黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

北風と太陽

「あ゙~~~!ビリビリした!」
「結界超えるだけで既に負傷してるのか君!!」
「だって、なんか膜みたいのが1枚残してあって触ったらバチッとすんだもんよ!まだ肌がチリチリする…!」
「先が思いやられる!!」

2人が遅れて中を見渡すと、既に二組はアルラウネを感知し、先制攻撃を仕掛けていた。
うねり来る太い根から鋭いトゲが放たれ、それを避けながらツタを切り刻み前進している。

「僕達も急ごう!」
「よし、それじゃこっちは任せた!」
「なんで!?2人で戦うんじゃないの!?」
「役割分担な。お前は全面からできるだけ気を引いてくれ!俺は裏側に回る。じゃな!ケガすんなよ?!」
「裏切り者ぉーーー!!!」

絶叫するエドワードの声に反応してトゲだらけのツタが襲い掛かって来るが、エドワードは華麗にそれを避け、背中に翼を生やして空からアルラウネを討つ方法に切り替えた。。

森の中にはアルラウネから伸びたツルが絡まり、花や蕾を付けている。
それを狙って攻撃を避けながら空中から採集を行うつもりのようだ。
首尾よく細いツルの群生に近づき手を伸ばすと、やはり太いツタに弾かれてしまう。
そこへ他の二組も追い付いてきて、森の中は壮絶な戦いの場となった。

ツタだけでは追い払えないと思ったのか、とうとうアルラウネは巨大な本体を木々の間からズルリと現し、背中が割れて複数の個体に分かれると、それぞれに襲い掛かって来た。


まずやられたのは冒険者の一人。太いツルの猛攻を受け止めようとして剣ごと肋骨をへし折られ、血を噴いて結界の壁に叩きつけられた。
次にハルフェンの騎士が2人、ツルに足を取られて高所から地面に振り下ろされ、フルプレートの甲斐なく衝撃で気を失った。骨も何本か折れ、手足が変な方向に曲がってしまっている。
魔法を放っていた魔術師も四肢の自由を奪われ、鋭い根の先に腹を抉られてヒューヒューと掠れた息をするばかりとなった。

エドワードも、一対一では迂闊に近づけず、距離を置いて攻撃を避けるしかなく、採集など二の次となっている。
(デイビッド君は…何をしてるんだろう…)
まさか既にやられてしまったのではないだろうか…そんな考えが頭をかすめ、空を地上を逃げ回りながらデイビッドの姿を探すがどこにも見えない。
(死んでませんように死んでませんように死んでませんように!!!)
ひたすらそれだけ願いながら、エドワードはここに来たことを少し後悔していた。


一方でデイビッドは結界の壁伝いに空間の最奥部まで来ていた。
(ここが行き止まりか…学園の温室より少し広いくらいだな…)
荷物を下ろすと焚き火台を広げ、まずは小鍋に湯を沸かし、薬草とマンドラゴラの素材を煮詰め、大鍋に注ぐ。
次の素材も、小鍋で煎じてまた大鍋に入れて丁寧に混ぜ、3種類の薬湯を大鍋に注ぎ終わると、トロ火にかけながらゆっくりとかき混ぜていく。

本体から分かれてデイビッド追いかけて来たアルラウネの分身は、その様子をじっと遠くから眺めていた。

殺気でもない闘気でもない、恐怖や怯えや命乞いでもない。
ただただ穏やかで平和な気に満ちた空間に、アルラウネは戸惑っていた。

「よぉ、邪魔してるぜ。」

突然声を掛けられ、ツルを構えようとしたがどこに向けて良いのかわからない。
怒気や恐怖に向けてばかりいた手の先は、虚空を彷徨うだけで目の前の人間を襲う気にはならなかった。

「えらくボロボロだなぁお前。ほら、こっち来いよ。」

デイビッドはアルラウネを手招きすると、鍋の中の薬湯を小鍋に移し、人肌まで冷まして地面に置いた。

「毒なんかじゃねぇよ。大丈夫。」

デイビッドは鍋の中身を舐めて見せ、恐る恐る寄って来るアルラウネに勧めた。

「回復薬だよ。つっても魔法薬じゃねぇからただの栄養剤みたいなもんだけどな。」

やがて細い根が鍋の中に浸かり、中の薬湯が減っていくのを見てデイビッドは安心したように笑った。

「大丈夫、怖くない。傷つけたりしないから安心しろよ。」

アルラウネは攻撃の意思を手放し、デイビッドの近くにうずくまると、片付けをするその手元の動きをひたすら見つめていた。

「これは俺の友人がくれた枝で作った輪っかなんだ。腕、出してみな。」

アルラウネが差し出した腕に木の輪を通すと、枝に残ったアリーの残滓が流れ込む。
『ダイジョウブ コワクナイヨ イイコ イイコ』
やがてアルラウネは、デイビッドの周りに太いツタを巡らせた。
(…こっからが正念場だな…)

かつてアリーに何度も危機に陥れられたデイビッドは、ツタの会話をしようとアリーにツルだのツタだのを伸ばされる度に恐怖していた。
このツタに怯えることなくこの場を切り抜けることができればデイビッドの勝ち。
そうでなければ…
(落ち着け…特訓の成果が出るといいな……)


その頃、戦闘側では既にエルフ組が離脱の光を灯し、結界の端に逃げていた。
傍らには大量の枝葉やツタ、トゲや表皮が積まれ、それが成果の様だ。
しかし、5人いた仲間の内4人が瀕死の重傷で、弟の方も足を折られ血まみれで息も絶え絶えだ。

ハルフェンの方は嫡男がまだ頑張っているが、7人連れて来た騎士は全滅で、血溜まりの中横たわっていた。
こちらにもやはり、切り落とした素材が山の様に積まれている。

エドワードはと言うと、空を逃げ回っていたおかげで怪我こそ少ないが、成果が思う様に出せず、それでも花の一部と引き千切ったツルについていた蕾や若芽など、貴重な素材を手に入れられていた。
(量では敵わないけど、質では僕の方が有利なはずだ…)
それにしてもデイビッドはどこに行ってしまったのだろう。
あれからかなり経つが、声さえ聞こえないとなるとエドワードも気が気ではない。

その時、鈍い打撃音がして、リチャードがエドワードのいる木の幹に叩きつけられ、遂に気を失った。
仕方なくエドワードは下に降り、動けないリチャードを担いで結界の端まで連れて行くと2人分の離脱の合図を送った。

途端、アルラウネの周りにバキバキと硬いガラスのような結界が張り巡らされ、分かれていた分身が引き寄せられて中に閉じ込められた。
また眠りの魔術を掛けられ、次の採集まで大人しくさせられるのだ。
アルラウネは抗う事も出来ず静かに目を閉じた。

結界が開き、研究員と魔術師達がなだれ込んで来ると、怪我人が即座に運び出され、回復や治癒の魔法が次々と展開されていく。

エドワードは森の中を飛び回りデイビッドの姿を探した。

「おーい!おーーい!デイビッド君!いたら返事してくれ
!」
「おー、こっちだこっち!」
「デイビッドく…何その頭!?」
「話してたんだよ、アルラウネと。」
「アルラウネと…話!?」
「思った通り、解放されたがってた。元いた森に帰りたくて帰りたくて仕方がなかったんだと…」
「それはそうと…その頭どうしたの…?」
「くれたんだよ。」

デイビッドの頭には真っ白に輝く花輪が幾重にも重ねられ、髪にも花や蕾や枝葉が絡みついていた。


結果は火を見るより明らかだった。
攻撃に使われるツタやトゲは毎回大量に採集されるが、多少の魔力が抽出できる程度で特に使い道も無いが、花や若芽は違う。
特にアルラウネの花は、魔力そのものを宿した希少かつ最高の素材だ。
輝く大輪の花とやわらかな新芽を巻いた花輪に、研究員達は感動し、デイビッドに何度も礼を述べた。

ハルフェンの嫡男は結局エドワードに借りを作ることになり、事態が受け入れられず震えていた。

「嘘だ…こんな事があるわけ無い!私は由緒あるハルフェンの誇り高き後継者…それなのに…こんな…こんな結果…あああぁぁっ!!」
「お静かに、治癒が掛けられません。誰か鎮静剤を!」

集めた素材を置いたデイビッドが大騒ぎの研究所を後にすると、元に戻ったエドワードが装具を抱えて付いて来た。

「あ…あの!ありがとう…結局君のやり方が一番正しかったね…アルラウネだって意志のある生き物なんだ。いきなり攻撃して来る相手より、同じ人間でも寄り添ってくれる人の方がいいに決まってる。アリーで学んだはずなのに、成長しないなぁ…僕。」
「でも、功績は残せたんじゃねぇのか?!俺とエドはチームだろ?成果はセオドア伯爵家に入る。」
「あんまり嬉しくないよ!だってほとんど君の成果じゃないか!」
「そりゃ違うな。エドが本体の気を引いてくれたから、俺は採集に集中できたんだ。」
「嘘だぁ!?」
「ま、そういうことにしとけよ。」
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