黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

冒険者デビュー

トレビスは相変わらず混みもせずかと言って暇でもなく、程よく人がいる。
買い取りのカウンターにプレートを出し、裏口からでかいウサギを運び込むと、解体場が一気に賑わった。

「ありがてぇ、この所肉になる程の獲物が少なくてよ。」
「何の被害もないってのは良いことだろ?ギルドや憲兵がヒマしてるくらいが世の中平和だよ。」
「違いねぇ。でもなぁ、このままじゃこっちはおまんまの食い上げよ。せめて魔物でなくても良いからなんか捕れてくれねぇとよ。来る依頼は薬草の採集ばっかりで、これじゃ包丁が錆びちまう。」
「なら、存分に振るってくれ。全部そっちの買い取りで構わねぇよ。」

チャージラビットを作業場へ預けて戻ると、ヴィオラが掲示板の依頼書を一生懸命読んでいた。

「なんか気になるのあったか?」
「あ、はい!ここに出てる薬草採取の依頼って、誰が出してるのかなぁって…」
「だいたいは薬師か医療ギルドだろうな。研究機関も兼ねてるから、しょっちゅうこうやって材料集めてんだよ。」
「ずいぶん古いのもありますね。」
「んー?トレントの花と果実か、引き受ける奴がいねぇんだろうな。ま、駆け出しには少し難しいか。そもそもこの辺りには滅多に出ねぇしな。」
「私にできるのないかなぁ…」
「受けたいのか?」
「魔法学の実践でギルド登録してると色々便利って言われて、登録しようかなぁって…」
「あぁ、採取や薬草の取り扱いに都合がいいらしいな。」
「それで、薬師ギルドと冒険者ギルドどっちにしようか迷ってて…」
「それなら冒険者一択ですよお嬢さん!!」

いきなり後ろから声がして、2人が驚いて振り向くと、赤い巻き毛の従業員がカウンターから身を乗り出していた。

「当ギルドは学園生向けの割引からサービスまで行っております!ココだけの話、薬師ギルドですとノルマが厳しくあまり学生さん向きではありません!見たところまだ在学中の学園生でいらっしゃるようですが、この機にいかがですか?!」
「最近はそういうのもあるのか。」
「わ…私、登録したいです!冒険者になりたい!」
「ではこちらの…」
「じゃ、この紙に名前と出身、特技と魔力の有無書いて、そしたらカウンターに出しに行こう。」
「ちょっとちょっと!そういうのはギルド職員に任せて頂けませんと!困るなぁ、女の子にいいとこ見せようって気持ちもわかるけどね?!」
「別に、経験者だから連れ合いに教えただけだ。」
「経験者ってねぇ、駆け出しの新人なんて初心者とほぼ同じよ?!それに連れ合いって…たまたま居合わせたお嬢さんに失礼じゃない?」
「不審者と思われてんのか…ほらよ、こう見えて学園の臨時講師だよ!」
「へぇ、若いのになかなかやるねぇ。でも学園の外で女生徒捕まえてってのは頂けないんじゃないの?」

デイビッドが珍しく出した講師のバッヂを見てカウンターの男はニヤニヤしながらヴィオラのプレートを用意した。

「はいどうぞ、ミス・ヴィオラ・ローベル。これは貴女だけのプレートですので、どうか失くさないように。よろしければ簡単な講習を致しますがいかがですか?」
「それはいいです。婚約者に聞くので。」
「婚約者…?」
「デイビッド様、見て下さい!私のプレートですよ!?」
「おう、よかったな。でもこれで10日に一度は依頼をうけなきゃだぞ?」
「(コイツが婚約者…!?)そ…それはご安心を!学園生限定で依頼期間を通常で半月、申請でひと月まで延ばすことができますので、余裕を持ってご依頼頂けます…」
「だってよ、良かったな。」
「だったら安心ですね!そう言えばデイビッド様も登録してるんですよね!?依頼を受けたりしないんですか?」
「俺はもう依頼のノルマは無いからいいんだ…」
「え?!それじゃプレートは…」
「ん…ホラ、あれ…」

デイビッドの指差す方には、このギルドに名前を残した高位ランカーの名前が並んでおり、その一番下にデイビッドの名前のタグが打ち込まれていた。

「銀色!!」
「まぁな…実力じゃねぇからあんまり人に言いたかねぇんたけどよ…」
「あそこに並んでる名前はなんですか?」
「依頼を受けた先で名前を登録しとくと、優先的に依頼を受けられるんだ。他所じゃ銀級なんてゴマンといるから、なんの泊にもならねぇけどな。」

それでも王都近郊のコンラッド領ではシルバーが最高位。
平和な証拠だ。

「私も依頼受けたいです!」
「木のプレートだと…掃除とか採集とかが多いな。」
「あ!これ!これにしましょうデイビッド様!」

ヴィオラが手にした依頼は薬草の採集。
それもデイビッドの領地でわんさか生えていた種類であったため、直ぐに手に取った。
他にも、常時買取受付中の薬草を確認すると、ヴィオラはデイビッドの腕を引いてギルドを後にした。

キャンプに戻ると、直ぐにオーブンに火を入れて手早く食事の支度をしてしまう。
今日はあちこち出て疲れているので、簡単にパスタとスープ、サラダとウサギ肉のソテー。

「いや、簡単じゃないし、パッとできるものじゃないでしょ?」
「ウチじゃ一番手の掛からない料理ですよね。煮るだけ茹でるだけ焼くだけって。」
「何一つしない奴がなんか言ってるわ…」
「シェリーだって何もしないクセによく言うね!?」
「僕達は食べる担当ですから!」
「いやぁ甘やかされてるねぇ君達!」

できる端から食べ出すエリックとシェルリアーナを見て、エリザベスとベルダは改めてデイビッドの謎の献身っぷりに疑問を持った。

「なんであそこまで人の世話するのかなぁ…」
「うーん…多分だけど、楽しんでるんだろうね。」
「楽しんでる?他人の世話を?!」
「不器用な彼なりの愛情表現みたいなものだよ。あるいは何か推し量っているのかもね。」
「推し量る…」
「自分が差し出す物を相手が喜んで受け取ってくれているか、無意識に見極めようとしているのかも知れない。彼は良く人との接触を極端に恐れるところがあるから、相手を見て嫌われていない事を実感したいんじゃないかな?まぁ僕は心理系とは畑違いだから詳しくはないけど、そんな気もするよ。」
「口が悪いのもワザとなのかなぁ…アタシは気にしないのに…」
「何にせよ、僕等部外者は気にせず彼の側に居続ければいい。さぁ、早く頂こう、ウサギ肉が美味しそうだ!」


食事が終わり、穏やかな夕間暮れの時間に皆が一息ついていると、エリザベスがシェルリアーナを連れて転移門へ入って行った。

「それじゃお休み!デビィ今日はありがとう、すっごくのんびりできたよ!またね!?」
「え?もうちょっといいじゃない!リズってば、いっつもせっかちなんだから!」
「じゃぁね~!」

ふっと光と共に賑やかさも消え、辺りに夜の気配が強くなる。

「僕も、今夜はリディアの所へ帰るよ。また明日、お休みデイビッド君!」

ベルダもいなくなり、ついにキャンプは3人だけになった。

「僕も今夜は向こうへ帰りましょうか?」
「冗談でもやめろ!!」
「本気にしないで下さいよ。流石にご令嬢と二人きりで寝泊まりはさせられませんって。」
「大丈夫です。アリーちゃんがいるので!」
「魔物は人数に換算していいのか?!」
「ダイジョウブ デイビッド ヴィオラニサワッタラ グルグルマキニスルカラ!」
「頼もしいですね…」
「故意と事故の判別がつくのかお前に!?」

エリックは相変わらず自分の巣で淡い光に包まれ、今日は新しい本を読み耽っている。

ヴィオラは開け放たれた窓辺に布団を持って行き、明日の仕込みや道具の手入れをするデイビッドを眺めていた。
カンテラの灯りが揺れる中で、ひとり切りになったデイビッドの背中がとても小さく見える。

「眠れないのか?」
「いいえ、ただデイビッド様を見てたかっただけです。」
「面白いモンなんか何もねぇぞ?」
「デイビッド様の背中が見えるだけでいいんです。」
「肉の塊見てナニが楽しいんだ…?」

しばらくしてデイビッドがファルコの様子を見て戻ると、窓辺でヴィオラがスヤスヤ眠っていた。
安らかで幸福そうな寝顔にしばし見惚れ、はだけた布団をかけ直してやり、窓を閉めるとアリーの顔が薄明かりに浮き上がった。

「うぉっ!脅かすなよ!ヴィオラが起きるだろ?!」
「デイビッド ヴィオラニ サワッタ?」
「布団掛けただけだ!人間はあれが無いと風邪引くんだよ!」
「ナラ ユルス!」
「ハァー…これだから魔物はよ…」

そう言うデイビッドも、チェアに腰掛けると直ぐに闇に溶けていった。
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