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最終章 君の為に
第113話 昼下がりに
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⑳
革命軍の拠点の制圧は滞りなく済んだ。量はもちろん、質が戦いの勝敗を決める要因として地球よりも強く機能するアーカウラにおいて、最高幹部陣や毒島たちが抜けた影響は小さくない。高位の実力者たちを欠いた彼らになす術はなく、その殆どが捕縛、或いは絶命させられた。
それから、ひと月半の月日が過ぎた。
騎士団に合流した翔たちは今、示しの儀に向かう皇帝の護衛に加わっていた。彼らの目の前に並んでいるのは、各種帝国伝統の料理が乗った大皿たちだ。一行は既に目的の登山道入口付近にある宿場町まで来ていた。
「明日、大火山に入る。もし襲撃があるとしたら、そこだろう」
護衛に用意された宿の一角で同じテーブルを囲むカイルは、目を細め、窓の外を見る。隣で翔も同じように視線を向けると、青空に向けて煙を吐き出す龍王大火山が見えた。
「来ますかねー?」
「ああ、来るさ。目的を果たし、且つ己の誇りを汚さないために。それが『龍人族』の性で、ウズペラという男だ」
翔も、ウズペラ達は予定通り襲撃してくるだろうと半ば確信していた。彼らと時間を共有したのは短い間であったが、そんな印象を翔も持っていた。
疑問を口にした寧音や煉二は彼らを情報のみでしか知らない為、首を捻っている。
「カケル、ショウエイの件だが、分かっているな?」
「……はい。儀式が始まるまでに説得して、護衛に協力させれば、いいんですよね」
「そうだ」
そうすれば禁固刑で止めるというのが帝国側と交わした契約だった。それはカイルたちに出来る最大の譲歩であり、毒島が『龍人族』ではなかったからこそ辛うじて許された条件だった。
「何にせよ、君たちの事は頼りにしている。特に最高幹部陣は一筋縄ではいかない奴らばかりなのだからな」
「はい」
中でもウズペラやブラウマは強敵だ。カイルやフィルジェルなど騎士団最上位の実力者でなければ犠牲を覚悟しなければならない。しかしそんな人材を全て皇帝の護衛に当てるわけにはいかず、例に挙げたフィルジェルのように各々の護るべき街に留まっている方が多かった。
「まあ、他の護衛任務よりは難しくない。我らが陛下も歴戦の勇士。そこらの騎士よりもよほどお強いのだから」
だからと言って護衛対象に剣を抜かせるわけにはいかないが、カイルなりに翔たちに気を使ったのだろう。それを察した翔は、ありがとうございます、とだけ返して笑みを作った。
「そういえば、お前たちが接触したのは父上だったらしいな。何かされなかったか?」
「えっと、思いっきり吹っ飛ばされたくらいですかね?」
「吹っ飛ばされただけ?」
意外そうに目を見開くカイルの傍ら、ルキリエナの騎士団詰め所を襲撃した時を思い出す。彼の老将は、確かに言っていた。川上流奥義と。
「はい。あの、フィルジェルさんって、アルジェさんと関わり合ったりします?」
「ああ、なるほど。川上流の技でふっとばされたか」
カイルは得心したように頷いた。
「父上は悪戯好きだからな。何かはしたと思ったのだ。いや、すまない、闘神様と父上に関わりがあるかだったな。ああ、少しだけ剣を学んだことがあるらしい」
フィルジェルがまだ幼いころの話だそうで、彼自身というよりは彼の祖父、カイルの曾祖父がアルジェと友人関係にあったと言う。
「技も幾つか教わったと聞く。それを見せたかったのだろうな。まったく、父上は」
困ったように首を振るカイルだが、父の事を悪くは思っていないらしい。彼の纏った温かな空気に、翔は陽菜と微笑みを交わす。
今回は毒島の件があって食事を共にすることとなったが、翔たちとカイルが話す機会はそう多いわけではなかった。あくまで利害が一致しているだけの関係であるし、騎士団長として彼は忙しくしているのだから当然だ。翔と陽菜が革命軍に潜入している間騎士団にいた二人は兎も角として、翔達にはカイルのその姿が新鮮に映った。
そうして僅かばかりの友情を育みながら、夜は更け、明朝。
皇帝を中心に長い列を作り、翔たちは龍王大火山の火口に繋がる登山道に入っていった。翔たちのいるのは皇帝のいる中心にほど近い辺りだ。
前日にカイルより襲撃の可能性を示唆されていたこともあり、油断なく険しい山道を進んだ。人数が人数であるため、魔物の襲撃は考慮していないが、革命軍の襲撃を意識しなければいけない為負担は変わらない。その分ペースは落ちる。本来なら二日ほどで踏破できる道に三日を掛ける予定だった。
先日の強襲で逃げおおせた革命軍の兵士は多くない。多くはないが、少なくもない。騎士たちから逃げられるだけの実力を持ったものばかりだと考えれば、油断はできないだろう。
――ブルトさんたちも、いるはず……。
翔や陽菜も誰が捕まり、誰が殺されたのかをすべて把握しているわけではない。それでもその内のある程度以上知った顔は、概ね把握していた。その中に無かった顔を思い浮かべながら、嘆息する。
「どうしてもダメなら、他の人たちに任せたらいいんだよ」
「陽菜……」
驚いて陽菜の顔を見た翔は、察した。彼女も同じ事を考えていたのだと。
「そう、だね……。そもそも、俺たちが直接戦う事になるとは限らないんだし」
彼は周囲にいる沢山の騎士たちに意識を向ける。心に掛かったモヤは変わらず晴れないが、少し、薄くなったような気がした。
革命軍の拠点の制圧は滞りなく済んだ。量はもちろん、質が戦いの勝敗を決める要因として地球よりも強く機能するアーカウラにおいて、最高幹部陣や毒島たちが抜けた影響は小さくない。高位の実力者たちを欠いた彼らになす術はなく、その殆どが捕縛、或いは絶命させられた。
それから、ひと月半の月日が過ぎた。
騎士団に合流した翔たちは今、示しの儀に向かう皇帝の護衛に加わっていた。彼らの目の前に並んでいるのは、各種帝国伝統の料理が乗った大皿たちだ。一行は既に目的の登山道入口付近にある宿場町まで来ていた。
「明日、大火山に入る。もし襲撃があるとしたら、そこだろう」
護衛に用意された宿の一角で同じテーブルを囲むカイルは、目を細め、窓の外を見る。隣で翔も同じように視線を向けると、青空に向けて煙を吐き出す龍王大火山が見えた。
「来ますかねー?」
「ああ、来るさ。目的を果たし、且つ己の誇りを汚さないために。それが『龍人族』の性で、ウズペラという男だ」
翔も、ウズペラ達は予定通り襲撃してくるだろうと半ば確信していた。彼らと時間を共有したのは短い間であったが、そんな印象を翔も持っていた。
疑問を口にした寧音や煉二は彼らを情報のみでしか知らない為、首を捻っている。
「カケル、ショウエイの件だが、分かっているな?」
「……はい。儀式が始まるまでに説得して、護衛に協力させれば、いいんですよね」
「そうだ」
そうすれば禁固刑で止めるというのが帝国側と交わした契約だった。それはカイルたちに出来る最大の譲歩であり、毒島が『龍人族』ではなかったからこそ辛うじて許された条件だった。
「何にせよ、君たちの事は頼りにしている。特に最高幹部陣は一筋縄ではいかない奴らばかりなのだからな」
「はい」
中でもウズペラやブラウマは強敵だ。カイルやフィルジェルなど騎士団最上位の実力者でなければ犠牲を覚悟しなければならない。しかしそんな人材を全て皇帝の護衛に当てるわけにはいかず、例に挙げたフィルジェルのように各々の護るべき街に留まっている方が多かった。
「まあ、他の護衛任務よりは難しくない。我らが陛下も歴戦の勇士。そこらの騎士よりもよほどお強いのだから」
だからと言って護衛対象に剣を抜かせるわけにはいかないが、カイルなりに翔たちに気を使ったのだろう。それを察した翔は、ありがとうございます、とだけ返して笑みを作った。
「そういえば、お前たちが接触したのは父上だったらしいな。何かされなかったか?」
「えっと、思いっきり吹っ飛ばされたくらいですかね?」
「吹っ飛ばされただけ?」
意外そうに目を見開くカイルの傍ら、ルキリエナの騎士団詰め所を襲撃した時を思い出す。彼の老将は、確かに言っていた。川上流奥義と。
「はい。あの、フィルジェルさんって、アルジェさんと関わり合ったりします?」
「ああ、なるほど。川上流の技でふっとばされたか」
カイルは得心したように頷いた。
「父上は悪戯好きだからな。何かはしたと思ったのだ。いや、すまない、闘神様と父上に関わりがあるかだったな。ああ、少しだけ剣を学んだことがあるらしい」
フィルジェルがまだ幼いころの話だそうで、彼自身というよりは彼の祖父、カイルの曾祖父がアルジェと友人関係にあったと言う。
「技も幾つか教わったと聞く。それを見せたかったのだろうな。まったく、父上は」
困ったように首を振るカイルだが、父の事を悪くは思っていないらしい。彼の纏った温かな空気に、翔は陽菜と微笑みを交わす。
今回は毒島の件があって食事を共にすることとなったが、翔たちとカイルが話す機会はそう多いわけではなかった。あくまで利害が一致しているだけの関係であるし、騎士団長として彼は忙しくしているのだから当然だ。翔と陽菜が革命軍に潜入している間騎士団にいた二人は兎も角として、翔達にはカイルのその姿が新鮮に映った。
そうして僅かばかりの友情を育みながら、夜は更け、明朝。
皇帝を中心に長い列を作り、翔たちは龍王大火山の火口に繋がる登山道に入っていった。翔たちのいるのは皇帝のいる中心にほど近い辺りだ。
前日にカイルより襲撃の可能性を示唆されていたこともあり、油断なく険しい山道を進んだ。人数が人数であるため、魔物の襲撃は考慮していないが、革命軍の襲撃を意識しなければいけない為負担は変わらない。その分ペースは落ちる。本来なら二日ほどで踏破できる道に三日を掛ける予定だった。
先日の強襲で逃げおおせた革命軍の兵士は多くない。多くはないが、少なくもない。騎士たちから逃げられるだけの実力を持ったものばかりだと考えれば、油断はできないだろう。
――ブルトさんたちも、いるはず……。
翔や陽菜も誰が捕まり、誰が殺されたのかをすべて把握しているわけではない。それでもその内のある程度以上知った顔は、概ね把握していた。その中に無かった顔を思い浮かべながら、嘆息する。
「どうしてもダメなら、他の人たちに任せたらいいんだよ」
「陽菜……」
驚いて陽菜の顔を見た翔は、察した。彼女も同じ事を考えていたのだと。
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