【完結】君の為に翔ける箱庭世界

嘉神かろ

文字の大きさ
96 / 126
最終章 君の為に

第96話 思わぬ再開

しおりを挟む

 本来であれば何週間もかかる距離にあるグローリエル帝国北端の国境だが、転移なら瞬きをする間に着いてしまう。当然翔や陽菜が忠告について考える暇なんてある筈がない。モヤモヤとしたものを抱えたまま、二人は旅を続けることになった。

 今回の依頼主と言える【調停者】、火龍カルガンシアの住む『龍王大火山』は帝国の南端にある。一先ずは情報を集めながらそこを目指そうと決めていた彼らは、三つほどの大きな街を通り過ぎ、帝国南部にある街にまで来ていた。帝国に入ってから、既に数週間が経過している。

「今日はもう日が暮れるし、大火山の麓の街まで行くのは明日かな」

 二つ目の日が天頂を遠に超えた空を見上げながら翔は言う。
 火山近くにあるこの街、スドウェセクは、灰褐色の岩をくり抜いて作ったような三階建て以上の建物が多い。しかし現代日本の都会のように空をビル群が覆いつくすわけではなく、建物同士の間は広くなっている。『龍人族ドラゴニユート』は多少ながら飛行能力を持つ故に、二階部分以上にも出入り口が設けられており、ある程度の空間が自然と作られていた。

「今回も街で聞きこむか? 正直ろくな情報が集まるとは思えんが」
「いや、宿を取ったら酒場にでも行こうかなって。そろそろ革命軍の活動が多いらしい地域だしね」

 ここまでの街で集めた数少ない情報に、革命軍のよく活動している地域の話があったのだ。
 その情報から大火山の方に拠点があるのではないかという予想も立てられたが、同じ魔境である『風生れの島』がそうであったように、大火山もいわゆる迷宮のようになっている。広く強力な魔物の闊歩する地域を探索して拠点を見つけ出すのは骨が折れるだろう。そもそも移動しながら集められた程度の情報から分かる事なのだから、帝国の騎士団が把握していないはずがない。それでも尚発見に至っていないのだ。
 他に手に入った情報と言えば、首領の名前とその身分くらいだ。これも革命軍が元々どういった存在かを考えればさして重要な話ではなく、既に終わった事となる。噂程度に彼らの担ぎ上げようとしている皇族の名前が上がったが、そこまで行くと翔たちに手を出せる問題なのか分からず価値の不明な情報でしかない。せめて帝国の騎士と連携できたならとは翔たちも思っていた。
 
 道行く人の流れに乗りながら、一先ずは冒険者ギルドでお勧めの宿を聞こうかと話していた時だった。

思導しどう?」

 突然呼ばれた自身の名字に翔が振り返ると、そこにいたのは目と耳に少しかかる程度の長さの黒髪に、濃い黒の瞳の青年。見覚えのある三白眼の細い目は驚きに見開かれており、同じような表情の四人を鮮明に映していた。
 翔より少し背の低い彼は四人の方へ歩いていくと、笑みを作り、翔の肩を勢いよく掴む。

「久しぶりだな! 舞上まいがみさんに黄葉きば羽衣はごろもさんも!」

 翔たちの記憶にある彼には珍しい快活な笑みで、青年は四人の名前を呼ぶ。

「……毒島ぶすじま?」

 その姿に違和感を感じはしても、かつて同じ学び舎で学んだ彼を、毒島憧英しようえいを忘れるはずが無かった。それでも予想外の再開に、翔は一瞬戸惑い、思考を停止する。
 徐々に嬉しさの湧き上がるのを感じつつ改めて見ると、毒島の百七十五センチに満たない身体を包んでいるのはアルジェの与えた藍色の革鎧ではなく、その辺りの住人が来ているようなシンプルな浅黄あさぎ色のシャツと茶色のパンツだった。

「久しぶり、毒島。この辺に住んでるの?」
「いや、もう少し大火山に近い辺りだな。少し前に依頼でこっちまで来て、今日はまあ、観光。明日帰るつもりなんだよ」

 毒島も冒険者になりたいと言っていたのを思いだして、翔は納得した。
 ――依頼なら一つか二つ先の街くらいかな。乗合馬車もそんなに高くないみたいだし。

「そうだ、お前ら、もう宿は決めたのか?」
「いや、まだ」

 翔の返事に毒島はどこかほっとした様子を見せた。しかしそれも一瞬で、すぐに先ほどまでの笑みを顔に浮かべる。

「ならいい宿教えてやるよ。俺も泊ってる所なんだけど、飯が美味いんだ」
「へぇ。じゃあお願いするよ」

 毒島に連れられていった宿は、町の中心より少し南の方にある宿だった。どの町に行ってもよくある大衆酒場といった様相で、実際酒場の経営も行っているのだろう。店内は多くの顔を赤らめた客で賑わっていた。加えて一部の魔道具に特有な朱の混じった明かりが、様々な恰好の男女を照らしているものだから、彼らの顔はより一層赤く見える。
 ――あんまり綺麗な店内じゃない割に、余裕のありそうなお客さんが多いな。

 なんとなくそんな事を考えながら、毒島の後に付いて店の奥に進む。

「先に荷物おいてこ、って、〈ストレージ〉があったか。昔の感覚に戻ってたわ」
「はは、ちょっと分かるよ」

 箱庭世界アーカウラに来てもう何年も経っている筈なのに、無意識のうちにそんな判断をしていた。その事がおかしくて、何故か嬉しくて、翔たちは無邪気に笑う。特に翔からすれば、相手が異世界に残りたいだろうと話していた毒島なのだから、余計にだ。

「とりあえず部屋とるか。宿関係は全部上な」

 彼らが軽い足取りで奥の方にあった階段を上ると、左右へ廊下の続く小奇麗な部屋に建物と同じ石性のカウンターが一つあり、『龍人族ドラゴニユート』の若い女性が何か書き物をしていた。二本角の片方に青い宝石飾りを着けている辺り、既婚者らしいと、以前アルジェから受けた講義を思いだす。

「あら、おかえりなさい。と、そちらは新しいお客さん?」
「ああ、久しぶりに会った友達なんだ」

 翔は、女性と親し気に話す毒島の様子に安堵の息を漏らした自分に気が付いた。各地に散ったクラスメイト達の事は日ごろから気にかかっていた。まして毒島の場合、朱里の葬儀にも来られなかったのだ。全く様子の分からなかった旧友が上手くやっていると知れば、安心もする。
 ――アルジェさんも、俺たち以外には最低限の事しかしてないみたいだし。

 新しい皇帝陛下になって客足が戻ってきたと、嬉しそうに話す女性の声を聞きながら、翔は友の後姿に笑みを向けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...