29 / 56
五の浪 学園都市ティールデン⑨
しおりを挟む
⑨
「先生嘘でしょ!? 皆、手伝って!」
メイケアが精霊の悪戯鞄から部品類を放り投げ、魔導で組み立てる。出来上がったのは、大きな楯。魔術的に防護が施されていて、空間座標を維持するようになっているみたい。
でも、それだけじゃこの魔導は防げない。
「アクエラ、合わせて!」
ドリマの掛け声と同時に楯の前に水と闇、それぞれの属性による減衰結界が展開される。見るに、楯には結界の強化機構があるみたい。魔法陣を組み込んだのね。さすがドリマ。
でも、それを飲み込んで雷嵐は突き進む。確かに威力は減衰したけれど、楯を壊すには十分。
「これでどうだ!」
数舜の後に楯と嵐がぶつかるが、想定よりも楯が耐えている。その理由は、ファーレイムの光属性による耐久力強化。
そう、あなたは光属性の方が適性が高いから、そのまま伸ばしたら良い。
「くぅっ……!」
けど急激に魔力を使ったから、立っていられなくなったのね。片膝を突いてしまった。それはドリマとアクエラも一緒。
でも――
「よく防いだわね」
同時に、彼らが役目を果した事を示す魔力反応が一つ。
「先生、行きますよ!」
「へぇ、凄いじゃない、ウル」
あれは、空間属性の魔導だ。光と闇の属性を活用する事で初めて具現化できる属性。一般の人々の中では半ば伝説の属性。
実際には悪戯鞄にも使われているんだけれど、これを攻撃に用いると、同じ属性や特殊な神聖魔導以外では防御不可能な最強の矛となる。
私でもあれを無傷で受けるのは大変ね。
「でも残念。それじゃあ、避けてくださいって言っているようなものよ」
可愛そうだけれど、ご褒美は無し、ね。
「よろしいのですか?」
うん?
「先生の後ろにあるのは、図書館ですよ?」
……ふふ、なるほど、そこまで計算していたのね。
「これは、避けられないわね」
図書館の本はもう殆ど読み切ってしまったけれど、本が傷つくのは看過できないに決まっている。
王族だけあって、交渉術も学んでいるのかしらね。
仕方がない。
ついでだし、一つ、魔導の深奥を見せよう。
先ほど挙げた空間魔導に対抗する手段の内、後者の方だ。
猫の意匠が施されたポーチ型の悪戯鞄から、アストのおやつ用に作っていた高純度の魔石をいくつか取り出して砕く。アストの悲鳴が聞こえたけれど、無視だ。
その破片を土属性の魔導で操って、前方に一つの魔法陣を描いた。
同時にウルが魔導名を叫び、それを完成させる。
「[狐猫の拒絶]!」
その魔導は空間そのものを拒絶するように削りながら私へ向かって伸びる。光ごと削っているからか、見た目は黒い柱だ。
「[虚無]」
迎え撃つのも、同じく漆黒。
こちらは存在しないはずのマイナスの概念が球状となって、世界に存在するプラスを打ち消し無に帰しながら飛翔する。
それらは、やや私寄りの位置で衝突した。
空間を拒絶する力と存在を打ち消し、否定する概念。似て非なる力は互いに互いを否定しながら純然たるエネルギーに代わって周囲へ爆ぜる。
良かった、アストに結界を張ってもらっていて。
そうでなかったら、割と被害が出ていたかもしれない。
ややあって暴風がおさまり、二つの力が対消滅した事を私たちに伝える。
子どもたちからは、平然と立っている私が砂ぼこりの向こうに見えるだろう。
「……はぁ。ホント、俺らの先生、化け物すぎんだろ」
「これでダメだったらもうどうしようもないねー。一周回って笑っちゃうよ」
「僕たち、本当に凄い人に教わっていたんだね」
子どもたちが座り込み、そんな風に談笑しているのが見える。
「はぁ、はぁ、申し訳、ございま、せん……」
「気にしないで、ウルちゃん。あれは、仕方ないよ」
やり切って満足、清々しい、みたいな雰囲気ね。
「あなた達」
そろそろ、ちゃんと結果を伝えてあげよう。
「よくここまで強くなったわね。嬉しいわ」
笑顔すら見せる彼らに返すのは、少し悪戯っぽい光の視線。
空いている左手で頬を指し、結果を告げる。
「最終試験、合格よ」
人差し指の先、私の左ほおには、一筋の紅い線が走っていた。
爆風で飛んできた礫で切れたのだ。
それでいいのかと言われるかもしれないけれど、あの状況に持ち込めたのは確実にこの子たちの成長があったからこそ。
細めた視界の中で子どもたちが喜んでいて、一層口角が上がる。
「そういう訳ですので、学園長、ちょっと行ってきます。色々起きますけれど、気にしないでくださいね」
「出来る事ならワッシも付いて行きたいところですが」
「ダメですよ。これは、子どもたちの頑張りへのご褒美です」
パースバル学園長は分かっているとばかりに笑みを浮かべて頷いた。魔法を見たいのは本音だけれど、これは言ってみただけなのだろう。曲者と貴族たちに言われている割には茶目っ気のある方だから。
その後、私は教え子たちを学園のある荒野の外れまで連れて行って魔法を披露した。見せたのは、旧世界時代、緑の溢れていた頃のこの地の姿から、現世界を女神が治めるに至った際の災い、そして奇跡まで。
この大盤振る舞いの[記憶再現]が、これから子どもたちにどういう影響を及ぼすのか。それは、まだ分からない。
「先生嘘でしょ!? 皆、手伝って!」
メイケアが精霊の悪戯鞄から部品類を放り投げ、魔導で組み立てる。出来上がったのは、大きな楯。魔術的に防護が施されていて、空間座標を維持するようになっているみたい。
でも、それだけじゃこの魔導は防げない。
「アクエラ、合わせて!」
ドリマの掛け声と同時に楯の前に水と闇、それぞれの属性による減衰結界が展開される。見るに、楯には結界の強化機構があるみたい。魔法陣を組み込んだのね。さすがドリマ。
でも、それを飲み込んで雷嵐は突き進む。確かに威力は減衰したけれど、楯を壊すには十分。
「これでどうだ!」
数舜の後に楯と嵐がぶつかるが、想定よりも楯が耐えている。その理由は、ファーレイムの光属性による耐久力強化。
そう、あなたは光属性の方が適性が高いから、そのまま伸ばしたら良い。
「くぅっ……!」
けど急激に魔力を使ったから、立っていられなくなったのね。片膝を突いてしまった。それはドリマとアクエラも一緒。
でも――
「よく防いだわね」
同時に、彼らが役目を果した事を示す魔力反応が一つ。
「先生、行きますよ!」
「へぇ、凄いじゃない、ウル」
あれは、空間属性の魔導だ。光と闇の属性を活用する事で初めて具現化できる属性。一般の人々の中では半ば伝説の属性。
実際には悪戯鞄にも使われているんだけれど、これを攻撃に用いると、同じ属性や特殊な神聖魔導以外では防御不可能な最強の矛となる。
私でもあれを無傷で受けるのは大変ね。
「でも残念。それじゃあ、避けてくださいって言っているようなものよ」
可愛そうだけれど、ご褒美は無し、ね。
「よろしいのですか?」
うん?
「先生の後ろにあるのは、図書館ですよ?」
……ふふ、なるほど、そこまで計算していたのね。
「これは、避けられないわね」
図書館の本はもう殆ど読み切ってしまったけれど、本が傷つくのは看過できないに決まっている。
王族だけあって、交渉術も学んでいるのかしらね。
仕方がない。
ついでだし、一つ、魔導の深奥を見せよう。
先ほど挙げた空間魔導に対抗する手段の内、後者の方だ。
猫の意匠が施されたポーチ型の悪戯鞄から、アストのおやつ用に作っていた高純度の魔石をいくつか取り出して砕く。アストの悲鳴が聞こえたけれど、無視だ。
その破片を土属性の魔導で操って、前方に一つの魔法陣を描いた。
同時にウルが魔導名を叫び、それを完成させる。
「[狐猫の拒絶]!」
その魔導は空間そのものを拒絶するように削りながら私へ向かって伸びる。光ごと削っているからか、見た目は黒い柱だ。
「[虚無]」
迎え撃つのも、同じく漆黒。
こちらは存在しないはずのマイナスの概念が球状となって、世界に存在するプラスを打ち消し無に帰しながら飛翔する。
それらは、やや私寄りの位置で衝突した。
空間を拒絶する力と存在を打ち消し、否定する概念。似て非なる力は互いに互いを否定しながら純然たるエネルギーに代わって周囲へ爆ぜる。
良かった、アストに結界を張ってもらっていて。
そうでなかったら、割と被害が出ていたかもしれない。
ややあって暴風がおさまり、二つの力が対消滅した事を私たちに伝える。
子どもたちからは、平然と立っている私が砂ぼこりの向こうに見えるだろう。
「……はぁ。ホント、俺らの先生、化け物すぎんだろ」
「これでダメだったらもうどうしようもないねー。一周回って笑っちゃうよ」
「僕たち、本当に凄い人に教わっていたんだね」
子どもたちが座り込み、そんな風に談笑しているのが見える。
「はぁ、はぁ、申し訳、ございま、せん……」
「気にしないで、ウルちゃん。あれは、仕方ないよ」
やり切って満足、清々しい、みたいな雰囲気ね。
「あなた達」
そろそろ、ちゃんと結果を伝えてあげよう。
「よくここまで強くなったわね。嬉しいわ」
笑顔すら見せる彼らに返すのは、少し悪戯っぽい光の視線。
空いている左手で頬を指し、結果を告げる。
「最終試験、合格よ」
人差し指の先、私の左ほおには、一筋の紅い線が走っていた。
爆風で飛んできた礫で切れたのだ。
それでいいのかと言われるかもしれないけれど、あの状況に持ち込めたのは確実にこの子たちの成長があったからこそ。
細めた視界の中で子どもたちが喜んでいて、一層口角が上がる。
「そういう訳ですので、学園長、ちょっと行ってきます。色々起きますけれど、気にしないでくださいね」
「出来る事ならワッシも付いて行きたいところですが」
「ダメですよ。これは、子どもたちの頑張りへのご褒美です」
パースバル学園長は分かっているとばかりに笑みを浮かべて頷いた。魔法を見たいのは本音だけれど、これは言ってみただけなのだろう。曲者と貴族たちに言われている割には茶目っ気のある方だから。
その後、私は教え子たちを学園のある荒野の外れまで連れて行って魔法を披露した。見せたのは、旧世界時代、緑の溢れていた頃のこの地の姿から、現世界を女神が治めるに至った際の災い、そして奇跡まで。
この大盤振る舞いの[記憶再現]が、これから子どもたちにどういう影響を及ぼすのか。それは、まだ分からない。
20
あなたにおすすめの小説
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
神に愛された子
鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。
家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。
常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった!
平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――!
感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる