柔らかな愛に触れるまで ~冷酷な御曹司は政略結婚から愛を知る~

上乃凛子

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第十四章 微熱

揺れる想い④

そんな中、母の命日が近づいてきた。
いつものように、接待で遅くなる修史さんの帰りを待ちながら、私はノートに書き留めていた手を止めて、スマホのカレンダーを開いた。

「お父さんに連絡して、今度の休みの日にでも、一緒にお墓参りに行こうかな……」

カレンダーの日程を見つめながら考える。
まだ予定を聞いてみないとわからないけれど、結婚して以来ほとんど実家にも帰っていないので、久しぶりに祖母の顔も見ておきたい。
そう思っていると、ふと、修史さんのお父さんの命日も近いのではないかということに気づいた。

「確か……お葬式に行ったのって、七月だったよね?」

あのお葬式の日以来、修史さんのお父さんにはお線香もあげていないし、お母さんに関しては何もしていない。
政略結婚とはいえ、籍を入れたのだから、お墓参りには行っておくべきだろう。

「お父さんって、修史さんのご両親のお墓の場所、知ってるのかな?」

メッセージで聞いてみよう──とスマホの画面を開いていたら、修史さんが帰ってきた。

「おかえりなさい。お風呂沸いてるよ」

「ありがとう。今日の土産だ」

そう言って、紙袋をテーブルの上に置く。
最近は、「ああ」から「ありがとう」と、返事がお礼の言葉に変化していた。
そう、私が修史さんの前で泣いたあの日から──。

「あっ、今日はバームクーヘンだ! 嬉しいな!」

袋の中を覗いて顔を綻ばせていると、修史さんが何か言いたげな表情で、ニヤっと私を見つめてきた。

「な、なによー。どうせまた “太るぞ” って言いたいんでしょ! わかってますー!」

「何も言ってないだろ? 好きなだけしっかり食べればいい。足りないなら、また買ってきてやる」

修史さんの口から出たとは思えない言葉に、目を見開いたまま固まっていると、「どうした?」と尋ねられてしまった。慌てて、首を横に振る。

「ううん。何でもない。それより聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「うん。修史さんのご両親のお墓ってどこにあるの? お母さんの命日が近いから、一緒に行ってこようと思って」

すると、修史さんはリビングに飾ってあるカレンダーに視線を移したあと、再び私に顔を向けた。

「彩花の……お母さんのお墓参りに行くのか? ひとりで?」

「これからお父さんに連絡してみようかなって思ってる。車じゃないと行けないから」

スマホを持って、これから連絡しようとしている仕草を見せていると、驚くべき言葉が返ってきた。

「じゃあ、俺が連れて行ってやるよ」

「えっ?」

「俺も両親の墓参りに行こうと思っていたしな」

まさか、修史さんが母のお墓参りに連れていってくれるとは思わず、呆然と顔を見つめてしまう。

「どうした? 俺とじゃ不服なのか?」

「そ、そうじゃないけど……。忙しくないの?」

「別に忙しくない」

「でも疲れてるでしょ? 休日くらい少しは休んだ方が……」

毎日朝早くから夜遅くまで働いているし、休日だってゴルフや会食、出張などの予定が入ることだってあるのだ。せっかくのんびりと過ごせる貴重な休日を、私の用事で動かしてしまうことは申し訳ない。そう思って断ろうとしていると、修史さんが不満そうな顔をして口を開いた。

「彩花は俺と一緒に行くのが嫌なのか?」

「嫌じゃないけど、でもせっかくのお休みなのに悪いでしょ?」

「構わない。じゃあ、今週の日曜日、墓参りに行くぞ」

「あ、ありがとう……」

こうして私は、修史さんと一緒にお墓参りに行くことになった。
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