智慧の魔女の放浪譚〜活字らぶな黒髪少女は異世界でのんびり旅をする。精霊黒猫を添えて〜

嘉神かろ

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三の浪 病の村③

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 夜の間に魔道具を試作して、村長さんに許可を取った後は近くの町へ出かける。あの村長さんは年の功か、色々分かっているみたいで、もう対価として渡せるものが無いと言ってきたのだけれど、昨日の青空教室の時に聞いてしまったのだよ、私は。あの村には伝統的に作っている野菜のお酒があるという事を。
 そんな事を聞いてしまえば飲まない選択肢は無い。という訳で、対価はそちらを希望した。返事はもちろんオーケー。後日村を挙げて宴会を開いてくれるらしい。
 なんか宴会の口実にされた気がしないでもないけれど、お酒が飲めるのならそれでいい。

「お酒ってそんなに美味しいもの?」
「物によるし、好みにもよる……って前にも言わなかった?」
「だって、ソフィアが楽しそうなんだもの」

 そんなにかしら? まあいいか。

「それより、しっかり捕まってて」
「うん、安全飛行でお願いね」
「善処はする」

 肩を竦めたアストが二本の尾をしっかり杖に絡ませたのを確認して、魔導を使う。瞬間、私は地面を蹴った訳でもないのに宙へ浮いた。飛行の為の魔導だ。重力操作やらなにやら細かい事を飛んでいる間し続けなければいけないから疲れるし、歩きの数倍速い分、相応に魔力を消費する。だから普段はあまり使わないけれど、今回は短距離の移動だから。

 来るときは数時間かけた道のりに、数十分。トラブルにならないよう反対側の少し離れたところに着陸したから、けっこうなスピードを出していたと思う。乗っているだけのアストも疲れを見せていたし。

 まあ、まずは薬屋さんへ。
 いざ着いたそのお店は、思った以上に豪奢。領主お抱えの商人が経営しているらしい。薬の他にも香辛料の類を売っていて、独特の香ばしい香りが都会のコンビニくらいの店内に充満している。お客さんの数は、身なりの良い人ばかりで三人。あ、今入ってきた人は冒険者だね。実力的には、Bランクくらいかしら? 入口で番をしている人たちと同じくらいね。
 
「ふーん、確かにこれは高いね」

 件の薬は入ってすぐの一番わかりやすい所にあった。アストも私と同じような金銭感覚だから、同意を示してくれる。
 粗末な紙に包んで売られており、立札には何歳から何歳は何包みという風に書かれている。思った以上に大雑把。それに、文字が読める前提のシステムぽい。

 思ったけれど、このまま『智慧の館』で検索する事もできるのよね。ん-、でもまあ、このお店の人が悪いわけでもないし、十分に買える値段だから買おうかしら? 堂々と研究させてもらおう。
 二十歳なら、二包らしい。それだけ持って、お会計をしに行く。

「お父さんかお母さんに買っていくのかな? お嬢ちゃん、偉いね」

 ……この手代さん、案外で良い人そうなんだけれど、いや、これは私の見た目が悪い。うん、そう、仕方ない。それはそれとしてアストは後でお仕置きね。笑い、堪えきれてない。

 気を取り直して、スライム探し。さすがに人の家のおトイレから拝借するのは気が乗らない。勝手に増えた分が余分にいるとは思うけれど、うん。
 ギルドで調べてみたところ、村と反対側の平原を流れる川まで行けば沢山いるみたい。いくらか捕まえに行こう。

 その内村のおトイレでも増えていくと思うけれど、増えすぎるようならその辺の森の中に離せばいい。獣に食べられていい感じに数を調整される。生態系にすら影響を与えるほどの力が無い、ある意味恐ろしい生物だ。

 食事なんかを済ませ、村に戻ったのは昼下がり。青空教室の時間だ。昨日また今日もすると約束していたので、私の借りた家の前には村人たちが集まってきている。昨日は見なかった顔もあるので、復習ついでに同じ内容を教えよう。
 ついでにスライムを捕まえてきたことを話すと、主に大人たちが喜んでくれた。隣町までいくこともあるので、知識としては知っているのだ。
 その大人たちに教えられて、子どもたちからも歓声が上がる。水汲みと並んで、子どもたちに不人気な仕事みたいね。気持ちは分かる。

 そんなこんなで村での日々は過ぎていった。井戸の魔道具の設置は二日ほどで完了し、今は村人何人かに整備の仕方を教えている段階。毎日行っている青空教室の生徒から希望者を募集して選んだ。
 石板に説明書きを刻んで渡して、簡略化したものを井戸にも刻んだから、そう簡単には途絶えず伝わるだろう。
 宴会はやる事全部終わってからにして欲しいと伝えたので、まだ行われていない。準備は始まっているらしいけれど。

 今の問題は、薬の方だ。
 製法は難しくないし、用量も割と気軽に考えて良さそうだったので簡単な仕事だと思っていた。効果も『智慧の館』の力を使えば確かめられるし。
 けれど、材料となる薬草が足りないのだ。
 せめて過去、何万年前でもこの辺りに生えていたことがあれば、[記憶再現メモリーリナクト]でもう一度生やす事も、種苗を得ることも出来るのだけれど、それもない。

 なら代替物はと、ここ最近は狩りがてら周囲を散策している。

「ん-、無いなぁ」
「あと何が足りないんだっけ?」
「解熱作用のあるやつ。一番重要」

 鎮痛作用や滋養強壮作用その他を持った材料は見つけた。組み合わせ的にも問題ない。なのに、一番症状が重く出る発熱を改善する薬草が見つからない。虫でも果実でも、何でも良いのだけれど、見つからない。

「また村長さんに聞いてみる?」
「ん-、そうね、そうしてみましょ」

 いくつかの材料はそうして口伝で伝わっているような民間療法からヒントを得て探し出した。世間話の中での事だったので意図的に聞いたわけではなく、解熱剤について振れられることが無かったから、可能性はある。
 そう思って、村長さんの家の戸を叩いてみた。

「村長さん、この村で熱が出たときってどうしてるの?」
「熱、身体が熱くなる病で間違いないですかな?」

 最近敬語を使ってくるようになった村長さんに首肯を返す。最初と同じ感じで良いのだけれど、村の恩人に敬意を払うのは当然だと押し切られてしまった。

「そうですな、涼しい所に寝かせるのが基本ですな。氷に余裕があれば額や脇の下を冷やさせますが、暑い時期はせいぜい濡らした布切れを額に乗せる程度です」
「何か飲ませたり食べさせたりはしないの?」
「よほど酷いのなら町まで薬を買いに行かせますが、そうでもなければ特に特別な事は……」

 なるほど、何もなし。変な儀式めいた民間療法が無いと知れたのは収穫かもしれないけれど、薬づくりは進まない。
 どうしたものかしら?

「お役には立てなかったようで」
「いいえ、ありがとう。十分助かったわ」
「また何かあれば聞きにいらしてくださいな」

 村長さんの所を出て、一旦家へ向かう。もうすぐ青空教室の時間だし。

 ん-、迷信すらないとなると、難しい。村人たちが絶対食べないような何かを探すしかないのかしら? こうなるとそもそも解熱剤になるモノがこの村の周囲になにも無い可能性も濃厚になってくるのだけれど……。

 これまでした事だけでも、十分かもしれない。しかし、正直納得は難しい。どうせやるなら、出来る範囲で徹底的にしたい。
 けれど、このままだと妥協するしかないかもしれない。本当に、どうしたものかしら。

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