忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第6話「ドラゴンとエルフの里」

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 ドラゴン。
 現在では最も珍しい伝説級の生き物のはずだった。
 今、少年の目の前でボア数体を丸呑みした。

「お前、何故我を起こした?」
 ドラゴンの威圧のある言葉は少年を硬直させた。

 何かを話そうと焦る少年。

「ふーん、東の森か。」
 唐突に、それも少年の心の内を読んだかの様に話を続けるドラゴン。

「言っておらんかったな。我は心竜、コルディス。お主の心を読むことが出来るぞ」
 ドラゴンはニッコリ、微笑み少年を見つめる。

「我は心を読める。だから、お主が念じれば会話となる。」
「俺、悪魔憑きの影響で声に出すと突っ掛かる。……ッ!?」
 少年の念は声に出すより素直にドラゴンの元へ通った。

「はっはっはっ! お主、悪魔憑きか! その異常なまでの魔力! 生身の人間じゃないと思ったら、そうだったのか!!」
 ドラゴンは大はしゃぎしている。笑い、そして少年が旅立つのを悟った。

「あぁ、すまんすまん。我はここまで面白い奴と出会ったことがなくてな。」
 少し悲しげに話すコルディスは少年に期待の念を送った。

「俺と一緒に行くか?」
「その言葉! 待っておったぞ!」
 コルディスはグレニの森に影の主として村人の安全を守ってきた。
 そして、グレニの森からコルディスが出なかったのにはつまらなかったからである。
 何をするにもその有り余る力で魔物を薙ぎ倒し、弱すぎる人を守るにも制御をするのに精一杯だった。
 気兼ねなく、自由に生活することを望んでいたコルディスは少年の夢を見て、決めた。

「俺と行くにあたってその体の大きさ、どうにか出来るか?」
「だったら、我を従属にしてみよ。」
「従属?」
「我と魔力を同調させる感じだ。やってみよ」
「こ、こうか?」
「なんと、」
 ドラゴンとの従属契約は魔物と人間の魔力を同調させ、完成できる物である。
 が、少年の魔力はドラゴンの魔力の数倍を上回っていた。

「これで終わりか?」
「あぁ、終了だ。これで我はお主の従属となった。これから、ついて行きます。主人」
 本来、五分の契約。魔物半分、人間半分の契約だが、少年の契約は七分三分の契約。
 はるかに少年とコルディスの主従がはっきりしていた。
 そして、コルディスの身体は契約のおかげか自由自在に大きさを変えることができるようになった。

「まだ、念話しますか? 主人」
「こっちの方が話しやすい。」
「わかりました」
「ねぇ」
「なんでしょう? 主人」
「その話し方、やめてさっき見たいにしてくれよ」
「わかった。主人よ、これからどこへ?」
「東の森」
「なら、我が飛んで参りましょう。」
 コルディスは少年を背中に乗せ、大空を舞った。

「おい! あそこにドラゴンが!!」
「んな!? 背中に悪魔憑きノーティがいるぞ!?」
 驚く兵士を横目に少年はコルディスに乗って東の森へと空の旅に出た。

「東の森までどれくらいだ?」
「おそらく2、3日ほどかと」
「わかった。頼むぞ。休憩できそうな場所があったら降りてくれ」
「承知」
 真夜中に出発したこともあり、3時間ほどの飛行をして人目につかない小さな森の中で眠りについた。

 翌朝

「起きましたか主人よ、さて、参ります!」
 コルディスと少年は東の森へ向けて再び空の旅へと出た。
 この日の飛行はかなり長く続き、干し肉を食べながら移動していた。

「まだつかないのか?」
「もう少し早く飛行すれば半日ほどで着きます」
「行けるか?」
「もちろん!」
 コルディスは飛行速度を更に上げ、風を切り、空の上を走っていった。

「東の森で会いたい人がいるから東の森入る手前で降りよう」
「承知した」
 少年達は翌日に備え、東の森に続く道で暖をとり眠りについた。


「あれは、」
 東の森から少年達を見つめる少女。

「おばば様にすぐ伝えなければ!?」
 コルディスの姿を見るや否や森の奥深くへ行ってしまった。


 翌日

「コルディス! 行くぞ」
「はい!」
 いつもの様に念話で話し合い、そのまま東の森へと入って行った。
 東の森は他の森と違い薄暗く、不気味であった。
 一歩一歩奥に入っていくほどに、その不気味さは増して行った。

 かなり奥に入っただろう。
 陽の光が微かに見えるほど小さくなった。

「そこの者、止まれ!」
 森の中に女性の声が響き渡る。

「おい、どこにいる!!」
「ッ!? 喋る、ドラゴン?」
「我は心竜! 我は主人をここへ連れてきたまで弓を下ろし話を聞け!」
「無駄だ! お前の脅威が取れない限りこのまま武器を向けさせてもらう。それに用があるのはその人間の男の方だ!」
 どこからか聞こえる女性の声に少年は木の手形を見せる。

「ッな!? お前! それを一体どこから!?」
「ッア、ッアメリ! ッから!」
 少年は必死に伝えた。

「なるほど、その男を引っ捕らえよ!」
 女性の声と共に他の女性が少年達を取り押さえた。

「我の主人に何をする!? 【竜族魔法】〈竜の息吹〉!!」
「【結界魔法】〈反射の鏡カウンタ・ミロワール〉」
「何!?」
 詠唱無しの魔法はドラゴン特有の技を最も簡単に弾いてしまった。

「無念。」
「そのドラゴンも捕らえよ!」
 コルディスと少年はどこかへ連れて行かれてしまった。


「……」
 次に少年が目覚めたのは自身が椅子に座らされ、縛られている状態だった。

「さて、聞かせてもらおうか。この手形どこで盗んで来た?」
「ッぬ、ッ盗んで、ッな、ッない!」
「嘘ね。嘘じゃなきゃこんな詰まった話し方しないはずだもの。精々、そこで反省してる事ね。もしかしたら助けが来るかもね?」
「まぁ、人間嫌いのエルフの里に来る人間っているわけないけどな!」
 少年達を捕らえた女性とその取り巻きによってここが目指していたエルフの里ということがわかった。
 師匠、アメリの故郷にして少年が冤罪を被られた場所となった。

 コルディスは封印され、少年達はしばらく何も出来なかった。

 2日が経った。
 縛られたまま牢屋に入れられ、何も食えず少年は気力を失っていた。

「あなたが手形を盗んだ犯人?」
 少年が顔を上げる。
 その先には、少し背が高く銀色の細く整った毛並みのエルフが立っていた。

「さっきの質問に答えて、あなたが手形を盗んだの?」
 少年は首を横に振る。

「やっぱり、私はエスティ。エスティ=ノーラ。あなたの師匠、アメリ=ノーラの孫よ。」
 彼女はアメリの孫と言った。
 少年は聞き間違えか疑った。
 だが、それは今は関係ない事だった。
 1人のエルフとエスティがバチバチに睨み合っていたからである。

「あれ? 里1番の天才、エスティさんじゃありませんか! あれれ? 今その囚人を逃がそうとしてた?」
「いえ、逃がそうとはしてないわ。ただ、これは私の客。私が面会して当然でしょ?」
「いや、今回の囚人当番は私よ? いくら天才さんでも出させるとあなたまで牢屋に入れなくてはなりません。」
「それでは、囚人当番なのに彼に一口もご飯を食べずに縛られたままっておかしいのでは?」
「それは、あいつが人間だから!」
「人間だから? それがなんの理由に?」
 2人の話は徐々にヒートアップして行った。
 2人の口論はエスティが勝ったのか、食事の提供と面会の許可を貰えた。

「別にあんたのためじゃないから、ただ、お婆ちゃんにあなたの事頼まれただけだから」
 エスティは少年に1通の手紙を渡した。

「これ、お婆ちゃんからあなたに渡せってじゃあ、私はこれで」
 エスティは用事を済ませ、帰って行った。

 エスティから貰ったアメリの手紙にはこんなことが書かれていた。

『ノーティへ
 これが届く頃にはあなたは牢屋にいる事でしょう。ですが、儂の孫のエスティがどうにかしてくれます。それまでの間、しばしの休憩をしてみてくだされ。
             アメリより』

 この手紙を見た少年は少し、昔のことを思い出してアメリの言ったエスティを信じてみることにした。
 少年は安心して疲れ切った体が倒れる様に眠りに入って行った。
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