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一章
蝶の魔女
しおりを挟む「植物園にいる生物学の教師がいるだろう?あいつなら何か、ヒントをくれるかも」
「と、言われたから来てみたけど」
渡されたメモを片手に少年が訪れたのは学園から少し歩いた位置にある植物園だ。遠くからでもわかるガラスで作られた丸いドームのような建物、周辺には色とりどりの花が植えられた鉢が並べらている。
2、3度授業で訪れたことはあるが、なぜがここにくると緊張してしまう。ドームの側にある小屋に近寄り、扉を叩いた。ふとフラッシュバックしたのは、昨日ニアの家を訪れたときのこと。
扉の先の惨状を、きっと忘れられない。
「開いてるので入ってきてくだサ~イ」
扉の向こうから聞こえてきた間延びした声に、ふうと息を吐く。ゆっくり戸を押すと、ギィと重みのある音を響かせて木が軋んだ。扉が開くと同時に、部屋の中から数匹蝶々が飛び出していく。
二階建ての小屋の中は、外観でイメージしていたよりずっと広かった。アンティーク調で揃えられ家具に、室内にも並べられた鉢植え。豪華な装丁で飾られた本が乱雑に置かれている。
「そこ、座っててくださいネ」
部屋の奥から顔を出したのは、小屋の主であり側の植物園を管理する、この学園の教師だった。
その女は幾重にも布を重ねたような衣装を身に纏っていて、顔は長い前髪で見えなかった。周辺に蝶々が飛び交うミステリアスな風体、なのに威圧を感じないのはその軽い口調のせいだろう。
「えっと、中等部二年のレコ、です」
「学園長サンから聞いてますヨ~ささどうぞ遠慮せずに~」
椅子を勧められ少年、レコは席についた。彼女は少年向かい側に周ると同じように椅子に座る。顔の前で手を組んだ。
「ワタクシは生物学担当のフリンデル。ワタクシに何を聞きたいのですか?」
「いなくなった友達を探す方法を」
「……貴方が望むのは、教師のワタクシではなく、『蝶』の魔女フリンデルですネ」
蝶の魔女、と自らを評したフリンデルは椅子から立ち上がる。それに合わせるように何処に潜んでいたのかもわからない蝶達が一斉に羽ばたいた。
「いいでしょう!力を貸しますヨ。しかし魔女との契約には対価が必要、それは理解してますよネ?」
「何を差し出せばいいですか?」
「あらあら気が早い方ですネ。ウーン…可愛い生徒から取るものとったら学園長サンに怒られますシ…」
フリンデルはニコニコと楽しそうに、レコを見下ろしている。対価、対価と呟く様は悪戯を考える子供のようにも人を弄ぶ狼にも見える。
流石、魔女と言われるだけのことはある。レコが唾を飲み込む横でリムがそっと耳打ちする。
「魔女ってのは信用出来るのか?」
「僕に聞かないで。……でも一応先生だし」
リムと小声でひそひそ会話しながら、ちらりとフリンデルの様子を窺う。こちらには目もくれず、まだ「対価」とやらに悩んでいる様子だった。しばらく悩んだあと、ぽんと手を叩いた。
「いいのを思いつきましたヨ~」
フリンデルは人差し指をレコの胸に向け、意味ありげに微笑んだ。
「また後日言いますネ」
「な、なんで?」
「ウフ、そっちの方が面白いからですヨ~」
フリンデルは壁にかけてあった小さな鞄を手に取るとスタスタと扉の方に歩いていく。取り残されそうになったレコも慌てて立ち上がり、その後ろを追いかけた。
「さ、歩きながらお話ししましょウ!『蝶の魔女』として、出来る限り力になりますヨ~」
「それは助かりますけど」
フリンデルが向かうのは、小屋の目先、ガラスドームだ。この学校が所有する植物園には、一般植物から魔法植物、そして毒草まで揃っている。その全てを管理し、育てているのがフリンデルだ。
「ヨウコソ、魔女の箱庭へ」
不敵に笑うフリンデル。レコははあ、と愛想の悪い返事を返す。
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