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第1話ーDISTRUSTー
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秋は最も辛い季節だ、葉は全て落ち、地面と恋に落ちているかのように舞い降りていく。ーアンドレア・ギブソン
100年ほど前にそんな名言が生まれたらしい。
たまたま駅で見かけた詩集に載っていた文面。恋には微塵も興味は無かったが、ふと目に止まった。
それは自然に着目しており、昨今の機械に管理された社会を忘れさせてくれるから。また、こんな一文に上手な工夫がされていることが理由だった。
そう詩集に読みふけっているのは青森城道というしがないプログラマー。
休憩時間でもないのにインスピレーションを得るためと称し仕事をしていない様はよろしいものではなく、当然上司からお咎めをくらうのだが、全く反省しないのがこの男。
(全く…。アンドロイドの方がよっぽど人間らしい。ルールに忠実に仕事をする様はまるで機械じゃないか)
そんな愚痴を心の奥底に留め、仕方なしにパソコンへ向かう。パソコンの前には決められた髪型、服装をした人間が機械的にプログラムを作り、そのサポートをアンドロイドが行っている。
城道が所属しているチームが作っているプログラムはアンドロイドの右脳のような役割を果たすもので、オフィスにいるような簡易的なアンドロイドよりも高度な物を作成していた。
*ー*ー*
17時15分。城道は帰路に就いていた。
機械の成長が急進した昨今では、ブラック企業撲滅!だとか一人一人が働きやすい社会を!と謳われており、人間のプライベート時間というものは昔よりも増えている。
ただしプログラマーは例外であった。
業務時間が減っている職業というものはAIの機能でサポートされているものに限られるため、プログラマーのような、そもそもAIを生み出す職業は残業をするのが当たり前だった。それに城道が担当している業務は納期が近づいており、尚更残業をしなければいけないのだが、そんなのはお構い無しと城道は定時で帰る。
「新装開店の喫茶店です。良ければどうですか?」
そう機械の声でアンドロイドが声をかけてくる。
外見は人そのものだが、声に人のような温かさはなく、冷たい機械音声。呼び込みをアンドロイドが担当するのは日常的な光景で、城道はそれをお構い無しにスルーし黙々とアンドロイドについて考えていた。
(一般的に普及しているものよりももっと高度なアンドロイドを作らないと)
*ー*ー*
夕焼けで紅く染まった帰りの電車に揺られながら街の風景をぼうっと眺める。
仕事中に読んだあの文章。ちょうど紅葉がピークなこの時期とマッチしていた。
ふと「はぁ」と深いため息が零れる。
業務中に詩集を読んだりと大胆な行動を取る城道だったが、悩み事は人並みにあった。
彼の悩み、それは仕事もそうなのだが、すばり人間関係にあった。
人と関わることが苦手な彼は、自然と人を避ける行動を取ってしまいがちで、恋愛どころか友情を経験したことも無かった。
人間は生きていく上で人との関わりが重要だが、人と関わろうとしても嫌われ、人が離れて行き、また何か人との接点を持とうとしても嫌われてしまう。彼はその負のスパイラルのただ中にいた。
人を避ける行動を取らなければ嫌われる理由が1つ減るのだろうが、どうしても人と関わることに抵抗があった。
*ー*ー*
家に着く頃にもなれば日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。秋が深まってきた最近はかなり冷え込み、手がかじかんでしまう。
自宅から差す光を頼りにカバンからカードキーを取り出し鍵を開ける。
扉を開けるとそこにはエプロン姿の少女が迎えていた。
「おかえりなさい、城道様」
と機械音声が彼女の口から響く。
機械音声、と言っても人間のような温かみのある優しい声色だった。
「あぁ、ただいま。六花」
そう言いながら荷物を手渡そうとすると手と手が触れる。
「城道様、手がかじかんでいますよ?お風呂の用意は出来ているので良かったら先にどうぞ」
と言いながら六花は両の手で城道のかじかんだ手を温めるように包み込む。
髪も肌も雪のように真っ白だが手のひらから伝わる熱は人の体温と大差がなかった。
六花はニッコリと笑顔をつくり、精一杯ロマンチックな場面を作ったつもりだ。
城道はその六花の手を握り返す。
六花は笑顔から少し驚いたような表情に変わるが、城道はそれに気づかず握り返した手をまるで機械をメンテナンスするようにまじまじと見つめる。
これは一種の職業病のようなもので、今度は腕を軽く握り人工血液の流れなどを確認している。
「あの…城道様……」
申し訳なさそうに発言をする六花。
「あ!あぁ、申し訳ない!風呂だったね。冷めないうちに入らないと!」
「六花、いつもありがとう」
そう感謝を伝えると六花は人のように頬を赤らめ照れた表情をする。
「いえ、アンドロイドである私は所有者である城道様に尽くすのは当たり前の事です。私は城道様の研究対象。どんなことをされても抵抗は致しません」
最後の方は照れというよりも、恥ずかしさが垣間見えていた。まるで何かを期待するかのように。
しかし城道は気づいていないようでスタスタと風呂場へと向かって行った。
「もう、城道様ったら…」
と立花はぽつりと一言漏らした。
100年ほど前にそんな名言が生まれたらしい。
たまたま駅で見かけた詩集に載っていた文面。恋には微塵も興味は無かったが、ふと目に止まった。
それは自然に着目しており、昨今の機械に管理された社会を忘れさせてくれるから。また、こんな一文に上手な工夫がされていることが理由だった。
そう詩集に読みふけっているのは青森城道というしがないプログラマー。
休憩時間でもないのにインスピレーションを得るためと称し仕事をしていない様はよろしいものではなく、当然上司からお咎めをくらうのだが、全く反省しないのがこの男。
(全く…。アンドロイドの方がよっぽど人間らしい。ルールに忠実に仕事をする様はまるで機械じゃないか)
そんな愚痴を心の奥底に留め、仕方なしにパソコンへ向かう。パソコンの前には決められた髪型、服装をした人間が機械的にプログラムを作り、そのサポートをアンドロイドが行っている。
城道が所属しているチームが作っているプログラムはアンドロイドの右脳のような役割を果たすもので、オフィスにいるような簡易的なアンドロイドよりも高度な物を作成していた。
*ー*ー*
17時15分。城道は帰路に就いていた。
機械の成長が急進した昨今では、ブラック企業撲滅!だとか一人一人が働きやすい社会を!と謳われており、人間のプライベート時間というものは昔よりも増えている。
ただしプログラマーは例外であった。
業務時間が減っている職業というものはAIの機能でサポートされているものに限られるため、プログラマーのような、そもそもAIを生み出す職業は残業をするのが当たり前だった。それに城道が担当している業務は納期が近づいており、尚更残業をしなければいけないのだが、そんなのはお構い無しと城道は定時で帰る。
「新装開店の喫茶店です。良ければどうですか?」
そう機械の声でアンドロイドが声をかけてくる。
外見は人そのものだが、声に人のような温かさはなく、冷たい機械音声。呼び込みをアンドロイドが担当するのは日常的な光景で、城道はそれをお構い無しにスルーし黙々とアンドロイドについて考えていた。
(一般的に普及しているものよりももっと高度なアンドロイドを作らないと)
*ー*ー*
夕焼けで紅く染まった帰りの電車に揺られながら街の風景をぼうっと眺める。
仕事中に読んだあの文章。ちょうど紅葉がピークなこの時期とマッチしていた。
ふと「はぁ」と深いため息が零れる。
業務中に詩集を読んだりと大胆な行動を取る城道だったが、悩み事は人並みにあった。
彼の悩み、それは仕事もそうなのだが、すばり人間関係にあった。
人と関わることが苦手な彼は、自然と人を避ける行動を取ってしまいがちで、恋愛どころか友情を経験したことも無かった。
人間は生きていく上で人との関わりが重要だが、人と関わろうとしても嫌われ、人が離れて行き、また何か人との接点を持とうとしても嫌われてしまう。彼はその負のスパイラルのただ中にいた。
人を避ける行動を取らなければ嫌われる理由が1つ減るのだろうが、どうしても人と関わることに抵抗があった。
*ー*ー*
家に着く頃にもなれば日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。秋が深まってきた最近はかなり冷え込み、手がかじかんでしまう。
自宅から差す光を頼りにカバンからカードキーを取り出し鍵を開ける。
扉を開けるとそこにはエプロン姿の少女が迎えていた。
「おかえりなさい、城道様」
と機械音声が彼女の口から響く。
機械音声、と言っても人間のような温かみのある優しい声色だった。
「あぁ、ただいま。六花」
そう言いながら荷物を手渡そうとすると手と手が触れる。
「城道様、手がかじかんでいますよ?お風呂の用意は出来ているので良かったら先にどうぞ」
と言いながら六花は両の手で城道のかじかんだ手を温めるように包み込む。
髪も肌も雪のように真っ白だが手のひらから伝わる熱は人の体温と大差がなかった。
六花はニッコリと笑顔をつくり、精一杯ロマンチックな場面を作ったつもりだ。
城道はその六花の手を握り返す。
六花は笑顔から少し驚いたような表情に変わるが、城道はそれに気づかず握り返した手をまるで機械をメンテナンスするようにまじまじと見つめる。
これは一種の職業病のようなもので、今度は腕を軽く握り人工血液の流れなどを確認している。
「あの…城道様……」
申し訳なさそうに発言をする六花。
「あ!あぁ、申し訳ない!風呂だったね。冷めないうちに入らないと!」
「六花、いつもありがとう」
そう感謝を伝えると六花は人のように頬を赤らめ照れた表情をする。
「いえ、アンドロイドである私は所有者である城道様に尽くすのは当たり前の事です。私は城道様の研究対象。どんなことをされても抵抗は致しません」
最後の方は照れというよりも、恥ずかしさが垣間見えていた。まるで何かを期待するかのように。
しかし城道は気づいていないようでスタスタと風呂場へと向かって行った。
「もう、城道様ったら…」
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