黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

契約

「あ…」
「俺だよ!オ・レ!久し振りだなぁ!?待て待て、待って!?無言で鏡裏返すの止めよ?なぁ、俺アンタに感謝してんだって!あの忌々しいハルフェンの爺から血統の力を抜き取ったんだってな!?今やアンタは妖精界のヒーローなんだぜ?!」
「ヒーロー?なんだそりゃ?」
「あの爺さんが飼ってたおっかねぇヤツがいたろ?あれはあの血筋に縛られてた精霊の力の残りカスみたいなヤツでよ。あれが動く度に周りの妖精や弱い精霊が食い物にされて困ってたんだ。」
「食い物に…?」
「そう、妖精や精霊は魔力の塊みたいなもんだからな。いい動力源なんだよ。しかもあの爺、餌にするつもりで妖精を集めて閉じ込めてたんだ!聖なる存在の糧になる栄誉を与えるなんつってよ!あんな化け物に食われたらおしまいだ!この国の妖精や妖魔達はみんな震え上がって逃げ回ってたんだよ。」

それでも毎回何匹もの妖精が犠牲になっていたそうだ。
そしてその元凶を叩き潰したデイビッド達が、妖精に一目置かれる存在となったらしい。

「なんで俺なんだ?あの化け物を解放したのはエリックとその契約妖精だぞ?」
「わかってないなぁ、あの2人を引き合わせて動かしたのはアンタなんだぜ?」
「偶然だろ?」
「重なる偶然を人は運命と呼ぶ。なぁ、頼むよ!アンタは今妖魔にとってこの国で一番の超優良物件なんだ!」
「物件…」
「そう嫌な顔すんなよぉ!精霊樹と繋がりがあって、大精霊の加護と祝福を受けた上に、妖精から好かれて、部屋には良質で濃厚な霊質がたっぷりと来りゃ、誰だって契約したがるさ!」
「お前以外来たことなんかねぇよ!」
「それはアンタに守護がかかってるからさ。それもかなり強い精霊のな!その庇護下にある内はそこらの妖魔じゃ手は出せない。」
(ジーナの事か…?)
「なぁ、俺と契約すりゃぁ、もうあんな訳のわかんねぇ連中に翻弄される事も無くなるぜ?絶対に損はさせねぇからよ!なんならそっちの希望でも誓約でも何でも呑んでやるって…」

デイビッドは手元の書きかけの書類を置くと、改めて鏡の中の妖魔と正面から対峙した。

「で?デメリットは?」
「お!やっとその気になってくれたぁ?!そりゃ山程あるぜ!お互いメリット盛り沢山で…」
「違う。デメリットの話だ。互いに負うリスクについて、俺が契約で気にするのはいつもそっちなもんでな。」
「想像以上のリアリストだなぁ。いいぜ、話してやるよ…」

鏡の中の妖魔は、姿見の中に移ると勿体ぶる様に話し出した。

「簡単な話さ。受け取る対価に合わせて俺達は動く。要はバランス。そっちの出す報酬に対して相応の願いにお応えするって寸法なのよ!等価交換って言えばわかるだろ?」
「御託はいい。そっちの要求はなんなんだ?!」
「ストレートにいくねぇ。分かったよ…俺が欲しいのは力だ!待って?なんで鏡裏返そうとすんの?!」
「持ってねぇもんをどうやって渡せってんだよ。」
「ちょちょちょ待ってよ!?人の話は最後まで聞くもんだぜ兄さん!?力ったって誰も魔力の事だなんて言ってないだろ?俺達が欲しい力ってのはこっちの世界に存在するため力の事なのよ!わかる?」
「知るかよ!」
「そう睨まないでよ!そこで興味持って食い付いてくれないと話になんないんだって!いいからさ!少し黙って俺の話聞いてくれよ!!」

必死に説得する鏡の中のデイビッドの姿に、本体の方はイライラしっ放しだ。
なんせこの世で鏡が一番嫌いな人間が、鏡と対面しなければならないのだから仕方がない。

「いいか?俺は妖精の中でも人の感情や精神の揺れ動きを糧に生きる妖魔の仲間なんだよ。でもそれだけじゃ徐々に力が薄まっていずれはただの弱っちい妖精に逆戻りしちまう。そうならないように、契約した人間から魔力や生命力を頂いて力を蓄えてるってわけ。ここまでおわかり?」

人にイタズラをしたり、関わって弱らせてしまう系統の妖精は古くから妖魔と呼ばれ、特に手を出す際には気をつけなければならないとされて来た。
異性を誘惑したり、行きずりの人間を驚かせたり怖がらせるのも、心に揺さぶりをかけ、その際に零れ落ちる生命力や魔力を奪う行為のひとつらしい。
人の命を奪うものはその最たる例だ。

しかしそれだけでは存在を維持し続けられないため、手っ取り早く力を分けてくれる契約者を欲するのだとか。

「そうでなけりゃ妖精ってのは精霊の聖域を通って定期的に向こうへ戻る必要がある。でも、俺達妖魔は人に慣れすぎて精霊からはあまり良く思われてないんだ。聖域に招いてもらえる事なんて滅多に無い。だから人間から力を分けてもらう必要があるって訳よ。」
「だから!そのチカラってのはなんなんだよ!まだるっこしいな!!」
「普通なら生命力…簡単に言やぁ“魂”って事なんだけどよ。アンタの周りにはあんだけ妖精が集まっても、そんなもん欲しがる奴は居なかっただろ?なんでだと思う?」
「クッキーで満足する程度の連中だったんだろ?」
「わかってないなぁ!自覚無いの?とんでもない量の霊質がアンタの周りには溢れてる。それだけで妖精に取っちゃ生き返る様な気分になるのさ。」
「霊質…?」

ベルダの話の中にもたまに出てくる“霊質”とは、人間が必要とする魔力とは別に、異界の特に精霊や妖精が必要とする魔力の通称だ。

「精霊樹に深く関わったせいだろうな。日頃から手元に置いてる樹の実の影響もあるかも知れない。要はアンタは妖精の癒し手なんだ。消えかけの小さな羽虫みたいな妖精でも、元の姿に戻れる程の力を持ってる。おまけに何が良いって魔力が無いから触れても弾かれないし、こっちに侵食して来ない!魔力持ちってのは無意識にガードが出来ちまうから弱い連中は招かれないと近づけねぇんだよ。でもアンタにはそれが無い!」
「……なにがいいのかさっぱりわからん……」
「つまりはさぁ、異世界で腹ぺこのまま消えかけてる妖精にとって、アンタは突然現れたオアシスみたいなものなのよ!存在そのものが既にありがてぇの!そんな奴に招かれてみなよ!?こっちは有頂天だぜ?!その上契約者なんてなれたら勝ち組必至の前途洋々バラ色生活決定ってワケ!!わかる?!」
「……それ、お前側のメリットだろ?俺のデメリットは!?」
「さぁ…わかんない。」
「わかんねぇのかよ!!」
「わかんない…むしろこっちのメリットがデカ過ぎて、返し切れないかも知れない…あと…お誘いの声は増える…、かも…」
「誘い…?」
「アイツが契約してるなら自分も…ってな感じで色々寄ってくるかも知んないな…」
「人外に絡まれるのは毎度の事だけどよ…」
「魔力も魂もいらないし、側に居させてくれるだけでいいからさ!役に立つよ?ホントに!」
「お前に何ができるんだよ。」
「よくぞ聞いてくれました!!俺、知識と情報だけは誰にも負けない自信があるぜ!?あとは、鏡さえあればどこへでも行けるし、何か運ぶことだってできる!!姿だって、一度真似た相手には変われるぜ?今は誰かの姿が無いと話もできねぇけど、それも無くなる!」
「でもそこからは出てこられねぇんだろ?」
「今はな!?契約者が居れば別の話!ここに俺を閉じ込めた奴は、俺に新たな契約者が現れるまで鏡から出る事を禁じた。それも終わりさ!」
「待てよ…物が運べるって言ったか?」
「もちろん!鏡に入る物なら何でも!人間だって引き摺り込め…いや好きな所にお連れできますよ?!」
「郊外の乳児院の廊下に大きな鏡がある。そこの様子を見て来られるか?」
「それって、契約してくれるってコト?」
「これから言う事ができるならな。」
「直ぐ行って来る!!」

鏡が水面のように揺れると、そこにはただデイビッドが映っているだけになった。
やっと静かになり、ペンを持ち直そうとすると、妖魔はあっという間に戻って来てまたベラベラと喋り出した。

「あったあった!大きな胡桃の木に囲まれたでかい建物だろ?廊下の鏡も子供らの部屋の鏡も覗いて来た!あそこになんか用でもあるのか?」
「ああ、これから毎日朝晩義妹の送迎を頼む。」
「は…?」

手紙から顔を上げると、そこにはポカンとした間抜け顔のデイビッドが鏡の中からこちらを見ていた。
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