柔らかな愛に触れるまで ~冷酷な御曹司は政略結婚から愛を知る~

上乃凛子

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第十四章 微熱

揺れる想い⑤

そして日曜日。早々に準備を終えた私は、朝からとてもそわそわしていた。どうにか気持ちを落ち着かせようと、胸を押さえてみたり、深呼吸を繰り返してみたりするけれど、ちっとも落ち着かないのだ。

「どうしよう……。ほんとに緊張しちゃう……」

鏡の前で何度も髪を整えながら、大きく息を吐く。
修史さんとお墓参りに行くだけでも緊張するというのに、一緒に車に乗って行くなんて──。
あんな狭い空間に二人きりだと思ったら、心臓がどうにかなってしまいそうだ。

男性と二人で車に乗るなんて、父とタクシー以外では経験したことがないし、これはデートではないとわかっていても、胸のドキドキが止まらない。今日のことを考えていたらほとんど眠れなくて、朝も五時に目が覚めてしまった。
もう一度大きく深呼吸をしてリビングに行くと、既に修史さんは準備をしてソファーに座っていた。

「準備できたか?」

「うん。今日はよろしく……お願いします」

「じゃあ、出発するぞ」

地下の駐車場に降りて、修史さんのあとを着いていく。
流行りのSUVの車の前で止まると、ピカッとライトが点滅してロックが解除された。

「乗って」

乗ってと言われても、これはどこに乗るのが正解なんだろう。父と同じように助手席に乗ってもいいのか、それともタクシーみたいに後部座席の方がいいのか。

一応、妻だから助手席?
でも助手席に乗ったら「そこに乗るのか?」って言われるかな?

迷った末、後部座席のドアを開けようとしたら、不思議そうな顔を向けられてしまった。

「何で後ろに乗るんだ? 確かに今日の俺は、運転手といえば運転手だが……」

「に、荷物を入れようと……してたの。お線香とか……」

小さなトートバッグを見せて、荷物を置くためだとアピールする。どうやら助手席に乗るのが正解みたいだ。
私は引き攣った笑顔を浮かべながら、助手席に座った。
そして、修史さんがナビにお母さんのお墓の場所を入れ、車が動き出した。

ドクンドクンと脈を打つ心臓の音を聞きながら、シートベルトをぎゅっと握りしめる。
車に乗っているだけなのに、いつも見ている街並みが、全然違う風景に見えてくるのはなぜなんだろう。
なんだか、自分がすごく特別なことをしている感じだ。

少し視線を横に向けると、修史さんの私服が目に入ってきた。父とは全く違う、長く伸びた脚と、男性らしい引き締まった腕、そして爽やかな香水の匂いがふわりと漂ってくる。香水の匂いを感じていると、修史さんに抱きしめられたことが思い出されてきて、さらに緊張が高まってきた。

「今日はどうしたんだ? 朝から静かだな」

車に乗ってから、私が何も話さないことを不思議に感じたのか、ふいに修史さんが尋ねてきた。
修史さんのことを好きだと気づいてからは、どうしても意識してしまって、私はあまり上手く話せないでいる。

「そ、そんなことないよ。景色を見てただけだもん」

「おやつを忘れたから、静かなのかと思ったが」

「おやつ? ひどいっ。子どもじゃないし!」

思わず頬を膨らませて修史さんに顔を向けると、修史さんはチラッと私に視線を向けて、頬を緩めた。
その微笑みを見て、また胸がきゅうと締めつけられる。

「いつもたくさん食べてるだろ? おやつがほしいなら、どこかに寄ってやるぞ」

「いりませんー! それよりも、お花買っていきたいから、お花屋さんに寄ってほしい……」

「花屋か。そうだな。行く途中で、どこか知ってる花屋はあるか?」

「うん。もう少し先に、いつも買ってるお花屋さんがあるよ」

お花屋さんの場所を説明していると、修史さんがどことなく気遣うように尋ねてきた。

「ところで、お母さんはいつ亡くなられたんだ?」

「私が六歳のときかな。その前から入退院を繰り返していたから、お母さんと一緒に過ごした記憶があまりないの。写真を見たり、動画を見たりして、記憶が残っている感じかな。だけど、入院している病院に行ってたのは、よく覚えてる」

にっこりと微笑みながら、車内があまり暗くならないように、明るい口調で答える。子どものときに母を亡くした話をすると、どうしても悲しそうな顔をされてしまうのだ。

「何の病気で?」

「血液のがんだったみたい」

「そっか……」

修史さんはそう口にすると、黙り込んでしまった。やっぱり可哀想だと思われてしまったのかもしれない。
しばらく沈黙が続いたあと、その静けさを断ち切るように、隣から修史さんの声が聞こえてきた。
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