【完結】君の為に翔ける箱庭世界

嘉神かろ

文字の大きさ
124 / 126
最終章 君の為に

第124話 頂へ

しおりを挟む

「来るよ!」

 翔の合図が早いか、煉二の詠唱が始まる。魔方陣が出現し、彼の全身全霊が込められる。

「寧音、詠唱完了までは俺たちで稼ぐよ。その後が勝負だ」
「了解ですー。もう魔力全部使い切っちゃいますよー!」

 何重もの障壁が展開された。陽菜も舞う位置を近づけ、いつでも動けるように一層神経を尖らせる。

「――みかどけまくもかしこき凍える雷霆らいてい、我が敵は汝が敵なりて」

 朗々と雷帝へ捧ぐ祝詞のりとの謡われる中、臨界状態にまで達した龍神の魔力が解き放たれ、障壁とぶつかる。一枚辺りの稼ぐ時間は、後を考えない分一度目より僅かに長いか。
 それでも然したる違いは無いのだと、破壊の閃光は確実に翔達へ迫る。

「汝の怒りを一身に受けるべき者ならば、我が祈りを糧に――」

 その状況で尚、リズムを崩さぬままに唄は紡がれる。
 青白せいはく色に輝く魔方陣がくうに描かれ、同色の燐光を彼の杖が纏う。

 そして残すは、の者の名を呼ぶのみ。
 煉二の視線が翔へ向けられる。翔を見るその表情は固い。

「時間を稼ぐだけでいいからね」
たわけたことを言うな。押し返して見せるさ」

 視線を合わせたまま、不敵な笑みを交わす。固さはもう消えている。

「……いくぞ」
「うん、いつでも」

 失敗すれば、煉二たちは死ぬ。ほぼ確実にだ。
 それでも、これ以外に道は無かった。見つけられなかった。

 だから、もう翔は迷わない。
 
「残った全魔力だ。持っていけ、[凍雷万招]!!」
 
 再び召喚された幾条もの氷の雷が、隔てるものの無くなった極光とぶつかり、押し合う。氷雷の威力は一度目と変わらない。絶対的な存在である龍に、理の外にも届き得ると言わしめた魔法。
 それすらも竜種の頂点が放つその権能は見る見ると押し退けていく。
 ――く、やっぱり無茶か……。

 奥歯を噛みしめ、作戦の修正を図る。

「まだだ!」

 しかしその思考は外ならぬ煉二によって遮られた。
 見れば、彼の持つエルダートレントの黒杖が、纏っていた燐光をその先の紅玉に集めている。

「再び廻れ、天女の星よ! 『凍雷万招』!!」

 それは、異なる頂によって彼の杖に与えられた、第二の力。直前の魔法を杖に蓄えられた魔力で再現する、めぐりの力。

 つい先ほどの焼き直しのように青白い光が中空に魔方陣を描き、二人目のみかどを招く。
 二人の帝から放たれる怒号は、魔力の奔流に弾かれ周囲の溶岩を凍てつかせながらもその流れを遮り、押し止める。
 ――これなら!

 未だ僅かずつ近づいてくる死。それが届くことの無いようにと、翔は最後の一撃にのぞむ。

 周囲に破壊を振り撒く力と力の衝突。それは互いを互いの死角へと隠し、注意をせめぎ合う相手にだけ向ける。
 つまりそこにあるのは、翔たちの求めて止まなかった、最大の一撃を叩きこむ隙。

 今翔は、閃光に紛れ、魔力を糧に生み出した足場に立ち、遥か上空より彼の巨龍を見下ろしていた。辺りの魔力が多少揺らいだが、荒れる大海に小石を一つ投げ入れたに過ぎない。

 紅蓮の龍は愉し気な気配のままに煉二たちへ向けてブレスを吐きかけ続けている。
 翔の見据えるのはその火龍の喉元。傲慢にも龍自身が示した、柔らかな部位。

 は真っ白な刃を真っ黒な鞘に納め、倒れこむ。その最中さなかで寧音へ視線を一つ。
 直後、増した重力にカルガンシアを支える大地が悲鳴を上げた。
 狙うのは、落下しながら放つ『迅雷』。彼の知らぬその技の銘は、『建御雷たけみかづち』。
 
「ほう」

 カルガンシアの意識が翔へ向くが、対応しようとしない。代わりに、ブレスへ込められる魔力が増え、凍えるいかずちの押し込まれる勢いが増した。

 明らかな揺さぶりだ。
 それでも、翔は動じない。

 寧音が金色の魔力をほとばしらせた。それは〈神聖魔法〉として概念を具象化し、煉二へ力を与える。

 再び弱まったおのがブレスの勢いに、傲慢なる試練は不遜な笑みをべにの双玉に浮かべ権能を収める。そして迫りくる刃を見上げた。
 ――……ありがとうございます。

 迎撃に放たれた蒼炎の槍は最後の魔力を振り絞った寧音と陽菜の魔法が撃ち落とし、邪魔する者のいなくなった二組の氷雷がその視界を氷に封じる。
 氷の溶かされるまでは、ほんの一瞬。しかし増加した重力下では、彼我の距離を十分すぎるほどに詰めた。
 ――あと、少し……!

 カルガンシアはその巨躯をうねらせ、六の爪で翔を狙う。即座に足場を生み出さねば凶刃が彼の心の臓を穿つタイミング。そうでなくても変わった位置関係。狙うべき喉笛に剣は届かない。

 にも拘らず、彼は殆ど全ての力を鞘へ納めた刃に込めた。
 理の外にすら届いた、唯一の力。それが一瞬、光となってあふれ出し、直ぐに収まる。

 残った力を脚に込め、何もない筈のくうを蹴る。そして感じる確かな感触と陽菜の魔力。思わず彼は口角を上げる。

 龍の爪が無人のそらを切った。足裏を風圧が押す。

「行け、翔」
「行っちゃってくださいー!」
「翔君……!」

 龍の喉を莫大な魔力が覆った。
 ――関係ない!
 
 仲間たちの声が届くのと同時に全身を使い、一気に剣を引き抜く。

「はぁぁぁぁああああああっ!!」

 烈火の気合と共に刃は降りぬかれ、白い閃きが、雷とつるぎの神の一撃が放たれた。
 
 そして空気を斬り裂く音と、一瞬の静寂。
 少し遅れて、液体の吹き出す音が聞こえ、その手に肉を裂いた感触を思い出させる。
  ――やっ、た……。

 全ての力を使い果たして霞む視界で、紅よりも赤い血が、青空を彩った。
 己の制御を離れ、理外に並んだ唯一の力が弾ける。
 その爆風に吹き飛ばされる中、見事、という傲慢不遜な声を聞きながら、彼の意識は闇へと沈んでいった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...