彗星の降る夜に

れく

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五章

器の資格

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登れど登れど先が見えない階段。かれこれ数十分足を動かし続けている、ゴールは遠くたどり着く気すらしない。最初はみんなに置いていかれると焦るばかりだったが、今は建物の構造に苛立っている。もうちょっとどうにかならなかったのだろうか。

「いつまで登れば良いの!?」

とうとう痺れを切らしたサーフィーヤは叫び、もう嫌になったと言わんばかりに足を投げ出す。階段途中だというのにどっかりと座り込んだ。

「もーやだ!もー登らない!あんた私のこと運べないの!?」
「運べるには運べるが…」

運べるんだ、というサーフィーヤの呟きを無視し、リムはパタパタと小さな羽を羽ばたかせる。

「この空間、おかしいと思わないか?」
「え、」

リムの指摘にサーフィーヤが驚いたように立ち上がった、慌てて周りを見渡しても特別変なところはないのだ。

「確かに、いつまで登っても終わりが見えないと思っていたけど……」

数分前にクオーレとの繋がりが消えたことには気が付いていた。元々、利害の一致で組んだビジネスライクな関係性、ショックはさほどなかった。自分達の間に、アメティストとビーイングほどの絆があったとは思っていなかったが、それなりに信頼していたし、軽口を言い合うくらいには信用していたとは思う。
いつ敵に襲撃されるかもわからないこんな状況でよくわからない生き物と二人きり。挙句、謎の場所に取り残されてしまったという事実。あんなやつでも、側にいて欲しかったと今更思う。

「また罠にかかったってこと?でも分断された時のような違和感はなかったはず……」
「前見てみろ」

リムに言われて前を向く、終わりのなかった階段の先。扉の前に、人影があった。

「こんにちは~」

聞き覚えのない声だと思っていた。いつからそこにいたのか、黒い髪をした一人の青年が自分達二人を見下ろしていた。青年がゆっくり階段を降りてくる。

「ままがね、先に君らからって」

嫌に甘ったるい、ふわふわとした話し方。男は手に持つナイフを隠そうともしないでサーフィーヤとの距離を詰めていく。

「なんで私からなのよ、い、一番無害なのに…!」

サーフィーヤは男から目を離さないように後ろを向いたまま距離を取ろうと階段を降りていく。その瞬間、階段を踏み外した。

「あ、」

内臓がふわっと浮く感覚、もうダメだと目を閉じた時何かに体が支えられていた。

「気をつけろ」

ぽふっ、という感触と共にサーフィーヤを受け止めたのはリムだった。手のひら程度から、ベッドサイズまでボリュームアップしたリムのふわふわに意図せず埋もれ、ぐぬぬと不服げな唸りがサーフィーヤの喉から溢れる。状況が違えばもっとゆっくり堪能できたと言うのに。
そうこうしている間に近づいて来ていた男はサーフィーヤ達の目の前に立っていた。

「ビーイングに顔がそっくり」
「そんな人しらない」

男がナイフを振り上げる姿から、目を逸らせない。顔つきも、そして声も、自分のよく知る人とよく似ていた。だから意味もないのに、手を握りしめる。

神を呼ぶ器に必要なもの、それは強く力を求める願いと、ほんの少しの運だとサーフィーヤは本気で信じている。その日、美しい彗星が夜の空を駆け抜けて行ったことを、少女まだ知らない。

「こんなところで、死にたくない…!」
「間髪いれずに再召喚って、俺のことほんとに神様だと思ってる?」

突如、何もない空間から現れた黄色い髪の主が、振り落とされたナイフを蹴り飛ばした。

「ビーイング」

見違えない黄色い髪。中性的な顔と、白い衣装を翻し現れたその姿は状況と相まって、関する通り「神様」のようだった。

「みんな気軽に喚びすぎなんだよ、…さて」

彼は、その登場に似合わない軽口を叩くと、相対する黒髪の男を見た。

「決着つけようぜ、どうせ俺達どっちも偽物だ」

髪色や服装は正反対な配色にも関わらず、彼らはまるで鏡写しのようによく似ていた。双子という表現も似合わない、まるで複製、クローン体。
二人は、各々の武器を構えた。
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