!」
突然上げられた大きな声に、シュアンとキイチが跳ねたような挙動を見せる。精霊達の視線もまた、トキワへ集まった。
果たして、彼女が告げる言葉は……。
「お姉さん! 私と深い仲になりませんか!?」
……駄エルフである。
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