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第十四章 微熱
揺れる想い③
「彩花、少しは落ち着いたか?」
ゆっくりと腕が解かれ、修史さんが私の顔を覗き込む。
そして、目尻にたまった涙を指でそっと拭ってくれた。
柔らかな瞳で微笑み、大丈夫だと言わんばかりに、大きな手のひらで私の頭を撫でてくれる。
どうしてこんなに優しくしてくれるのだろう。
いつもの修史さんとは全然違う。
こんなことされたら、だめだと思っても願ってしまう。
修史さんが私を好きになってくれたらいいのに──。
私が何も言わずじっと見つめていると、「どうした?」と言って首を傾げた。
言葉が何も出てこなくて、黙ったまま首を横に振る。
すると、修史さんがどこか照れたように口を開いた。
「今日は接待が中止になったんだ」
「中……止?」
「ああ。先方が体調不良だそうだ。何か、食べるものはあるか?」
「ごはん?」
「カップ麺でもいい」
修史さんの口から、まさかカップ麺という言葉が出てくるとは思わず、ふふっと笑ってしまう。
「どうした? 何がおかしい?」
「だって……カップ麺って言うから……」
「別におかしくはないだろ?」
「ごはんならあるし、ハンバーグならできるよ」
「じゃあ、先に風呂に入ってきていいか?」
うん──と頷くと、修史さんは微笑んで立ち上がり、寝室へと入っていった。
テーブルの下には、紗絵からプレゼントされた下着が押し込まれている。きっと、修史さんが隠してくれたのだ。
見たにもかかわらず、見ていないと嘘をついて──。
それに、いつもの修史さんなら、私に嫌味や意地悪を言って笑ってくるはずなのに、今日は何も言ってこなかった。
私はその下着を自分の部屋に持っていくと、キッチンに戻って修史さんの夕食を作り始めた。
そして翌日、会社に出社すると、紗絵が嬉しそうに近づいてきた。
「彩花、おはよっ! 昨日はどうだった? 社長と盛り上がったかなー?」
紗絵の表情からは、あの下着で修史さんとの盛り上がった夜を期待しているのが、見るからに伝わってくる。
だけど、紗絵には申し訳ないけれど、私は同居初日から修史さんとは寝室を別にしているのだ。しかも、昨日はあの下着をきっかけに、修史さんの前で大号泣をしてしまうという、大失態までおかしてしまった。
今朝の修史さんは、昨日のことには全く触れず、いつもと同じように会社に出かけていったけど、昨日の夜と同じ優しい瞳だけは残っていた。
私は何事もなかったかのように、紗絵に明るい口調で笑顔を向けた。
「もう、紗絵! 開けてびっくりしたんだからね! 私にはあんな華やかな下着、恥ずかしくて着られないよ」
「どうして? 一つは彩花に似合うだろうなって思って選んだのよ。もう一つは、彩花のダーリンが好きかなと思って選んだのにぃ……」
私の反応が思っていたものと違ったのか、紗絵が残念そうに眉を下げている。昨日の出来事を紗絵が知ったら、きっと驚いて自分を責めてしまうかもしれない。
「ねえ、ダーリンは喜んでくれなかったの?」
「昨日は仕事で遅かったから……まだ見てない」
「なーんだ。ダーリンはまだ見てないのか。じゃあ、いきなり着て驚かせちゃえ! もっと彩花にメロメロになっちゃうかも!」
紗絵は勝手にいろんな妄想をしているけど、私たちはその段階すら行っていない。私は修史さんのことを好きになっているけど、修史さんは私に好意を抱いている可能性は、ほぼゼロに等しいのだから。
「見せる以前に、私が恥ずかしくて着られないよ。着るのに勇気がいるもん」
「どうして? 誰かに見せるわけじゃないでしょ? 別に恥ずかしがることないじゃない。こういうのは着ていると慣れるもんなんだから。そ・れ・に! 見られるにしても社長だけだよ。きっと社長も彩花を見て、ドキドキしちゃうから!」
確かに、紗絵の言う通りなんだけど……。
私にはハードルが高すぎる。
でも──。
修史さんは、あんな下着の方がドキドキしてくれるのだろうか。
ゆっくりと腕が解かれ、修史さんが私の顔を覗き込む。
そして、目尻にたまった涙を指でそっと拭ってくれた。
柔らかな瞳で微笑み、大丈夫だと言わんばかりに、大きな手のひらで私の頭を撫でてくれる。
どうしてこんなに優しくしてくれるのだろう。
いつもの修史さんとは全然違う。
こんなことされたら、だめだと思っても願ってしまう。
修史さんが私を好きになってくれたらいいのに──。
私が何も言わずじっと見つめていると、「どうした?」と言って首を傾げた。
言葉が何も出てこなくて、黙ったまま首を横に振る。
すると、修史さんがどこか照れたように口を開いた。
「今日は接待が中止になったんだ」
「中……止?」
「ああ。先方が体調不良だそうだ。何か、食べるものはあるか?」
「ごはん?」
「カップ麺でもいい」
修史さんの口から、まさかカップ麺という言葉が出てくるとは思わず、ふふっと笑ってしまう。
「どうした? 何がおかしい?」
「だって……カップ麺って言うから……」
「別におかしくはないだろ?」
「ごはんならあるし、ハンバーグならできるよ」
「じゃあ、先に風呂に入ってきていいか?」
うん──と頷くと、修史さんは微笑んで立ち上がり、寝室へと入っていった。
テーブルの下には、紗絵からプレゼントされた下着が押し込まれている。きっと、修史さんが隠してくれたのだ。
見たにもかかわらず、見ていないと嘘をついて──。
それに、いつもの修史さんなら、私に嫌味や意地悪を言って笑ってくるはずなのに、今日は何も言ってこなかった。
私はその下着を自分の部屋に持っていくと、キッチンに戻って修史さんの夕食を作り始めた。
そして翌日、会社に出社すると、紗絵が嬉しそうに近づいてきた。
「彩花、おはよっ! 昨日はどうだった? 社長と盛り上がったかなー?」
紗絵の表情からは、あの下着で修史さんとの盛り上がった夜を期待しているのが、見るからに伝わってくる。
だけど、紗絵には申し訳ないけれど、私は同居初日から修史さんとは寝室を別にしているのだ。しかも、昨日はあの下着をきっかけに、修史さんの前で大号泣をしてしまうという、大失態までおかしてしまった。
今朝の修史さんは、昨日のことには全く触れず、いつもと同じように会社に出かけていったけど、昨日の夜と同じ優しい瞳だけは残っていた。
私は何事もなかったかのように、紗絵に明るい口調で笑顔を向けた。
「もう、紗絵! 開けてびっくりしたんだからね! 私にはあんな華やかな下着、恥ずかしくて着られないよ」
「どうして? 一つは彩花に似合うだろうなって思って選んだのよ。もう一つは、彩花のダーリンが好きかなと思って選んだのにぃ……」
私の反応が思っていたものと違ったのか、紗絵が残念そうに眉を下げている。昨日の出来事を紗絵が知ったら、きっと驚いて自分を責めてしまうかもしれない。
「ねえ、ダーリンは喜んでくれなかったの?」
「昨日は仕事で遅かったから……まだ見てない」
「なーんだ。ダーリンはまだ見てないのか。じゃあ、いきなり着て驚かせちゃえ! もっと彩花にメロメロになっちゃうかも!」
紗絵は勝手にいろんな妄想をしているけど、私たちはその段階すら行っていない。私は修史さんのことを好きになっているけど、修史さんは私に好意を抱いている可能性は、ほぼゼロに等しいのだから。
「見せる以前に、私が恥ずかしくて着られないよ。着るのに勇気がいるもん」
「どうして? 誰かに見せるわけじゃないでしょ? 別に恥ずかしがることないじゃない。こういうのは着ていると慣れるもんなんだから。そ・れ・に! 見られるにしても社長だけだよ。きっと社長も彩花を見て、ドキドキしちゃうから!」
確かに、紗絵の言う通りなんだけど……。
私にはハードルが高すぎる。
でも──。
修史さんは、あんな下着の方がドキドキしてくれるのだろうか。
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登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。