9 / 56
三の浪 病の村②
しおりを挟む
②
とりあえずは手を洗う習慣? あと糞尿の処理かしら?
だったら上下水道、は作ろうと思えば作れるけれど、さすがに時間が掛かりすぎる。
「そういえばこの村、井戸はどうなってるのかしら?」
「いくつかあったよね。この家の近くにもあった気がする」
「行ってみましょうか」
という訳で、村の中をぐるり。
途中、遊んでいた子どもたちが集まってきた。彼らは畑仕事を手伝うには幼すぎるようで、この時間は遊びまわっているみたい。夕方には帰って家族の手伝いをするって言っていた。
とりあえずチョコを配っておく。
「アスト、何?」
「いやぁ?」
く、つい緩んでしまう口元が恨めしい。子どもが好きなのは否定しないけれど、そうやって揶揄い混じりの視線を向けられると恥ずかしい。
「ん? アストと遊びたい?」
ふと気が付いたら、女の子がアストをじっと見つめていたから聞いてみた。亜精霊のことは知らないようで、ちょっと変わった猫くらいに思っているのは先ほどまでの会話で分かっていることだ。
「うん!」
あら、いい笑顔。
「だって、アスト」
「まあいいけど、ってうわっ!? 尻尾はダメだって!」
おーう、他の子たちも集まってもみくちゃ。うん、さっき変な視線を向けられたし、このまま放置しよう。助けを求める声も視線も気付きません。頑張って。
アストが漸く解放されたころ、いくつかの井戸を回り終えた。アストに群がらなかった子たちが案内してくれたから、案外で早く済んだ。
井戸はどれも竪井戸で、石で回りを補強しながら垂直に掘っていった形式のもの。ゲームの影響か、よくイメージされる形だと思う。けっこう深く、釣瓶と桶を使ってくみ上げているみたい。子どもたちにとっては不人気な仕事ランキングで上位に入る位大変らしい。
んー、これは、手洗いの習慣を付けてもらうには邪魔ね。魔道具を作ってポンプ式に変えてしまおう。作り方は井戸から多重に検索していけば見つかる筈。村人たちでも管理できるものを探さないと。
勿論、村長さんに許可を取ってから。
上水はこれでいい。次は糞尿の処理。
今使われているのは所謂ぼっとん便所で、穴がいっぱいになる前にくみ上げて村の外れに纏めて埋めているらしい。饐えた匂いはこちらが主で、病人のそれはおまけだったって事みたい。
こちらの解決は簡単。多くの町で使われている方式がある。
「この辺にスライムっている?」
「すらいむ? なにそれ? 可愛い?」
「ん-、まあ、見ようによっては?」
アスト、そんな驚天動地を全力で表現した表情はしなくていいのよ? 大丈夫、アナタの方が百倍可愛いから。
それは兎も角、この辺りにはいなさそう。あとでサクッと捕まえに行こう。そうしたら、あとはそのスライムたちを各家のおトイレにぽいするだけ。勝手に分解してくれる。
どういう仕組みなのか、物質同士の結合エネルギーを吸収しているみたいで、原子レベル、下手をすれば素粒子レベルまで分解してしまうのがスライムだ。そのスピードは非常に緩やかで力もないので、子どもでも影響が出る前にするっと抜け出してしまえる。知能も殆どない、本能のみで生きている原始的な生命体だし、危険は無い、らしい。
まあ、私が村の設備に手を出すならこの程度までかしら? 野菜のお礼っていうことで。
実際に作るのは明日からね。一つ作ってみて、村長さんに許可をくれないか交渉する。
さて、日も高くなってきたし夕飯用のお肉でも狩りに行こう。これ以上村の食糧を私が食いつぶす訳にはいかない。
昼下がり、獲物の血抜きをしている間、暇なので子どもたちに読み書きを教える。青空教室だ。先生役の楽しさを覚えてしまったから、これも私の為だ。子どもたちよ、私の欲求を満たす為の生贄になりたまえー。
なんて思っていたら、いつの間にか大人たちまで混ざっている。この時間は大人も暇しているみたい。まあ全然いいのだけれど、さすがに大変。魔導で空中に文字を書けば黒板を使った授業のようにはできる。でも、一人一人を見るには私が慣れていなさすぎるのだ。
「アスト、アナタも共通文字ならわかるでしょ。手伝って」
「りょーかい。ちょっとしてみたかったんだ、先生役」
あら、楽しそう。二尾をユラユラ振っちゃって。猫が人に教えている姿は何だか微笑ましいし、そういう意味でもナイス判断だったかもしれない。目の保養だ。
しかし、これだけ学習意欲があるなら流行病の薬ぐらいは作れるようになるのでは? 用量の判断が難しい?
ん-、この世界の人間になら、安全ラインを厳しめに考えた基準の量と滋養強壮剤の併用でゴリ押せる気がする。ちょっと既存の薬を買ってきて調べてみる?
よし、そうしよう。ああ、魔道具も試作しないと。やる事がたくさんね。
日本人だった頃はやる事が多いのを煩わしく思っていたけれど、今は何だか、楽しい。やりたい事をやっているからなのかしら?
まあ、何でもいいか。この世界には、前世程しがらみも無いのだし。
とりあえずは手を洗う習慣? あと糞尿の処理かしら?
だったら上下水道、は作ろうと思えば作れるけれど、さすがに時間が掛かりすぎる。
「そういえばこの村、井戸はどうなってるのかしら?」
「いくつかあったよね。この家の近くにもあった気がする」
「行ってみましょうか」
という訳で、村の中をぐるり。
途中、遊んでいた子どもたちが集まってきた。彼らは畑仕事を手伝うには幼すぎるようで、この時間は遊びまわっているみたい。夕方には帰って家族の手伝いをするって言っていた。
とりあえずチョコを配っておく。
「アスト、何?」
「いやぁ?」
く、つい緩んでしまう口元が恨めしい。子どもが好きなのは否定しないけれど、そうやって揶揄い混じりの視線を向けられると恥ずかしい。
「ん? アストと遊びたい?」
ふと気が付いたら、女の子がアストをじっと見つめていたから聞いてみた。亜精霊のことは知らないようで、ちょっと変わった猫くらいに思っているのは先ほどまでの会話で分かっていることだ。
「うん!」
あら、いい笑顔。
「だって、アスト」
「まあいいけど、ってうわっ!? 尻尾はダメだって!」
おーう、他の子たちも集まってもみくちゃ。うん、さっき変な視線を向けられたし、このまま放置しよう。助けを求める声も視線も気付きません。頑張って。
アストが漸く解放されたころ、いくつかの井戸を回り終えた。アストに群がらなかった子たちが案内してくれたから、案外で早く済んだ。
井戸はどれも竪井戸で、石で回りを補強しながら垂直に掘っていった形式のもの。ゲームの影響か、よくイメージされる形だと思う。けっこう深く、釣瓶と桶を使ってくみ上げているみたい。子どもたちにとっては不人気な仕事ランキングで上位に入る位大変らしい。
んー、これは、手洗いの習慣を付けてもらうには邪魔ね。魔道具を作ってポンプ式に変えてしまおう。作り方は井戸から多重に検索していけば見つかる筈。村人たちでも管理できるものを探さないと。
勿論、村長さんに許可を取ってから。
上水はこれでいい。次は糞尿の処理。
今使われているのは所謂ぼっとん便所で、穴がいっぱいになる前にくみ上げて村の外れに纏めて埋めているらしい。饐えた匂いはこちらが主で、病人のそれはおまけだったって事みたい。
こちらの解決は簡単。多くの町で使われている方式がある。
「この辺にスライムっている?」
「すらいむ? なにそれ? 可愛い?」
「ん-、まあ、見ようによっては?」
アスト、そんな驚天動地を全力で表現した表情はしなくていいのよ? 大丈夫、アナタの方が百倍可愛いから。
それは兎も角、この辺りにはいなさそう。あとでサクッと捕まえに行こう。そうしたら、あとはそのスライムたちを各家のおトイレにぽいするだけ。勝手に分解してくれる。
どういう仕組みなのか、物質同士の結合エネルギーを吸収しているみたいで、原子レベル、下手をすれば素粒子レベルまで分解してしまうのがスライムだ。そのスピードは非常に緩やかで力もないので、子どもでも影響が出る前にするっと抜け出してしまえる。知能も殆どない、本能のみで生きている原始的な生命体だし、危険は無い、らしい。
まあ、私が村の設備に手を出すならこの程度までかしら? 野菜のお礼っていうことで。
実際に作るのは明日からね。一つ作ってみて、村長さんに許可をくれないか交渉する。
さて、日も高くなってきたし夕飯用のお肉でも狩りに行こう。これ以上村の食糧を私が食いつぶす訳にはいかない。
昼下がり、獲物の血抜きをしている間、暇なので子どもたちに読み書きを教える。青空教室だ。先生役の楽しさを覚えてしまったから、これも私の為だ。子どもたちよ、私の欲求を満たす為の生贄になりたまえー。
なんて思っていたら、いつの間にか大人たちまで混ざっている。この時間は大人も暇しているみたい。まあ全然いいのだけれど、さすがに大変。魔導で空中に文字を書けば黒板を使った授業のようにはできる。でも、一人一人を見るには私が慣れていなさすぎるのだ。
「アスト、アナタも共通文字ならわかるでしょ。手伝って」
「りょーかい。ちょっとしてみたかったんだ、先生役」
あら、楽しそう。二尾をユラユラ振っちゃって。猫が人に教えている姿は何だか微笑ましいし、そういう意味でもナイス判断だったかもしれない。目の保養だ。
しかし、これだけ学習意欲があるなら流行病の薬ぐらいは作れるようになるのでは? 用量の判断が難しい?
ん-、この世界の人間になら、安全ラインを厳しめに考えた基準の量と滋養強壮剤の併用でゴリ押せる気がする。ちょっと既存の薬を買ってきて調べてみる?
よし、そうしよう。ああ、魔道具も試作しないと。やる事がたくさんね。
日本人だった頃はやる事が多いのを煩わしく思っていたけれど、今は何だか、楽しい。やりたい事をやっているからなのかしら?
まあ、何でもいいか。この世界には、前世程しがらみも無いのだし。
21
あなたにおすすめの小説
異世界転生者のTSスローライフ
未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。
転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。
強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。
ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。
改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。
しかも、性別までも変わってしまっていた。
かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。
追放先はなんと、魔王が治めていた土地。
どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる