黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

初めての親善会

「親善会は生徒同士の気軽いパーティーですので、あまり気負わず、社交界の練習のような気持ちでご参加下さい。」

怒涛のテスト週間が終わり、いよいよ明日は親善会。
アリスティアはクラスで初参加となるディアナとヴィオラに声を掛け、2人に色々と説明をしていた。

「エスコートもいらないと聞いて安心しました。ドレスもコードは無く好きな物を着るようにと言われて…」
「かと言ってあまりにも華美なものだと浮いてしまうので難しいですよね。」
「貸し衣裳の生徒も多くいるそうですよ。」
「私はそれでいいかなぁ。持って来た分はフォーマル用に取っておきたいし。」

そこへ扉が開いてアニスが飛び込んで来た。

「そのお話、このミセス・アプリコットが一番弟子、アニスにお任せあれ!!」
「ミス・アニス?」
「実は以前より殿下にお召し頂きたく作ったドレスが仕上がっておりまして!」
「授業以外の接点あんまりなかったのに!?」
「戦う南国の乙女をイメージした力作です!3着程完成しております!」
「3着も!?なんで??」
「是非一度袖をお通し下さいませんか!?合わせてみるだけでも結構ですので!!」
「えええ…?」

アニスにグイグイ連れて行かれてしまったディアナを見送り、ヴィオラとアリスティアは顔を見合わせ笑ってしまった。


その後、図書室で借りていた問題集などを返却しにアリスティアと分かれると、ヴィオラはまた天井近くに蝶の様な妖精が羽ばたいているのを見つけた。
(またいる…見張られてるみたいでなんかイヤね…)
本を返してさっさと戻ろうとすると、出口のドアの前に誰かが立っていた。

「やぁ!ミス・ヴィオラ、君に大切な話があるんだ!」
「ご機嫌ようルミオ…様?…私に何の御用でしょうか…?」

政務科の男子生徒に声を掛けられ、ヴィオラは身構えた。

「明日の親善会、是非とも僕にエスコートさせてくれないかな?当日は1人だろう?だったらその栄誉を僕に預けて欲しい!」
「お断りします。」
「え?」
「お断りします。婚約者がいる相手に堂々とエスコートを申し込まれる様な方の手は取れません。」
「な…なんで?!」
「今申した通りでございます、ルミオ様。元より、親善会にはエスコートは必ずしも必要な訳ではありませんもの。他学年他学科との交流が目的の学生のためのパーティーです。それに、私も特待生として参加しますので、色々忙しく致しますから。失礼…」
「き…君の婚約者は別人をエスコートするのにか!?」
「は?」

その場を去ろうとしたヴィオラを、ルミオがとんでもないことを言い出して引き止める。

「何を仰っておいででしょう…?」
「なんだ、本当に知らないの?君の婚約者は君の妹にご執心だって話!」
「はぁ…」
「放課後は片時も離さないって聞いたよ?当日も間違いなく彼女の手を取るだろうって!」
「…あの、私の妹とは?」
「冷たいことを言うなよ。リリアは君の血を分けた姉妹だろう?姉の婚約者に言い寄られて困ってるって言ってたけど、まんざらでもなさそうだったし、だったら君ももっと他の男性と交流を持ったっていいはずだ!」
(何を言っているのか分からないわ…)

放課後、確かに片時も離さず身近に置いている妹的存在はいる。義妹のライラはデイビッドの事が大好きで、くっついたら最後離れようとしない。
たぶんその辺りの噂と、リリアが何かしらの目的で流した噂がごっちゃになっているのだろう。

「何を申されましても、私はどなたのエスコートもお受けいたしません。失礼します!」
「あっ!ミス・ヴィオラ!待ってよ!!」

きっぱりと言い捨てて、ヴィオラはルミオを振り切って研究室へと向かって行った。


その頃、採点地獄から解放されたデイビッドは、当日に使う物の注文と作業の流れを調理室で確認していた。

「基本はアミューズ。一口二口で食べられて、口の中に残りにくい素材がいい。」
「前年までは業者が仕入れたカナッペやピンチョスが主体でしたね。」
「軽食もありましたが、あまり大振りなものは出ていません。」
「やけに酒の当てみてぇなもんが出てると思ったら、本当に酒が出てて大騒ぎだったな、そういや…」
「その後の事件の方が印象が強くて覚えてませんよ。」

昨年の親善会には乱入したクロードがアリスティアと言い合いになり、間に入ったデイビッドに向かって剣を抜くという悲惨な終わり方で幕を閉じている。

「ひとまず作りたい物。単純に食いたいもん上げてってくれ。」
「はい!卵サンド!」
「先生が作った卵サンド!!」
「あの日食べたこってり濃厚卵サンド!」
「他の食い物は?!」

メニューのリクエストを取ったが、領地経営科の実践授業の休憩時に作った卵のサンドイッチがここへ来て呪いを発動させていた。

「チョコレートは?薄くて小さな正方形カッレなら、手を汚さずに食べられるわ!」
「だったら果物を浸すのもいいんじゃない?」
「スプーンで食べるタイプは人気ないかしら?」
「ゼリーとか、ソルベとか…氷は溶けちゃうか…」
「カップのお菓子が良いなら料理もその大きさで出せるはず!ワンピックにこだわらなければもっとボリュームのあるものもできるよ!」
「肉料理なら何がいいかな?」
「よーし、案が出たらひとまず作ってみるか!」
「よろしくお願いします!!」

こうして希望者10名とデイビッドによる厨房での料理担当組は、遅くまであれこれ作っては吟味をしていた。

「お、もうこんな時間か…明日は念の為プロも数名呼んでおくから安心しろ。今日のとこは引き上げて、明日本番に向けて気を引き締めとけよ?それじゃ片付けして解散!」
「「「はいっ!!」」」


調理室を片付け生徒を送り出すと、デイビッドも部屋へ戻ろうと廊下へ出た。
すると、背中に視線を感じ振り返ったが誰もいない。
(最近見張られてるみたいでどうも気が散るな…)
妖精を使役する生徒が増えたせいで、特定の相手への監視が容易になり、生徒同士でも疑心暗鬼に駆られ、トラブルが起きていると聞く。
(またきな臭くなってきやがったか…)
うんざりしながら部屋の戸を開けると、ご機嫌に積み木を積むライラと、山盛りのソーセージを自棄食いするヴィオラと、笑いを堪えるエリックとシェルリアーナが待っていた。

「お帰りなさい!なんかすごい噂がポンポン飛び交ってて面白かったですよ!?」
「また噂か…」
「貴方がね、義妹に心奪われて婚約者を蔑ろにしてるんですって。」
「ほう…」
「それと合わせて、何故か元聖女に言い寄ってるとか話も聞きましたよ?」
「なんだそりゃ!?」
「上級生の間じゃ同性愛者疑惑も出てるわよ?」
「悪意しかない!!どっから出て来たそんな噂!?」
「エリックなんか飼ってるからよ。」
「アレは勝手に居着いてんだよ!!」
「わぁ、本人の前で遠慮もなぁ~い。」

碌でもない噂ワースト上位の話はさて置き、デイビッドは憮然とした顔でソーセージをむしゃむしゃ食べるヴィオラの隣に座った。

「嫌なことがあったんだな?」
「はい…」
「自棄食いしたくなる気持ちはわかる。でも、それじゃ解決しないだろ?」
「…はい…」
「残りはポトフにでもするから、こっちよこしな?」
「もう半分食べちゃいました…」
「この量で半分!?腹壊さないよな?!明日本番だぞ?」

ボールに山盛りのソーセージを回収し、未熟果のトウモロコシや採れたての夏野菜を使ってポトフを作ると、炒り卵入りのサラダと、フレッシュチーズをトマトとバジルで和えたものにオリーブオイルを垂らして盛り付ける。
白パンも添えて久々にいつもの顔が揃った食事となった。

パン粥とポトフをモリモリ食べるライラの世話をしながら、デイビッドが明日のことを考えていると、ヴィオラと目が合った。

「…明日、朝の内に商会からドレスが届くから…」
「え?」
「夏に向けたドレスだから、いつもと毛色も違うし、気に入るか分からないけど…」
「着ます!私それが着たいです!」
「もし嫌なら他のも用意させてある。いつもの時間にここに来てくれ。俺は他の用があって早くから居なくなっちまうけどよ…」
「会場でお会いしましょう!?私のドレス姿、絶対に見て下さい!」
「わかった。こっちも飛び切りの用意して待ってるよ。」
「とび…きり…」
「明日会場で会おう。そのためにも、今夜はよく寝てしっかり休んでくれよ?」
「はい!」

「ムカつくわエリック。ねぇ、ムカつくわ!」
「2回言いましたね。」
「レディをダンスにも誘えないドヘタレが、なんか良さげな雰囲気で喋ってるわ!蹴っていい?!」
「暴力はちょっと…水差すくらいの…いや!水魔法は止めときましょ!?夕飯なくなりますよ!?」

明日は親善会。
さて、今年はどんなトラブルが待ち受けているのやら…
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