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第28話 ここにあったか、我が桃源郷は……
㉘
見守る我々の不安は今のところ的中することはなく、三人は何事もなく食事を終えた。ハヅキの伝統料理に舌鼓を打って、トキワ、シュアン共にご満悦である。
「はぁ、美味しかったー。ごちそうさま!」
「でしょう?」
宿までの道を歩きながら笑みを浮かべ、腹をさする二人の姿に、案内したキイチも満足げだ。支払いが全てキイチだったのだから、余計だろう。
「甘酸っぱい味付けが多かったね」
「あと、お肉、も……」
「ああ、俺たちは元々、森での狩りを中心に暮らしてましたからね。果物と肉を使った料理がどうしても多くなるんすよ」
観客諸君の世界にはエルフは菜食主義、だなどというイメージもあるようだが、この世界のエルフらはそうでない。
森の住人の一員として互いに喰らい、そのバランスを保っている。また、森を健全に保つために木の伐採も行う。
「今でこそこんな感じですが、観光業で稼ぐようになったのはここ最近です。ここ百年くらい」
「ひゃ、百年が最近……」
エルフの時間感覚ならそんなものだ。トキワもそのうち、理解するであろう。
……ふむ、シュアンの顔に影が差しておるな。少し心の内を覗いてみるか。
(やっぱり、エルフと獣人じゃ、寿命が違いすぎる、よね……)
なるほど。それを考えていたか。
それを懸念する必要はない、というかこれから必要なくする。しかしそれは、今のシュアンの預かり知らぬところだ。彼女が思い悩むのも当然であろう。
これまでも、それ故に踏み出せずにいたのだろうが、寧ろ、それで良かったのかもしれぬな……。
いや、この話は、また後ほどしよう。もう宿が見えた。
「それでは、また明日迎えに来ます。……あっ、もし二人だけで行きたい時は言ってくださいね」
「うん、ありがとう!」
シュアンも礼を返し、その場で解散する。
トキワ達はこのまま部屋でのんびりと過ごすようであるし、少し護衛達の方に目を向けてみよう。
「ご苦労だったな」
「いやー、全然! こんな仕事なら寧ろ歓迎ですね。……夕食代、経費で落ちますよね?」
そこそこ良いお店だったからな。三人分は痛かったか。
「ああ、申請しておこう」
「ありがとうございます!」
良かったな、キイチよ。
「それで、トキワ殿とやけに盛り上がっていたようですが、何の話をしていたのです?」
「あっ、副隊長、聞いちゃいます? 聞いちゃいます!?」
む、アレを正直に答えるつもりか?
「良いから答えろ」
「あぶっ! だから雷やめてくださいよ……て、分かりました、答えます、答えますって!」
正直に言うつもりのようだな。
私は知らんぞ?
「いやぁ、トキワ殿、話が分かりますね! 女の子の太ももについてあそこまで語り合えたのは久しぶりぃっ!?」
駄エルフである。
副隊長にそのような話をして、何もされないわけがなかろう。
まあ、副隊長はある程度予想して聞いたのだろうがな。何せ、二人の視線がアレだけ店員の脚部に向いていたのだ。
ちなみに、想像はついているだろうが、その時のシュアンの目は深淵の底を思わせるもので非常に恐ろしかった。
シュアンの脚部に(トキワの)視線がいった時は恥ずかしげにモジモジしていたがな。それで良いのか、シュアンよ。
「よし、間も無く交代だ。引き継ぎ後、速やかに身体を休め、明日に備えよ」
この状況で平然としめるとは。
やるな、隊長。
翌日、二人は宿で朝食をとり、そのままキイチと合流する。
「おはようございます! よく眠れました?」
「もうぐっすり!」
「え、えと、はい……」
ふむ、シュアンは少し眠そうだな。獣人の感覚には護衛達の気配も落ち着かぬものだったか。
「昨日言ってた通り、まずは観光客向けの商店街に行きます。お勧めは、ズバリっ、クヌギル玩具店!」
「ほう、その心は?」
「売り子が可愛い」
「よし行こ――「あ、そこはいいです」」
駄エルフである。
トキワなどはそろそろ学習しても良いものだが。私としても、感情の消え去ったようなシュアンの瞳は恐ろしい。
そんなこんなでやって来たのは、多くの観光客と少しの住人で賑わう商店街、チェリブロ通りだ。
冬でも桃色の花で彩られた森の中の商店街。特に雪の積もった時の光景は、世界中を探しても、中々見られるものではないだろう。
「うわぁ、綺麗……」
「シュアン殿、そうでしょう? でも、もっと綺麗な所もあるんすよ!」
夜のお楽しみです、と続けるキイチに、シュアンは目を輝かせる。
私の言っていた公園の事だな。
「まあ、とりあえず行きましょう」
「あ、は、はい!」
ふむ。楽しめているようで何よりだ。
……ところで、先ほどからトキワのやつが静かだが、どうした事だろうか?
時折視線の先を移しながら、道の先の方をじっと見ているようだが……。
もしや、前世を思い出している? ここの花々は、そちらの世界の桜に似ている故、あり得る話だが……。
「……ここにあったか、我が桃源郷は」
「とう、げん、きょう……?」
む?
桃源郷、たしか、観客諸君の世界に伝わる異界、理想郷の類だったな。
「そう! 右を見ればお店の天使! 左を見れば観光するお姉様がた! どこを見ても至福! コレを桃源郷と言わずして、何と言おうか! ぐふふ!」
少なくとも貴様の頭の中は桃色だな。
「分かります! トキワ殿なら分かってくれると思ってました!」
待て、増えるな駄エルフ。ツッコミが追いつかなくなる。
ガシッと握手するな。
視線を合わせて表情をキメるな。
それと、周囲に意識を向けた方が良いぞ?
約二名が怖い。
見守る我々の不安は今のところ的中することはなく、三人は何事もなく食事を終えた。ハヅキの伝統料理に舌鼓を打って、トキワ、シュアン共にご満悦である。
「はぁ、美味しかったー。ごちそうさま!」
「でしょう?」
宿までの道を歩きながら笑みを浮かべ、腹をさする二人の姿に、案内したキイチも満足げだ。支払いが全てキイチだったのだから、余計だろう。
「甘酸っぱい味付けが多かったね」
「あと、お肉、も……」
「ああ、俺たちは元々、森での狩りを中心に暮らしてましたからね。果物と肉を使った料理がどうしても多くなるんすよ」
観客諸君の世界にはエルフは菜食主義、だなどというイメージもあるようだが、この世界のエルフらはそうでない。
森の住人の一員として互いに喰らい、そのバランスを保っている。また、森を健全に保つために木の伐採も行う。
「今でこそこんな感じですが、観光業で稼ぐようになったのはここ最近です。ここ百年くらい」
「ひゃ、百年が最近……」
エルフの時間感覚ならそんなものだ。トキワもそのうち、理解するであろう。
……ふむ、シュアンの顔に影が差しておるな。少し心の内を覗いてみるか。
(やっぱり、エルフと獣人じゃ、寿命が違いすぎる、よね……)
なるほど。それを考えていたか。
それを懸念する必要はない、というかこれから必要なくする。しかしそれは、今のシュアンの預かり知らぬところだ。彼女が思い悩むのも当然であろう。
これまでも、それ故に踏み出せずにいたのだろうが、寧ろ、それで良かったのかもしれぬな……。
いや、この話は、また後ほどしよう。もう宿が見えた。
「それでは、また明日迎えに来ます。……あっ、もし二人だけで行きたい時は言ってくださいね」
「うん、ありがとう!」
シュアンも礼を返し、その場で解散する。
トキワ達はこのまま部屋でのんびりと過ごすようであるし、少し護衛達の方に目を向けてみよう。
「ご苦労だったな」
「いやー、全然! こんな仕事なら寧ろ歓迎ですね。……夕食代、経費で落ちますよね?」
そこそこ良いお店だったからな。三人分は痛かったか。
「ああ、申請しておこう」
「ありがとうございます!」
良かったな、キイチよ。
「それで、トキワ殿とやけに盛り上がっていたようですが、何の話をしていたのです?」
「あっ、副隊長、聞いちゃいます? 聞いちゃいます!?」
む、アレを正直に答えるつもりか?
「良いから答えろ」
「あぶっ! だから雷やめてくださいよ……て、分かりました、答えます、答えますって!」
正直に言うつもりのようだな。
私は知らんぞ?
「いやぁ、トキワ殿、話が分かりますね! 女の子の太ももについてあそこまで語り合えたのは久しぶりぃっ!?」
駄エルフである。
副隊長にそのような話をして、何もされないわけがなかろう。
まあ、副隊長はある程度予想して聞いたのだろうがな。何せ、二人の視線がアレだけ店員の脚部に向いていたのだ。
ちなみに、想像はついているだろうが、その時のシュアンの目は深淵の底を思わせるもので非常に恐ろしかった。
シュアンの脚部に(トキワの)視線がいった時は恥ずかしげにモジモジしていたがな。それで良いのか、シュアンよ。
「よし、間も無く交代だ。引き継ぎ後、速やかに身体を休め、明日に備えよ」
この状況で平然としめるとは。
やるな、隊長。
翌日、二人は宿で朝食をとり、そのままキイチと合流する。
「おはようございます! よく眠れました?」
「もうぐっすり!」
「え、えと、はい……」
ふむ、シュアンは少し眠そうだな。獣人の感覚には護衛達の気配も落ち着かぬものだったか。
「昨日言ってた通り、まずは観光客向けの商店街に行きます。お勧めは、ズバリっ、クヌギル玩具店!」
「ほう、その心は?」
「売り子が可愛い」
「よし行こ――「あ、そこはいいです」」
駄エルフである。
トキワなどはそろそろ学習しても良いものだが。私としても、感情の消え去ったようなシュアンの瞳は恐ろしい。
そんなこんなでやって来たのは、多くの観光客と少しの住人で賑わう商店街、チェリブロ通りだ。
冬でも桃色の花で彩られた森の中の商店街。特に雪の積もった時の光景は、世界中を探しても、中々見られるものではないだろう。
「うわぁ、綺麗……」
「シュアン殿、そうでしょう? でも、もっと綺麗な所もあるんすよ!」
夜のお楽しみです、と続けるキイチに、シュアンは目を輝かせる。
私の言っていた公園の事だな。
「まあ、とりあえず行きましょう」
「あ、は、はい!」
ふむ。楽しめているようで何よりだ。
……ところで、先ほどからトキワのやつが静かだが、どうした事だろうか?
時折視線の先を移しながら、道の先の方をじっと見ているようだが……。
もしや、前世を思い出している? ここの花々は、そちらの世界の桜に似ている故、あり得る話だが……。
「……ここにあったか、我が桃源郷は」
「とう、げん、きょう……?」
む?
桃源郷、たしか、観客諸君の世界に伝わる異界、理想郷の類だったな。
「そう! 右を見ればお店の天使! 左を見れば観光するお姉様がた! どこを見ても至福! コレを桃源郷と言わずして、何と言おうか! ぐふふ!」
少なくとも貴様の頭の中は桃色だな。
「分かります! トキワ殿なら分かってくれると思ってました!」
待て、増えるな駄エルフ。ツッコミが追いつかなくなる。
ガシッと握手するな。
視線を合わせて表情をキメるな。
それと、周囲に意識を向けた方が良いぞ?
約二名が怖い。
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