柔らかな愛に触れるまで ~冷酷な御曹司は政略結婚から愛を知る~

上乃凛子

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第七章 隔意

冷酷な結婚相手④

「何を驚いている?」

「…………」

それは驚くでしょ?
だったらどうしてこんな態度なのよ?
もっと愛想よくできないわけ?

さすがに口には出せず、心の中で毒づきながら、五十嵐社長の顔を見る。

「この結婚は父親同士の約束だったと聞いている。俺は父から聞いたことがないので真偽のほどは定かではないが、以前は親友であったと思われる君の父上がそう言っているのだから、おそらく約束していたのだろう。まあ、いずれにせよ政略結婚なんてそんなものだ。こういう家に生まれたのだから、仕方がないといったところか?」

んっ? 
以前は親友であったと思われる?

なんか変な言い回しだけど、言ってることは理解できた。
父親同士が決めた政略結婚だから仕方がなく了承しただけで、二人で結婚生活を築いていこうという気持ちはないわけだ。
要するに、形だけの結婚──。
だからこんな態度だったってことね……。

とはいえ、政略結婚だからこんな態度でもいいなんて、そんなことは許されない。
結婚という社会的責任を伴う以上、相手に対する尊重と配慮は最低限の礼儀だ。

「政略結婚だからといって愛情を育まないというのは違うと思います。結婚する以上、もっと相手を配慮したり、尊重したり、それは礼儀ではありませんか?」

生意気だと思われるかもしれないけれど、私だってこの結婚は人生を左右する死活問題なのだ。相手にそんな気がない以上、受け入れるわけにはいかない。

「俺に礼儀がないと?」

「礼儀がないとは言っていません。でももう少し配慮してほしいと言っているんです」

「配慮? 君もこの結婚がどういうものかわかっているのだろう? お互いの利害関係のための結婚だ。配慮なんて必要か?」

「必要です。私は子どもの頃から将来もし政略的に結婚をすることになったとしても、相手を尊重して愛情を育んでいこうと心に決めて生きてきました。それが私に課せられた結婚だと」

「なんともたいそうな決意だな」

嘲笑するように、ふっ、と口端をあげて私を見る。
父はこの男性のどこを見て私の結婚相手に決めたのだろう。ふと、父の言葉が蘇ってきた。

『雅史が亡くなったあと、修史くんが社長に就任してな。雅史の後を継いでかなり大変だったと思うが、この一年本当によく頑張っているようだ。特に実直で純粋なところは雅史にそっくりだ。冷静に判断しようとするところは若い頃の雅史よりも修史くんの方が上だがな』

あんなに褒めちぎっていたけれど、父の前では猫を被っているのだろうか。実直でも純粋でもなく、無愛想で冷淡な裏表のある人物にしか思えない。
そういえば、一年前の葬儀のとき私たちの方を見て睨んでいた。

あれは父ではなくて私を睨んでいたってこと?
いったいどうして?

「君が結婚に何の夢を抱いているのか知らないが、俺には何も期待しないでほしい。知っていると思うが、父が急に亡くなって会社を引き継いだことで、今は他のことに構っている暇はないんだ。俺には抱えている従業員やその家族がいる。君も藤城バイオテックの娘ならわかるだろう?」

私に反論させないつもりなのか、鋭い視線を向けてくる。

「それに俺はこれからさらに忙しくなる。結婚式は年明けになるだろうが、準備まで手が回りそうにない。だから今後は何かあれば秘書の真壁に連絡をもらえないか?」

そう言って、五十嵐社長は一枚の名刺を差し出してきた。
名刺には【秘書 真壁亮太】と書かれてある。
私はその名刺を見つめながら、これからどうするべきか考えた。

父を見ていたら経営者がどれほど忙しいのかはよくわかっている。IGS製薬ほどの企業ならなおさらだろう。だけど、このままこの結婚を受け入れてもいいのだろうか。
父の会社のことを考えたら、この結婚を成立させるべきなのはわかってはいるけれど、結婚するにしても、無条件というわけにはいかない。

私も何か自分を守るための条件を出しておかなければ──。
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