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黒豚令息の領地開拓編
ヴィオラとボンボン
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「おや、若旦那!?やっと来てくださったんですね?もう、心配したんですよ?!噂じゃ訃報まで出て来て、工房にまで問い合わせがじゃんじゃん来て困りましたよ!」
「悪かった。この穴埋めはするよ。」
「オマケに責任者が死んだんだから、大事な職人捕まえてうちで働かせてやるなんて馬鹿なことを言ってくる輩もいましてね。どこの悪ガキか知りませんけど、居座ろうとしたんで警邏を呼びました。」
「判断は悪くねぇんだが…それってアイツのことじゃ
…?」
「周りが皆若旦那の死んだニュースで盛り上がるものだからチーフがカンカンに怒っちゃって、勢いで棺桶型のチョコなんか作り出して…」
「なにやってんだ!?そんなもん作ってどうすんだよ。」
「で、先週それの売り上げが結構良くて!」
「棺桶が!?需要どこ?!」
その内、皆の視線がヴィオラに向けられた。
「所で若旦那、こちらのお嬢さんはもしかして…」
「あ、あの…私、デイビッド様の婚約者のヴィオラと…」
「やっぱり!やっとお会い出来ましたね!なんとお可愛らしい。ここはアレですね!この方にぴったりのイメージのチョコを作れという…」
「作らねぇよ!?」
「そんな!愛する婚約者に相応しいチョコレートを世に出せと言う話では?!」
「誰もしてねぇよそんな話!?」
「あ、でもチョコは欲しいです!」
「そうでしょうとも!どうぞどうぞ、お好きな物をお選び下さい!最近は白いチョコの導入でかなりバリエーションが上りまして、もちろんシンプルな物も大変人気がございますが、お子様や女性の方にはまろやかな味わいの物や、華やかな飾りのチョコも売れております。」
すると、奥から次々と人がやって来た。
「この工房がチョコだけと思われたなら大間違い!!なんと言っても新鮮なミルクと卵を使ったケーキがおすすめです!」
「焼き菓子も負けてはおりません!焼きたてのフィナンシェなどいかがですかな?!」
「サックサクのクッキーもございますよ!?先月若旦那から頂いたレシピが好評で、お茶会などで話題になっております!」
「ご覧あれ!この美しいキャンディ達を!」
「プリンがお嫌いなご令嬢など、おりませんわよね?!」
「アイスクリームもございますですよぉ~!」
溢れ返る誘惑にヴィオラがグラグラ揺れ始めたので、デイビッドは早めに用事を終わらせることにした。
「ヴィオラ、先に荷物を置いてこよう。ちょっと見せたい物もあるんだ。」
「う~~…わかりました!その代わり後で工場見学させて下さい!」
「わかったわかった!」
デイビッドは工房内にある奥の部屋をノックした。
「ロム?俺だ、開けてくれないか?」
しばらくするとドアがゆっくり開いて男が一人現れた。
「だ…ダンナ、き、来てくれたんですか?」
「久し振りだな。今日の配達を代わってもらったんだ。中に入れてもらってもいいか?」
「も、もちろんですだ。」
中へ入ると、ロムと呼ばれた男がヴィオラを見つけ、テーブルの向こうでおどおどしている。
大柄で、どもりのあるこの男の背中はいわゆる背虫と呼ばれるもので、ぐにゃりとひしゃげて前のめりになっていた。
「お、お、お客ですか…?」
「そう、俺の大切な人だよ。大丈夫、意地悪はしない。中を見せてやってもいいか?」
「は、は、はい…お、お、おおせのままに…」
デイビッドは作業台に持って来た荷物を並べ、ひとつひとつ確認してはロムと呼ばれた男に手渡していった。
「どうだ?使えそうか?」
「こ、これなら、つ、次のお渡しまでにはできますだ…」
「良かった。いつもありがとう、この前の出来も良くて大好評だった。この次も楽しみだ!」
「は、はい、あ、ありがとうございますだ…」
ロムは嬉しそうに笑うと、材料を丁寧に決められた場所へと納めていく。
最後に大きな白い粉の入った袋を大事そうに抱え、容器へ移した。
「アレはラムダでしか育たない植物から採れる希少糖なんだ。市場には滅多に出回らないが、畑の拡張が叶ってここで使えるようにしてもらってる。」
「お砂糖ですか?では、あの方もお菓子の職人さん?」
「そう、世界にただひとりしかいない特別な菓子職人さ。」
デイビッドが作業場の中へ案内すると、ヴィオラの目はキラキラと輝いた。
「ボンボンだぁ!デイビッド様がくれるあのステキなボンボンが…こんなにたくさん!」
壁の棚には色とりどりのボンボンが詰められた大瓶が並べられ、そこは一味一味違う色を詰め替えて贈答用の一瓶にしている作業場だった。
「ロムは王都で有名な老舗の大手菓子店の従業員だったんだ。でもこの見た目でかなり辛い目に遭って来た。先代が急逝して店主が変わった途端放り出されて路頭に迷ってたとこで俺が声を掛けたんだ。繊細で精密な作業が得意で、誰にも真似できないあの特別なボンボンをここで一人で作ってる…って聞いてないな人の話!!」
ヴィオラはもうボンボンに夢中で、戸惑うロムを捕まえてあれこれ質問をぶつけていた。
「これ!この色初めて見ました!なんてキレイなブルー…味は何ですか!?」
「あ、あ、あの…そ、それはミントシロップに青い花で色を付けましただ…」
「こっちの鮮やかなグリーンは?!」
「れ、れ、レモンとはちみつに緑を加えて…」
「わぁ…この紫色…とても綺麗に澄んでて、以前食べたブドウの味とは少し色が違いますね!」
「さ、サクランボに青を足しましただ…」
「色と味が違うというのはすごいです!!食べた時に驚きがあって何かものすごく得した感じがします!」
青の原料を手に入れたことで色々試行錯誤中らしい。
今後もこうしてあの素晴らしいボンボンが出来上がっていくのだろう。
「あ、あなた様は、お、オイラが怖くないですか…?」
「ないですね!ボンボンを作ってくれる偉大なら職人さんなんですから!」
「お、お、オイラは見た目が気持ち悪いで、つ、作ったモンもオイラを見たら、た、食べてもらえなくなるでよ…」
「そんな事ないです!私の秘蔵のボンボンを作って下さる特別な方なんですから!」
「落ち着けヴィオラ、ボンボンに全部持ってかれてるぞ!?」
「だ、だ、ダンナの大切なお人だで、や、やっぱり優しいダンナみたいなお人だでよ…」
ロムは少し照れたように、ヴィオラにボンボンを容れる空の瓶を差し出した。
「す、好きな色お入れしますだ。」
「好きな味だけ詰めていいんですか?!嬉しい!ではこの緑と紫のブドウ味と、こっちのマンゴーと桃とさっきの青いのと…」
夢中でボンボンを選ぶヴィオラを見て、デイビッドは心配が杞憂に終わった事で嬉しそうにしていた。
「すごい…こんな理想のボンボンの詰め合わせなんて…」
「また新しい味ができたら送ってもらおうな。」
「はいっ!ありがとうございました、ロムさん!また来てもいいですか!?」
「は、は、はい、も、もちろんですだ。」
「じゃあな、邪魔して悪かった。近い内いつもより少し多めに注文するから、用意しといてくれ。」
「は、はい!お、おおせのままに!」
工房を出てからもヴィオラは手元のボンボンに釘付けだった。
「色んな職人さんがいるんですね。」
「まぁな、それぞれ得意分野が違うから色々出来て面白いぞ。」
「みんなデイビッド様が連れて来た方達なんですか?」
「人から紹介されたり、自分から売り込みに来たのも結構いるよ。ちょっと癖のあるのが多いけど、やりたい仕事に打ち込める環境が合ってる奴がだいたいここに来る。正に職人ってヤツだな。」
中でもこのボンボンは特別で、デイビッドが私財の一部を回して実入り度外視で作らせている物だ。直接的な収入は無いが、主にデイビッドが取り分け気を配る相手への贈答品や祝いの品などに使われ、コレでなければと言うファンも多い。
「ここには自分の腕一本で来てる奴が多い。ロムもその一人。でも、元の店では見た目のせいで客から気持ち悪がられて、買い手が菓子を捨てるなんてこともあったらしい。ヴィオラはどうだった?イヤじゃなかったか…?」
「全然?!一目で分かりました、熱意と愛情を持ってお菓子を作ってる方だって!大好きなボンボンを作って下さってる方にお会いできてとても嬉しかったです!」
「そうか…」
ヴィオラはボンボンの瓶をしっかり抱きしめたまま、再び工房のお菓子巡りに行ってしまったので、デイビッドはその間に書類仕事と簡単な指示書の確認、注文書を書き上げて各所へ配ると、新作や新素材の味見をして待っていた。
「悪かった。この穴埋めはするよ。」
「オマケに責任者が死んだんだから、大事な職人捕まえてうちで働かせてやるなんて馬鹿なことを言ってくる輩もいましてね。どこの悪ガキか知りませんけど、居座ろうとしたんで警邏を呼びました。」
「判断は悪くねぇんだが…それってアイツのことじゃ
…?」
「周りが皆若旦那の死んだニュースで盛り上がるものだからチーフがカンカンに怒っちゃって、勢いで棺桶型のチョコなんか作り出して…」
「なにやってんだ!?そんなもん作ってどうすんだよ。」
「で、先週それの売り上げが結構良くて!」
「棺桶が!?需要どこ?!」
その内、皆の視線がヴィオラに向けられた。
「所で若旦那、こちらのお嬢さんはもしかして…」
「あ、あの…私、デイビッド様の婚約者のヴィオラと…」
「やっぱり!やっとお会い出来ましたね!なんとお可愛らしい。ここはアレですね!この方にぴったりのイメージのチョコを作れという…」
「作らねぇよ!?」
「そんな!愛する婚約者に相応しいチョコレートを世に出せと言う話では?!」
「誰もしてねぇよそんな話!?」
「あ、でもチョコは欲しいです!」
「そうでしょうとも!どうぞどうぞ、お好きな物をお選び下さい!最近は白いチョコの導入でかなりバリエーションが上りまして、もちろんシンプルな物も大変人気がございますが、お子様や女性の方にはまろやかな味わいの物や、華やかな飾りのチョコも売れております。」
すると、奥から次々と人がやって来た。
「この工房がチョコだけと思われたなら大間違い!!なんと言っても新鮮なミルクと卵を使ったケーキがおすすめです!」
「焼き菓子も負けてはおりません!焼きたてのフィナンシェなどいかがですかな?!」
「サックサクのクッキーもございますよ!?先月若旦那から頂いたレシピが好評で、お茶会などで話題になっております!」
「ご覧あれ!この美しいキャンディ達を!」
「プリンがお嫌いなご令嬢など、おりませんわよね?!」
「アイスクリームもございますですよぉ~!」
溢れ返る誘惑にヴィオラがグラグラ揺れ始めたので、デイビッドは早めに用事を終わらせることにした。
「ヴィオラ、先に荷物を置いてこよう。ちょっと見せたい物もあるんだ。」
「う~~…わかりました!その代わり後で工場見学させて下さい!」
「わかったわかった!」
デイビッドは工房内にある奥の部屋をノックした。
「ロム?俺だ、開けてくれないか?」
しばらくするとドアがゆっくり開いて男が一人現れた。
「だ…ダンナ、き、来てくれたんですか?」
「久し振りだな。今日の配達を代わってもらったんだ。中に入れてもらってもいいか?」
「も、もちろんですだ。」
中へ入ると、ロムと呼ばれた男がヴィオラを見つけ、テーブルの向こうでおどおどしている。
大柄で、どもりのあるこの男の背中はいわゆる背虫と呼ばれるもので、ぐにゃりとひしゃげて前のめりになっていた。
「お、お、お客ですか…?」
「そう、俺の大切な人だよ。大丈夫、意地悪はしない。中を見せてやってもいいか?」
「は、は、はい…お、お、おおせのままに…」
デイビッドは作業台に持って来た荷物を並べ、ひとつひとつ確認してはロムと呼ばれた男に手渡していった。
「どうだ?使えそうか?」
「こ、これなら、つ、次のお渡しまでにはできますだ…」
「良かった。いつもありがとう、この前の出来も良くて大好評だった。この次も楽しみだ!」
「は、はい、あ、ありがとうございますだ…」
ロムは嬉しそうに笑うと、材料を丁寧に決められた場所へと納めていく。
最後に大きな白い粉の入った袋を大事そうに抱え、容器へ移した。
「アレはラムダでしか育たない植物から採れる希少糖なんだ。市場には滅多に出回らないが、畑の拡張が叶ってここで使えるようにしてもらってる。」
「お砂糖ですか?では、あの方もお菓子の職人さん?」
「そう、世界にただひとりしかいない特別な菓子職人さ。」
デイビッドが作業場の中へ案内すると、ヴィオラの目はキラキラと輝いた。
「ボンボンだぁ!デイビッド様がくれるあのステキなボンボンが…こんなにたくさん!」
壁の棚には色とりどりのボンボンが詰められた大瓶が並べられ、そこは一味一味違う色を詰め替えて贈答用の一瓶にしている作業場だった。
「ロムは王都で有名な老舗の大手菓子店の従業員だったんだ。でもこの見た目でかなり辛い目に遭って来た。先代が急逝して店主が変わった途端放り出されて路頭に迷ってたとこで俺が声を掛けたんだ。繊細で精密な作業が得意で、誰にも真似できないあの特別なボンボンをここで一人で作ってる…って聞いてないな人の話!!」
ヴィオラはもうボンボンに夢中で、戸惑うロムを捕まえてあれこれ質問をぶつけていた。
「これ!この色初めて見ました!なんてキレイなブルー…味は何ですか!?」
「あ、あ、あの…そ、それはミントシロップに青い花で色を付けましただ…」
「こっちの鮮やかなグリーンは?!」
「れ、れ、レモンとはちみつに緑を加えて…」
「わぁ…この紫色…とても綺麗に澄んでて、以前食べたブドウの味とは少し色が違いますね!」
「さ、サクランボに青を足しましただ…」
「色と味が違うというのはすごいです!!食べた時に驚きがあって何かものすごく得した感じがします!」
青の原料を手に入れたことで色々試行錯誤中らしい。
今後もこうしてあの素晴らしいボンボンが出来上がっていくのだろう。
「あ、あなた様は、お、オイラが怖くないですか…?」
「ないですね!ボンボンを作ってくれる偉大なら職人さんなんですから!」
「お、お、オイラは見た目が気持ち悪いで、つ、作ったモンもオイラを見たら、た、食べてもらえなくなるでよ…」
「そんな事ないです!私の秘蔵のボンボンを作って下さる特別な方なんですから!」
「落ち着けヴィオラ、ボンボンに全部持ってかれてるぞ!?」
「だ、だ、ダンナの大切なお人だで、や、やっぱり優しいダンナみたいなお人だでよ…」
ロムは少し照れたように、ヴィオラにボンボンを容れる空の瓶を差し出した。
「す、好きな色お入れしますだ。」
「好きな味だけ詰めていいんですか?!嬉しい!ではこの緑と紫のブドウ味と、こっちのマンゴーと桃とさっきの青いのと…」
夢中でボンボンを選ぶヴィオラを見て、デイビッドは心配が杞憂に終わった事で嬉しそうにしていた。
「すごい…こんな理想のボンボンの詰め合わせなんて…」
「また新しい味ができたら送ってもらおうな。」
「はいっ!ありがとうございました、ロムさん!また来てもいいですか!?」
「は、は、はい、も、もちろんですだ。」
「じゃあな、邪魔して悪かった。近い内いつもより少し多めに注文するから、用意しといてくれ。」
「は、はい!お、おおせのままに!」
工房を出てからもヴィオラは手元のボンボンに釘付けだった。
「色んな職人さんがいるんですね。」
「まぁな、それぞれ得意分野が違うから色々出来て面白いぞ。」
「みんなデイビッド様が連れて来た方達なんですか?」
「人から紹介されたり、自分から売り込みに来たのも結構いるよ。ちょっと癖のあるのが多いけど、やりたい仕事に打ち込める環境が合ってる奴がだいたいここに来る。正に職人ってヤツだな。」
中でもこのボンボンは特別で、デイビッドが私財の一部を回して実入り度外視で作らせている物だ。直接的な収入は無いが、主にデイビッドが取り分け気を配る相手への贈答品や祝いの品などに使われ、コレでなければと言うファンも多い。
「ここには自分の腕一本で来てる奴が多い。ロムもその一人。でも、元の店では見た目のせいで客から気持ち悪がられて、買い手が菓子を捨てるなんてこともあったらしい。ヴィオラはどうだった?イヤじゃなかったか…?」
「全然?!一目で分かりました、熱意と愛情を持ってお菓子を作ってる方だって!大好きなボンボンを作って下さってる方にお会いできてとても嬉しかったです!」
「そうか…」
ヴィオラはボンボンの瓶をしっかり抱きしめたまま、再び工房のお菓子巡りに行ってしまったので、デイビッドはその間に書類仕事と簡単な指示書の確認、注文書を書き上げて各所へ配ると、新作や新素材の味見をして待っていた。
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