黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

アルラウネ

シェルリアーナは、画面の中に声の主を探そうとしたが、そこには祭りの飾り付けをした街の風景が映るばかりで、ギディオンの姿はどこにもない。

[ どうだ?夏至祭の装飾だ。綺麗だろう? ]
「師匠!あの、師匠!?」
[ 素晴らしい発明じゃないかシェルリアーナ。これは君の功績にしっかり残すといい… ]
「師匠!お顔を…映しては下さいませんか…?」 
[ こんな年寄りの顔なんぞ見たがるもんじゃない。大丈夫、君の顔は良く見えているよ。こんな美人が私の弟子とは、益々嬉しく思うね。だからこそ尚更私の顔は映せんよ。大切な弟子に嫌われでもしたら、立ち直れなくなってしまう!ハッハッハッ! ]
「師匠……」
「爺さん、その機械は持っててくれ。俺もそっちの情報が直ぐ手に入るのはありがたい。」
[ そうであろうな。なんせ往復2週間の道のりがなくなるのだ。これは世間が、いや、社会がひっくり返るぞ!? ]
「まずはその利益、グロッグマン商会が総取りしてやる。デュロックに渡すのは後回しにするから、取り上げられるなよ!?」
[ わかった…思う存分、暴れてみなさい。お前さんは大人し過ぎる。もっと派手な大波だって起こせるだろう? ]
「そんなんいいよ…」
「ハイ!ハイ!次アタシ話したい!はじめまして!シェリーの相棒のエリザベスですっ!いくつか質問していいですか?」
[ おお!開発の技術者か!こちらもなんと可愛らしい。よしよし、なんでも聞いてみなさい ]

通信機の実験は大成功に終わり、この日遂にアデラと残る2カ国の王族に向けて、最重要献上品の札を付けた荷物がラムダより贈られた。

これが、後に歴史に名を刻む世紀の発明の最初の一歩であった。



「アルラウネの採集には魔法師と回復師は必ず同行するんだ!!」
「へぇ~…」
「歴代の採集記録の中でも特に熱いのが、18年前の「水斬りのシド」の戦いだね!迫りくる触手を全て叩き斬り、大量のツルを持ち帰ったんだ!」
「へぇ~~……」
「あとは「雷光のイデオン」!追い詰められたアルラウネが生存本能で咲かせた花をいつくも切り落として成果を上げてる!」
「へぇ~~~…」
「ねぇ!君ホントにやる気あるの?!さっきから全然対策考えてくれないじゃん!!」
「大丈夫、俺なりにちゃんと下準備はしてるよ。」

領地経営科の授業でマンドラゴラの植え付けと、薬草園の準備をして来たデイビッドが昼の支度をしていると、エドワードがやって来てあれこれ話をし始めた。

「本当に命に関わる話なんだって!今までも殉職者は居るんだよ!腕のある冒険者を雇って小隊を組んで挑んだ記録も残ってるんだ!!」
「すげぇなぁ!で?何がどれだけ採れたんだ?!」
「そりゃぁ!!ほら…………なんか………色々だよ…………」

現実は理不尽だ。
歴戦の戦士達が命を懸けて採集して来た素材を遥かに上回る程の量と鮮度と効能を誇るアリー産アルラウネ素材が使いたい放題のデイビッドにとって、アルラウネとの戦いなどする必要のない無駄な争いに過ぎない。
今朝も咲き立ての花をたっぷり煮出して果物と合わせてゼリーにしたと聞き、エドワードは気が遠くなりかけていた。
散って行った戦士達が聞けば草葉の陰で泣くだろう。

「何採れるかって言うより、何採れるだろうって感じだからなぁ…」
「なんだ、そこは賭けなのか?」
「うん…まぁ…そうだよ…」
「つまんねぇなぁ。」
「うわーーー腹立つぅーーっ!!」

だからと言ってデイビッドとて、何の対策も無しにアルラウネとの戦いに挑もうとしている訳ではない。
日々アリーとリディアを交えて、あらゆる事態に備えられるよう手は考えている。

「あーだっ!あーだっ!!」
「え?なに!?なんて言ってるの、この子…?!」
「積み木積んだから見てくれってよ。」
「ええ…それどころじゃないのに…」
「おー、頑張ったなライラ!3つも積めたのか!」
「だぁ!だぁ!」
「赤いのが好きか。よかったなぁ。」

目が離せないライラのために、必ず部屋にはエリックかデイビッドがいるようになり、ライラは毎日ご機嫌だ。
おしめを取り替えられて、手を洗われると、一足先に大麦入りの野菜スープと、手掴みで食べられるよう一口大に切り分けられた料理を出されもぐもぐしている。

「君って…そういうのなんの抵抗もなくできるからすごいね…」
「抵抗?」
「家事とか子育てとかに理解があるっていうか、自然と出来てすごいなぁって思うよ。」
「そうかぁ?!」
「貴族で男ともなるとね、お皿1枚運んだことの無い奴ばっかりだから…」
「お前…ちゃんとそこんとこ改めとかねぇと、後々大変だぞ?」
「わかってる!でも習慣化してて直ぐに気づけないっていうか、手が出ないっていうか…」
「金出して他人に任せるにしても、どんなもんかくらいはわかっとけよ?それの有る無しで信用の度合いも変わるぞ?」
「うぅ~…わかってるよ…」

鶏肉のピカタに揚げた芋と、授業中にこっそり釣って来たナマズのフライ。そこへセロリとプチトマトのマリネで彩り良く野菜を添え、野菜スープを大人用に仕立て直していると腹ペコ達が次々と戻って来る。

「ライラちゃん、ただいまぁ!」
「あ、揚げ物ですか!やったぁ、午後はもうダラダラしよーっと!」
「冷たい飲み物出してよ!本当はお酒がいいけど、そうはいかないし…」
「学園で飲む気?!シェルリアーナ、それは流石にダメじゃないか?!」
「飲みたくなるメニューで攻めてくるコイツが悪いのよ!」
「さては飲んだ事あるな!?」
「ここでじゃないんだからいいのよ!!」

いつもの面子に、今日はエドワードが加わり食事の輪に入る。
その間にライラの顔を拭いて着替えをさせ、口の中を拭ってやりながら寝かしつけるデイビッドを、ヴィオラが微笑ましげに眺めていた。

授業と子育てといつもの料理。
世間の噂に疲れたデイビッドは、しばらくの間俗世から離れ、忙しくも穏やかな時間を過ごし満足していた。


そして来たる日…


「ねえ!それどう見ても鍋だよね!?」
「そう、ちょっと前に買ったんだよ、鉄製の平鍋。」
「どうでもいいよ!僕が聞いてるのは、これから戦いだってのに、なんで鍋なんか背負って来てるのかって事だよ!!」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと使う予定だからよ!」
「鍋を?盾にでもするの?」

鋼のプレートを両手足に着けたエドワードは、いつものモヤシではなく、魔力に満ちた赤い瞳の猛々しい吸血鬼の姿をしている。
しかし中身はいつもの気弱なエドワードだ。
軽装備でヘラヘラしているデイビッドを見て、早速不安に苛まれて騒いでいる。

その横にハルフェン家の家紋を背負った一行がツカツカと歩いて来た。

「何を騒いでいる貴様等!遊びに来ているのではないんだぞ!?いい加減な気持ちで我々の足を引っ張られては困る!やる気が無いなら即刻出て行け!」

フルプレートの騎士姿で現れた美男子が、デイビッドに文句を言っている。
これがどうやらハルフェンの次期侯爵であり嫡男のリチャードだと言う。(エリック情報)
(つまりエリックの異母弟って事か…似てねぇな。)

「放って置けリチャード。素人が腕試し程度の気持ちで来る事は今までもあっただろう。」
「そうそう、我々は我々のすべきことを成し遂げるまで、邪魔なら容赦せず蹴散らせばいいだけの事だ。」

その隣に顔を出したのは別の侯爵家の姉弟で、こちらはエルフの血を引いているらしい。(名前は忘れてしまった…)
今回はこの三組による採集班が組まれ、その成果は賭けなどの対象にもなっていて、すっかり貴族の娯楽のひとつになっているそうだ。

研究所の中庭は拡張魔法に包まれていて、空間の中に更に空間が維持され、アルラウネはその中に作られた森の中で飼われているという。
採集の度に深手を負い、魔法で眠らせて傷が癒える頃また採集というサイクルで年に数回人を集めるのだ。

「それでは結界の一部を開きます!三組がそれぞれ離脱の信号を出し、3つ揃った時点でアルラウネを抑えますので、それまで外部からの助けは一切できません。どうかご武運を!」

研究員の合図で魔術師達がゲートを開くと、まず飛び込んだのがハルフェンの嫡男率いる騎士達、次いで姉弟とその仲間らしき冒険者達、最後にデイビッドとエドワードがおっかなびっくり中へ入った。
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