呪いの忌子と祝福のつがい

しまっコ

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怪我の功名

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「それで、何もせずにルクレツィアが奪われるのをみていたというのか」
離宮に呼び戻されたラファエロは護衛騎士から報告を受け、臓腑が煮えくり返るような怒りを感じている。
「奪われるって、無事連れ帰ってきたじゃないですか」
項垂れる騎士とは異なり、ユリウスは平然と言い返してきた。
「無事、だと? 貴様の言う『無事』とは意識不明の状態のことか?!」
「じき目覚めますよ。それより、ルクレツィア様がご自分で意識して魔力を放たれたのか、ふたりの魔力が反発しただけなのか、気になりますよね」
こちらが声を荒げても意に返さないところが、この男のいよいよ頭に来るところだ。歯ぎしりをして睨むが、いつも通り何の効果もない。
その時、ラファエロとともに騎士の報告を聞いていたオクタヴィアが口を開いた。
「ラファエロ殿下、一つ提案がある」
「なんだ」
「私をルクレツィアの専属護衛騎士にしてほしい」
思いがけない申し出だ。
「この騎士たちが王太子殿下相手に何の抵抗もできなかったのは、ある意味仕方がない」
相手は未来の国王である。手出しできなくて当然だ。頭ではわかっているが、納得とは程遠い。何のための護衛だと喚き散らしたいくらいの怒りを感じている。
「だが、私は違う。ルクレツィアを害する者がいれば、誰であろうと最大火力の魔力をぶっ放す用意がある」
冷え冷えとした声には静かな怒りが滲み、興奮して言い立てるよりもはるかに重みのある本気が感じられた。
ルクレツィアを守るという点において、オクタヴィア程信用できる人間は他にいないだろう。
「ありがたい。近衛の方には俺から手をまわそう」
そのとき、ラファエロの執事ジョバンニが現れた。
「殿下、ルクレツィア様がお目覚めになられました」
「すぐに行く」
執務室から女主人の間に向かう。
「ルクレツィア」
ラファエロに続き、オクタヴィアとユリウスが部屋に入ってきた。
「つらいところはないか」
ルクレツィアは心配する人々をぼんやりと見上げていたが、ハッとしたように「ミアは?」と尋ねた。
「あそこにおりますよ」
ルクレツィアはユリウスの言葉に安堵の表情を浮かべた。
「どうやら大丈夫のようだね。良かった」
「お姉さま?」
「何があったか、覚えていない?」
ルクレツィアの眉間に小さな皺が寄り、それから急に蒼白になった。
「わたくしとんでもないことを……」
「素晴らしい! あれはルクレツィア様が意識してやったことでしたか!」
「王太子殿下は……」
「心配いりません。貴女の魔力を食らい、もう二度と手を出してこないと思いますよ」
にこにこと答えるユリウスの言葉は、ルクレツィアをいよいよ蒼褪めさせた。
「ルクレツィア、落ち着け。大丈夫だ」
寝台に腰かけ肩を抱き寄せる。
「兄上からは見舞いの花と謝罪の書状が届いている」
「殿下は、ご無事なのですね?」
「ああ」
ラファエロとウリエルはもともと比較的仲の良い兄弟だった。しかしルクレツィアを奪うというのなら、誰が相手であろうと容赦するつもりはない。
とはいえウリエルに大きな怪我がなかったのは幸いだったのだろう。兄に障碍でも残れば、ルクレツィアはトラウマと罪悪感を植え付けられていたにちがいない。
ルクレツィアがラファエロのものであることを納得したというし、今後このようなことが無いのなら今回だけは目を瞑るしかない。もちろん二度目はないが。
ラファエロは王位に興味がなく、兄が国を治めてくれた方が都合がいいのだ。
「それよりルクレツィア様、これに魔力を放ってみてください」
ユリウスが魔力を込める練習に使っていた魔石を取り出した。全く空気を読まない男である。
「王太子殿下をやった時の要領を思い出して」
「……」
ルクレツィアは一瞬遠い目をしたが、ユリウスの差し出した魔石に手をかざし魔力を注ぎ始めた。
あっという間に石が魔力による輝きを放ち始める。
「素晴らしい! これぞ怪我の功名です。これで大手を振って婚儀を挙げられますね」
まるで自分が手柄を立てたようにはしゃぐユリウスを褒めてやる気にはならないが、婚儀の目途が立ったのはよかった。
「よく頑張ったな」
青銀の髪を撫でてやると、ルクレツィアはほっとした様子で微笑んだ。 

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