その執着に、名前はない。

幻中雲夕

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Prolog

再開

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 真新しい制服の硬さに、小さく溜息をつく。
 きっとまだ成長期がくるから。そう信じて大きめに誂えたそれが、今更ながら、すこし恥ずかしくて。

(一旦、ひとりになりたい)

 入学式の喧騒から逃れるように校舎裏へ回った。
 ──その、時だった。

「……やっと、会えたね」

 ぞわりと鳥肌が立つ。俺は衝動的に背後を見やった。

「か、がい」

 絞り出した声はちいさく掠れていた。
 呼応するように、目の前の男は目尻をきゅっと緩ませる。赤く上気した、すこし丸みを帯びた頬。恍惚とでも表現しようか。とにかく、その緩みきった顔が、声が、俺は恐ろしくて仕方なかった。

「……お前、」

 なんでここに。しりすぼみになる声に構わず、男──″ 加賀井 誠かがい まこと  ″は口を開く。

「なんでって、みっちゃんがいるから!」

 満開の桜みたいな。そんな、綺麗で無邪気な笑みだった。
 と同時に、風に吹かれた花びらが、ひらりと周囲を舞う。……嫌に絵になる。そういう男だ、こいつは。

「てかさあ」

 加賀井の足が、じり、と土を撫ぜる。

「俺ら、幼馴染だろー。酷いじゃんか、勝手に引越すとか」

 長い足が、一歩、一歩と俺を追い詰める。
 距離をとるように、後ずさった。あの時と一緒だ、と思った。

「……それは、悪かった、よ。ちょっとバタバタして」
「そんなの」

 言い訳にならないよ。
 加賀井の笑みが一瞬、消えた。

「ずっと一緒にいるって約束しただろ? なのに、みっちゃんはさ、ほんと薄情な奴だ」
「……っ」
「今だって、久しぶりに会えたってのに、心底『困った』みたいな顔して──」

 ドンッ、と背中になにかが当たる感触。逃げ場を失った俺へ覆い被さるように、奴の両手が視界を囲った。

(ずっと、一緒にいる?)

 ごくりと息を飲む。
 正直なところ、全く覚えがない。しかし、そんな約束したっけ、なんて流石に言えない訳で。

(前の俺は、この怪物と、なんて約束してんだよ!……てかそもそも、こいつの妄想って可能性も)

 逃げるように伏せた目は、顎にかけられた奴の手によって、再びぐいと持ち上げられた。

「なあ、無視すんなよ」

 暗い、くらい目がこちらを覗き込んでいる。

 ──ああ、だから、嫌なんだ。

 支配者の目。
 世界が自分を中心に回っているとでも、思っているのだろうか。

(いや、愚問だな)

 ふっと、乾いた笑いが漏れた。
 そういう奴だ。そういう奴なんだ、こいつは。

 俺は悟った。穏やかで、平凡な「理想の高校生活」なんてものは、今この瞬間、絶たれてしまったのだと。


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